あらすじ
著者は天然記念物並みに希少な全国に20人程度しかいない現役の刑務所管理栄養士。知られざる刑務所の給食事情を、笑いありホロリありのエピソードを交えて紹介する。クサくないメシづくりをめざして調理経験ゼロの受刑者たちと奮闘する日々を描く炊場ドタバタ実録。
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Posted by ブクログ
ラジオでたまたま著者がゲスト出演されてて知った。
刑務所って「あそび」が皆無の殺伐とした空間かと思ってたから、平和なほっこりエピソードが多数出てきて意外だった。
初犯の受刑者が集まる刑務署というのもあるし、さらに炊場に抜擢されるのは「エリート」だということもあるかもしれないが…
食べるの大好きなぽっちゃりさんが、食事の量を嘆きつつも適正体重にもどったり、甘いものに飢えて入所するとみんな「スイーツ男子」になり、あんこが大好きだとか…微笑ましいとすら思ってしまう。
3食全てをまかなうわけだから、栄養的にも責任重大だし、食事が少ない楽しみであり情緒の安定がかかってるという点でもプレッシャーがすごそう。それを限られた予算(1日3食500円)と時間で、安全に提供しなければならない…なんとクリエイティブでやりがいのある仕事だろうか。
あくまで軽やかに楽しんで仕事されてるの (ように文章から感じる)のがすごい。
こういう肝の据わった方だったからこそ上手くやれてるのかなとも。
どうしても年越しカップ麺を食べて欲しくて課長に力説し、美味しくたべる方法をプライベートで研究したエピソードからは、喜ぶ顔が見たいという気持ちが伝わってきた。
確かに、工夫したことにこんなにも反応がもらえるなら、もっと喜んでもらおうと、頑張っちゃうだろうな。
やっぱり「食」って大事だよなと改めて思った。黒柳さんと働いた受刑者の方々が、前向きに社会生活を送れてるといいな〜。
小林聡美さんで映画化してほしい…と妄想。大人の事情で無理なんだろうな、笑
Posted by ブクログ
刑務所で働く栄養士さん。
面白く読み進めながら、どこか、刑務所にいながら食を楽しんでいる受刑者に暗い気持ちを持っていたかも。それは、後書きの「被害者が加害者を恨むのは当然だろう」「けれども、大多数は加害者でも被害者でもない第三者ではないか」「他人の過去を非難して表舞台から引き摺り下ろす...」の箇所に刺された気分になって、初めて気付いた。ただ、第三者だからといって非難してはいけないわけでないし、被害者以外でも恨む気持ちを持ったっていい。
サラッと読める職業本が、いま1番読みたかったなあと思った。ちょうどいい本!
Posted by ブクログ
めざせ!ムショラン三ツ星
刑務所栄養士、今日も受刑者と
クサくないメシ作ります
著者:黒柳桂子
発行:2023年10月30日
朝日新聞出版
著者は管理栄養士だが、岡崎医療刑務所に勤務する法務技官。つまり、刑務所に勤める公務員。本書の内容は、刑務所内部の話ばかり。いくら管理栄養士、料理の話とはいえ、公務員の守秘義務もあり、ましてや刑務所の内部情報ということで、普通なら出版できないのだろうから、恐らく刑務所側のPR意図があって書かれたものだろう。
料理なんかしたことがない若い受刑者たち。彼らが、とても「常識」では考えられないような調理をする様子や、こわもて&刺青のいかつい外見で甘いものに飢え、「美味しかったっス」と喜ぶ姿。彼らには「○○しろ」と命令口調で言い、不用意に笑い顔を見せこともできないが、心の中での交流や、彼らが喜ぶ様子にやりがいを感じる著者の心情など、知らなかった刑務所内部のことを含め、なかなか面白い一冊だった。刑務所内で考えたレシピも、いくつか写真付きで紹介されている。
老人施設や病院勤務などを経て、2012年に競争率30倍の試験をパスし、刑務所の管理栄養士試験に合格。刑務所の食事は、給食のおばさんたちが作っていると思っていた著者は、岡崎医療刑務所に話を聞きにいってびっくり。献立を考えて、おばさんたちにではなく、受刑者たちに作らせる。勤務するのは男子刑務所で、女性の刑務所栄養士は何十年ぶりかだという。暗黙のルールは1点だけ、スカートをはかないことだという。前職の学校勤務は3月までだし、離婚して2人の子供がいるし、今更辞退もできない。
刑務所の食事(給食)は、受刑者たちが作るけれど、それは自炊ということではないようである。この本によると、工場で作る。刑務所内にある炊事工場、略して炊場にて勤務(刑務作業)する受刑者たちが作る。ここに配属されてくるのは、体力があり頭もいい〝エリート〟だという。反抗的、情緒不安定、素行が悪い、といった者は配属されない。火や刃物があるし、盗み食いや他の受刑者への嫌がらせの心配もあるかららしい。決して楽ではなく、若くて健康であることが必須条件で、作業報奨金の時給が他の工場に比べて高い。平均で月4000円、多くて1万円。毎日、風呂に入れるのも特権(しかも専用浴場あり)。ただし、残業があり、その場合はお菓子が出る(自分たちで作ったもの)。
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地域や規模によるが、通常の食事は1人1日あたり約520円の予算。副食が423円、主食が100円程度。10年ほど変わっていない。
「給食にバナナを出すのは好ましくない」と言われた。バナナの皮からタバコだ出来るため。(コンセントで火花を出して)火を着けようとするから、アルミ泊で包んだチーズなんかもだめ。セロハンに包んだものにする。
レトルトや冷凍食品もよく使うが、牛肉コロッケ(冷凍)は、名ばかりで、段ボール箱には堂々と「牛肉0.03パーセント」と書かれている。これで牛肉コロッケと名乗っていいのかとも思った。
ゆで卵の殻がむきにくくなる原因は、白身に含まれる炭酸ガスが加熱で膨張して薄皮にひっつくため。ゆでている時に炭酸ガスが抜けるよう、卵の丸っこい側にスプーンなどでヒビを入れるとよい。
年末、途絶えていた年越しそばを復活させたくて、カップ麺を出すことにした。夕食の後に居室で出す。それぞれに熱湯を注ぐわけにいかないので、通常、お湯を入れて5分待つところを2分で切り上げ、カップ焼きそばのようにいったんお湯を捨てる。全食分スープの素をお湯で溶かしてつくり、湯切りしたカップ麺が配られたあと、そこに注いでいく。それまでに余熱で麺は柔らかくなっている。配られる間に1時間ほど放置されるため。何分で湯切りをすべきか、その時間を調べるために著者は人生ではじめてカップ麺をダース買いして研究した。何個食べたことか。著者は3分だと判断したが、炊場勤務の1人が2分でいいっスよ、と言うのでそのようにした。
刑務所内で事件やトラブルを起こした受刑者は、取調室に入らないといけない。それがあると仮釈放が遅れる要素となる。仮釈放(卒業と呼ぶ)の近い1人の受刑者は、以前、取調室に入った経験があった。ちくわの磯辺揚げを作っているとき、ちくわに付ける揚げ衣を自分たちの分だけ二度付けして仕上げ、他の工場のものより5割増しくらいの大きさにした事件を起こしていた。心配したが、無事、仮釈放された。