【感想・ネタバレ】医薬品クライシス―78兆円市場の激震―のレビュー

あらすじ

全世界で七十八兆円、国内七兆円の医薬品業界が揺れている。巨額の投資とトップレベルの頭脳による熾烈な開発競争をもってしても、生まれなくなった新薬。ブロックバスターと呼ばれる巨大商品が、次々と特許切れを迎える「二〇一〇年問題」――。その一方で現実味をおびつつあるのが、頭のよくなる薬や不老長寿薬といった「夢の薬」だ。一粒の薬に秘められた、最先端のサイエンスとビジネスが織りなす壮大なドラマ!

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Posted by ブクログ

ネタバレ

ビジネス新書なのに、泣けた。

例えば、「スタチン剤の生みの親、遠藤氏は自分の化合物が会社方針でつぶされかかったとき、社に無断で勝手に臨床試験を行うという恐ろしい「暴挙」に出ている。難病に苦しむ少女を救うためでもあり、安全性、有効性について確信があったからこそ試験に踏み切ったのであろうが、何か事故でもあれば間違いなく氏の首は飛んでいたところだろう。こうして自分の存在証明をかけてあらゆる障害と闘う人がいるからこそ、新薬は生まれるのだ」

研究者の最大のインセンティブは研究それ自体の喜びであり、患者を救いたいという強い思い、使命感だ。これは決してきれいごとではなく、研究に喜びを感じない人に対していくら金を積んでも、決して必死に働くことはないだろう。

しかし、年間4000億円を売り上げるクレストールの開発者が受け取る発明報酬が、1万5千円で良いのか? という疑問も提起されている。

経産省の主導もあって、90年代に製薬業界が大型合併を進めた結果、ホームラン狙い、即ち高血圧症や糖尿病など患者の多い大型医薬ばかりを狙うようになり、年間売り上げが300億円程度の難病相手の小粒な薬に手をださなくなった。

リピトールなど、90年代にはブロックバスターの新薬が多数開発されたが、2000年代に入って、新薬開発がぴたりと止まった。その結果、メガファーマは2010年代に相次ぐ特許切れにおびやかされている。
大合併により大企業化で研究者が保守化し、リスクの高い新薬開発に手をださなくなったこと、大企業がホームラン狙いばかりの新薬開発を行ってきたこと、そもそも高血圧や胃潰瘍などガンやリュウマチなどわかりやすい病原に対する医薬は開発されつくし、難病ばかりが残ったことが原因とされる。また、アルツハイマーなど、実験を行うための疾患モデル動物とは何か、難しいという事情もある。

しかし一方で、最近脚光をあびるリュウマチ治療薬のレミケードや、タミフル、バイアグラ、抗がん剤のベルケードなど、創薬ベンチャーによって開発された。ベンチャーは、これが失敗すれば明日はない、と皆が必死でやる結果、成功に結びついている。今、このようなベンチャー企業が開発した新薬の争奪戦がメガファーマでは繰り広げられている。

「膨大な開発費をかけている新薬メーカーにとって、ジェネリック医薬は許せない存在だ」「先発メーカーには主成分と添加物の混合比率や製剤方法などに文章化できないノウハウがあり、たとえ主成分は同じでも添加物の信頼性、安全領域などが異なり、副作用がでたときの対応などでジェネリックメーカーは先発メーカーほど体制が整っていない」としているが、この点については異論もあることろだろう。

(感想)先発医薬メーカーの現状は、新製品がなかなか生まれず、中韓メーカーにおびやかされ、自前主義を捨てて社外の技術買収に走っている日本のエレクトロニクス企業の現状に酷似しているように思われる。

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2012年06月30日

Posted by ブクログ

ネタバレ

2010年ごろに危機があったという話なんだが、今はどうなんだろう。確かに技術革新の後はどの業界でもけっこうこたえるようだから。

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2016年07月01日

Posted by ブクログ

ネタバレ

面白い。博打のような新薬開発、他社のヒット商品が欲しい為に会社ごとTOB。巨大な売り上げを誇る薬の特許切れは企業そのものの存続さえ影響を受ける。企業が巨大化すればするほど、潤沢な研究開発費で新薬が沢山できるかと言えばそうでもない、企業が大きくなればなるほど大型新薬の穴埋めは大型新薬が必要になり、開発の成功率が下がる。利益率だけをみれば他業界がうらやむほどの高さだが、薬の開発には大きな博打を打っている。

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2011年09月12日

Posted by ブクログ

ネタバレ

著者が製薬会社にいた当時、3つの医薬品を上市した伝説の先輩が研究所で公演をしたエピソードが興味深かった。そのレベルが現在の視点からするとあまりに基準からかけ離れて足らず、期待して出席した同僚たちは一様にきつねにつままれたようだったという。
この話は、著者が見事に概観して見せた医薬品業界をめぐる近年の変化の原因を象徴しているように思える。
文章は平易で分かりやすいが、コンサルタントや業界通の評論家より一段掘り下げた解説となっている。

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2011年01月27日

Posted by ブクログ

ネタバレ

薬とは人智を遥かに超えて複雑な生体に副作用なく必要な部分にのみ作用する奇跡の産物。しかも経口の手軽さだ。誰しも頭痛、腹痛、風邪になれば必ずお世話になっている。ところが、このお薬、世に出るまでは様々な艱難辛苦を乗り越えなければならない。動物実験、臨床試験、副作用、役所の承認などなど。今や製薬は人類のあらゆる事業のうち最も困難なものの一つとなっている。入社以来、数十年毎日実験を繰り返しながらも、新薬を一つも生み出すことなく研究の現場を去る者がほとんどというのが、この医薬の世界。まったくのギャンブル。「薬九層倍」なる言辞が如何に一面的偏向的な誤謬に満ちたものであるかがよく分かる。2010年問題を境に医薬業界が直面する課題が丁寧に詳説されている。

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2012年06月26日

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