あらすじ
小田原の魚屋の息子に生まれたが、文学への夢が捨てきれず家督を弟に譲って上京するも、小説家として一本立ち出来ずに郷里に逃げ帰る。そんな前半生と売れない老残の作家の娼婦との交遊が、地べたを這うような低い視点からの一種の諧謔味をおびた川崎文学をつくりだす。本書は「鳳仙花」「乾いた河」などの代表作のほかに中山義秀との交友を描いた「忍び草」など7篇収録。
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Posted by ブクログ
つげから流れて川長初読。私小説には良いイマアジュを持ち合わせてはいなかったが思うところあり楽しめた。予想では何を読んでもこれ以上これ以下にならず倦む可能性ありだがしばらく読むつもり。Sとこいつの話をしたかった。
Posted by ブクログ
つげ義春の本に出てきた作家で、作品が気になって一冊買ったらはまった。
なんかもう、死んじゃうんじゃないか、どこかその辺の道で、倒れてそのまま息絶えるんじゃないかとはらはらしながら読む。私小説なので、山も谷もない。人生の、「どうにもうまくいかないけれど、流れてはいく」、そんな小説。
どこかいつも死が潜んでいて、何かうすら寒さを覚える。若い時に読んでも分からない、首を傾げてちょっとため息をつくような。「私」の不甲斐なさと、それでも何のかんのと歩いていく、その背中に、人が生きるということの輪郭が見えた気がした。
Posted by ブクログ
小田原の魚屋の息子として生まれたが文学への夢を捨てきれず、家督を弟に譲って上京するも小説家として成功できずに郷里に戻る男の前半生と、売れない老残の作家と娼婦との交遊。時に、前に進むような生き生きとした日々では無く、こうした日常を放蕩するかの如くやり過ごす諧謔的な私小説を読みたくなる。西村賢太だったか、つげ義春だったか、忘れてしまったが、いずれかを経由して川崎長太郎に行き着いた。
こうした私小説は私にとって、どんな風にしても生きていられる、という拠り所のようなものかもしれない。川崎の作品はしばしば「地べたを這うような低い視点」を帯びた文学と評される。
本作は、川崎長太郎が通った私娼窟で馴染みになった女性との交流や、売春取締法の施行による私娼窟「抹香町」の衰退、女性が結核で療養所に入院する運びとなる様子など、社会の底辺で生きる人々の生活と感情をリアルに描く。もう、下半身がだめで・・というような老体の素顔が恥ずかしげもなく書かれる所に、小説家として人生を生々しく晒していく覚悟を感じる。
もしかすると、書く事でしか生きることの確からしさを保てなかったのかもしれない。こうした文学世界には、奇妙なカタルシスがある。