あらすじ
ミュージシャンの夢を捨てきれず、親からの仕送りで怠惰に暮らす、29歳無職の宮路。ある日、余興の時間にギターの弾き語りをするために訪れた老人ホーム・そよかぜ荘で、神がかったサックスの音色を耳にする。演奏していたのは年下の介護士・渡部だった。「いた、天才が。あの音はきっと、俺を今いる場所から引っ張り出してくれる」――神様に出会った興奮に突き動かされ、ホームに通うようになった宮路は「ぼんくら」と呼ばれながらも、入居者たちと親しくなっていく。人生の行き止まりで立ちすくんでいる青年と、人生の最終コーナーに差し掛かった大人たちが奏でる感動長編!
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Posted by ブクログ
音楽が繋げてくれた暖かい心の繋がり。
主人公が育ってきた環境には全く共感できなかったけど、唯一共感できたのは、昔感じた胸踊る瞬間がまた訪れることを信じてる姿かな。最近ギターを始めた私が読んで正解すぎる小説だった。誰かと音楽を奏でることの「最高」、それが上手くても下手でも、そこに誰がいるか誰を想って歌うかが大事なんだなって考えさせられたし、その「最高」を感じてみたいと思った。
主人公の宮路、最初のイメージは親のお金でただ音楽に縋って生きてるだらしない奴かと思ってたけど、読んでいくうちに宮路の内面はただ純粋で綺麗なままな気がした。本庄のおじいさんにウクレレを教えるために今まで弾いたこともないウクレレを買って練習して一緒に歌う曲も探したり、水木のおばあさんに頼まれたおもしろい小説も、小説とか読んだことないくせに10冊ちゃんと読んでオススメする姿とか、人が好きなんだなよりも宮路なりにその人との関わり方、繋がり方を凄く大切にしてるんだなって嫌いになれなかったし、好きになれた。
宮路と渡部は、生まれ育った環境も性格も違うのに、磁石のように惹かれあって、二人の演奏も会話も全て心地よかった。
作中に出てくる音楽を聴きながら、読むのがまた良くて、物語にもっとのめり込めれる。また好きな音楽が増えた。
自分の息子かのように時には友人のように毒舌な水木のおばあさん、宮路をウクレレの先生と呼んで、毎週金曜日を楽しみにしていた本庄のおじいさん、宮路が老人ホームでできたかけがえのない繋がり、年齢を超えた人と人との繋がりを感じさせてくれた気がする。年齢が違くても、通じ合えるもの、感動するものはきっとあるはず。
宮路の演奏も多分最初と比べたら全く違う演奏だったと思うし、一人の人間としても成長してキラキラしてた。
タイトルの「その扉をたたく音」、どこからきてるんだろうと思ってたけど、グリーンデイのWake Me Up When September Ends (9月になったら起こして)と渡部のサックスの音、宮路と渡部のセッション、本庄のおじいさんとのウクレレ演奏を含めた「音楽」と掛けてるのかなと思ったり。
宮路のお金に関する考え方も変わったのと同時に自分も気付かされた気がする。自分で稼いだお金で誰かのために贈るプレゼントがどれだけ素敵なことか、かけがえのないものなのか。
この本では、音楽と人を繋げるものだけじゃなくて、人と人が繋がるもっと大切なものを見せてくれた気がする。
Posted by ブクログ
きっと誰にでもその瞬間は訪れるんだと思う。誰にとってもそれは突然で、だからいつ訪れてもいいように、なるべく前を向けるように備えたい。結局水木さんも渡辺君も、ぼんくらもみんな世話焼きだったんだなー。
Posted by ブクログ
29歳で夢をずっと追いかけていた主人公が
老人ホームでの出会いをきっかけに
自分の音楽や自分自身を見つめ直す物語。
最後の水木さんの手紙にグッときた。
自分も余命わずかで大変な中で、
最後の力を振り絞って
今まで伝えられなかった自分の素直な気持ちや
主人公を奮起させる姿に勇気を与えられた。
異なる環境で育った人間だからこそ、
