あらすじ
大学生の玲奈は、全てを忘れて打ち込めるようなことも、抜きんでて得意なことも、友達さえも持っていないことを寂しく思っていた。そんな折、仔犬を飼い始めたことで憂鬱な日常が一変する。ゼロと名付けた仔犬を溺愛するあまり、ゼロを主人公にした短編を小説投稿サイトにアップしたところ、読者から感想コメントが届く。玲奈はその読者とDMでやり取りするようになるが、同じ頃、玲奈の周りに不審人物が現れるようになり……。短大生の駒子が童話集『ななつのこ』と出会い、その作家との手紙のやり取りから始まった、謎に彩られた日々。作家と読者の繋がりから生まれた物語は、愛らしくも頼もしい犬が加わることで新たなステージを迎える。
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Posted by ブクログ
駒子シリーズ4作目。
長い時間が過ぎているが、人物像のブレがなく、とても面白かった。イラストも素晴らしく、可愛い。
こういう犬が飼いたい、という理想像が描かれていると思う。
まずはワンの独白から始まる。
そして玲奈とゼロの語り、ゼロの先輩として登場するワン。
玲奈の辛い過去の話、母は美術部だった、というくだりから母が誰であるか、を読者は推察することが出来る。
ワンはゼロを自分の後継者として育てる。
そしてお兄さんのはやての独白の章。これも辛い描写から始まる。犬が飼いたいはやてだが、家庭の事情で飼えず(父の仕事の都合で引っ越しが多い)。隣家の犬が良い飼われ方をしていないことに気づく。その隣家の犬の飼い主であるケンちゃんと共に飼い犬のシロの世話をする。ケンちゃんとも打ち解けてくるのだが、シロはなかなかケンちゃんを飼い主である、と認めていないようである。ケンちゃんとはやてとシロは真っ黒な犬に山の中で逢う。
章の最後にはやてはシロの子ども、ワンを飼うことになる。
ワンの中編、後編は駒子の章である。
今までは子ども視点であったが、大人視点での考察になる。そうは言っても、駒子だから、ちょっと唐変木な方向もある。犬の話だからか「スイカジュースの涙」の愛ちゃんの飼い犬を思い出すシーンも出てくる。そして瀬尾さんの職業が明らかに。建築士と言っても、ただの建築士ではなく「天文台」を建てる建築士であった。
「そうして我が家では、末っ子の妹を大切に見守るお兄ちゃん二人(一人と一匹)、というこの上なくキュートで温かい関係が築かれていくのだった」もう、理想の家族だ。
ハイドロプレーニング、フェード現象への言及も健在である。
近くの別荘の住人が犬を山に捨てている、町の有力者のため、分かっていながら、誰もその行為を止められない、と駒子が知ったときに、いろいろな報復方法を考える。「ドクガ爆弾」を考案した駒子に「君が自爆する未来しか見えないからやめときな」は笑ってしまった。
「自爆はせずに、法に触れない範囲で何か…」「不穏なセリフが聞こえたよ?」
駒子と瀬尾の関係、変わらない。
そして犬捨て犯の芸術家(別荘の人)へ犬捨て行為をやめさせる方法として駒子が取った行動が笑える。スズメバチを呼び込むためにスズメバチのドリンクバーを作ることにしたのだ。未必の故意、蓋然性の問題である。
「君の特製ドリンクが入ってた弁当箱は回収してきたけど、あれはもう捨てていいんだよね?」「もちろん。曲げわっぱのお弁当箱だから、燃えるゴミよ。いずれ土に還る素材だからあれを選んだの」「あ、そこは証拠隠滅じゃなくて地球環境に配慮したんだね」このやりとりも好きだ。
「実はわたし、人の心が読めるんだ」と小学校低学年とおぼしき女の子が友人に話した言葉を当の話し相手の女の子が「へえ」の一言で済ましているのに、たまたまそれを聞いた大人の駒子が驚愕し、「ぜひとも後を追いかけて詳しく話を聞きたいと思ったけれど、泣く泣く自重した。下校中の女児に怪しい女が付きまとっていた、などと不審者情報が出かねないから。」のくだりは大笑いした。
瀬尾さんのプロポーズの言葉が素敵だ。「僕を君の一番にしてください。君はとっくに僕の唯一無二だから」
その続く文脈から「はやて」はいるのにどうして「玲奈」なのか、なぜ「あやめ」さんではないのか、が分かる。
エピローグは玲奈の視点。ワンの最期が語られる。
ワン、一番、という重要な数字、そしてゼロが1と並び立つ重要な数字、この言葉に回帰していく。
Posted by ブクログ
ここにきてまさかの駒子シリーズ続編。
何年ぶり??
