あらすじ
ある事件以降、引きこもっていたしふみはテレビのなかに「おねえちゃん」を見つけ動植物園へ向かう。言葉を機械学習させられた過去のある類人猿ボノボ”シネノ”と邂逅し、魂をシンクロさせ交歓していく――”わたしたちには、わたしたちだけに通じる最強のおまじないがある”。
幻想と現実が互いに侵蝕していく圧倒的筆致。
人間存在の根源的な闇に光をあてる”唯一無二の才能”。
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Posted by ブクログ
第170回芥川賞候補
初出 群像2023年12月号
第37回三島由紀夫賞候補入おめでとう御座います。
人間がおそろしい。
「わたしたちのいち生物としてのテリトリーはすでに議論の余地もないほど、こてんぱんに侵され踏みにじられている。
ー捕獲されたボノボによる人的、物的被害はありませんでした。」
Posted by ブクログ
主人公が檻の外に出る物語。あるいは、虎になりそこねた李徴の話。
自我をとろけさせる心地よい相手もずっと存在するわけではない。自分を呪うわかりやすいトラウマがあるわけではない。不倶戴天のわかりやすい敵もいない。自分を不愉快にさせる相手や知らない大勢の悪意も自分を縛るものではない。頭の中で目まぐるしく移る思考を、身体はどう思うか。
空想の安全地帯を何度もループし、主人公は結論に達する。自分は自分というだけで王冠を戴き、誇りをもてばよい。安全地帯を出て無様にもがけばよい。
Posted by ブクログ
ほらわたしを見て、かんむりを頭に戴きながら、頭を垂れることはできない。
“おねえちゃん”とわたしが、お互いの世界で生き延びるためのおまじない。
あまりの直向きさにぐっときてしまいました。いい子のかんむりは/ヒトにもらうものでなく/そう自分で/自分に/さずけるもの。
シネノという類人猿ボノボと人間のしふみの意識の境目が溶け合う…という突飛な内容ではありましたが、力を貰えました。ボノボ視点の部分も面白かった。
ボノボの最長記憶、26年という記録があるらしい。人類も、Yが弱くなってきてるのでこれからはボノボのほうがいいのでは…みたいなシスターフッドも感じました。
あと、動物映像はいいのに何故アテレコするんだ……とわたしも、なる
Posted by ブクログ
これは…なんというジャンルの物語なのだろう。
登場するのは動植物園にいるボノボのメス、シネノとアスリートの女性、しふみ。しふみはシネノを見て、お姉ちゃんだと思う…というあらすじが気になって読み始めた。
読んでいると、誰の視点なのか?これは現実なのか?夢なのか妄想なのか。わからないところもあって、結局最後まで本当のことは何なのかよくわからなかった。(読み取る力がなくてつらい)
ただ、本当はできることをやらないのは苦しいという文章に、なるほどと思わされた。できないことをやらないのはよい。できることをやらないのは苦しい。確かに。というか、むしろできることから逃げたり面倒だから避けたりしてることで、余計に自分を苦しめていることもあるかもと思った。苦しくならないために、面倒だからやりたくないと避けているのに、避けたことで出来たことによる達成感とか得られる経験とかからも避けてしまっていて、日々がつまらなくなっていないかと考えてしまった。
しかし、シネノとしふみの関係性は幼い頃に実験で会っていたということなの…?なんだかそのあたりがよくわからず、すっきりとはしなかった。