【感想・ネタバレ】海の仙人のレビュー

あらすじ

宝くじに当った河野は会社を辞めて、碧い海が美しい敦賀に引越した。何もしないひっそりした生活。そこへ居候を志願する、役立たずの神様・ファンタジーが訪れて、奇妙な同居が始まる。孤独の殻にこもる河野には、二人の女性が想いを寄せていた。かりんはセックスレスの関係を受け容れ、元同僚の片桐は片想いを続けている。芥川賞作家が絶妙な語り口で描く、哀しく美しい孤独の三重奏。

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Posted by ブクログ

ネタバレ

河野の生き方が羨ましかった。宝くじを当て、仕事をせず海辺の街で釣りをしたり農園で野菜を育てたりしてのんびりとした生活を送る、なんて幸せな生活だろうか。彼とかりん、片桐の微妙な三角関係が読んでいて切なかった。どの登場人物にも感情移入して彼らの幸せを願ってしまった。ラストシーンは個人的に不穏さを帯びていると受け取ったが、河野は生きて片桐と新たな人生を歩むのだと信じたい。

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2019年03月08日

Posted by ブクログ

ネタバレ

 河野勝男は、突然宝くじが当たることで億万長者になった。そんな河野の前に突然「ファンタジー」が現れる。
 敦賀に帰り気ままな暮らしを始めた河野の前に、「かりん」と「片桐(もと会社の同僚)」という二人の女性が現れる。やわらかく包み込むようなかりんと対照的に、あの手この手で河野をおとそうとする片桐。
 結局どちらとの関係を実らせるでもなく、かりんは乳がんにかかってしまう。果たして、ファンタジーは不幸の前兆なのではないかと思った河野。その後、河野自身も雷に打たれて失明してしまう。やがて、河野は高校生のとき以来さわっていなかったチェロを手に取り、生きる意味を見出してゆこうとする。
 
 わずか150ページであったが、幸福と不幸、働くことの意味、異性との関係とは何かなど、様々なことを考えさせられる内容であった。また、著者の表現技巧が優れており、海や空まで目の前にあるかのように感じられた。

 この物語で登場するファンタジーは、疫病神なのか、神様なのか、仙人なのか。体はフェイクで顔はアメリカの雑誌から勝手に拾ってきたと自称したり、かりんや片桐にもその姿が見えて居たりするので余計にこいつは正体不明である。だから、余計にこの物語に引き込まれてしまうのかもしれない。

 美輪明宏さんが、一世を風靡した歌手が40歳くらいで声が出なくなって死んでしまった例をあげて、「幸福も不幸も、一生の長い時間のなかでならすと一緒になる」という趣旨のことを言っていたのを思い出した。
 宝くじは当たらなくていいし、人より自分が苦労しているように思われるときは「あとから何かいいことがある」と思えばいい気がした。

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2016年03月06日

Posted by ブクログ

ネタバレ

 ~森の青葉の蔭に来て なぜに寂しくあふるる涙 想い切なく母の名呼べば 小鳥答えぬ亡き母恋し~♪ 霧島昇と高峰三枝子の「純情二重奏」(1939年)。この物語は「孤独の三重奏」でしょうか。絲山秋子「海の仙人」、2007.1発行、文庫。ファンタジーの世界が広がっていました。 

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2022年03月18日

Posted by ブクログ

ネタバレ

これはまたいい小説を読んだ。
優しくて非情でリリカルで奇妙で。
何せファンタジーという名の「神」が当たり前のように現れたり消えたりするのだ。
そしてファンタジーは、筋としてはいてもいなくても変わらないのに、いることで間違いなく小説が芳醇になる。
小説が「∞」という形状をしているとしたら、その結節点にファンタジーが存在していたりしていなかったりするのだ。
内的モノローグはこういう仕掛けを通じて小説的なダイアローグになるという、見本のような小説だ。

★孤独な者と語り合うくらいだ。
・いま、お前さんの運命の女が走ってきたのだ。
・ファンタジーと会うのははじめてだけど、でも前から知ってるような気がしたの。
・セックスレス
・そうですともよ。妬いてますわよ。
・オカヤドカリが前に住んでた貝殻。
★見たよ、恐竜のタマゴ。
・俺に救われるんじゃない、自らが自らを救うのだ。
・近親相姦や、早い話が。
★寝るときは一緒でも眠りに落ちるときは独りだぞ。
★お前さんが生きている限りファンタジーは終わらない。
・ここは家族全員がね、帰ってきたら「かあちゃんただいま」っていう家なの。
・乳がん
★中村は中村の孤独のなかに入っていくのだ。
・でも私はあなたのこと、好きになれてよかった。今だけでも、あなたと、あなたのことを好きな自分がここにいることがとってもありがたいって思う。
★生きている限り人間は進んで行く。死んだ人間は置いて行くしかないのだ。

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2016年09月03日

Posted by ブクログ

ネタバレ

よかったぁ。しみましたぁ。

海が見たい‼︎敦賀の浦底行かねば‼︎

宝くじ当選、ファンタジー登場って
なに⁉︎この現実からの距離感…⁉︎

でも、河野の日常と。かりん、片桐とのかかわりって。
しっかり、じっくり、しっとり伝わる。
心がじんわりと、あったまったかしら。

ファンタジー登場の海〜諦めたように〜
かりんとの海〜青い稲妻〜
偽善と同情、幸せ、孤独。
〜心の輪郭なんじゃないか?外との関係じゃなくて自分のあり方だよ。背負っていかなくちゃいけない最低限の荷物だよ。〜

澤田もよかった。
そして、ヤドカリ。

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2015年12月20日

Posted by ブクログ

ネタバレ

確かにファンタジーのお話。読後にあらすじで考えれば荒唐無稽なんだけど、そこで書かれていることが地に足ついているためにそのことに気が付かないようになっている。
孤独は心の輪郭で、自分のあり方だっていうのは、わかる。輪郭がなければ触れ合うことができないから。でもこの本の登場人物たちはあんまり触れ合おうとはしていない。惹かれていても、みんなどこか別の方向を向いていて、私はこういう話は切なくなってしまって苦手だ。
孤独とともに現れるファンタジー。孤独は人と一緒にいてもある。後で思い返せば、輪郭に触れれば良かったのに、何で孤独に浸っていたんだろう、と後悔することがたくさんある。私は今こう思っていて、あなたはどう思う?という風に、さっさと、ただ聞けばよかったのに…と思う。
河野とかりんは、遅かったけど少し触れ合って、永遠の別れを迎える。片桐は澤田に後押しされて、河野に会いに行く。この本は、大丈夫だよ、と言っているトーンであのラストを突き付けてくるわけで、この距離感を本当に肯定しているのだろうか、と訝しく思う。踏み出して、触れ合っておかなければ、取り返しのつかないことになるんだよ、と言っているんじゃないかと。どうなんだろう。

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2020年08月16日

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