あらすじ
第66回 群像新人文学賞受賞作!
この部屋の住人は、みんないなくなる? 都市の片隅にあるマンションの一室、408号室に入れ替わる住人たち――。奇想天外な物語が、日常にひそむ不安と恐怖を映し出す。
同じ部屋で前の時間が見えないまま孤独と恐怖を積み重ねていく構成で細部まで考えられていた。
理不尽さと暴力的な状況がスリリングで、多様な恐怖を描ける人だと思った。――柴崎友香
一連の奇想天外な考察は、インスタレーションと呼ばれる空間芸術の手法とも似ていて、
日常性からの逸脱を効果的に演出するにはうってつけだ。
――島田雅彦
ある〈部屋〉のみを舞台にすることで、作品の〈空間〉は限定されている。
が、前の住人、その前の……と過去を連鎖的に想像可能で、今後の住人という未来も延々の想像が可で、その意味で〈時間〉が限定されない。そこに越境のポテンシャルが満ちている。――古川日出男
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Posted by ブクログ
面白かった。特に1話目。最後の最後に隣人が蜘蛛女?だった事のホラー感と衝撃。文面を5度見した。これは、主人公が自ら外の世界との関わりを断ちだんだんカビが生えてしまったという隠喩にも感じるが、そもそもハエトリグモを故意に飢え死にさせていた事への罰が蜘蛛女の襲来なのかもしれない。でももっと遡るとこんな風になったのは、コロナ禍で出勤が減ってこの陰鬱な部屋に引っ越して来たから。人と会う事が減って身なりを気にしなくなって、どんどん社会性が失われていったから。そんな生活で何かしら溜まったストレスの捌け口が恐らく虫への加害のきっかけになったから。人に会わなすぎて判断力が鈍っていなければ管理会社はダメでも119番でレスキューして貰えば良かった。会社の人からの電話に出るだけでも良かった。でも彼女はそのどちらもせず、離れた家族には気を遣い、気軽に連絡出来る友もなく、色々な要因が合わさって破滅を迎えた。蜘蛛達にやってきたように、彼女はマンションと建物の間に落ちて終わった。
2話目、3話目も外の世界との関わりのせいで破滅する話だ。不気味で、生の感覚がなく、ずっと陰鬱な雰囲気。それが一つの部屋に押し込められた個人そのものでもあるようだ。「事故物件」「変な家」など、不動産ものとしてタイムリーなテーマでありながら住人達は皆いなくなってしまうから事故物件にはならないという皮肉さも良い。ずっと繰り返されていた向かいのビルの屋上で昼寝するデブ猫が最後に侵入してくるのも繋がる気持ちよさがあった。
文鳥はとても可哀想であったが、他者に与えられるもの・奪われることの理不尽さを感じ、よく効いていたと思う。3話目の主人公と文鳥の中身が入れ替わったのか、単に気がおかしくなってしまったのか。前者だったらちょっと救いがあるかなと思っているし、人間も文鳥も体の操縦に突然不慣れになっているので可能性は高い。文鳥とは〜っていちいち解説してるのは4章で出てくる作家個人だから、真実とは限らない。「自分が描いた絵に吸い込まれる部屋」だから、まぁあり得る。
最終話の画家の話は、なるほどねと思ったけどちょっと蛇足だったかも。彼?が部屋の外の話も知っているのは変だ、となる。それなら1〜3話のみで謎の第三者目線のまま終わっても別に構わなかった気がする。
引き込まれる文体で良いホラーを書けそうな作家さんなので、また他の作品も読んでみたいなと思った。読書体験としては良いものになった。
Posted by ブクログ
とある都市のマンション。四〇八号室に住む住人はどういう訳か姿を消してしまう。淡々と代々住民の様子が語られていくけれど、どこかにいる誰かの日常のようで妙にリアル。その当たり前のような日常が些細なことで侵食され、そしてあっけなく崩れていく恐怖を物語っていきます。
幽霊が出るわけではないけどなんか嫌。怖い。
これは立派な事故物件です。
郵便受けに前の住人の郵便物がぱんぱんに詰まっていたり、窓を開けると前が廃墟で殺伐してるので開けたくない。管理事務所となかなか連絡が取れないような部屋には住まないほうがいいかもしれませんね。
┈┈少しネタバレ┈┈
『初音』に出てきたお隣の四〇九号室の人はス〇イダーウーマン?ドアが開かないのは蜘蛛の糸でコーティング?いや、MARVELみたいなカッコイイものではないですね。怖っ…
それと、生き物や動物の虐待は良くないです!罰があたりますよ。
Posted by ブクログ
群像受賞作と知り手に取った。
オムニバス形式、住人がいなくなる部屋というテーマも面白そうに感じた。
早速ネタバレで申し訳ないのだが、先の3話は最後の部屋君の考察ということで理解は合っているだろうか。
それを前提に。
膝を打つほど明確なオチ記載ではないが(自分の理解力の問題かも)、タイトル、また語りの人称の違いなど、伏線回収がきれいと感じた。
一話一話が不気味で、空気がゆらゆら揺れているような、そんな不安定さを感じる。個人的にホラーは得意ではないが、まだ楽しめるレベルのホラー加減で良かった。
各話で比較すると、一話目と四話目を特に面白く読んだ。文章も、アイデアも。
新人賞だからデビュー作なわけだが、文章は慣れている印象。やはり読みやすく長さも短いため、時間かけずにサラッと読める。
Posted by ブクログ
治安の悪い場所物件のマンションの408号室の住人は次から次へといなくなる。蜘蛛を瓶に入れベランダに放置する女、ナンパする男末吉、インコを預かった女、壁の中の絵に同化してしまった女、みんなどこかへ姿を消す。ポストに溢れ出る前住者の手紙チラシ類やいるのかいないのか怪しげな管理会社。ジワジワ怖い。