あらすじ
昭和~令和へ壮大なスケールで描く人間賛歌。
人類の歴史は百万年。だが、子どもと女性の人権の歴史は、まだ百年に満たない。
舞台は、令和と昭和の、とある出版社。コロナ蔓延の社会で、世の中も閉塞感と暗いムードの中、意に沿わない異動でやる気をなくしている明日花(28歳)。そんな折、自分の会社文林館が出版する児童向けの学年誌100年の歴史を調べるうちに、今は認知症になっている祖母が、戦中、学年誌の編集に関わっていたことを知る。
世界に例を見ない学年別学年誌百年の歴史は、子ども文化史を映す鏡でもあった。
なぜ祖母は、これまでこのことを自分に話してくれなかったのか。その秘密を紐解くうちに、明日花は、子どもの人権、文化、心と真剣に対峙し格闘する、先人たちの姿を発見してゆくことになる。
子どもの人権を真剣に考える大人たちの軌跡を縦糸に、母親と子どもの絆を横糸に、物語は様々な思いを織り込んで、この先の未来への切なる願いを映し出す。
戦争、抗争、虐待……。繰り返される悪しき循環に風穴をあけるため、今、私たちになにができるのか。
いまの時代にこそ読むべき、壮大な人間賛歌です。
感情タグBEST3
Posted by ブクログ
巻末の参考資料に作者の本気を感じた。
コロナ禍と戦時下の空気感が似ていると感じた人は数多い。
学年誌や文芸の時代よりSNSを使えば、あっと言う間に思想をコントロール出来る。
そして、書籍よりも痕跡を残さず消し去る事が容易。
まず若い男性(親の力が弱い階層)の仕事を奪い、生活のために兵役しかない状態に追い込む。
子どもが徴兵された家庭と出来ない家庭など、不公平で細かく分断する。
戦争なんて簡単に巻き込まれる。
コロナ禍の自粛警察は大政翼賛会の名残。
Posted by ブクログ
連休初日。
出掛ける予定が無くなり、運動不足になるぞ~と歩く。歩く時にはAudible。
聴きながらはまる。令和コロナ禍、その閉塞した環境の中、主人公は仕事の異動。その感覚ですら没入。そして、この本積ん読だよな~と散歩から帰り探しだし、今度は紙の本に。
読み始めたのは、昭和終戦前、辛い時期。
お祖母さん(スエさん)と後に君島織子(円)の会話。がほんと辛い。今では当たり前の事なのに。
いくらお国の一大事だからって、自分の夢を後回しにすることはないんじゃないでしょうか?
その辺りから、物語は私の想像を越えていく。
二代にわたる母娘の思いもぐっと来る。
妄想が膨らんで、久しぶりに寝食を忘れる読書をした。
女性と子供の歴史は百年に満たない。
いやまだ満たないばかりか全然追い付いていない。
映像化してくれないかな?
こんなことはもっともっといろんな世代の人に知って欲しいから。
読んだあとに、ありがとうございましたと本を閉じた
Posted by ブクログ
戦時中から令和の出版界が舞台。会社の百年史を作る過程で、全ての子どもが自分で学べるようにという理念のもと、立ち上げられた学年雑誌が、戦時中を生き延びるため、国策に迎合していく姿を知ることになる女性社員。
文中で、子どもの人権や女性の人権が認められてまだ歴史が浅いことが指摘されている。
未だに認めようとしない人もいるくらいで、まったく普通のことになっていないどころか、昨今では戻ろうとしているようにも思える。
多くの人が読むべき良書だと思う。
Posted by ブクログ
舞台は“文林館”という出版社。令和三年春 新型コロナウイルスが猛威を振るっていた。
入社五年の明日花に予期せぬ辞令が出た。「文林館創業百周年記念 学年誌創刊百年企画チーム」この“チーム”での広報活動が明日花の新しい任務だった。貧乏くじの“やらされ仕事”のように感じていた明日花だが ある時 終戦一年前の昭和十九年の入社者の中に 今は認知症を患う祖母の旧姓名を見つける。
