あらすじ
日本語と英語を往き還りする醍醐味を、これほど堪能できる書物がかつてあったろうか。英語を母語とし、中国語をつかいこなし、日本語で創作する稀有な作家の感性が、誰しもが耳慣れた万葉のことばを新たな相貌のもとによみがえらせる。約50首の対訳それぞれに作家独自のエッセイを付す、「世界文学としての万葉集」決定版。
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なんてお洒落な一冊。
もちろん英語で書かれているからとかそんな陳腐な理由ではなく。
万葉集そのものはもちろんのこと、リービ英雄が苦慮して翻訳した英文がなんとも洗練されていて優美なのだ。
それに翻訳に際して寄せたリービ英雄の説明がこれまた小気味良い。
日本語も英語も何度も声に出して噛みしめたい、そんな本に出会えました。
Posted by ブクログ
英語に訳された万葉集を音読してみる。リズムがある、思った以上に心地よい。ただ、どうも解説的にならざるを得ないところもあるようで、原文より長くなるのは仕方がないだろう。リービ英雄さんの翻訳する際の苦労を述べた解説が秀逸だ。その歌ばかりでなく、万葉集全体、日本語の歌というものまで、深い理解をしたうえで翻訳しているのが分かる。その解説から浮かび上がってくるのは、まずは直截的な比喩の力強さだ。畳みかけるような柿本人麻呂の比喩は圧倒的な迫力で迫ってくる。自然現象と心の動きを結び付けて不可視なものを可視にする比喩は、唯一無二の詩歌の武器ではないか。枕詞、地名の力も見逃せない。万葉集によって、日本中の自然に、大地に呪縛が掛けられたのだ。
柿本人麻呂、大伴家持、山上憶良、それぞれの歌の個性が余りに違うことにも驚かされる。大伴旅人と大伴家持の万葉集の編集方針によるものだろうし、カバーしている期間も長いからだろう。
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非常に丁寧に、万葉集が英訳されている。さらに、底の深い知識に裏づけされた解説がそれぞれに付与してあり、感心した。万葉集を現代にも通用する「新しいもの」と捉えながらも、当時の世相から生み出された表現をしっかりと汲んでいる。英語の勉強にもなると同時に、難解な上代古語がむしろ英語を通してすんなりと理解できるだろう。高校生の時に読みたかった!
こういった試みが成功していることは、日本人として嬉しく思う。アニメ・オタクばかりが「日本」として輸出される昨今だが、脈々と続く日本の文化を正しく外国に伝えるという、この作者のような活動がもっと増える事を願う。
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万葉集を英語にしようという’無謀な’試みの本。
無謀な、というのは著者も感じており、7世紀の日本語独特の表現や感性を現代英語にすることの限界を幾度となく論じており、それを通して原文の美しさを伝えている。
英語はどうしてもストレートになりがち、説明がちで、「久方の 天より雪の 流れ来るかも」を「Is this snow come streaming from distant heavens?」と疑問形にしたり(p69)、「不尽の嶺を 高み恐み」を「Because of Mt. Fuji’s lofty heights」としたり(p43)、そうしたところから古文の、そして和歌の美しさを改めて感じさせてくれる。
中には行き過ぎと感じるものもあり、天皇御製の「我こそは 告らめ 家をも名をも」を「l will tell you my home and my name. 」としたり、「夜道は吉けむ」を「the night road should be good」としたりは簡略化しすぎでしょとか。
「玉裳のすそに 潮満つらむか」をcouldやI wonder ifを使うとわざとらしいと言ってあえて「Can the tide - ?」と簡単な質問形式にしたとあり、著者の趣味のよう。著者がスタンフォード大教授ということでアメリカ英語だからこんなストレートなのかなあとか思った。言語ごとの独自の感性とか文化があり、それは代替不可能なのだという、文化人類学とか1984で学んだことを改めて感じさせてくれた。
それはそれとして、英語でももっと婉曲で奥行きを感じさせる表現はもっと可能だと思う。その辺もっと勉強して語彙の幅を広げたい。万葉集自体もかなりはまりそう。
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プリンストン大学やスタンフォード大学で日本文学の教授を務めるリービ英雄氏の万葉集への熱い思いが伝わる。母国語ではない日本語で創作をする作家でもある。万葉集をどのように英訳したかという経験と日本文化へのほとばしる情熱が伝わってくる作品。リービさんのような人が教壇に立って万葉集を講義してくれていたならば、ぼくの学生時代もさぞかしアグレッシブで面白いものになっていたのになと思う。
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万葉集のことはほとんど知らないけれど、それでも知ってるような有名な歌もたくさんあって、それが英詩の形になってよりはっきりとした輪郭で見えてきてとてもよかったです。山上憶良は恐らく著者の思い入れの強さもあるのでしょうが、特に感動しました。原詩に触れて驚き、英詩を読んで比較を楽しみ、解説を読んで納得と、全く飽きさせません。翻訳という行為そのものの愉悦をまるごと伝えてくれます。
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和歌を英訳なんて、できるの?七五調のリズム感とか、日本文化特有の表現とか、再現できるの?と興味を持って読みました。リズムは再現できない部分もあるけれど、可能な限り、歯切れよく、リズムを感じられました。また情景やイメージは英語になっても鮮やかだったし、「love」とは訳せない「恋」も、見事に表現されていました。和歌って日本人が読んでもよく分からないものなのに、英語に訳されるとなるほどなるほどと分かること!
