あらすじ
関東軍は、一九一九年に中国・関東州と南満洲鉄道附属地の保護を目的に成立した。しかし、一九二八年の張作霖爆殺事件や三一年の満洲事変など、日本政府・陸軍中央の統制から外れて行動し、多くの謀略に関与した。「独走」の代名詞として悪名高い組織は、どのようにして生まれたのか。軍事・外交史研究の蓄積に、中国側の史料も踏まえ、組織制度、軍人たちの個人的特性、満洲の現地勢力との関係から解き明かす。
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Posted by ブクログ
戦前の日本による中国大陸統治の象徴ともいえる組織機関「関東軍」に関する概説書。関東軍というと「謀略」や軍事組織として見られることが多く解説等もその流れのものが多いが、この本は中国(満洲)や日本の政局とも絡められており、単純に軍事組織のものを期待して読むと困惑すると思う。
著者は満洲国軍について研究をしている。満洲の歴史とくに張作霖等の有力者が群雄割拠していた事に関する分野に詳しいため、その方面については詳しく書かれている。対して支那事変以降の関東軍については割かれている分量も少ない。もう少し満ソ国境紛争について書かれていたと思った点がちょっと残念。
とはいえ、関東軍創設期について知りたいと思う方には、最初の入り口としてもいい良書である。より詳しく知りたいと思ったら、巻末の参考文献を利用して他書を当たればいいと思う(私もこれを活用したいと思った)。
Posted by ブクログ
”独走” の代名詞として悪名高い関東軍の成立から崩壊までを通史として叙述。
本書で著者は、次の3点を意識して論じたという(まえがき)。
第1:関東軍を取り巻く制度的環境~戦場では予測不可能なことが起こり得るため、指揮官には上官の意図を忖度しつつ臨機応変に対処することが求められていたことから、日本陸軍では独断専行が奨励されており、関東軍もそうであった。しかしながら国家機関として、法令や予算による制約があった。そうした中で政府や陸軍中央の思惑を超えて謀略を続け、独走へと至る構造的背景は、いかに形成されたのか。
第2:軍司令官や参謀長、参謀など関東軍軍人の個人的特性~官僚組織である以上人事異動があるが、各人によってどのような特徴があり、作戦や謀略を主導し、満洲国統治に関わったのか。
第3:満洲現地勢力の存在~満洲支配のためには現地勢力の協力は欠かせない。日本からの視点だけではなく、中国東北からの視点により跡付けることが重要。
「満蒙は日本の生命線」と言われたように満蒙に執着した戦前日本であったが、その歴史的経緯や関東軍が果たした役割が詳細に述べられていて大変勉強になった。
関東軍独走について、満洲事変にせよノモンハン事件にせよ、なぜあそこまで強気で行けたのだろうとかねてから疑問に思っていたのだが、その前段階として個別の戦闘での勝利体験等があったからこそ、”次も大丈夫、行ける、強気で攻めるのが大事”といった意識が作戦参謀等に蔓延していたからだったのかと、納得できた次第。
Posted by ブクログ
どうして日本がアメリカと戦争することになったかというと、日本が満州事変以降の中国侵攻を行ったことが相当のところ影響している。では、どうして満州事変が起きたかというと、大恐慌以降の世界と日本のマクロ情勢があるわけだが、ミクロ的には関東軍が政府や陸軍の意思を放れて、独走したからというのが大きい。
というわけで、関東軍がどうしてそういう体質になったのか、具体的にどういう意思決定のプロセスがあったのかが知りたくなる。
いろいろな本でこのあたりのことは触れてあるのだけど、関東軍だけにフォーカスした本を読むのは初めてになる。ある程度の大きなところは知っているつもりだったが、読んでみると知らないこと、知らない人だらけでびっくりした。
程度の違いはあっても、関東軍も陸軍全体もシビリアンコントロールの効かない組織なんだなと思う。で、関東軍は、陸軍本体のガバナンスも効かないというのも、そのパラレルな現象なんだな。
これが戦前日本のガバナンス状態だったんだと思う。このシステムにおいては、天皇自身も軍や政治をガバナンスできない。戦前日本は、ファシズム国家であっても、断じて全体主義国家ではない。軍部もそうだけど、それ以外のメジャーなプレイヤーが好き勝手にやっていて、バラバラなわけで、全体的な統制とは逆の状態と言える。
それでも何が全体をホールドしていたかというと、国体思想なんだろうと思う。天皇自身はガバナンスできないにも関わらず、思想によってまとまっている。
思想といっても、その解釈の幅はかなり広いわけで、天皇はきっとこう考えているはずだとか、中央では現地の状況はわからず変なことを言っているが、彼らの現場を見れば同様の判断するであろうということで、下剋上、アナーキーな状態に進んでいったんだろうと思う。
そして、事後でそうした命令違反がわかっても、結果がよければお咎めなしだったのが、よりアナーキーを進めたということなんだな。
まあ、そういうことはこの本を読む前から分かっていたのだが、具体的な状況、具体的な人物が出てくると、よりリアルに感じることができた。
新書の入門書というよりは、研究書に近い感じかな?先行の研究で整理されているところは記述がサラッとしていて、著者が中国側の資料も踏まえて調べたところが中心になるので、関東軍関係の本を初めて読む人にとってはやや難しい印象だった。