あらすじ
犯人は誰? 探偵こそ誰?
時は明治、那珂川二坊は文学で名をなさんとす。尾崎紅葉に師事すれど執筆がかなうのは小説どころか三文記事ばかり。この日も簡易食堂に足を運び、ネタを探して与太話に耳を傾けた。
どうやら昨晩、かの徳川公爵邸に盗人が入ったらしい。蓋を開ければ徳川公にも家人にもこれと云った被害はなく、盗人は逃走途中に塀から落ちて死んだという不思議な顛末。酔客らは推論を重ねるが、「そりゃ違いますやろ」という声の主、福田房次郎が語り始めたのは、あっと驚く“真相”だった(「長くなだらかな坂」)。
京都・奈良をつなぐ法螺吹峠、ナチス勃興前夜のポツダム、魔都・上海ほか、那珂川の赴く地に事件あり、妖人あり! “歴史・時代ミステリの星”伊吹亜門が放つ全5話の連作短編集――
絢爛たる謎解き秘話を通して、
〈あの人〉たちの妖人ぶりにあらためて瞠目した
――有栖川有栖(作家)
著者の本領発揮作と呼ぶに相応しい完成度
――千街晶之(ミステリ評論家)
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Posted by ブクログ
凄く面白かった。個人的に一番好きなのは第一話「長くなだらかな坂」ですね。自分はスケールが大きい話より日常の延長線上に近い話の方が好きらしい。
文章が堅いのに読みやすくて、個人的に一番丁度よい文章。時代がかってて堅い文章なのに、一度読み始めるとスルスル読めるのが珍しくて助かる。
語り手である那珂川二坊の物書きとしての現実と理想の葛藤や、断片的に描かれる妻との関係性が非常に読み応えがある上に、推理物としても初心者の自分でも理解しやすいうえに真相シーンがワクワクできて満足度が高い。
あとこれは正規の読み方とは違うのだろうけど、歴史・時代ものをロクに読まないタイプなので各話の探偵役に付いての知識が全くないからこそ、一話読むごとにネットで調べて話の補完をするのが脳汁出てくる。
Posted by ブクログ
明治から昭和初期までのとある小説家視点のミステリ。彼はどちらかというとワトソン役で、ホームズというか謎を解く探偵役はその都度登場していくタイプ。しかもその探偵は歴史に名を残すような偉人たち。主人公はそんな輝かしき偉人たちの側で、様々な役回りを果たしていく。尾崎紅葉に認められた最後の門下生という、言ってしまえばちっぽけなプライドだけで主人公は生きてきた。その矜持も悪くはないものの、総合的に彼は誰かしら、何かしらに流されてしまっている。だからこそ文壇で輝けなかったのかなあとちょっと思ってしまった。話の内容は面白かったんだけど、昔の表現方法が多いので読みづらさも少し感じた。