終戦をむかえるまで 令和では明日花が昭和では若き祖母のスエが物語を進行する。コロナ禍と戦時下。どちらも背景に閉塞感が漂っている。
戦時下、国策に協力するほか出版社に存続の道はなかったであろうことは想像に難くない。しかし作った雑誌が多くの親や子どもたちを焚きつけてきたことは事実だ。 敗戦を告げられた時の文林館の社員たちの様子は読んでいて辛かった。
昭和四十二年。ここからしばらく文林館の元取締役の野山彬の若き日の編集者としての奮闘が描かれている。
この作品はいくつかの事実をヒントにしたフィクションということだが登場する作家や漫画家が丸わかりなので面白い。そしてそれを担当する野山の仕事っぷりがいい。野山はまったく興味のなかった学年誌の編集にのめり込んでいく。読んでいてこちらもワクワクした。
雑誌は時代を映す鏡だ。その雑誌を作る出版社の百年の歴史を感想にまとめるのは難しい。
ただやっぱり児童文学作家の佐野が野山に言った タイトルにも通じる言葉。「人間の歴史は百万年。対して、子どもの人権が認められるようになってきたのはわずか百年。その百年も社会情勢によっては簡単に覆るのが現状だ。未熟も未熟。近代的子ども観については、我々自身がまだ赤子であることを認めざるを得ない。」
戦争で肉親を亡くし戦後 浮浪児として生きた彼の言葉は重い。
また 女性の地位に対しても同様のことが言えるだろう。
この作品を読んで思うのは自分の頭で考えなければいけないということ。
そして考え続けなければいけないということ。
それが、 たまたま 自分の好きな本を読むことができて、間違っている事を間違っていると言える時代に生まれ育ってくることができた人間がやれることなのかもしれない。
良い本でした。
Posted by ブクログ
タイトルが秀逸
なぜこのタイトルなのか、最後にわかる。
夫婦の関係、母子の関係、会社の同僚の関係、いろいろな問題が戦争を軸に展開されている。
母親の代わりに自分を大切に育ててくれた祖母。その祖母と同じ出版社に入社した明日香。不本意な異動で仕事への意義を見出せなかったが、資料の中に祖母の名前を発見し、それから仕事の取組方が変わる。
戦時中の雑誌の中身についても詳しく取り上げられていて、とても興味深かった。
心に残った文章で
『自分の頭で考えることを放棄して、大きなうねりに身を任せてしまったほうが、楽な部分も多かったのだ。』というのがある。
これが戦争の正体なのかな?何も考えずに従うほうが責任転嫁もできるし楽だ。しかし、考えることを放棄してはいけないと改めて感じた。
いろいろ考えさせられることが多くてもう1度読み直したい。
Posted by ブクログ
これはすごい!
最初は要領の良いデキ婚した同僚に都合よく利用されている主人公にイライラしましたが、読んでいくうちに時代の流れで仕方なかった出版社の事情だったり、貧しくて教育を受けられなかった人のその後の人生、今では考えられない働き方など、3世代の人間の目を通した壮大な群像劇に、あれ?これってもしかしてあの方では?と予想しながら読んだものが当たったり外れたり、意外な所で繋がったりとワクワクしました。特におばあちゃんの話が良い。性格も良いし良き母ですね。
お話が進んでいくにつれ、出てくるとイライラしていた人物達に対する評価が自分の中で変わっていくのがわかる。1人の視点で見ると、すごく嫌な奴に見えても、別の人間の視点を通して見ると、印象が変わってくる。
仕方なく仕事をこなしていた主人公が変わる事で、周りの目も変わったり、出版社を退社した後の女性達のつながりなども良かった。
