【感想・ネタバレ】女ことばってなんなのかしら? 「性別の美学」の日本語のレビュー

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Posted by ブクログ 2023年10月01日

平野卿子さんは翻訳家。ドイツ語・英語に長けている方です。

日本語にするとき、どんな表現にするかで試行錯誤している。
ドイツ語の名前は日本人には性別が分かりにくい。
例えば、クルトとかイルムガルトなんてなじみがない。
だから、クルト(男)には「腹が減った」、
イルムガルト(女)には「お腹が空いたわ」...続きを読むとしゃべらせたりする。

「実際にはあまり使われていないのに、メディアや翻訳小説、映画の字幕や吹き替えに頻繁に登場する女ことばに違和感がある」
という意見を最近聞くことが増えている。
「女ことば」や「男ことば」は、翻訳する時には女性と男性の"役割語"として登場しやすくなるようだ。

「女ことば」や「男ことば」は書きことばにはなく、どちらも話しことば。

日本では、お行儀のよい娘は口にしない言葉が「男ことば」として区別されるようになった。
世界でもあまり例のない「女ことば」を生んだ背景には男女格差の文化があり、
日本には民主主義国の中で断トツのジェンダー格差があることと密接な関係がある。

女ことばは、古くから伝えられてきた日本の伝統だと思っている人が多いが、
「だわ」や「のよ」の言葉づかいの起源は明治時代の女学生の流行りことばだったりする。
丁寧で控え目で上品な言葉が選ばれ、不満や怒りに繋がる乱暴な言葉は排除されたらしい。

最近は若い世代は性差の無い「中立語」を普段から使うようになってきていて、
著者も一人でテレビを見ている時などは、「文句言ってねーでお前がやれよ!」「こいつ、るっせえ」とか悪態をつく言葉を発するようです。
口に出すとストレス発散できるみたいですね。

「女ことば」のもう一つの制約は、命令ができないこと。
「やめて(ください)!」とお願いはできても「やめろ(よ)!」と命令できない。

英語の一人称の "I" は性別とは無縁だが、日本語は違う。
特に女性が使えるのは基本的に "私" 一つだけ、それも女性専用ではない。
女は自己主張するなという風潮が言葉にも表れている。

漢字には男編がなく人偏が使われるのは、人間=男だからと言われるが、西洋でも man が人間も表していた。
今は sportsman は athlete や player に変ってきている。
ドイツ語には女性名詞や男性名詞があるので、言語の性差別が問題になり随分変わってきているようだ。


日本語には性差別を含む言葉は沢山あり、今は使わないように注意しつつも、意識の中に根強く残っている。

男の中の男、男を上げる、男が惚れる 「男」=「立派な人間」
女々しい、女だてらに、女の腐ったよう「女」=「低俗な人間」

「うちの人」は妻が夫を指して言うときの言葉。つまり「人」=「男」。
「女」が「人」として扱われるのは「美人」や「夫人」と、容姿が美しかったり結婚した時くらい。

「男勝り」は「男に負けないほどしっかりしている」女性のことで、男の方がしっかりしているという前提からできた言葉。
「姉御肌」は男とは比べていなくて、面倒見のいい頼れる姉さんという感じ。
男は、自分との比較対象にならない「姉御肌」の方を好む。

日本の小説では、男性は姓で、女性は名で記すことが多い。
これが逆だと奇妙な印象を受ける。
そのわけは家制度にあり、男子が生家の姓を名乗り続け、女子は他家へ嫁ぐものとされていたからのようだ。

「女らしさ」と「男らしさ」は、どちらの性別であっても縛りのある言葉。
違いは、「女らしさ」は過剰な時に、「男らしさ」は足りない時に批判される。

「女ことば」とは別に「オネエことば」がある。
「オネエことば」は、「毒舌」をやわらかく感じさせるのに役立っている。
命令したり、でしゃばったりしないように作られた「女ことば」の範疇に入るからだろう。
マツコ・デラックスは、自分の立場を冷静に分析もしていて、
「自分はキワモノであり、社会の端っこにいる、世の中の人と対等でない存在」
「アタシが何を言ったってどうせあのオカマが、と思うだけだから好きな事が言える」
と発言している。
この先「女ことば」がすたれても、「オネエことば」は生き延びるのではないかという気がする。

「女ことば」は使いたければ使い、使わなくてもいい時代になってきたことは喜ばしい。
「女子力が高い」なんて言う男は軽蔑される世の中に変ってきてると感じる。

と思いつつ、無意識のうちに男尊女卑の言葉を使っていないか心配になってきた。

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Posted by ブクログ 2023年08月21日

快調に楽しめたが、読めば読むほど日本語に自然に内蔵されているミソジニーに腹立ち呆れ、しかし第一言語として日本語がインストールされている身としては罵倒語を言うべき時に言える瞬発力をトレーニングすることと、あまりにも差別的な用語にNO(御主人とか奥様、とかね)と言い続けるしかないな…

