あらすじ
人気の「文豪怪異小品集」の最新作は生誕150年を迎える泉鏡花の第二弾。初期短篇「龍潭譚」を中心に鏡花の真価を堪能できる一冊。
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Posted by ブクログ
本年2023年は泉鏡花の生誕150年とのこと。ちくま文庫の種村季弘編『泉鏡花集成』が品切れになって久しく、『高野聖』等の代表作を除いては、文庫本で手軽に読むことが難しくなっていたが、近年、アンソロジスト東雅夫氏により鏡花の必ずしも有名でない作品まで読むことができるようになり、嬉しい限り。
本書は、生誕150年に合わせて、鏡花作品を特色づける<幻想と怪奇>の物語を、膨大な小品群の中から新たに拾い蒐めることを編纂の眼目としたとのことで、初めて読む作品が多く、大変ありがたい。
解説でも引用されているが、鏡花の魅力を伝えるには三島由紀夫の評が何よりであろう。「日本語のもっとも奔放な、もっとも高い可能性を開拓し、講談や人情話などの民衆の話法を採用しながら、海のように豊富な語彙で金石の文を成し、高度な神秘主義と象徴主義の密林へほとんど素手で分け入った」
本書には、あたかも異界のような世界で、魅力ある女に巡り会う少年を描いた「龍潭譚」を始め、隠れ里幻想や魔界の女を描いた作品などが収められている。
ついつい文章の流れや語彙の気持ち良さに紛れて、ときどき何を語っているのか意味が分からなくなってしまうこともあるが、そこがまた鏡花の魅力かと思われる。大体の作品にルビが付いているので、今となっては使われない漢字や単語でもよどみなく読むことができる。
鏡花メモリアルイアーの記念として、お勧めしたい一冊です。