色々な世代の人に刺さりそう。
Posted by ブクログ
素晴らしい本だった
今の自分が生かされているのは、両親、祖父母、そのずっと前からの血が繋がった人だけでなく、全ての人たちの歩みのおかげ
時代は違っても、大人も子どもも、女性も1人の人である。
一人ひとりに人生があり、意思があり、生きる意味がある。
もっと祖父母の話をたくさん聞けばよかった。
もっと両親の話をたくさん聞こう。
大切な人の大切な人に、どれだけ素晴らしい人であるか、伝えていこう。
未来の人たちへ、希望を持たせ続けること、企業の価値はそこにあると感じた
Posted by ブクログ
令和3年春から始まる。
そして昭和19年へと、場面が交互に入れ変わりながら進んで行く。
令和3年は、新型コロナの感染拡大真っ最中だった
主人公明日花は大手出版社、文林館入社5年目。
学年誌で有名な文林館の今と、昭和19年頃、戦争まっただ中の学年誌出版の様子。
同時に、明日花と母待子、祖母スエ。
女三代の葛藤、そして絆。
児童文学の作家 佐野三津彦曰く、
一般的には戦後は8月15日から始まる、と言われているが、両親と姉を一度に奪われた3月10日(東京大空襲)こそが、自分にとっての敗戦だ。
両親を奪われたら、その後の戦況がどうなろうと、子供にとっては完敗だ。
p269
戦後「鐘の鳴る丘」ってラジオドラマが流行ったみたいだが、当時地下道を這いずり回っていた本物の
浮浪児だった俺は、そんなもの一度も聞いた事がない。
でもたまたま金が入った時、映画版を見た事があって、見終わったとき恥ずかしいほど涙がでた…
感動したのではない。
自分自身とあまりにかけ離れすぎて、情けなくて涙が出た。「緑の丘の赤い屋根」の下に住めない俺は二重に捨てられた。
p357
天衣無縫に振る舞っていた子どもたちが、いつしか自由闊達さを失ってしまうのはなぜか。
それは大人たちが属する社会情勢に合わせて子どもを鋳型に嵌めていくような教育が、いまだに幅を聞かせているせいだろう。
女性の場合も同じで、戦後にようやく選挙権を与えられた女性の歴史は、まだ百年もたっていない。
近代的子供観と同様、近代的女性観もまた、
赤子同然だ。
だから、考え続ける、格闘し続ける、この先もずっと。私たちは、皆百年の子だ。
読後、とても素直に感動した。
この本と、同時発売されたという
「鐘を鳴らす子供たち」も読もうと思う。
Posted by ブクログ
古内一絵さん著「百年の子」
著者の作品は今作品が初読み。
読み応え抜群の作品、とても素晴らしい作品だった。
まず、もうすぐ50歳となる自分には「小学○年生」という学年別学年誌には思い出がある。書店で母親に買ってもらった記憶も思い出され、付録で母親と一緒に遊んだ記憶、母親との忘れていた懐かしい記憶が温もりとなって押し寄せてきた。
終始その母の温もりの様な温かさで包まれた自分の幼少期の記憶を想起させられ不思議な感覚での読書になった。
今まで様々な作品を読んできたがこういう感情を揺さぶられる作品は読んできてなかったのでは?そう思うとそれだけでも充分すぎる作品だった。
そして当然それだけでは収まらず物語もとてもよかった。作品内では名前を変えてあるが間違いなくこれは小学館の物語。
小学館の歴史、学年別学年誌に対しての情熱、会社の社風と理念等が随所で読み取れた。それらは当時幼くして読んでいた自分には知るよしもなく、40年以上経って知ったその事実に深い感銘を受ける結果となった。
小学館、素晴らしい。そしてありがとうと素直に感じられる。
母娘三代にわたる物語もまた秀逸。小学館百周年、子供と女性の人権の歴史はまだ100年、そしてこの母娘三代の100年とトリプルミーニングとしてタイトル「百年の子」とは。素晴らしい。
