あらすじ
これは正論の競争じゃない。雇用をめぐる国家間の戦いだ――。
世界中で進むエンジン車からEV(電気自動車)へのシフト。欧州はエンジン車の販売を実質的に禁止する方針を打ち出し、米国は“国産”のEVの優遇を始めた。自動車メーカーを巻き込んだEVシフトは、各国政府の陰謀か、それとも世界全体の未来か。
欧州を中心に駆け回って自動車メーカー幹部やEVユーザーを徹底取材した著者が分析する、EVシフトの本当の意味とは。そして、トヨタ自動車をはじめとする日本の自動車メーカーにどんな影響をもたらすのか。2050年の「カーボンニュートラル」実現に向けて大きく転換する巨大産業の行く末を占う。
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Posted by ブクログ
EVを巡る自動車業界、世界の構図がよく分かる良書。若干日本車寄りだが、日本人著者として当然かと思うし、トヨタに対する目線は、EVへの出遅れ感と本気出せば盛り返せるという慢心、EVの独壇場なんでまだ決まっていないという、バランス感というかファクトベース、定まらぬ業界の状態を素直に記したものと感じられる。
例えば、化石燃料で発電した電気を使って走るEVはCO2排出量の削減に寄与しない。ハイブリッドに切り替えた方が効果がある。全くの正論だ。しかし、欧州を中心とした取材ではっきりと見えた事は、世界的なEVシフトの1番の目的は、環境保護ではなく、産業育成と雇用の創出にあると言うことだ。EVシフトの背後には、既存勢力への挑戦がある。
次のようなバッテリー関連の記述もわかりやすい。BYDはリン酸鉄系リチウムイオン電池の採用を決めていた。コバルトやニッケルなどのレアメタルを使わないのが特徴で、性能はやや落ちるが、コストがやすいメリットがある。
テスラは自前で急速充電規格NACSを作り、充電ネットワークを整備した。自社のユーザのためのサービスだけではなく、23年以降その利便性に目をつけたジェネラルモーターズやフォード、ボルボや日産などの世界中の自動車メーカーがテスラ方式になだれ込んだ。テスラはこうしたメーカーのEVユーザが充電設備を利用するたびに課金収入を得られることになるEVのプラットフォームとなる可能性を秘めている。
アウディは26年以降に発売する新型車すべてをEVにすると宣言している。ポルシェは30年に新車販売の8割をEVにする目標を掲げている。
トヨタは26年までにEVの世界販売台数を年間1,500,000台に押し上げる目標を打ち出した。
EVの販売台数を増やそうとすると、収益悪化のリスクに直面すると言うジレンマは自動車メーカー共通の課題。しかし厳しい環境規制に対応するためエンジン車のコストも上がっていく。その結果として24から25年に両者の利益率が同等になるというのがフォルクスワーゲンのシナリオ。
自動車部品世界最大手のボッシュは、EVシフトで事業構造が変わるため、世界で約400,000人を対象とするリスキリングに力を入れる。そのために約1500億円を投じて、従業員のリスキリングを支援。
業界が大きく変わろうとしているが、同時に車社会も変わっていく。自動運転がスタンダードになる世界を早く見てみたいと素直に思う。
Posted by ブクログ
トヨタの売上の1/3を占めるアメリカと中国だが、EVシフトによりエンジン車の売上を確保できなくなる可能性がある。
エンジン車の販売禁止規制によって、エンジン車が売れなくなる可能性がある。
EV車は航続距離の問題があるため、充電ステーションを十分に確保できない山間部やアジア、アフリカではHV車や再生燃料車、エンジン車の需要が残る可能性がある。
EV車ビジネスは、技術的に車体製造の参入障壁が低いことから、ソフトウェア販売や電池製造で利益を確保する必要がある。発電プラグの特許、使用量など。
EV車はエンジンスペースを必要としないため、自由な座席レイアウトを可能にする。1-3-2など。空気抵抗の低減も可能。独特なデザイン。
Posted by ブクログ
EVの動向について日系だけでなくVW、ボルボみたいな海外メーカーのEV戦略についても詳細に記述されてたのが良かった。
VWアゲしてたわりに、VWがEVで勝てなくて工場閉鎖してるの見るとなんとも言えなくなったけど。
EVの駆動に必要なモーターはエンジンに比べて技術的な難易度が高くなく、メーカーによって差も出づらいから、ハードは外注して、ソフトウェアやデザインなどに経営資源を集中投下した方がこれからの時代強いのかもとボルボなどの例をみて思った。
でも情報系の学部卒業して自動車メーカー入ろうって思う人はどれくらいいるんだろう、やっぱり当分の間は大半か工学系だろう。ホンダとソニーのケースみたいにソフトは他社と提携するのが日系メーカーのメインシナリオになるのかな、と思った。
