【感想・ネタバレ】サラゴサ手稿(上)のレビュー

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Posted by ブクログ 2024年01月02日

紙に書かれていた外国語の手記を口頭で翻訳してもらったものを口述筆記したという設定の物語。さらにその中の登場人物が物語を語り、その物語の中の登場人物も物語を語り始める・・・
すごい入れ子構造の物語で、いまどの階層を読んでいるのか見失うことが多々ある。深い階層の物語が意外に長いので、最上位階層ではそれほ...続きを読むど話が進んでいなかったりする。
千夜一夜物語のような枠物語の一種だが、一人の語り手がたくさんの物語を語る線形構造ではなく、たくさんの語り手による物語が複雑に絡み合っている。
この複雑な構造の物語を18世紀に書いたポトツキ氏は本当にすごい。
ここまで約400ページ読んで全体の3分の1。読むのは少し疲れるが、先が楽しみでもある。

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Posted by ブクログ 2023年07月09日

読書会に申し込んだので準備中。

作者はポーランドの大貴族で1761年にピキウ(現ウクライナ)で生まれた。政治家で軍人、数々の歴史書や旅行記も書いている。
『サラゴサ手稿』の「第一デカメロン」が1805年(作者44歳)に発表されたが、その後全体手直しが行われ、1810年に作者無許可で手直し版が出版さ...続きを読むれた。こちらの岩波全三巻は手直し後の1810年版による。
あとがきの訳注で「1804年版はこうなっていた」と書かれているんだがそっちの版も面白そうで気になる。

【まえがき】
フランス軍将校がたまたまサラゴサで、スペイン語で書かれた古い手書きの書物を見つけた。将校はスペイン兵に捕まったが、スペインの大尉がその書物に関係する人物だったころから身柄は保証された。そしてスペイン大尉によりフランス語に翻訳してもらったのが、これから語られる物語。

【第一デカメロン】(第一日目から第十日目)
衛兵隊長に任命されたアルフォンソは、マドリードに行くためにシエラ・モエナ山脈を旅している。旅籠の主人たちは言う。「最近この土地に幽霊たちが居座ってしまった。旅籠は幽霊たちに明渡し、人間たちは小屋に引っ込んで過ごさなければいけない。」
だが幼い頃からの教育で豪胆さと名誉を重んじる性質を身に着けているアルフォンソは、その言葉に耳を傾けずに山道を行く。

幽霊話というのは、どうやら絞首台にぶら下がる二人の死刑囚が夜になると絞首台を抜け出して人間に悪さをしているということらしい。
それはアルフォンソも体験することになる。人気のない旅籠に泊まったら、夜に二人の美女に歓待された。二人はエミナとジベデという名前でイスラム統治下のスペインの有力一族ゴメレス一族の末裔だという。
ゴメレス一族はシャイフ(宗教的・公共的な長老・首長)に忠誠を誓っていた。しかしあるシャイフがその秘密をスペイン王に明かそうとしたために彼を暗殺した。以来シャイフの秘密はゴメレス一族を中心とした種族の選ばれた者たちが伝えていくことになった。
アルフォンソはエミナとジベデから「あなたがイスラム教徒に回教してくだされば、あらゆる富が手に入り、私達はあなたの妻になるのに。」と言われる。アルフォンソはこの話に胡散臭いものを感じたり、名誉を重んじる性質からキリスト教を捨てるつもりもなく、だがせっかくなので饗応は受け…要するにこの二人と一緒にベッドに入ってあんなことやこんなことをしたってことだ。しかし朝になり目が覚めたら絞首台の下で二つの遺体に挟まれて寝ていたってわけ。

この二つの死体は、この地方を荒らし回るゾトという盗賊の弟たちだ。他の旅人たちも同じような経験をして発狂したり悪魔に取り憑かれたりしている。だがアルフォンソはエミナとジベデは幽霊ではなく生身の人間だったと感じている。そしてこの謎を解かなければと思った。

エミナとジベデに再会したアルフォンソは、二人のボディガードである盗賊ゾトとともに地下の隠れ家に匿われる。そこで出会ったのは、絞首刑になったはずのゾトの二人の弟たち。
ん?実は生きていたの?それともこの地下の隠れ家の出来事自体が悪霊の幻想なのか?