祖母スエの譚は本当に素晴らしく、戦争という大きな渦の中、生死、差別、希望、生きる証、情熱、そして愛が繊細に描かれている。スエの事を戦前生まれの今は亡き自分の祖母の事の様に感じさせられてしまった。
当時の人々は少ない娯楽の中でも共に笑い合い、未来が少しでも明るくなる様にと努めてくれていたのだろうと想像すると胸が熱くなってくる。
待子や明日花が感じ取ったスエの真の姿に重ねる様に、自分も何故か祖母や母の事ばかり感じさせられた。
懐かしさを体現するような読書だった。
Posted by ブクログ
自分の母、祖母が生きていた時代はこんなにも今と違っていたのかと、当たり前のことを久々に考えた。諦念が時代を作ってしまうということに少し慄いてる。
Posted by ブクログ
久しぶりの大泣き(笑)
出版社勤務の明日花
ファッション誌から思わぬ部署に異動
よくある話だが
それをきっかけに戦争との関わりを感じ始める。
予想できうるストーリーなんだけど
展開に涙が止まらない。
Posted by ブクログ
オーディブルで聴きました。
戦争の悲惨さを様々な人が様々な媒体で伝えているが、どこか他人事な感がぬぐえなかった。この本は刺さった。
日本が戦争に勝つとは思わなくても、負けるはずはない、と自分たちの本心には気が付かないふりをして、神風がいつか吹くと思わなければ、心の持ちようがなかったであろう人たちの気持ちがかなり身近に感じられた。
当時の作家たちのエピソードについても、かなりの取材時間を要したことと思う。素晴らしい。
とにかく、年下や女性に対して、お前と呼ぶのが当たり前の時代じゃなくなって、本当に良かった。100年の子だから⋯とは言え、200年経てば、もっと良い世界になるのだろうか。。は疑問。
あと、まちこやさとこがいくら陰で辛い思いをしていたとしても、他人にそのストレスをぶつけるのは、じゃあしょうがないね。。とは思わない。いつか自分に戻って来るんだよ。
Posted by ブクログ
戦争が起きていた時子どもや女性また雑誌などのメディアにどのような影響があったのかを知った
途中空襲から逃げるシーンがあり戦争の悲惨さを
改めて感じ、戦争なんて誰も幸せにならないと感じた
とても良い本でした
Posted by ブクログ
「朝ドラみたい」とレビューで見かけ、それは読んでみたい‼︎と思い手に取りました。読み終え、本当に朝ドラみたいでした。じんわりと心に響いてくるお話でした。
出版社の文林館で働く、令和の明日花、昭和40年代の野山、昭和20年前後の明日花の祖母のスエの三人の視点で話が進みます。それぞれの時代を生きた三人の話を読むと、戦時下の出版社の苦労、表現の自由、戦争とは何か?など考えさせられることばかりでした。
特にスエの話は悲しかった。スエたちがラジオで敗戦を知った時、みんなで大泣きした場面は苦しかった。日本はもう負けると分かってても、現実から目を逸らし日本は勝つと言い続けた。そうしないとみんな心が折れてしまうから。それが当たり前の日常というのは、私は耐えられないだろう。
昭和40年代の野山の話は面白いなと思った。たぶんあの有名な漫画家だと思うのだけど、少し字を変えて登場した。大人の事情でそうなったんだと思うけど、もうそのまま名前出してしまえばいいのに。編集者たちが奔走して学年誌『学びの一年生』を作るのを読むのは楽しかった。でも、ここでも戦争の影響が…。戦争を風化させてはいけない、伝えていかないといけないという想いがとても伝わってきました。
そして、令和の明日花。先輩たちの思いをどう受け止めるのか?
