あらすじ
あなたを知ることは、あなたという人を選んだわたしを知ること。
多民族国家の生きた声を掬う在豪作家が贈る、力強くみずみずしい《越境青春小説》。
父の転勤にともない12歳でオーストラリアに移住し、現地の大学生となった安藤真人。憧れていたはずの演劇の道ではなく就職を選ぼうとしていたところ、デザイン科でマリオネットを制作しているアビーと出会い、人形劇の世界に誘われる。日本人としてのアイデンティティの問題に苦しんできた真人のように、「同じアルメニア人と結婚を」と刷り込まれてきたアビーもまた、出自について葛藤を抱えていた。互いを知りたい、相手に触れたい。しかし、境遇が似通うからこそ、抱える背景の微妙な差が、猛烈な「分かりあえなさ」を生み……。
話題の既刊『Masato』『Matt』につらなる、「アンドウマサト三部作」最終章!
感情タグBEST3
Posted by ブクログ
大学生になったマットは、アルメニアの移民2世のアビーと出会う。どれだけ長くオーストラリアにいてもアジア人・日本人のステレオタイプで見られるマットと、自分では行ったこともないアルメニアに縛られてどこにも属していないと感じるアビーの、なんというか異なる「マイノリティ」の受け止め方というか、それぞれの葛藤が丁寧に描かれていた。
MasatoがMattになり、最後にMという書名になるのはどんどん捨象されてるような印象を受けたけど、オーストラリアで生きていくために切り捨てたMasatoも自分自身としてもう一度復活させて、MattとMasatoのどちらも自分として生きていく、その重なるところとしてのMなのだと分かった。
Masatoと一緒にオーストラリアに来て死んでしまった柴犬のチロのことを、23歳になっても彼はまだ大事にしている。アビーがチロに似た操り人形を作ってあげるのはとても象徴的で、柴犬のチロが日本の真人の象徴だとしたら、一度死んだ日本人真人がアビーの手によって新しく生き返ったのであって、それはアビーとの関わりを通してMasatoがMに止揚されて復活するのと相似形だ。人形のチロがどんなに本物のチロに似ていたとしてもあのチロではないのと同じように、再び取り戻された真人もあの頃の真人ではない、まさに止揚された真人なんだろうけど。純日本犬・日本人ではなく、国籍や人種の複雑さを引き受けた上での彼ら。
Posted by ブクログ
この島国に住み生きていると忘れがちになってしまうグローバルなこと、このMasatoシリーズは考えさせてくれます。
アビーという女の子にとってもアルメニア人であるということが足枷になっているし、悩みでもある。
民族、人種の違いって、ましてや他所の国に住んでいるということも人としてこれほど重くのしかかっているなんて。
清々しいだけの青春小説でない、けれど未来をこれから切り開いてゆく若い人たちに読んで頂きたい。
マリオットって隠喩の小道具も、とても効果的です。
Posted by ブクログ
面白かった。日本人としてのアイデンティティに悩む彼の心情が、よく描かれているなと思ったら、作者も、単身渡豪して、その心境を味わったんだなと納得した。日本に住んでいると感じないが、他国に住めば、日本人はそう見られるんだなとちょっとぞっとする感覚もあった。アルメニア人は、もっと、複雑なんだな。と思った。典型的な日本人って、ステレオタイプの日本人って、どこにいるんだろう。白人は、そんなに偉いんだろうか?逆に、自分達は、他の国の人に対して差別的に扱っていないだろうか?歴史的にも、敗戦国の人々は、人権を踏み躙られるような扱いをされてきた。もう、文明が進んで、これだけ地球が狭く感じられるようになったんだから、どの国とか関係なく仲良くできないかな?
Posted by ブクログ
岩城けいの最新作。Masato がMattになって、再びMasato になって歩み始める。アルメニア系移民の彼女の自立と絡ませて、より複雑なダイバーシティのなかでのアイデンティティの獲得を物語にする。これでMasato シリーズは終わりかな?注目の作家さんです。
Posted by ブクログ
「Masato」「Matt」に続く作品は「M」。
マサトでもあり、マットでもある「僕」が自分について問い続けるからだろう。
とにかく、父の仕事の都合でオーストラリアに連れてこられ、
困り果てていた少年が日本に戻らぬ選択をし、
ここでは、ついに大学まで卒業をしてしまう!
なんか、こちらも年をとったよね、そして読後の良さは覚えているけれど
はたしてどこがどう良かったのかを全く覚えていないという始末。
いちおう、本棚チェックをしたのだが、収めていなかった。
年のためにみた、前の本棚にも無し(あの頃はムラがあったからな)
とにかく本作は、岩城系らしさが全開、良い意味で。
マットは自分のグルグルから、同じように悩む他者へ目を向け、
居心地の悪さを感じるが・・・やがて、というお話。
アビーというアルメニア系の女性が、なかなか秀逸。
アルメニアも、以前、ジェノサイドをテーマにした児童文学作品を
読んだのだけれど、これも収録しておらず。
ネットでもチェックしたけれど、さして有名なタイトルでもなく
古い作品だからなのか、はたまた検索が未熟だからか
ヒットせず。
つくづく、ちまちまと(?)この本棚を活用する意義を感じる。
Posted by ブクログ
私は“日本人”である。それは生まれが日本で喋る言語も日本語だから。でもそれはあくまでも“ガワ”の話であって、中は一体どうなんだろう。外の世界で住む者だからこそ生まれる疑問の一つだよね。
ハッとさせられる文、言葉も多々あり、「アンドウマサト」の三つの作品の中では一番読みやすかったです。
Posted by ブクログ
Masato、Mattに続く第三弾。前の2作は多国籍のオーストラリア社会で両親とも日本人の少年が、自分は何者なのかと悩みつつ成長する話で、ストーリーを楽しみながらオーストラリアの学校制度やMasatoに代表される人たちの葛藤を考えることができた。今作は葛藤や思い悩む彼らの内面がメインで分かりにくかったけど、日本の多数派として暮らしていると想像すらしない思考に触れることができた。
Posted by ブクログ
これが最後とか。
安藤真人もいよいよ大学生から社会人へと大人への道を進む。
自分の内面に向き合う多感な年頃になって
オーストラリアは外からのイメージだとおおらかな国のように思うけれど
観光では見えない複雑な多民族国家の中、
真人の家族の事情、アビーの事情も絡み合って人生はより複雑に。
大人になっていくとはこういうことなのかと、
これはどこの国に住もうともありえる話。
Posted by ブクログ
3部作だと知らずに手に取ってしまった。
出自についての葛藤は、当事者にしかわからないものがあるのだと思う。
そんな人同士の恋愛は、一筋縄ではいかないだろうけど、乗り越えて欲しいなと思った。