…こんな感じで、この『サラゴサ手稿』はアルフォンソを中心に彼が関わった人々が自分の話をして繋いでゆく物語のようだ。
しかしそれが一直線には進まない。自分の経験談の最中に人から聞いた話を入れてきたり、聞いた相手が途中で自分の話をしたり、読者に向かって話をする場合と聞いている相手に向かって話をしているがあったりと、どんどん話と話が入り組み合っていく。
語っている内容も、幽霊や悪霊が出てくるような幻想譚、自分や家族の身の上話といった歴史や地理背景を感じさせられる現実的なもの、カバラ秘術や異教徒など半ば幻想半ば現実のものなど、あらゆる種類のお話が語られていく。

「第一デカメロン」の章で語られたのはこんな感じ。
❐アルフォンソ:
 (過去)自分と父親の身の上話。父は名誉と決闘を重んじた。母はゴメレス一族。自分が幼い頃に聞いた不思議な話。
 (現在)エミナとジベデと過ごした夜のこと。その後異端審問員に拷問されそうになったこと。エミナとジベデと共に盗賊ゾトに地下の隠れ家に匿われたこと。

❐エミナとジベデ:
 (過去)身の上話。スペインでのイスラム社会のこと。ゴメレス一族はシャイフの秘宝を守っているということ。
 なお、二人は幼いときに「殿方を知らず、姉妹で書物で知った恋人との睦言を交わしていた」んだそうな。(〃∇〃)
 (現在)上記を話した上で、アルフォンソにイスラム回教を望む。

❐盗賊ゾト:
 父親と自分の身の上話。ゾトの母と叔母が女同士の見栄っ張り合戦をしたため、父ゾトが収入のために殺し屋になったんだとか、この時代にこの地方で殺し屋や盗賊は人々のヒーローで、父ゾトも自分も侠気ある悪漢たちと友情を結んでいたという話。
 ゾトの話は、ピカレスクロマンとして面白い。

❐悪魔に取り憑かれた若者、パチェコ(アルフォンソより前に、二美女と二死体に誑かされた):
 (過去)身の上話。
 (現在)二人の女に誘惑されて一晩を共にしたこと。幽霊に誑かされ、体を引き裂かれたこと。

❐ユダヤ人カバラ学者、ペードレ・デ・ウセダ:
 (過去)身の上話。妹のレベッカのこと。カバラ学者の父により、自分にはソロモン王の娘である不死の二人の妻を約束されたこと。
 (現在)しかし秘術に失敗して、異教徒エミナとジベデに誘惑され、気がついたら絞首台の下で二死体と寝ていたこと。

【第二デカメロン】(第十一日から第二十日)
アルフォンソは、カバラ学者の城に泊るが、ウセダとレベッカ兄妹とはどうも話が合わない。そこへ通りかかった旅のジプシー一団。一団の女芸人は遠目にはエミナとジベデに見えた。しかし近ずいてみたら全然違う女性たちだった。
そして族長パンデソウナと話してみたら、どうやら彼もシャイフの秘密を守る結社(?)の一員らしい。
アルフォンソは、自分の周りに配置されるシャイフ秘密結社に仕組まれた怪しさを感じながらも旅を続ける。

「第二デカメロン」で語られた話。
❐カバラ学者、ペードレ・デ・ウセダ:
 カバラ秘術やその思想について。昔のカバラ学者の伝説。カバラ学者と哲学者について。異教徒は亡霊に悩まされていたのか、いなかったのか論など、カバラ学術についてのお話になる…あまり理解できず^^;。

❐ウセダの妹、レベッカ:
 カバラ秘術により天上の双子(カストルとポルック)の妻になると予言されているけど困ってること。
 アルフォンソがイスラム教徒だったら理想の夫なのになあ、というようなことを仄めかす。
 アルフォンソは、レベッカの話は嘘っぽいなあ、みんなして自分を取り囲もうとしていないか?と疑っている。

❐ジプシー族長の老人、パンデソウナ(本名ホアン・アバドロ):
 この長老の話が入れ子式というか、自分の身の上話の途中に、「子供の頃聞いた伝説」「旅人が語った話」「その旅人の話に出てくる登場人物の話」と話がどんどん突っ込まれていく。しかも肝心なところで「夕食の時間になったので中断された」という状態。
 話を聞いていたアルフォンソとレベッカが「いつも肝心なところで終わっちゃって(o・3・)」と言うのだが、まさに読者の言いたいことなんだよね 笑