Posted by ブクログ
読んでよかった。
AIでなんでもできちゃう時代だけど、想いがこもった創作は人にしかできないし、少子化で子供向けコンテンツは減っていってしまってるけど、子供向けこそ文化だったり人の豊かさみたいなものの重要な源なのかも、と思った。商業臭が強いものももちろんあるけど、eテレとか図鑑とか子供向けの本とか、どれも作り手の愛が詰まっていると言うことに、大人になって親になってはじめてわかったけど、そういうものが軽視されたり、利用されたりする時代に戻らないように、諦めないで考える、そんな大人でありたいなと思った。ちょっと男の人が悪く書かれがちだなとは思った笑
Posted by ブクログ
朝ドラ「あんぱん」で描かれた戦中戦後の暮らしがすごく心に残っており、昭和Ⅰ、昭和IIのスエさんパートは物語に入り込むように読みました。
また、令和3年初夏の最後、「覚えてる…全部…」のセリフで胸が熱くなり、良い本に出会えた!と思ったのですが…
その後の話が説明じみていて、野山さんがもっと魅力的に描かれていたらな…と少し残念でした。
前半が良すぎて素晴らしい展開を期待しすぎて肩透かしにあった感じです。
そのうち映像化されそうな内容なので、そちらの脚本に期待です。
Posted by ブクログ
めちゃくちゃ読みやすかった。
史実も混ぜてあり、本はこのようにして紡がれてきたのであると、勉強になった。
(どこまで史実なのかは勉強しないといけない。)
徐々に繋がりが明らかになって進んでいくので、最後まで読んでいて楽しい展開だった。
タイトルの意が、子どもの歴史が百年そこそこであるというのは思いつきもしなかった。あわせて女性も。
振り返るとスエは(致し方ない事情もあるが)自分で考えて、自分の気持ちに正直に行動した子どもだった。
本書内でも触れられているが、子どもを尊重することの難しさがあると思う。
今度東京に行った際には神田の古本屋に訪ねようと思う。
ーーー
自分の頭で考えることを放棄して、
大きなうねりに身を任せてしまったほうが、楽な部分も多かったのだ。
逆らえない個人を取り込んで、うねりはますます大きく強くなっていったのだろう。
でも、これからはきっと違う。
ようやく戦争が終わった今、軍部の介入も言論統制もなくなり、本や雑誌もまた、色とりどりの美しい花々を咲かせていくに違いない。
負けずに、自分も人の心を癒す花を育てたい。
Posted by ブクログ
★3.5
人は誰かの“続き”として生きている。
百年のあいだ、ある学年誌が見つめてきた、三世代の女たちの物語。
「百年の時を超えて、受け継がれるもの。」
物語は、あるひとつの学年誌を軸に、祖母、母、娘の時間をゆっくり繋いでいく。
昭和、平成、令和――それぞれの時代の空気が、台詞の端や仕草にやわらかく宿っていて、その生き様に寄り添えるように、静かに耳を澄ましていた。
物語の構成は少し入り組んでいるが、その“混線”すらも、家族というものの曖昧さを映しているようだった。
特別に何かが起こるわけではない。
けれど、登場人物たちの人生の“湿り気”が、ふとした描写のなかに染みていて、読んでいて息が詰まる瞬間もあった。
それがきっと、著者の描きたかった「人間の時間の重なり」なのだと思う。
派手さはないけれど、強い。
一瞬で消える感動ではなく、静かに残る“体温”のようなものが、この物語にはあった。
「語り継ぐ」ことの尊さを、そっと手渡されたような一冊だった。
Posted by ブクログ
まだまだ社会的に弱い立場である女性や子供に焦点を当て、戦争というものの過酷さや理不尽さ、学年誌作りに情熱を傾ける人達の歴史について詳細に書かれている。
前半、明日香のパートは少し退屈に感じたかが、
祖母スエや野山さんのパートはおもしろくてどんどん進んだ。
Posted by ブクログ
小学館の創立百周年を記念して書かれた作品。
同社をモデルとした文林館を舞台に、学年誌の出版から始まった同社に相応しく、学年誌の盛衰を縦糸、同社に縁のある親子3代の女性たちの心情を横糸に物語が紡がれる。
戦時下、国威発揚に協力せざるを得なかった黒歴史も忌憚なく描かれ、それに対する反省は本書を通じての1つの大きなテーマとなっている。
実在の編集者をモデルとした人物が主役となる昭和40年代のエピソードは、作者が実際にその人物から聞いて印象に残ったものらしい。
実在の人物(をモデルにした人物)は他にも多く登場し、名前などから容易にそれとわかるように書かれている。
もう1つのテーマである働く女性、家庭を守る女性、子供を持つ女性、持たない女性、それぞれが抱える悩みやお互いに抱く感情は、いわゆる女性の社会進出が始まったここ数十年に特有のものではなく、はるか昔から人間社会にあるものではないか。