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Posted by ブクログ 2023年08月05日

女性には、まったく悪態をつかない人がたまにいて、ああいう人はどうやって気持ちを発散しているのだろうと常々思っていた。言葉の汚い女性は嗜められるが、「うるせえんだよ」という言葉でしか表現できない感情がある。この本によると、「人を動かしたいとき、女ことばではお願いしかできません」とある。そうだよ。そうな...続きを読むんだよ。他にも、人称の問題など、性と言葉について考えるきっかけになった。

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Posted by ブクログ 2023年07月28日

女は女らしい言葉遣いを、という教えが体の芯まで染み付いている者にとって、目から鱗のことばかり。
確かに少女と少年は非対称で、少年は少男じゃない理由がわからない。
悪態をつくと人は苦境への耐性がアップするらしいので、時折強い言葉で悪態をつく自分を肯定したいと思った。

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Posted by ブクログ 2024年04月24日

示唆に富んだ内容で新たに気づかされる事柄も多く大変勉強になりました。翻訳家の視点から語られる海外との比較も興味深かったです。一人でも多くの人に読んでほしいと思います。

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Posted by ブクログ 2024年03月17日

 ドイツ語翻訳者の著者が、翻訳するときに悩む日本語の性差について、西洋語と比較して、それまで気づかなかった日本語の特性について興味深く綴ります。日本語の曖昧な表現は、時として女性語が用いられ、またコンフリクトを避ける表現としても活用される言い回しが、外国人には難しく伝わります。開国から明治維新を通じ...続きを読むて、本来差別的に扱われてきた女性語が、文明開化の時を経て、女性語として「女らしさ」の表現へと変わっていく様を、話し言葉や文学表現の中で、検証していきます。家父長制、男尊女卑、女性蔑視の意味合いで、「女」のつく漢字が作られます。嫉妬、「少年」と少女の対比での「少男」ではない矛盾、姦通罪、努力、怒りなども同類と思われます。

 終わりにで、ジェンダーギャップ指数が先進国で最下位の日本で、「この国のジェンダー格差がなくならないのは、既得権益を手放さないホモソーシャルな男社会にその最大の原因があるのはいうまでもありません」と断言する著者の切実な思いが伝わり、ジェンダー格差の解消が重要だと示唆します。

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Posted by ブクログ 2023年12月15日

これは胸がすく思いで読んだ。違和感が解かれていく。

「女も人だったの?」

ずっと言葉尻に引っかかりを感じていたものの正体見たり。

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Posted by ブクログ 2023年12月15日

丸ごと一冊あちらこちらで、「言われてみれば、これもそうだ!。あれもそうだな!」の連続。私の場合、亡き母が“良家の子女”だったせいか、子どもの頃に乱暴な語尾を注意され続けたので、今でも話すときには「女ことば」を使いがち。これまでスルーしてきた言葉でもいろんな発見があって本当におもしろかった。
ポリタス...続きを読む 瀧波ユカリさん推薦本

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ネタバレ

Posted by ブクログ 2023年12月10日

著者が思春期のときに感じていたという“男の子に憧れる”気持ちと、しかし大人になってよく考えてみたら“女の子に対する抑圧に抗っていただけで、男の子になりたかったわけじゃなかった”という気付きに、ものすごく共感。
性別違和に悩む女の子がいたら、まずは一旦落ち着いてこの本を読んでみるといいよ。

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ネタバレ

Posted by ブクログ 2023年09月11日

めちゃくちゃ面白くてすぐ読み切っちゃった!!「女ことば」を通して、日本語をジェンダー格差の視点から見つめ直す本!

日本の女ことばの歴史、その歴史とともに生まれた女性差別、日本と西洋の女性蔑視、女へんはあるのに男へんはない漢字(僕・俺のへんはまさかの「人」。人=男?驚愕)、「女らしい」「男らしい」、...続きを読む一人称や三人称、かわいいは最強...?などなど、いろんなトピックを通してことばから透けて見える男性優位文化に愕然....。それと同時に日本のことばと男女差別の密接な関係性にまずは気付くことが大切だと思った。

納得しすぎた言葉
《男を表現するときには背後に「性を超えた人間性」があるのに対して、女の場合は 「性」から逃れられない。》
↑まじでコレすぎて泣いた。"男"が使われる慣用句は「男=立派な人間」のイメージのものばかりだけど(男が廃る、男が立つ、男の中の男 etc)、女々しい、女にしておくには惜しい等逆はろくなものがない...「俺を男にしてくれ」は鍛え上げてもらうみたいな広い意味があるけど、「わたしを女にしてください」は違う意味....。「女」の褒め言葉はいつもホモソーシャルな男たちにとっての「いい女」なのでだるい。
《世間で「女らしさ」「男らしさ」とされていることの多くは、性別ではなく、社会的な立ち位置、つまり「支配・従属」関係によって決まる。=女と男の視点で考えるのではなく日本特有のタテ社会の論理や上下構造に落とし込んで眺めると、見えてくることが多い。》
↑「女の敵は女」という言葉があるけど(もちろん逆はない)、女だからではなく、弱い立場に置かれた人間に共通の防衛手段だったんだと気づいた筆者はすごい。日本では一人称がバイナリーなために物心がつかない頃から自分の性を意識せざるをえず、年齢や社会的地位よりも性別が絶対的決定的な基準になりえる...
女が嫉妬深いといわれる理由のひとつも、男女関係が対等でなく、男はそもそも嫉妬する状況におかれにくいからだよね。