❐ジプシー族長の話は恋愛話ばっかりで次々にロマンチックバカが出てくる。「みんな揃って何やってんだ!!」と突っ込みたくなる 笑
 ・イタリア人の彼がジプシーになったのは、一つのところに閉じ込められることが我慢ならないいたずら小僧だったこと、自分が旅に出たり旅人の話を聞いて旅暮らしに魅了されたことによる。宿に泊まればご主人も女将も客たちもざっくばらんに気の利いた言葉をいい、火鉢の周りに集まり歌や音楽に合わせて歌い踊り、自己紹介からそれぞれの話をする。<よい時代だった。今の旅籠は居心地はよくなったが、あの当時の旅先での騒々しい人付き合いが持っていた魅力は例えようもない。P263>

 ・旅で知り合ったジュリオ・ロマティ:
 旅の途中で盗賊ゾトと知り合ったこと。モンテ・サルレノの城で歓迎を受けたが、ここは廃城で公女は悪霊だった!?

 ・モンテ・サルレノ公女の身の上話:
 最後はオカルトになりジュリオの話と交じる。
 このあたりのオカルト奇談は読んでいて楽しい。

 ・旅で知り合ったマリア・デ・トーレス:
 身の上話。妹のエルビラの悲運。エルビラは結婚後になんか不義を疑われてしまい、娘のエルビラ(母と同名)を残して死んだ。
 マリアがエルビラを育てていたが、自分の息子のロンセトと恋に落ちてしまって困ってしまった。なぜかというと、母のほうのエルビラとの不義を疑われたベレス伯爵が今では副王となり「不義がない証として、エルビラの遺児エルビラと結婚する(自分の娘ではないという証)」と言ってきたから。これを受けないと一族の名誉は晴れないし、財産も取り戻せない。
 結局、当時12歳だったアバドロ少年(後のジプシー族長)が女装してエルビラの身代わりとなり(!?)、厳しい副王の花嫁になりかけたが(!?)、なんとか切り抜けた。

 ・アバドロ少年は、父の命令で修道院で勉強させられるんだがどうにも性に合わない。悪友と一緒に厳格な神父をからかう(またしても女装する)が、目論見がバレて異端審問にかけられることに!

『サラゴサ手稿 上』は、アバドロ少年が監禁されている修道院から抜け出したところまで。

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Posted by ブクログ 2023年06月03日

サラゴサ手稿をどこでいつ知ったのか思い出せないのだけどようやく読むことができるようになって嬉しい。デカメロンの系譜というかなぞらえていたのか。今のところ話がどう転がっていくのか捉えどころなく目眩く感じが楽しい

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Posted by ブクログ 2023年04月14日

まったく前情報を入れないまま、邦訳が完結まで刊行されたということで読み始めた。これで1/3読んだことになる。今のところ面白い。

「第1デカメロン」とか「第2デカメロン」とか、「デカメロン」ってなんだっけ、と思って『デカメロン』を書店で軽く読んだけど、作中人物による語りによって物語が展開される形式を...続きを読むとっているってことなのかな?『デカメロン』も『千夜一夜物語』も読んだことがないけど、このへんと似ているらしい。

作中の語りの中で、さらにほかの話が語られることが多く、「いま誰が何の話してるんだっけ?」と混乱しがちと思いきや、(たぶん訳者の方が?)それぞれの挿話にタイトルをつけて、目次にもそれを載せているので、迷子になりにくい。

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Posted by ブクログ 2022年10月02日

工藤幸雄氏が逝去された後、もはやこの作品の前方を知ることは叶わないだろうと思っていたが、まさか全訳が、それも岩波文庫で読めるようになるとは僥倖という言葉以外に表現しようがない。どうやら当分の間、ポトツキの魔術にに幻惑されながら過ごすことになりそうだ。

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Posted by ブクログ 2023年04月06日

18世紀ポーランド人の書いた千夜一夜のようなもの。
外人部隊の隊長に任命されたスペイン人がムーア人の美女らと関係を結ぶところから話は始まる。次々と現れる登場人物たちが語る話は、次々と入れ子構造を為していく。この時点では、個々のエピソードの関連性は見えてこないが、十分に魅力的である。

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Posted by ブクログ 2022年10月06日

誰かの打ち明け話の中で、別の誰かの打ち明け話が始まるような入れ子型の構造とか、昔の人はホントにこんな考え方をしたんだろうかと悩んでしまうような浮世離れのした筋の展開とか、まだ三分の一だからね、まだまだ楽しませてくれそう。

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