あらすじ
30歳の誕生日に、妻と離婚する予定の敦。暑いさなか、自動販売機に飲料缶を補充する仕事に回る車内で、同僚のシングルマザー・水城さんに、敦は結婚生活の顛末を尋ねられるまま語りはじめる…。ほんの僅かずつ掛け違っていく夫婦を描いた、第135回芥川賞受賞の表題作。ほか、働く男女の暮らしを淡々と描き出す「貝からみる風景」、妊娠中の娘が実家に戻ってきたのを機に煙草との離脱を決意した男の進行形禁煙小説「安定期つれづれ」を収録。
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2010.08.07 A
「八月の路上に捨てる」:表題作。敦と知恵子の関係、特に喧嘩のシーンが秀逸、リアル。
だからお互いに欲しいのは…、のくだりが、本当に素晴らしい表現。
水城さんみたいな人でも、また誰かと居たくなるのか、と考えさせられた。
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伊藤たかみは、青春もの(学生の甘酸っぱい感じ)の小説しか読んだことがなくて、大人が主役だと、このひとはどんな物語を書くのだろうと思っていた。この本に、すごく胸をつく一文がのっていた。その一文からタイトルがきている。その一文のための小説のような気がした。主人公は紛れもなく大人。何者にでもなれると信じていて、でも何者にもなれなかった大人。でもこれも青春。むしろこれこそが。まぎれもなく青春の物語だと思う。
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ああ、わかるなあ、ほんと、結婚生活ってこういうところあるよなあ…・・と、少しずつ、大切に文章を拾っていきながら読みました。
初めの一つからずれて置かれた上に、積み木を積み上げていくような結婚生活。グラグラと揺れながら積み上がっていく危うさ。初めから積み直せばいいのに、もう、面倒臭くてそれも出来ず、最後は崩れるしかない。その一つを置くのが自分なのか相手なのか。
些細なことが重なって、本当に一つ一つは些細なことなのに、それがどんどん我慢出来なくなっていく。小さなことに拘って後に引けなくて、馬鹿みたいに譲れなくなってしまう様は、哀しくて、滑稽で、静かに痛かったです。
話をしようと座れと促すのに、頑なに座ろうとせず、ドアノブにしがみつくのを必死に引きはがして争うあたりは可笑しいのに哀しいし、最後のデートで二人で思い出の場所を巡りながら、お互いの嫌だったところを論う場面では微笑ましくさえ感じて、自分も大概な性格をしているな、と思いました。
静かに壊れていくのをどうしようもなく感じながら歩いて行く。最後の五行が秀逸でした。この五行で、この作品がとても好きになりました。
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大きな出来事は起こらない、淡々とした日常だけれどじわじわ面白かったです。
3篇とも、入り込み過ぎないし離れすぎないでいて絶妙でした。初めから離れている、表題作の明日離婚する夫婦は置いといて…人と暮らすのって難しいなと思いました。「何もかも本気だったのだ」、しみじみわかります。誰からも理解されなくても、間違ってなかったって思っていたいあれこれ、ある。
長年連れ添ってたら乗り越えられることもあるかもしれないけれど、かといってそれまで待つ気力も体力も残ってない関係も確かにあると思うので。
解説が津村記久子さんで、なんか同じ空気を感じる作家さんがいた気が…津村さんか!となりました。解説の冒頭で、津村さんの小説があんな感じになる理由が垣間見えた気がします。淡々とじわじわ退屈しない同じ空気でも、女性作家さんと男性作家さんの描かれる心情はやっぱり違うなぁ興味深いな、となるので伊藤さんも読んでいこうと思いました。
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表題作のほか、夫婦の関係を考えさせられる3作品が収録されています。表題作では、30歳の誕生日で離婚をすることが決まっている主人公の敦は、自動販売機の缶ジュース等を補充するアルバイトをしています。同僚の水城さんはトラックに乗って補充に回る最終日で、敦と一緒に自動販売機を回ります。敦は水城さんに、自身も妻も夢が破れ狂ってしまった結婚生活の顛末を話します。
3作品とも人間関係や生活のあり方を考えさせられる作品です。
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どこにでもある日常の些細なさざ波を、ほのぼのとした語り口で描いた作品集です。どの作品も心温まる話というわけではないのですが、文体が清々しくて読んでいて気持ちが良くなります。ほんのり口角が上がる可笑しさがあります。まるで昭和のホームドラマのようです。