本書にもあるように、人間関係において女性は男性よりもはるかに強かと思える。
親子3代の和解と再生は本書の最後のテーマだが、同時に学年誌関連のエピソードを繋ぎとめ、本書を物語として成立させる役割も担っている。
Posted by ブクログ
よかった。
実際の学年誌がどのような歴史だったのか、まったくの史実どおりではなくとも、
戦中、戦後に子どもの本を作り続けた人がいたことに思いを馳せながら読んだ。
また祖母と仕事でつながるというのもよかった。朝ドラっぽくもありながら、派手な展開はないものの、漫画や雑誌も含め紙の本の存在価値を再確認。
Posted by ブクログ
現代と戦時中の話が交互に描かれ、
どんどん話に引き込まれました。
途中、空襲時の様子が描かれていて、
読みながら恐怖を感じました。
本当に大変な時代だったんだな…と思うと同時に
現代に生まれ戦争を知らない身としては、
今の時代にありがたさを感じました。
物語は現代と戦時中だけど、ずっと繋がっていて
私にとっては面白かったです。
読み終えた時は少しジーンとくるものも
ありましたが、清々しさもある内容でした。
Posted by ブクログ
令和の時代、文林館で働く明日花はファッション誌から「文林館創業百周年記念 学年誌創刊百年企画チーム」の広報担当への異動にやる気をなくす。その中、100年の歴史を知っていくなかで、祖母スエが戦時中、学年誌の編集に関わっていたことを知る。ここから、令和の明日花と昭和のスエの物語が交互に紡がれていく。そして、二人の物語が繋がっていくことになるラストに涙した。
タイトルにある「百年」は、スエから明日花へ続く100年であり、文中に何度か出てくる「人類の歴史は百万年。されど、子どもの歴史はたった百年」の100年なのだろう。
「子どもの歴史はたった百年」。百年、その意味は、子どもの人権が認められるようになってきたのは、わずか百年、ということ。「私たちは子ども観についてはまだまだ未熟。なのに、おとな達がその時に拠っている社会情勢や権力に合わせて子どもを鋳型に当てはめるように育てれば、子どもはそもそも備わっている能力や個性を十分に発揮することができない」との言葉が出てくる。
あの戦時中、子どもが子ども時代を楽しめることなく、銃後へとかりだされた。能力や個性を発揮するどころか、これからの人生があったのに、戦場へと否応なくかり出され、命を奪われた若者達がどれほどいたことか。
そんな過ちをくり返さず進んで行きたい。
そんな思いも感じた一冊。読んで良かった。
Posted by ブクログ
2時間ドラマ的な映像化を意識した本の臭いがして、相変わらずの素晴らしい描写力だけと、強制的に下手な演出の芝居の映像が浮かんできて自分の想像力が掻き立てられない。コロナと太平洋戦争という、閉塞の事態を掛け合わせた本。ノンフィクションっぽいフィクション。
Posted by ブクログ
”後悔のないようにするのが1番です”
当時の女性が語る言葉はどこか重みが違うように感じる
女性や子どもの生き方、働き方、学び方が急激に変化する時代の中で考えさせられた一冊
Posted by ブクログ
物資の少ない戦時中に児童向けの学年誌が発行されていたことが驚き。発行したところで購入できた人がどれくらいいたんだろう。
小学館が軍事主義を煽る内容を載せていたことで、子どもたちを洗脳してしまったことは事実だろうけど、国策に協力せざるを得ない時代では仕方がない。
だけど戦後もそのことに苦しみ続けた人がいたんだなぁと重たい気持ちになった。
雑誌だけでなく、新聞、ポスターなどに携わった大勢の人たちが同じだろう。
物語には、実在した作家(林芙美子さん)、編集長(野山彬さん)が登場したり、手塚治虫の自宅に原稿を取りに行く話や、ドラえもん誕生時の小話などが出てきておもしろい。
Posted by ブクログ
出版社で働く明日花は
創業百周年の記念事業部署に転属される。
文林館は学習雑誌に端を発した会社だった。
最初はやる気のなかった明日花だが
過去を調べるうちに戦時中
祖母スエが勤務していたことを知り…。
いっそ記念企画として実名で書いても
良かったんじゃないかと思うくらい
小学館の成り立ちがよくわかりました!
登場人物には架空の人もいますが
現代の明日花、過去のスエ
抱える問題は違えど
どちらも仕事に向き合おうとしている。
戦時中パート、スエと年の近い円の
文学少女同士らしいシスターフッドな関係が
その後の文林館にとって大切な鍵に。
『彼方の友へ』や『らんたん』に通じる
私好みの物語でした。