それぞれに見える人生の景色や価値観がある。
自分の世界に閉じこもらず
その広い世界を知り視野を広げ
自分を見つめ直すことも時には大切。
そんな小さな一歩を私も踏み出してみたい。
Posted by ブクログ
宮路がだらしないようでいて、すごくいいやつなので、読んでいて気持ちがいい。
人の欲しいものにぴったりなものを選び、ウクレレを教えてほしいと言われれば買って練習し、本が欲しいと言われれば10冊買って自分でも読んでみる。
作中で演奏される曲がストーリーに合っていて、聴きながら読んだらとても心に沁みた。舞台が老人ホームということで、「上を向いて歩こう」とか「東京ブギウギ」などの往年の名歌が多かったが、本作を読むまで知らなかった「Wake Me Up When September Ends」という歌はとても心に残った。
『あと少し、もう少し』の渡部が成長して登場していたのもとても嬉しく、ちょっとときめく会話もあり、宮路とのかみ合っているようないないような会話は面白くて時に吹き出してしまった。
夏に読むのにぴったりな、元気が出る一冊。
Posted by ブクログ
あらすじを読んだときに予想した系統の話とはいい意味で少し違った。あらすじを読んだ感じ、サックスを吹く渡部君は、何かしらの理由で音楽を諦めたのかなとか、それを聞いて感化されたギタリストの宮路は、自分の音楽に欠けていたものに気づくのかなとか、音楽にしろ他のものにしろ、自分の生きる道を明確に見つけるところまでお話が続くのかなとか、そういうあるあるみたいなものを少しずつ外してきて、でもそれがリアルで、ほっこりした。
Posted by ブクログ
「上を向いて歩こう」や「心の瞳」、「東京ブギウギ」といった名曲を惜しみなく登場させることで、この作品自体が立体的になって新鮮だった。
水木さんと本庄さんが大好きになった。特に、「心の瞳」を宮路と自分の曲だと言った本庄さん。"遠回りをしてた人生だけど君だけがいまでは愛のすべて 時の歩み いつもそばでわかち合える""いつか若さを失しても心だけは決して変わらない絆で結ばれてる"これを自分と本庄さん2人の曲だと言われた宮路がどんな気持ちだったか。宮路が何年もの間諦めきれずにしがみついていたものはきっと音楽じゃない。音楽が連れてきてくれる何かなんだ。
話自体は短いけれど、立体的で厚みのあるお話でした。これから大切にしていきたい作品の一つになりそうです。
Posted by ブクログ
2025年のナツイチでしおり目当てに買った。
音楽小説が好きだから買ったけど、どちらかというと遅まきにやってきた青春小説といった感じだろうか。
ギターにしてもサックスにしても、全体的に楽器や演奏に関するディテールの描写は薄めで、とくにサックスは何も取材せずに書いたのかというくらい薄い。たぶんソプラノやバリサクではなさそうですがアルトですかテナーですか? リード湿らせたりネックだけで吹き心地を確認したりしませんか? もちろん、主人公の宮地がサックスについて知識なさそうだから一人称視点でごちゃごちゃ書いてあるのも違うとは思うけど……
などと批判めいたことを書いてしまったが、期待してたのと違った割に楽しめたのは、宮地が「ぼんくら」なくせに自分の才能やニート生活に対する自己認識が非常にまっとうだったからだ。親からの仕送りだけで働かずに暮らしているというのが分かった時はちょっぴり「うわぁ……」と思ったが、才能のなさ、踏み出せない情けなさの描写は簡潔ながら丁寧で、なんだか憎めない。
渡部君に対する強引さにはちょっと引いたが、渡部君が懐の広い子でよかった(笑)
これは推測でしかないが、金持ちの子に生まれて身動きが取れなくなった宮地に対して、渡部君は「両親がいないからまともに育ってない」とか言われないように頑張ってきたんじゃないか。人当たりよく、我慢強く大らかであるようにと努めてきたんじゃないか。
水木のばあさんは存在自体がフラグだなと思ったがまんまと泣かされました。