Posted by ブクログ
自動車産業の行末が自分のいる業界にも影響があるため読んだ
将来的に販売車の半分がEVに置き換わるという予測がある中トヨタは遅れをとっている。
EVへのシフトを準備しなければ将来生き残れないと強く警鐘を鳴らしている
米、中と数百万台単位でのEVを売ってるが、日本はまだまだ。価格がやはりネックか
現在の価格だとアーリーアダプター層までしか広がらない。
Posted by ブクログ
自動車産業の大転換を、日本企業、特にトヨタを応援する姿勢を崩さずに、それでいて、欧州、米国、中国とバランスよく取材してまとめた一冊。カギとなる企業CEOへのインタビューやEVユーザーの声などが掲載されていて、現場感が伝わり役に立つ。
2024年初頭で、トヨタが最強であることは確かだと思うが、ダイハツの偽装など中身が脆弱になっていないか心配である。
Posted by ブクログ
<メモ>
「VW」
・世界的なEVシフトの一番の目的は環境保護ではなく、産業育成と雇用の確保
・EPAは32年モデルの乗用車のうちEVが67%占めると見込み、約920万台相当
・25年以降の第3世代のEVは、用途に合った乗り心地や社内の機能をソフトウェアで定義する。E/Eにソフトウェアで車両の機能を定義していく体制は、これまでの開発体制を根本から壊して、ソフトウェアを中心に各部署が一体となる必要あり。車両開発の多くをサプライヤへ委託してきたため、EVに合わせたBMへの変化が難しい
・ドイツ政府とVWは一蓮托生。中国市場の好調とSUVの好調で、原資を確保し投資を積み重ねていく。この断面では既存車種からの派生EVのみ
・ツウィッカウ工場は年間30万台以上のEVを生産する能力を持つ。1つ目は多様な車種の混流生産。EVを大量生産するためにMEBを新開発。電池は別工場で組み立てられ鉄道で工場まで運ばれる。特徴として生産モデルが増えた分、取り付ける部品の種類も増え組み立て作業は複雑化。AGVの追加導入やAIを活用。結果、EVシフトによりエンジン車工場だった19年の8000人と比べ21年末には9000人に増えた
・EV用電池はザルツギッター工場で生産。25年から自社開発の電池セルを、40GWでEV50万台分に相当。リン酸鉄系も選べるようにしたことで、ニッケルやコバルトを使わないことで材料の調達コストを下げる。ウクライナ戦争以降レアメタル価格も高騰し、LFPに注目。同工場の電力はすべて再生可能エネルギーで賄う
・リサイクルのため、パワーコーという会社を新設。素材の9割以上をリサイクル。27年からEUも一定量の電池材料のリサイクルを義務付ける。電池モジュールを回収し、セルを取り出し、シュレッダーにかけて砕き、素材ごとに分別しリチウムやニッケルを回収。ここで中国の国軒高科のサポートを受ける、26%出資済み
・ドイツとスウェーデン、スペイン、カナダに電池工場を設立。カナダは27年から90GWの生産を開始。
・アウディの23年夏からの新車に、ハーマンと組み、独自のアプリストアを開設。カリアドもOSに力を入れており、24年以降に搭載見込み
・EVのコストはVWだけでなくトヨタのような量販車メーカーにとって課題。コストの4割を電池が占めるが、コストは下げ止まっており、エンジン車より高い状況は当面続く。25年までに2万ユーロ未満のEVが必要としている
・EUは30年に21年比CO2を55%削減としているが、英独仏と比べ豊かではない南欧でEVが売れないと達成は困難
・20年代後半は、各社のEVシフトにより利益率は下がる可能性がある。ユーロ7などで、1台当たり30万円のコスト増も見込まれる
・トリニティは広範車種に展開可能なEVPFであるSSPと、車載ソフトの組み合わせ。同PFは28年以降とみられる
・VWはMOIAを17年に設立。18年からハノーバー、19年からハンブルクでサービス開始。ここにトリニティEVを使う。ID Buzzを運転手を担うのが850人以上。多くの雇用を生む一方で、システムなどので利益拡大には苦戦
・24年以降のEU市場で販売するEVは、製造段階で生じたCO2を測定し、開示する必要あり。ラベリングも厳しくなり、すべての電池について識別情報や特性情報を記載したラベルを貼付する必要。英国も、ZEVマンデートを示し、24年に22%、28年に52%、30年に80%の販売を示す
・ボルボはEX90で、グーグルと提携。グーグルアシスタントの採用や、iPhoneとの連携、クアルコムの半導体とエピックゲームズの3D解析や映像化技術で、ドライバーが情報を読み取りやすい高画質の映像を車載スクリーンへ表示させる。自社開発のボルボOSで安全システムやインフォテインメント、バッテリーを集中制御