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離婚を目前にした結婚生活の回想、男女の関係がどうしようもなくなっていく時ってこんな感じなんだろうと思う。「旧姓の実印」という言葉の圧倒的なリアリティ!そして最後のデート。芥川受賞の表題作はとても良かった。残り二編はハッピーエンドすぎて物足りない感じもするけど、後味の良い話。いずれも女性作家の描く男性主人公だからファンタジー入ってるかもしれないけどね。
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8月下旬 芥川賞っぽい。表題作がよかった。日常がどんどんずれてくずれていく感じ。伝わってくるイライラがちゃんとこっちに迫ってきて、無駄じゃない小説な感じがした。
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『八月の路上に捨てる』自動販売機の補充に回るトラック内で、今日を最後に別の部署に変わる先輩に、結婚から離婚の顛末を語る。『貝からみる風景』奥さんを待ちながら、スーパーのお客様の声コーナーに寄せられた気になる投稿主について、思いを巡らす。『安定期つれづれ』禁煙の様子をブログに綴る退職した男が、実家に戻ってきている妊娠中の娘の結婚について案じる。
なんとなく引っ張り出して、読み返した。
ああ、ゼロ年代、という懐かしい感じがした。
「自分たちは二十代も半ばを過ぎている。夢なんて大久保の排水溝に落っことした。新宿の路上で汗と一緒に流してしまった。それでもその先には、案外、まっとうな幸せがあるような気もしている。」
「他の誰かがいなければ、失うことも最初からない。安定期も何もそこにはないのだから。平穏だけれど色彩の少ない生活があるに過ぎない」
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芥川賞といえば、昨今は最新のテーマを大胆に取り入れた問題作が多いイメージだが、一昔前の本作などはテーマも作風も意外とオーソドックスな印象。尖ったところはないが、長く読まれる小説とはこういうものかもしれない。
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安定期つれづれの、禁煙に励むお父さんが微笑ましい。
娘のために、生まれてくる孫のために、と思うと、一生懸命になれるんだな。禁煙や娘との会話を通して、考えが研ぎ澄まされて、自らの幸せにじわじわと気づいていく姿も印象的だ。
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この作家さんの作品は児童書しか読んだ事がなく、この作品も読み終わって初めて芥川賞受賞作品だと気付きました。
三作からなる短編集なのですが、最後の「安定期つれづれ」が中々良かった。
私の父も、私が妊娠中にこんな事を思ってたのかしら、とニヤニヤしてしまった〜
大きな出来事やオチはないものの、この人の文字はスーッと入ってくる感じがして心地よい。
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伊藤たかみといえば、ミカ!とかそういうポップなイメージだったのです。しかし、これでデビューしたのかとおもうと、底知れなさに驚く。美しいカバーと、八月の路上に捨てるという不思議と惹きつける言葉。内容は純文系らしく、何も起こらずゆっくり語らせるお話で、漂う空気感が非常に美しい作品。わたしこういう読み終わって、結局なんだったのだろう、とひとしきり考えてしまうような、そんな本が好きです。
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表題作は自販機の中身を補充するという仕事をしている人が主人公。あまり小説向きでない職業で知る機会がすくないので面白かった。先輩のサバサバ感が好きだった。
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8月最後の日に、飲料自動販売機の商品補充に回るドライバーとその相方のそれぞれの人間模様を描いた作品。
ドライバーの水城さんは、この日を最後にドライバーから内勤へ異動する。主人公は、妻との離婚届けを明日提出する。
