【感想・ネタバレ】メタゾアの心身問題――動物の生活と心の誕生のレビュー

あらすじ

『タコの心身問題』の著者が、心の進化の海にますます深く潜行する待望の一書。「メタゾア」は多細胞の動物を指すためにE・ヘッケルが導入した言葉だ。メタゾアの生物の進化は、たんに複雑さをもたらしただけではなく、それぞれに独特なあり方、新しい「自己」を生み出しつづけた。タコの経験、ヤドカリの経験、魚の経験……こうしたすべての動物を経験する存在にしているのは何だろう? 現生の生物たちを手がかりに、さまざまな感性のパラダイム、そしてその進化的起源を探っていく。著者にとってその探究は、海の生物たちとの、美しく体感的な出会いと結びついている。タコの集住地「オクトポリス」を訪れ、タコの「自己」は頭部に1つあるのか、「1つ+8本」に分散しているのか、あるいはそれらの状態を切り替えているのか?という興味深い問いに迫る第6章、水の中を飛び回る魚たちの感知能力や賢さに接して、神経系が作りだす電場について思索を深める第7章など、海洋生物の生活の細部を間近で観察することが、そのまま科学と哲学の「謎が謎を呼ぶ作業」でもある。著者は幅広い動物が〈感じられた経験〉(広い意味での意識)をもっていると認め、意識があるか・ないかという二分法を超えて、心の発生についての「包括的な説明」を試みている。驚きの生物進化読本。

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Posted by ブクログ

ネタバレ

「タコの心身問題」に続いて、哲学を生物学(または生物が活動する様子)からボトムアップした本。翻訳者が異なるからか、ことば遣いの端々に幾ばく難解なきらいがある(読点と読点の間が長い)ように思える。が、おもに頭足類を扱った前著より、時代もいきものもさまざまな分野から取り扱われていて、なんというか、「とっちらかりながらおもしろい」。本著のテーマの主格はおそらく『経験』で、これは、あっさり「どれにあってどれにない」とは片付けられない。表現しづらいが(たぶん読まれたほうが早いでしょう!)、「感覚器官で得るもの」と「得たそのものの集積」、「自他の区別(自分が他者とは別にあるという感じ)」などがいきもの、あるいは個体ごとにごた混ぜになっている、という風だ。時代も場所も(陸や海や気候etc.)違う個体ごとに、それぞれがグラデーション、ヴァリアントになっている。わたしはそう読み取った。AIの不可論のくだりも興味深かった。
ただ、日常の会話(コミュニケーション)を通してさらに構成され得るのが人間特有の心だとし、生まれてくるものと自分でつくるものにそれが大別されるならば、ほかのいきものにどうしてそれが(グラデーションのかたちにしても/擬人化ではなく!)できないのか。そこが理解しきれなかった。

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2024年02月29日

Posted by ブクログ

個人的に、この著者の本はタコの心身問題から2冊目。心、意識について、動物や植物、海洋生物の生物学的な分析、進化の過程、分離脳患者の行動などさまざまな例を駆使して説明を試みる。専門的で理解できたか自信が持てない部分も少なくないけれど、素人なりに大筋はつかんだように思う。
細胞から構成される既知の生物は、微小なバクテリアも含め、すべて世界を感知し、それに応答する能力をもっている。自分の境界を自ら定義し、自分の生命を自ら維持していく細胞は「自己」と見なすことができる。これはよく分かる。
でも例えば、通常私たちが「動物」という括りで考えている「動物たち」や昆虫、そして植物が、どこまで「感知」しているのか、俗にいう「痛み」を感じているのか、という問いは、思った以上に複雑な思考実験につながっている。

感覚経験(寒くなってきた)と評価経験(…から、これはどうもまずい)という分け方で考えるのは分かりやすかった。カメラや電話、サーモスタットは特定の状態を感知できるが、だからといって何らかの経験を持っているということにはならない。そうすると、昆虫に痛みはあるか?という問いも、もしかしたら、昆虫にとって体は車両のようなもので、脚を失うのは、タイヤのっパンクと同じで、問題の発生を身体全体で違和感として感じ、それが行為に影響を及ぼしているだけかもしれない、という風に考えることが可能になるという説明。結論は不明なままだが面白い。

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2025年06月03日

Posted by ブクログ

動物の意識・経験にかかわる問題を進化の道筋をたどるように追いかけていく

前著の『タコ』に比べると、未完成のアイデアを生のまま展開していて少しわかりにくい。読むほうも気楽に読んだほうが良いのだろう

文中で少し触れられているが、こうした議論はアニマルウェルフェアに示唆するところがあるかも

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2024年06月30日

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