あらすじ
架空の県を舞台にした連作小説集
「黒蟹とはまた、微妙ですね」
微妙、などと言われてしまう地味な県は全国にたくさんあって、黒蟹県もそのひとつだ。
県のシンボルのようにそびえたつのは黒蟹山、その肩に目立つ北斎が描いた波のようにギザギザの岩は、地元では「黒蟹の鋏」と呼ばれ親しまれている。県庁や裁判所を有し、新幹線も停まる県のビジネス拠点としての役割を担う紫苑市と、かつての中心地で歴史的町並みや重要文化財である黒蟹城を擁する灯籠寺市とは、案の定、昔からの遺恨で仲が悪い。空港と見まごうほどの巨大な敷地を持つショッピングモールの先には延々と荒れ地や牧草地が続き、廃業して解体されてしまって今はもう跡地すらどこだかわからない百貨店に由来する「デパート通り」はいつまで経っても改称されず、同じ姓を持つ住民ばかりの暮らす村がある。
つまり、わたしたち皆に馴染みのある、日本のどこにでもある「微妙」な県なのだ。
この土地に生まれ暮らす者、他県から赴任してきた者、地元テレビ出演のために訪れた者、いちどは故郷を捨てるもひっそり戻ってきた者、しばしば降臨する神(ただし、全知全能ならぬ半知半能の)。そういった様々な者たちのささやかでなんてことないが、ときに少しの神秘を帯びる営みを、土地を描くことに定評のある著者が巧みに浮かび上がらせる。
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Posted by ブクログ
架空の地方都市を舞台にした短編連作。
地方の市井の人々の生活を描いているかと思えば、ふいにファンタジー(といってもかなり地味な)が入り混じる。全てが架空なのだが、その中に確実にある人間の感情が提示される。
結婚せず真面目に働いて定年近くになった女性の感慨。
地方特有の人間関係の温かさもあれば、ホモソーシャル的関係や「町の偉人」をお祭りにしたてる自治体への冷めた目。
一話ごとに出てくるモノが架空の設定か実在するものか、解説があるのも面白かった。
Posted by ブクログ
地方に暮らすいろんな人と神のお話。
地方(田舎の方)に暮らす人の感覚とかすごくわかるなぁと。
黒蟹は、なんとなく北陸のイメージで読んでしまいました。
赤い髪の彼の話が1番好きだったかな。
割と長い時間軸で色んな人を見たので面白かったです。
あと絲山さんの文章は、途中でメモしたいワードがたくさん。おばさん、おばあさんである時間の長さとか。『賑わいの創出』と『怒られの発生』とか。ヤンキーの世襲とか。面白かったなぁ。
Posted by ブクログ
旅する感があります。
神さま…と。
章末の黒蟹辞典が面白い。
架と、実。
キリ蕎麦と、テラ蕎麦。
架の方言。
落雁と、きんつば。
所々登場の神。
お弁当コンテスト。
『なんだかわからん木』
『赤い髪の男』
が、よかった。
そして、神は⁉︎