「ななつのこ」から全部追ってたはずなのにほぼ記憶になく。
駒子のキャラがおぼろげに浮かぶくらい。
おかしいな、ささらさやシリーズは割と覚えてるんだけど。
シリーズもの続編とはいえ、単体で十分楽しめるお話。
駒子シリーズを知っていればより楽しめそう。
加納さんは日常に潜む謎をミステリとして落とし込んでいくのが上手なんだけど。
今作はミステリ要素は薄めかな。
初っ端の先輩犬のネタばらしで思いっきりやられたけど。笑
駒子シリーズを復習して、もう一度読もうかな。
Posted by ブクログ
駒子シリーズの第四弾。玲奈という女の子とゼロと言う名の犬の話、それも少しオカルトじみた感じと思いながら読んでいくと、ワンと男の子の物語に推移。男の子の名前がハヤテとわかった時点で駒子シリーズの関連性が少し出てきた。冒頭の最初に読んでいただきたい前書きに、ストレートな続きではありませんとあったので「あ~こういうこと」と勝手に思い込み読み進めると、まんま駒子シリーズだった。ほんとうにちょっとしたミステリ、ストレートすぎるほどこれ以上ないというほど駒子シリーズだった。シリーズを続けて読むとよく解る。
Posted by ブクログ
今度は犬が主役?駒子のその後、ワンとゼロとの新しい出会いとその物語が小さな謎も含めて愛おしい。瀬尾さんとの幸せな未来がここに現れて読めたのは本当に良かった。
Posted by ブクログ
駒子シリーズ第4弾
表紙や挿絵が可愛らしくて好き
駒子じゃない一人称から始まりますが駒子もきちんと出てきます、あ、この人が駒子かなと思った人でたぶん大体合ってます。そういう、期待にきっちり応えてくれる話で良かった。ハッピーエンドのその先やアナザーストーリーでわざわざ読者の希望を裏切ってくる話はしんどいので。作中の櫻さんのエピソードで続編についての読者の反応を先回りするような描写には萎えた。思ってもいいけど作者にわざわざ伝えてくるなよってことなんだろうけど、玲奈の感想が良しとされる世界なのでネガ感想はやめてねと念押しされたようでさすがに押し付けがましいかなと。心配なさらずとも大変楽しく読みました。
「ななつのこ」で気になった件を令和にアンサーされているようで面白かった。ミステリのネタ扱いで生ゴミとして捨てられた犬。他人の敷地で工作をする祖母と孫。
大筋は楽しく読めたのだが、ドラマを作ろうとして盛り過ぎではないかと思う箇所がいくつかあった。シロとその子犬や、あやめさんに該当する人物や、ワンの最期。作劇上の都合であんなに何匹もの犬を殺したり、駒子に流産させたり、ワンに壮絶な最期を迎えさせなくても良かったのでは。
罠によってシロを殺し子犬も4匹殺し一匹だけ残った犬がワンであるのだが、なにもそこまで血なまぐさい話にせずとも共に罠にかかったシロを看取った黒犬を連れ帰りそれがワンになった、ではだめだったのか。成犬より子犬と子どもと赤ん坊の方がビジュアル的に良いのかもしれないが設定的に黒犬もせいぜい2-3歳もしかしたら1歳そこそこだろうし。
既刊読者が気になるであろう、はやてがいてその妹がいるのにあやめがいないのはなぜ? の引きもなあ…。具合が悪かった、が玲奈の出産でない辺りでなんとなく予想がついたが。一時期だけ飼ってた(現在進行系でももちろんいい)ハムスターとかザリガニとか金魚とかそういう平和的肩透かしを求めたかった。あやめさん≒綾乃さんがどうあっても早世すぎて悲しい。
そして、特にワンの最期があのようなものだったのに玲奈がそれまでの話でほぼ思い返さないというのは、ラストで明かして物語を盛り上げたいという作劇意図を感じてしまった。遡って、自宅で知らないおっさんに殺されかけたのにストーカーに対してあそこまで無頓着なのもちょっとな…。回避思考なのかもしれないけど。そして、大学生になった玲奈が、自分をかばったことが直接の死因として犬と別れているのにそのことには全く触れずに、「私だけをひたむきに慕い、望んでくれる存在」「臆病で自己中な私のことを責めず、許してくれて。決して裏切らない。」存在として犬を求めるというのは…その当時はそれだけ思い詰めて軽く病んでいたのかもしれないが…。そうは描かれてはいないが薄暗いものを感じてしまう。おそらくは同じ年頃の駒子もそういう思考をしていた(そして多かれ少なかれ誰かの一番になりたいという欲求は誰にでもある)、やはり親子だね、くらいの温度の話なのだろうが、仕掛けのためにワンの最期が伏せられているので読み返して、あの経験があってなお犬に対してその思考にたどり着くのか…と慄いた。
ミステリー要素はまえがきの通り薄いが、そうでない部分では前述の通り結構な数が死んでいくので、むしろ死亡数は多め。ワンの最期は衝撃とか悲しいとかいうよりもう普通に老衰で死なせてやれ…と。そこまで盛ったらはやても玲奈も可哀想だろ。可愛い犬とか子犬とか待望の子供や忠実な飼い犬が死んだらそれは衝撃的だけども、登場人物を死なせる以外で印象的なエピソードを描ける作家のはずなのに後半にやたらと死亡数が増えるのは辟易した。
駒子が愛ちゃんの犬の件を反省する描写や作者自身がかつての飼い方を虐待と言っていたりもするが、創作のための犬の扱い方の意識は作者の中ではそんなに変わってないのではと思った。まあ大筋は面白かったからいいけど(よくない)。
玲奈の中高時代から犬を飼い始めて現在に至るまでで、人づきあいの仕方が変わっていく描写は良かった。中高生くらいまでの人間関係はその場を支配している人物の気分次第というのが大きいので、実際自分の預かり知らぬところでボスJKの機嫌を損ねたのが原因とは玲奈もいいとばっちりではある。しかし、褒められるのが苦手なので無理矢理に人を褒めてまで人間関係を維持し続けたくない、まではともかく、本当に相手の褒めどころが一つも見つからないというのは葉月の言う通り他人に興味がなかったのだろうしそこで玲奈にも、アドバイスが自分本位ではなかったかと自省する葉月にも批判的な視点が平等にあるのも良かった。