あらすじ
少年は、空を夢見、空へ羽ばたく――空を支配するG(重力)に取り憑かれ、Fを操る航空宇宙自衛隊員・易永透。日本・タイ・バングラデシュを舞台に「護国」を問う、圧巻の直木賞受賞第一作。
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Posted by ブクログ
面白い!
三島由紀夫をモチーフに執筆されたという作品。
純文学のように内省的で、かつしっかり中身はエンタメしているところが唯一無二な作品だと思った。
主人公の易永透は『豊穣の海』に出てくる人物「安永透」のオマージュらしい。自分は『豊穣の海』未読で、三島作品とのつながりを満足に把握できていなかったと思うが、それでも佐藤究特有の危険な熱によって最後まで夢中で読まされた。
「護国」というワードを真に腹落ちせず、最終的には初期衝動のまま実に身勝手に死んでいった主人公には不思議な魅力がある。その頑固で一本気な姿勢をなんとなく三島由紀夫と重ねた。
Posted by ブクログ
戦闘機の速さに魅入られた男、易永透。最初は天才パイロットの成功小説かと思っていたが、そこは佐藤究氏。そんなもので終わるはずがない。舞台は日本、タイ、バングラデシュへと移り、不思議な物語へと誘われていく。
三島由紀夫の豊饒の海シリーズ、「暁の寺」「天人五衰」がモチーフになっている。昔、通読した際に、ちんぷんかんぷんで空気感だけは味わった記憶が蘇ってきた。
輪廻転生、ウロボロスの蛇、真言宗の経文、死と生の境界線、空の青…。
ラストがいい。
狂っている。でも透が本望を遂げて光になったその先は…。おそらく昇華し生まれ変わったに違いない。悲しみは無く、達成感に包まれるむしろ幸福を感じる読後感となった。
Posted by ブクログ
アナーキー!
佐藤究さんの作品の割には、暴力が暴力を呼ぶような描写は出てこないな……と思いましたが、やってることはどこまでも純粋なのに、本当に周囲も世界も自身の願い以外どうなってもよい、という突き抜け方は半端なかったです。
漫画とかではありそうな話ですが、それらより世界観がリアルなので、余計に戦争とか貧困とか、ピリついた国同士の事情など影の部分が見えてきて、主人公の行動がどんな結果を招くかということが、否応にも意識させられます。
だけど、本当に自由に空を駆けていくときの瑞々しく澄み切った描写、果ては撃ち落とされた時の神々しさすら感じられる描写によって、一種の爽やかさすら感じました。
Posted by ブクログ
小さな頃から飛行機に憧れて、ついには戦闘機のパイロットとなった易永透(やすながとおる)は、しかし、訓練中に超音速で呼吸困難を起こして、戦闘機パイロットから外された。透は自衛隊を辞めた。自分が乗れない戦闘機を見たくなかった。
透はタイへ行く、さらにはバングラデシュへ。
バングラデシュの貧しい孤児ショフィクルに懐かれ、やがて打ち明けられた彼の友だちのメルドンドの話に、透は衝撃を受ける。
間に挟まれた伏線が回収されるにつれ、どんどん引き込まれて行く。
賢いショフィクルらしいエピローグに救われた。
精神的な事や仏教の教えが僧侶である透の祖父を通して描かれる。
孔雀のお経が蛇から身を守るものとして授けられるのが興味深かった。
蛇とは何を表すのか、最初は悪いものとして出てくるが、聖蛇ナーガは崇める対象、最後は透自身が蛇の化身のようになる。
結果はどうであれ、夢中になれるものがある人は羨ましいと思う。
Posted by ブクログ
感想
主人公は求道者のように見える。その行く末は。作者が書きたかった三島由紀夫の世界観や仏教の世界観、音速を追い求める主人公。三島由紀夫に関する知識がないのでそこまで理解はできなかったが、ある道を追い求めての死という点では共通するのかもしれない。
あらすじ
易永透は、子供の頃から飛行機が大好きだった。高校までは旅客機のパイロットになるために勉強を頑張っていた。高校で溝口という航空機マニアに出会い、三沢基地で戦闘機を見てから、戦闘機のパイロットになりたいと願い、航空学校へ入学する。
航空学校を修了し、実機訓練でトップの成績を収め、F35乗りとなった。アメリカでの訓練で酸素不足になった経験から、透は超音速の領域で呼吸困難を起こすようになり、それが原因で空自を辞める。
空自を辞めた後は、タイ、バングラデシュと渡り、観光機のパイロットを務める。バングラデシュで出会った少年からジャングルにUFOがあると聞き、調べにいくとそれは昔、オーストラリア空軍から亡命しようとして行方不明になったF35-B機だった。仲間の助けとゲリラから資金を得て、透はもう一度音速の世界を体験する。