あらすじ
〈「2000年代韓国文学における最も美しい小説」ついに邦訳 〉
「暴力あふれるこの世界で、好きでいられる(もの)なんてほんの少ししかない」
強大な力によってかけがえのない日常を奪われながらも、ひたむきに生きる2人のあたたかで切ない恋物語。
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大都会の中心に位置する築40余年の電子機器専門ビル群。
再開発による撤去の話が持ち上がり、ここで働く人たちは〈存在していないもの〉のように扱われる。
──弱き者たちに向かう巨大な暴力。
この場所を生活の基盤とするウンギョとムジェを取り巻く環境はきびしくなっていく。
しかし、そんな中でも二人はささやかな喜びで、互いをあたたかく支えあう。
2人が歩く先にはどんな希望が待っているのか……。
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僕は鎖骨のくっきり浮き上がった人が好きです。
そうなんですね。
好きです。
鎖骨がですか?
ウンギョさんのことが。
……あたし、鎖骨とかぜんぜんくっきりしてないけど。
くっきりしてなくても好きなんですから、ほんとに好きなんですよ。
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【目次】
■森
■つむじとつむじとつむじではないもの
■口を食べる口
■停電
■オムサ
■恒星とマトリョーシカ
■島
■あとがき
■ふたたび、あとがき
■訳者あとがき
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Posted by ブクログ
あっさりと日々を暮らしているように見えるウンギョと、不思議な柔らかい雰囲気を纏ったムジェさんの、そのどちらにも孤独の影は確実に忍び寄っていることを、「影法師」の存在で思い知らされた。自身について多くを語らない2人だけれど、それがかえって、それぞれが抱えているものの大きさを表していると思う。
本人さえきっと気づかないうちに絶望の深みに入り込んでしまって、自力では抜け出せなくなっているような状態のときに「影法師」が立ち上がってくるのかなと思った。
冒頭に戻ると、ウンギョを助けにきたムジェさんというたった一人の存在の有り難さが身に沁みる。予備知識なく読み始めても、ページを進めていくうちにだんだんと、何をテーマとしているのかが分かってくる。彷徨ったときに寄り添ってくれる、手を差し伸べてくれる誰かの存在が大きな救いとなったりすることを、無理なく描いている作品だった。
考えることと伝えていくこと、想像力を働かせて他者と接することが重要であり、それが少しずつでも人々の間に広がっていけば、誰もが生きやすい世の中になるのではないか。
あとがきも素晴らしかった。