あらすじ
清潔な都市環境、健康と生産性の徹底した管理など、人間の「自己家畜化」を促す文化的な圧力がかつてなく強まる現代。だがそれは疎外をも生み出し、そのひずみはすでに「発達障害」や「社交不安症」といった形で表れている。この先に待つのはいかなる未来か?
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Posted by ブクログ
ウシやブタ、イヌやネコが家畜化したのと同じように、人間もまた家畜化が進んでいる。それは、ウシやブタのような人為的家畜化ではなく、イヌやネコが人間の生活環境に自ら適応し、生物学的な性質を穏やかで協力的な方向へ変えてきた、自己家畜化であるといえる。
自己家畜化とは何か、その歴史から始まり、現代社会が家畜化と言われる所以、それに適応できない人について、最後に未来はユートピアかディストピアかについて語られている。
現代を生きる人間は自己家畜化を経てきた、それは現在進行形であると言い切るなんて野蛮な、という第一印象をタイトルから抱いていてとても興味がある本でした。
家畜というとウシやブタのことを指し、それが人間に当てはまるなんてと思っていましたが、確かに人間の歴史を紐解き、現代社会の構造について読み進めていくと家畜化されていると思えました。
取り分け最も私の見解をガラリと変えたのは、現代社会は出産も死も医療化されそれが習慣となっているという部分でした。そんな今では当たり前のことと捉えている医療の進歩が人間の文化的な自己家畜化の一因を担っているという考え方は目から鱗でした。
本作では、過去を美化したり現代社会を批判したりすることを主旨とは決してしておらず、文化的な自己家畜化の恩恵を受けるその陰には生物学的な自己家畜化が追いついておらず、社会の変化についていけない人がいる、それを踏まえた上でこの先どうやっていくのかを語られていて、思想や感情的でないところがとても良かったです。
私としては、筆者が提示した近未来はやむなしと思いますし、超未来はSF漫画などで見た未来は現在と地続きで起こりうることだと捉え、そこまで悲観的、ディストピアとも思わなかったです。
Posted by ブクログ
犬や猫は自己家畜化した動物。自ら家畜になった。人間も同じ。
動物園の動物に似ている。動物園の動物は繁殖ができない。ホッキョクグマは、半年以上生きられたのは122頭中16頭。
自己家畜化とは、人工的な環境でより穏やかで協力的な性質に自らを変化させること。
『暴力の人類史』によれば、人間の暴力性や衝動性が減ってきている。
現代人は理性的で合理的、感情が安定しているように強制されている。それができない人が精神病になるのではないか。
アナール学派=社会が変わるとルールや生活習慣だけでなく感情や感性まで変わる。
家畜化したギンギツネの実験。攻撃性が少ないキツネを交配することで、13代でペットとして買えるほどになった。
その特徴は、小型化する、顔が平面的になり前面への突出が小さくなる、犬歯など歯は小さくなり顎が小さくなる。性差が小さくなる。角が小さくなる、脳が小さくなる、繁殖周期の変化。
ホルモンの変化で攻撃性が少なくなる。白い斑点ができるのはホルモンのせい。色素を作るメラノサイトが端まで移動できず、尾の先端や足の体毛が白くなる。副腎の大きさも機能も小さくなり、感情的情動的反応が穏やかになる。象牙芽細胞が少なくなり歯が小さくなる。脳の成長が遅れて小さくなる。性ホルモンが変化し、発情期や生殖サイクルが変わる。
人間にも自己家畜化が進んだ。歯、口、顎のサイズが時代とともに小さくなる。人類は火をあやつることで大きな脳を持てるようになった。消化率がよくなった。ホモサピエンスはネアンデルタール人より脳が小さくなった。脳の使い方が変化した。攻撃性が減って野生動物としての感情的な反応が低下した=穏やかな感情を身につけた。野性的な脳から家畜的な脳へ変わった。文化がヒトを進化させた。動物と穀物を養うと同時に人間も家畜化されたのではないか。
人類は唯一の耐火種である=火を見て温かい気持ちになるおは人間だけ。
攻撃性は反応的攻撃性と能動的攻撃性がある。セロトニンのおかげで、反応性は減ったが、能動性は減っていないため戦争はなくならない。
子どもは「7つ前までは神のうち」死亡率が高い。
かつてはいつ死ぬかわからないという死生観を持つしかなかった。飼いならされた死。
資本主義の定着で、社会契約の遵守が重要になった。
いつ死ぬかわからない死生観では、資本主義は成り立たない。社会契約の中で資本主義や個人主義という思想通りに生きることを余儀なくされている=新自己家畜化。
現代の精神を病む人たちは中世では英雄だったのではないか。
ADHDやASDはスペクトラム的な疾患概念なのため、境目ははっきりしない。有病率は3%、4%とされている。
文化的な自己家畜化についていけない人が精神医療にかかる。
ナチスドイツは、向精神薬で恩恵を受けて、最後は弊害とともに崩壊した。
成功同意書は、性行為の領域に功利主義や社会契約のロジックを導入するツール。自由を尊重するようにみえて、自由を管理させるものではないか。
自己家畜化はゆっくりした変化だったが、文化的な自己家畜化は急速で、恩恵のほかに疎外を生み出している。