あらすじ
その国では、物語を語る者が「本」と呼ばれる。一冊につき、一つの物語。ところが稀に同じ本に異同が生じた時に開かれるのが市井の人々の娯楽、「版重ね」だった。「誤植」を見つけるため正当性をぶつける本と本。互いに必死なのはなぜか。誤植と断じられた者は「焚書」、業火に焼べられ骨しか残らないからである。表題作他7編収録。最注目の作家が凶暴な想像力を解放して紡いだ、妖しく美しい悪夢の如き物語たちがここに。
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Posted by ブクログ
耽美的、幻想的な短編集。あまり怖くはない。話はどれも面白い。
表題作、「痛妃婚姻譚」「『金魚姫の物語』」「本は背骨が最初に形成る」がとくによかった。どの話も女性キャラクターが魅力的。
「本の背骨」二篇
物語を読むことの快楽についての話。騙りであろうと本当の話になりうるディストピアが舞台。内容の誤り=「誤植」をめぐる命がけの「版重ね」は法廷での弁論バトルのようであり、ポストトゥルースな現実の戯画のようでもある。十の語る(誤った)物語の方が本当の物語より魅力的に思えるのが可笑しい。
「痛妃婚姻譚」
表現をソフトにすればメルヘンになりそうな切ない恋の物語。本書でもっとも感銘を受けた。一体となった苦痛と美。痛みを他人に負わせても美しく偽装すれば誤魔化せると考える人間のエゴイズムの醜悪さ。最後の夜、愛しい男をかつての名で呼び、死の舞踏を踊るヒロインに打たれる。
「『金魚姫の物語』」
世間が何と言おうと物語に意味を与えるのは主体。復讐のために写真を撮らせる(あとで後悔するが)ヒロインとは正反対だけど、読んでいてヘンリー・ジェイムズ『鳩の翼』のミリー・シールを思い出した。病身であろうと、好きな男と会うときは女王のように装って病いを気取らせない女。愛した男には美しい姿だけを記憶していてほしかったから。
Posted by ブクログ
再読。どのお話も綺麗な世界なのに苦しいお話でした。全体を通して、作者の世界観が独特で美しく読んでいて楽しかったですが寒気もしました。初めて読んだ時は痛妃婚姻譚が一番印象に残りましたが、今回は死して屍知るものなしが記憶に強く残りました。