登場する2人の人生観や価値観に、強い何かを感じさせない表現になっている。どちらかの登場人物からも強いメッセージ性のある言葉が語られません。淡々と、精緻な自販機への商品補充業務を表現しています。ある八月の仕事の情景を描きながら、2人の男女間、結婚感が語られます。プライベートの上手くいかない部分も、仕事という生きていくための作業の一部に組み込まれているかのような感じです。離婚することになったから、仕事に集中できないなんて、描写は出てきません。そんなことも生きていることの一部に過ぎないという感じさえします。生きる上で、仕事/プライベートのどちらかが、どちらかに影響を与えて、干渉すること自体が、無意味な感覚です。題名にある「八月の路上に捨てる」の”捨てる”ものは、何だったのか?2人の登場人物のそれぞれの過去を捨てて、それぞれに出発し直すということだと思います。ただ、それさえも強い共感を励起するわけではありません。人生の時々を、それなりに生きてきた人間のあるがままの明日に向かう姿を描写しきったものだと言える。
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『カンランシャ』に続き、伊藤たかみ2作目。
3作収録されてるけど、どれも夫婦の関係を描いた作品。
表題作は、水城さんが非常にいい味出してた。
敦と知恵子の夫婦は、知恵子がちょっと精神を病んだ時に、敦がうまく受け入れてあげられなかったために関係がおかしくなった…それで離婚に至った。それだけだと思う。
でも、ただ単にそこだけ描かれると面白くないけど、水城さんの言葉が重いし、すごい大事なこと言ってる。
『カンランシャ』に比べると、リアリティある夫婦像だった。
「安定期つれづれ」も、お父さんのブログ中心の展開が面白かった。
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芥川賞受賞作品の表題作と、あと中編2本を収録。なんとなく芥川賞作品はもっと難解なのかと思っていたけれど読みやすかった。家族で同じものを食べていると安心する、という感覚は良くわかる。
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夫婦とはどういうものか
【内容】
芥川賞を受賞した表題作をふくむ、全2編の短編集。
離婚届の提出を翌日に控えた男性が、自動販売機にジュースを補充する仕事をしながら同僚の年上女性に結婚生活を振り返る。
【感想】
「結婚生活が破綻していくプロセス」のリアルさには、しみじみとせつない気持ちになります。どちらが悪いのではなく、ボタンの掛け違いが積み重なることによって、結婚生活は破綻していくものなのだろう。
タイトルのセンスは抜群だ。
ただ、個人的には文体がグッとこない。
芥川賞受賞作であるが、村上龍氏の選評が興味深かったので記載する。
***
『現代における生きにくさ』を描く小説はもううんざりだ。そんなことは小説が表現しなくても新聞の社会欄やテレビのドキュメンタリー番組で『自明のこと』として誰もが毎日目にしている
***
【引用】
東京で生きていくには、ただ息を吸うだけでも金が要る。
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結婚生活を終えようとする男性の心の描写が、すでに離婚し、新たに歩み始めた女性を軸に書かれている。みんな、真剣なんだよな、と思った。よかった。
伊藤たかみは「ミカ!」「ミカミカ!」以来、久々。
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短い本にしては時間がかかった。
離婚とか夫婦の話とか自分が共感できないのはやっぱり読みにくいね。
でも人間関係とかはおもしろかった。
読み始めたら読みやすかったし。
自分的には表題作より「安定期つれづれ」の方がおもしろかった。
Posted by ブクログ
うちの会社では自販機も作って売っているのだけれど、なかなかこの商売も大変。
で、この表題作の主人公は、そうして街に並んだ自販機に缶を詰めて回りお金を回収する人ね。
帯に「30歳、フリーター、明日離婚予定」とあるけれど、そんな敦の結婚と離婚の経緯が、一緒に回る女性ドライバーの水城さんとの会話から知れていく。
現代の若者の生活を覆う社会の歪みの中で掛け違っていく男女、みたいな話で、芥川賞受賞作の離婚話なんて、普通を描いては有り得ないという意味では、まあ、こんなもんだという感じ。水城さんを主人公にした物語のほうがずっと面白そう。
私には、ありがちな生活感の中での微妙なズレに男女の機微が見えた「貝からみる風景」のほうが良かったな。
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◆あらすじ◆
三十歳の誕生日に離婚する予定の敦は、自動販売機の補充に回る車内で同僚の水城さんに結婚生活の顛末を話して聞かせる。
社会のひずみに目を向けつつ、掛け違っていく男女を描いた、第135回芥川賞受賞の代表作ほか、単行本未収録の「安定期のつれづれ」等、夫婦のそれぞれのあり方を鮮やかにとらえた3編。