あらすじ
認知症の母が呟いた家族の「秘密」とは。
スミダスポーツで働く泰介は、認知症を患う八十歳の母・万津子を自宅で介護しながら、妻と、バレーボール部でエースとして活躍する高校二年生の娘とともに暮らしている。あるとき、万津子がテレビのオリンピック特集を見て「私は……東洋の魔女」「泰介には、秘密」と呟いた。泰介は、九州から東京へ出てきた母の過去を何も知らないことに気づく。五十一年前。紡績工場で女工として働いていた万津子は、十九歳で三井鉱山の職員と結婚。夫の暴力と子育ての難しさに悩んでいたが、幼い息子が起こしたある事件をきっかけに、家や近隣での居場所を失う。そんな彼女が、故郷を捨て、上京したのはなぜだったのか。泰介は万津子の部屋で見つけた新聞記事を頼りに、母の「秘密」を探り始める。それは同時に、泰介が日頃感じている「生きづらさ」にもつながっていて──。一九六四年と二〇二〇年、二つの東京五輪の時代を生きる親子の姿を三代にわたって描いた感動作。いま最も注目を集める若手作家・辻堂ゆめによる圧巻の大河小説!!
※この作品は単行本版『十の輪をくぐる』として配信されていた作品の文庫本版です。
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Posted by ブクログ
読み始めから泰介が酷い発言ばかりするので嫌な気持ちで読み進めた。東洋の魔女の時代、ADHDという言葉も認知もされていない中、田舎で親族からも見放されどんなに大変なことだっただろう。読者でこちらからみていても泰介にイライラ、とてもじゃないけど育てる自信がない。
子ども2人を連れ上京し育てる事で故郷にいるよりはいい人生を歩めたのだろう。
万津子が泰介にバレーボールを教えたのは選手にしたいためではなく落ち着かせるためだった。母親の深い愛情を感じる。そして泰介の妻の由佳子、こちらも愛情あふれる人で、素敵すぎる。泰介はふたりの愛情に支えられてきたのだ。もちろん本人にしかない魅力もあるだろう。
万津子と本当のところは語り合えなかったのも、現実はそうだろうな、と。
弟の徹平目線のパートがあってもよかったな。
素晴らしく読み応えがあり、いい本に会えてよかった。
Posted by ブクログ
思ってもみない方向で感動させられた。
子供の頃から癇癪もちで社会人になってからも周囲の人とうまくやっていけない泰介。
あぁ、これは発達障害だな、昔は誰にも理解されないから大変な苦労だったろうな、、、。
と思って読んでいたら、その発達障害もこの小説のテーマの一つだった。
てっきり認知症の母の秘め事と、萌子のバレーボールの話だと思っていたので、泰介自身が発達障害と向き合っていく流れになったのには驚いた。
しかもそれを萌子が父親を傷つけないように、悩み抜いた末に、何度も頭の中でリハーサルした言葉を伝える場面はもう号泣だった。
当たり前がうまくできずに苦しんでいる人にとっても励まされる、刺さる内容だったと思う。
そして萌子の春高決勝戦は、ありがちな展開で予想通りだけど、緊迫感がありドキドキして、やはり感動して泣いた。
母は東洋の魔女ではなかったけど、苦しかった人生の中で救いになった息子をバレーボールの選手にするという願いが、孫の活躍へと続いてよかった。
何か自分が必死になって追い求めたものが、形にならなかったとしても、自分以外の誰かの血と肉になり、自分の預かり知らぬところでもしかしたら後世に身を結ぶこともあるのかもしれないなと知って、とても素敵なことを教わった気持ち。
泰介が伝えた感謝と、萌子の活躍と、ヨシタカ君を押して殺したわけではないことは、母に伝わっていて欲しい。
母の反応がよくわからず、リアリティはあるけど、個人的には理解して歓喜する描写を読みたかった。
前半は若干単調ではあるけど、読みやすく、後半一気に涙腺を壊しにくる一冊。
Posted by ブクログ
「私は……東洋の魔女」なんて帯だったから、てっきり元日本代表の話なのかと思っていた。まさか自分を奮い立たせるためのお守りのような言葉だったとは……。
全体としては読んでいてイライラの止まらない泰介パートと、爽やかで軽やかでキラキラしている万津子パートが交互に表れる構成で、最初は早く万津子パートにならないかなと思って読んでいたが、次第に万津子パートが読み進めるには辛すぎる展開になると、自分探し中の泰介パートに早く戻らないかなと思った。この逆転現象は単純にすごいと思う。辛くてしんどくて涙が止まらないけど、ページを捲る手が止まらない、そんな中毒性のある本だった。
奇しくも丁度パリ五輪開催中に読み始めて読み終わったのも、何かしらの相乗効果になったかもしれない。今このタイミングで読めて良かった。