なくすべきは装飾としての意味しかない女ことばではなく、過剰な配慮をした女らしい言い回し!私もやたらと遠回りした言い方とかしちゃう時あるなあと心当たりがありすぎた。しかもそういう時って圧倒的に社会的な上下関係がある時。男性みたいに話さんといかんわけではないけど、必要以上に曖昧すぎる言い回しには気をつけよ。

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Posted by ブクログ 2023年08月29日

わたし、僕、俺、ワシ、ワイ、確かに男性をしめす人称がたくさんあるのに、女性の場合は私だけ。かなり独特の文化なのは昔から心得てはいたけど、少女と書くのになぜ少年?など、あらためて示されると、おぉ!と目から鱗の指摘の数々。
個人的には女ことばとは、と示された6つの例に一つも該当しなかった自分は、ある意味...続きを読む見えない壁を打ち破って生きてこれたのかも、とふと感慨に耽ってしまうのでありました。
非常に面白い論考の連続、いろんな年代の人に読んでもらいたい、語り合いたい一冊だと思います。

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Posted by ブクログ 2024年03月31日

大きく時代が変わる時、権力者は前の時代を否定します。煌びやかな西洋文明が余程眩しく憧れだったのか、明治政府は徳川時代を全否定し、国民も忘れ去りました。

家族団欒から性観念まで、現在日本古来と思っているものの殆どが、実は明治時代に人為的に作られたものです。そして女ことばもその1つというのを本書で知り...続きを読むました。

今では聞いて違和感を覚える女ことば、しかし、翻訳本などを含め意外にまだまだ目にしたり聴いたりする機会は多いです。

女ことばは、男が考えたカワイイと思う女が話して欲しいと考えた言葉、その将来に興味がある方は是非本書を読んでみてください。

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Posted by ブクログ 2023年12月02日

時にエビデンスは特にないのかな?と思われる(笑)著書の感想、思いが溢れていたけど、切り口はとても興味深かったし、翻訳者として言葉に対するアンテナがとても高いから、こういった本が書けるんだなと思った。


成功した男の中には、女でないということ以外、なにひとつ資格がない輩がごまんといる。
メイ・ウエス...続きを読む

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ネタバレ

Posted by ブクログ 2023年11月07日

言われてみれば確かに「女言葉ってなんなの」ですね。あんまり昨今では使わないだろうと思っていたけど自分も先日「ごきげんようっていう人に初めてであった」と言われまして。あ、女言葉使ってることあるなと意識させられたことがあり。いやもちろん(?)その時はふざけてたんですが、ふざけてでも言わない人のほうが遥か...続きを読むに多いというかごきげんようなんて言う人ほんと今いないんですよね。
自分の若い頃は「〜なのかしらね」「〜なくってよ」という言葉づかいをする人が自分の周りにリアルにいたのでそこまで違和感感じたことなく激しく少数派であることを自覚させられました。(ものすごく一般人ですが)

文芸作品で男女を最初から明らかにしない場合、男性は苗字呼びで女性は名前呼びで表現されることが多くそれにより読書に性別を知らしめることが多いと。なるほどでした。
あんまりそのように意識したことはなかったけど言われてみるとこれまではそういう作品多かったと思いましたね。
近頃の文芸作品は最初から性別がずーっと曖昧なものも多い気がします。あえてそうしてるんだなとわかりますが時代のせいでもあるのかなとも。

案外自分、言葉に敏感じゃなかったなぁと本書を読んで認識。
サラッと読めて難しくなく読み物として面白いです。あんまりこういうジャンルを読まない人にも読みやすいのでは。

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Posted by ブクログ 2024年04月30日

気づいていたものから気づいていなかったものまで言葉について知ることができてとても興味深かった。

今はだいぶ変化して、昔と比べてずいぶん女性が暮らしやすくなっていると思うけれど、女性だからという理由でなんだか見下されてるな〜と感じることはあるし、男性も男性で男なんだから!と言われるのはかなり鬱陶しい...続きを読むだろうなと思う。

男性女性関係なく人間としてお互い敬意を払って接することが大切だと改めて感じた。ただ、上下がある人間社会ではとても難しいことでもあるなって、変えていくことの難しさも感じる。



個人的に翻訳の仕事もするから、日本語の一人称が多いのはやっかいだなと思う。英語話者がどの一人称を選ぶか確認しなければ分からないし、英語話者本人は訊かれたところで日本語一人称の微妙なニュアンスの違いが分からないから、選ぶ一人称に日本人ほど思い入れがない。それなのに日本人読者から「この人って自分のこと『俺』って言うんだ!素敵!」や「一人称『僕』の翻訳は解釈一致」と感想があると、日本人ならではの感覚だな〜と思う。

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