あらすじ
「〈いい人〉の政治家が戦争を起こすことがある」「ロシアに大国をやめろと強制することはできない」――戦争の時代に逆戻りした今、現実主義の視点から「二度の世界大戦」と「冷戦」を振り返る必要がある。世界恐慌、共産主義、大衆の台頭、文明の衝突……国際政治学者の「幻の名講演」を初の書籍化【解題・細谷雄一】。
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Posted by ブクログ
講演内容を書籍化したからか、複雑に絡む内容が理解しやすかった.「戦争の世紀」で軍事教練が”戦場で逃げない人間を作り出す訓練‘’ だと説明されていたが、大事な指摘だと感じた.「共産主義とは何だったのか」が最高に楽しめた.団塊世代の小生らは、共産主義に何かしら興味を持って過ごしてきた過去がある.80年代以降、下火になってきた理由が詳細に述べられており、納得できる明快な解説だと感じた.「繁栄の25年」で農民が狡猾さと善良さを合わせて持っているという記述、朝鮮半島からの引揚者であった母が、家を借りる時に農民にかけられた言葉をしきりに言っていたことを思い出した.「引揚者のくせに!」.1947~1972年の空前の経済成長が詳細に語られていたが、その時期に少年時代を過ごした小生は、身近に感じたことが述べられており、懐かしかった.
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戦後日本を代表する国際政治学者。冷戦終結期の1990年に行われた幻の講演の書籍化。20世紀も既に歴史の領域。その走りとも言える視点は今読んでも斬新。
1996年62歳で亡くなったのが残念。
読むと賢くなった気になれる本。
Posted by ブクログ
1990年の講演内容ですが、これからの我々の社会を考える上で重要なヒントが多く述べられていると思います。
いくつか今の気分で疑問に思う点がありましたのでメモしておきました。
1. 政治とお金と人格は分ける事を認めないと自由は成立しない。とありますが、やっぱりお金に汚いだけの無能な政治家は嫌だなと思います。今の社会ではより倫理観を求められるので、優秀なら何しても良いのか?とも思えないですし、理想を追い求めた共産主義の失敗を考えれば難しい点ですね。
2. 大学まで進む人口が三分の一も必要あるか疑問。とありますが、本書で共産主義が否定された当時でも資本主義が本当に良いのか悪いのか考えなければならないとしており、大学くらい出ないとちゃんと本を読んで考える人間にはなかなかなるのは難しいと思います。東京都の高校無料化や国の大学無料化も、少子化対策を理由にした政治家の人気取りでしかなく、考えられる人間の教育と言う点ではあまり意味がないように思えます。
Posted by ブクログ
講演録で読みやすさ◎
国際問題に関心がある高校生とかにぜひオススメしたいです!矛盾だらけの世界で泳ぐための、柔軟な思考のカタを教わる感じでした。91年頃の時事ネタも入ってますが、その辺は適度に読み飛ばしでもOKかなと。。
Posted by ブクログ
際限なく軍事技術レベルが上がり、保有火力も増していく。更に、相手が嫌がることを国家レベルで追求していくのだから戦争行為は極めてえげつないものだ。だが、それが時々美しく見えるのは、自集団の防衛に生命を捧げるヒロイズムへの本能的な憧憬か、はたまた心理的バグか、あるいは教育による刷り込みの賜物か。
そんな下劣な戦争行為を通してでも成立させたい、国家規模の暴走が歴史を作る。それこそが記述されるカイロスになり得るのだ。
本書でその振り返りを学びながら読む中で、示唆を得たのは以下。
ー 兵隊がどう戦えば軍隊は強くなるのかを考えた場合、「お国のために戦う」、「天皇さんのために戦う」といった馬鹿な理由はありません。「家族のために戦う」というのでもない。ましそうに見える兵隊も戦場に行ったらみんな怖くてすぐ逃げたいのです。それを避けるため効果的なのは、集団隊形を作ることなのです。訓練を繰り返し一糸乱れず隊列を組んで行動できるようにする。飛び交う弾丸の中を前進するためには、逃亡兵を出さないこの方法が一番なのです…簡単に言えば、戦場では、すぐ横にいる人間を裏切らないために、人間は戦う。そんな簡単な説明でいいのかと思われるかもしれませんが、人間性というのは案外そういうものだと思います。五人、一〇人という集団を、裏切りたくない。ひと組が塊のままである限り、全体の組織も強くなります。
同調圧力や規律による団体行動、同じ教室で同じ授業を受けるのは、共鳴する仲間を作り、恐怖を克服するための訓練だ。国を守るためには、多様性はマイナスになる。どこかの国が多様性を重視し、どこかの国が多様性志向を取り下げた。知性と防衛本能によるそれぞれの判断だろう。