・SEAと呼ばれるEX30のPFは吉利が開発。EX30ではLFPとNMCの2種類の電池を中国で調達
・ポルシェの電動車両の主な開発者は、従来のエンジン車の開発部門出身。10年前に始めたことの成果が今出ている
・正極材、負極材、セパレーター、電解液すべてで21年では中国勢が6~8割占めた。黒鉛を使う負極材は、天然黒鉛が中国に偏在しているなどの状況
・CATLはレアメタルを使わないナトリウムイオン電池を提案中。23年から、奇瑞汽車に供給開始。現状はリチウムイオンより重量当たりエネルギー量が小さい
・欧州ではロシア産の原油調達が滞り、ガソリンや軽油の価格が上昇。リチウムや日系、コバルトの価格も上昇し、22年はEV用電池価格が前年比で上昇。容量当たり151円へ。モデルYの最廉価グレードも25%値上がりした。22年末で。
・リース大手であるオランダのリースプランは、毎年TCOを算出。EVのTCOはガソリン車やディーゼル車を下回った。
・LFPであってもリチウムを使うことに変わりはなく、23年は22年より下がる見込みだが、中長期的には高価格帯が維持。中国や南米などに偏在しているため
・国軒高科は中国のウーリンへEV電池を供給していることで有名、ビングループとも戦略提携し、電池セルをベトナムで生産予定。ドイツでも中国からセルをドイツに輸出し、ボッシュから買収したゲッティンゲン工場でパッケージ化。将来的には現地生産に移行。VWも支援
・今後の電池比率として7割がLFP、3割がNMC。エネルギー密度1キログラム当たり170whが境界線。一般的に両者の価格差は15~20%
・LFPは28年ごろには1キログラム当たり300ワット時を実現する見込み。ニッケル含有量が中程度の三元系と同程度になる。
・ノースボルトは、電池分解後、化学処理を施し資源を抽出し電池生産まで手掛ける。レッドウッドは電池材料の生産まで。できた材料をパナソニックなどに納入する
・将来的な正極などの材料を生産するまでの工程がひっ迫する。
・MOBIがバッテリーパスポートの規格案を取りまとめ
・BYDは再利用ビジネスの構築も主導し、電池の価格決定権を握る。テスラは充電ビジネスを30年に30億ドルほど。競合他社もテスラの収益拡大に貢献せざるを得ない
・ENEOSはNECから充電器4600基の運営権を取得し、30年度までに1万基の急速充電器を設置する。ジャパンリニュアーブルエナジーを2000億円で買収
・EVの普及の賭場口である現在は、専業メーカーが垂直統合で対応しているが、コスト競争が激しくなると、水平分業に戻る可能性あり。ニデック
<所感>
・肝心のトヨタに関してほぼ触れられておらず、今後彼らはどういう対応を取らないといけないか、の粒度が一般的な情報を並べているだけであり、その先が無いといった感じ
・他方、雇用の観点でのEUの具体的な状況などの紹介はあまり他本では見ない具体性があり、興味深かった
・その他、インタビューなどは24年の今見ると興味深い。もう一度、同じインタビューをしてみてほしいが、当時はここまで明確にEV普及を言い切っていたのが欧州勢かと思わされる
Posted by ブクログ
2020年から、ロンドンでEVが増えた。
欧米中でEVシフトが鮮明。
化石燃料を使った電気で走るEVより、HVのほうがCO2削減効果があるのは事実。正しいことを議論するのではなく、現実に対処する。
自動車産業の主役は、テスラ、BYD、VW、トヨタ。
EVは世界の販売台数の10%程度。
テスラとBYDは、オンラインで直接販売する。電池や半導体を外販する。
トヨタとVWは、垂直統合システム。EVのモデルを確立できていない。
VWは元国営の保守的な会社で、ディースは相いれなかった。
アウディは新型車をすべてEVにする。
ヨーロッパの2035年規制の中で、eフュエールが認められた。コストが高いので、HVの追い風にはならない。電動化が難しい航空機向け。
EVのほうが儲からない。電池のコストが高い。
2035年には、EVのほうがガソリン車より安くなる。
ノルウェーは、販売比率の8割がEV。
中国ではガソリン車用のナンバープレートが競売になり高値がついている結果、EVを買うことになる。
ボルボ、メルセデスはEV専業への宣言をしている。メルセデスは小型車を廃止、高級車市場で勝負する。
ルマン24時間はエンジン車の祭典。
フェラーリらしいEVを開発中。
ポルシェは水素エンジンも検討中。合成燃料を開発中。
電動アスクルの開発競争。ニデックなど。今後は外注するようになるという目論見がある。
セーレンはEV向けの合成皮革を作る。
ドイツの労働組合は、週休3日とリスキリングで、EVシフトによる労働力削減に対処しようとしている。