Posted by ブクログ
[ 内容 ]
「万葉集にたどりついたとき、古い日本語というよりも、とても新しい文学に出会ったという不思議な感じがした」英語を母語としながら、日本語作家として現代文学をリードする作家の感性が、英語という鏡に古代日本語の新しい姿を映し出す。
全米図書賞を受賞した名訳から選りすぐった約五〇首の対訳に、作家独自のエッセイを付す。
[ 目次 ]
序 天皇というアイデンティティ
1 ちいさな「くに」の雄大な想像力
2 イメージの醍醐味、それは「映像」に近い
3 世界第二の都市の、おおらかな「文明」
4 太子の嘆き。日本語の根元的な感情は伝わるのか
5 枕詞は、翻訳ができるのか
6 柿本人麿、世界の古代文学の「最高峰」
7 loveとは違った、恋の表現力
8 千三百年の比喩
9 山上憶良、絶叫の挽歌
[ POP ]
[ おすすめ度 ]
☆☆☆☆☆☆☆ おすすめ度
☆☆☆☆☆☆☆ 文章
☆☆☆☆☆☆☆ ストーリー
☆☆☆☆☆☆☆ メッセージ性
☆☆☆☆☆☆☆ 冒険性
☆☆☆☆☆☆☆ 読後の個人的な満足度
共感度(空振り三振・一部・参った!)
読書の速度(時間がかかった・普通・一気に読んだ)
[ 関連図書 ]
[ 参考となる書評 ]
Posted by ブクログ
アメリカ出身の日本文学作家、「渡来人」リービ英雄が独自の英訳を添え、日本最古の詩のアンソロジーを語る。地名が示していく都の変遷=時間の変遷、イメージの力、枕詞という呪文を翻訳すること、天才人麿、など九章、二百余頁。
「英語で読む」という題ではあるが、実際には「外部の視座から読む」というのが本著の基本態度。その謙虚な探究心によって見出された万葉の新鮮さは、穏やかな驚きをともなって、千二百年後の現代を生きる日本人に届いて来る。
散文家であるリービの英訳は音・韻律の越境を意識したものではないし、翻訳可能性についての判断もやや楽観に傾くが、人類学的普遍性とでもいうべきものを万葉の歌に求める、という姿勢には、生温い夢想以上のものを感じる。
人間の詩歌。「日本語」で書くこと。これら二つの交差点に、渡来人、山上憶良が立っている。憶良を扱った最終章、リービの自己投影は言うまでもなく、そこには「日本人の言葉」という閉塞性を超えた、大きな日本語の姿が見えてくる。
そらみつ 倭国(やまとのくに)は
皇神(すめがみ)の 厳(いつく)しき国
言霊の 幸(さき)はふ国と
語り継ぎ 言ひ継がひけり・・・
Posted by ブクログ
万葉集は、つまみ読みしかしていないのだけれど。
この方のすごいところは、母語が英語であるのに、万葉集を読みこなし、理解していらっしゃる。
その解釈に、唸る時がある。
山上憶良の歌の解説などは、最高だと思う。
英語に訳された万葉の歌を、もう一度、大和の言葉で読み返す。
よきかな。
ちょっと、難しいのは、事実です。