ー 全社会が戦争遂行のため一致団結した努力を続けると、人間の頭には段々血がのぼっていくことです。いや逆に、頭に血がのぼるような目的を掲げないと、国民が総力で一つの目標に向かうということは、うまくいくはずがありません。人々が暴走する際には、「民主主義を守る」、あるいは、「ドイツの生活様式を防衛する」といった、抽象的で崇高そうにみえる戦争目標が掲げられることがこれまでの歴史でもありました
ナショナリズムは安上がりで、票集めに有効だ。スポーツの日本戦に熱くなるのと同じ。民は、だんだんと頭に血がのぼる。
ー 軍備増強にはお金が必要です。そして、それは国民から税金を徴収しなければならないのですが、なんと、レーガンは「減税をします。軍備を強化します」といったのです。この矛盾した政策がアメリカで受け入れられたのがなんとも不思議ですが、当然の帰結として、巨大な財政赤字が生まれ、アメリカは一挙に債権国から債務国に転落しました。余談ですが、政治家の良し悪しを判断するのによい基準があります。「私は税金を取ります」と言う政治家はいい政治家であって、「税金は取りません」と言う政治家はまやかしなのです。政府がなにかをやるためには、必ず税金を取らなければいけません。
この本から、「減税を謳い、ナショナリズムを煽る政治屋がまやかしであること」を改めて学ぶ。
Posted by ブクログ
国際政治学の大家である高坂正堯の講演録。今から35年も前のものだが、いまだに古びていないところに高坂氏の慧眼がある。
当時は冷戦終結時で日本ではバブル経済の最中。
多少時代を感じさせる文言もあるが、歴史の終わり、国家はなくなりグローバリズムの時代という風潮に背を向けたこの言説は今こそ読まれるべき価値がある。
陽の下に新しきなしと言われるが、この本では特にそれを感じる。
Posted by ブクログ
国際政治学者の泰斗である高坂正堯先生の連続講演録。
各章とも興味深く読むことができたが、この本を端的に要約できるほどの力が自分にはまだない。
もっと勉強しよう。
印象に残ったのは、共産主義が人間の欲望を無視した言語体系によるシステムだというくだり。
読み進めつつ出会った金言をその度ごとに抽出していけば色々と記録できるのだろうけど、面倒くさがりの自分にはやや不向きなので、単なる読後感のみを書いて筆を置くことにする。
何がどう結びつくのかは分からないが、今後もドットを打ち続けよう。
Posted by ブクログ
高坂史観の凄いところがその時代特有の雰囲気、規範を汲み上げた上で歴史のイベントを話すため、一見後世から見ると不思議に思う挙動でも因果がわかりやすいところだと思う。
特にアメリカ史の禁酒法からWW2後の米国社会のパラダイムを鮮やかに描写している。
しかし国際政治学者であっても軍事の専門家では無いためか、WW1での「戦争論」の理解が曲解しているところがあった(「戦争は別の手段をもってする政治」の解説部)
Posted by ブクログ
お盆のとき、父親から同じ本を間違えて二冊買っちゃったからと貰った本。
1990年の6回の講演を書籍化したもの。
嚙み砕いたような語り口は読み易いが、裏付けされた知識は凄い。
序盤の第一次世界大戦前のドイツのについて、大言壮語、自信過剰という言葉が出てくる。「ドイツが世界の中で名誉ある地位を占めたい」と世界に言ってしまう。公言せずに密かにやるのが賢い、とある。この指摘に東条英機の本を読んだばかりなので反応してしまう。日本は国を挙げて自信過剰で大言壮語してたんだよな。
共産主義が絶対だった時代も語られる。結局、共産主義は失敗したけど、資本主義が正しいものと証明されたされた訳ではないとする。まして、民主主義との組み合わせがうまくいくと証明されたわけでない。ホントそうだと思う。
高坂さんはバランス感覚が素晴らしい。ドイツ人の権威主義を説明しつつ、無政府主義的傾向も語る。国民性を決めつける危うさを指摘してしている。
34年前の本なので、日本経済が好調で、貿易摩擦、日本異質論が散々言われていた時代。アメリカとの構造協議なんてあった。忘れていたけど、今考えるとナンジャソリャのレベル。まして、それを日本はお節ゴモットモとしたんだから凄いな。
現在は経済の中心は中国に移り、それも既に陰りが見えてる。まさかと思ったロシアのウクライナ侵略、イスラエルのパレスチナ攻撃で世界は戦争状態になった。
日本は多少落ちぶれたけれど、マンガ、アニメが世界で評判になり、ラーメンやお回転寿司のB級グルメがブームで世界からの観光客が押し寄せている。日本人のきれい好きや規律を守ることや親切心が好感を持たれている。
高坂さんなら、今の状況をどう云われるだろう。
世界のリーダーたり得ないが、信用される国となりつつあると云われるだろうか。