【感想・ネタバレ】台湾漫遊鉄道のふたりのレビュー

あらすじ

炒米粉、魯肉飯、冬瓜茶……あなたとなら何十杯でも――。
結婚から逃げる日本人作家・千鶴子と、お仕着せの許婚をもつ台湾人通訳・千鶴。
ふたりは底知れぬ食欲と“秘めた傷”をお供に、昭和十三年、台湾縦貫鉄道の旅に出る。

「私はこの作品を過去の物語ではなく、現在こそ必要な物語として読んだ。
そして、ラストの仕掛けの巧妙さ。ああ、うまい。ただ甘いだけではない、苦みと切なさを伴う、極上の味わいだ。」
古内一絵さん大満足

1938年、五月の台湾。
作家・青山千鶴子は講演旅行に招かれ、台湾人通訳・王千鶴と出会う。
現地の食文化や歴史に通じるのみならず、料理の腕まで天才的な千鶴とともに、
台湾縦貫鉄道に乗りこみ、つぎつぎ台湾の味に魅了されていく。
しかし、いつまでも心の奥を見せない千鶴に、千鶴子は焦燥感を募らせる。
国家の争い、女性への抑圧、植民地をめぐる立場の差―――
あらゆる壁に阻まれ、傷つきながら、ふたりの旅はどこへ行く。

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Posted by ブクログ

台湾グルメ紀行文かと思いきや、なかなか気づくことがあった。
日本人の多くが青山千鶴子みたくなってないか?
親切心のつもりで「日本」を押し付けてないか?
某国は日本のお陰で文明化したとか無邪気に言っちゃってないか?
そうなのかもしれないし、新日かもしれないし、そこには日本のものが溢れているかもしれない。でも「ほら、よかったでしょう?」とか言われちゃう方はモヤるだろうな、と物語の中でさりげなく見せてくれた。
パターナリズム:父が子に対するように、温情のつもりで干渉すること。雇用関係や、医師と患者の関係などにみられる(三省堂国語辞典)

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2025年11月27日

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素晴らしい小説でした。
日本時代の台湾を舞台に、妙齢の日本人女性作家青山千鶴子と教養あふれる台湾人女性通訳王千鶴の旅と美食と、お互いが寄せ合う心情の機微とが描かれます。二人の立場の違いのせいで、心を寄せ合っていながらも離れざるを得ない二人がなんとも悲しかったです。
初めて読んだときはこの機微に気づかずに、ちょっと鈍感な青山さんのように、王さんがなぜ離れていくのかわからず、最後の場面で二人の真情に触れた思いでしたが、今回はそれぞれの場面で王さんの思いが行間からにじみ出てきて胸に迫るものを感じながら読み進めました。
再読することで感動が増し、すっかり作者の楊双子さんのひいきになってしまいました。

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2025年11月27日

Posted by ブクログ

昭和初期。母と叔母と住んでいる青山千鶴は小説家。おうちにいるとお見合いの釣書ばかり見せられるのに嫌気がさし、小説「青春記」が映画化された記念に台湾より招聘されたのを良いことに台湾へと旅立つ。そこで共に大食いの王千鶴さんが通訳としてつく。台湾国内を漫遊しつつ、「台湾漫遊記」を連載。公演などしながら、台湾の旅や食を楽しむふたりだが、もっと仲良くなりたい千鶴と、職業上の関係を保ちたい王の間ですれ違いが起こる。帝国と島、男性と女性、内地人と本島人の差別に敏感なふたりに友情は育まれるのか?あとがきに「青山洋子(千鶴娘)」と「王千鶴」によるものがあったので、本当にあったことなのか!!と驚いたところで、種明かしがあって、すっかり騙されてしまいました。

全米図書賞 日本翻訳大賞受賞作。

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2025年11月01日

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日本の植民地時代の台湾を描いたものである。政治的な説明ではなく、本省人と内地人という立場で、日本人の女性が台湾を旅行して台湾の食べ物を食べ尽くすという形式である。隣国の・・・という本で紹介されていた。フィクションではあるがよく書かれていて台湾に行った気になる。

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2025年10月30日

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舞台は日本植民地時代の台湾。
講演会のため台湾に滞在する作家の千鶴子と、通訳として彼女の身の回りの世話をする千鶴。2人の女性が共に過ごした日々が丁寧に描かれた小説。

物語の導入や後書きがノンフィクションのように描かれているため、一瞬、小説だという事を忘れてしまいました!物語に入り込む仕掛けとして新鮮で面白い。

登場する多彩な台湾料理は、どれも美味しそうで、どんな料理か想像するだけで楽しい。
鉄道で巡る行き先での旅の風景を、実際に見てみたいという気持ちに駆られました。

2人の繊細な心境の変化が丁寧に描かれ、中盤から後半にかけての展開にグッと引き込まれました。2人の距離がなかなか縮まらない理由に気づかなかったことで、千鶴子と同じような傲慢さが自分にあると気づき反省させられました。

情景が浮かぶようなとても美しいラストが心に残る作品です。

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2025年10月19日

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日本作家・青山千鶴子と台湾人通訳・王千鶴が台湾で公演活動を行いながら、その地の食べ物を食べ尽くす勢いで食べる。食の旅行記に見せかけながら、日本統治下の台湾の様子が後半から見えてくる。
 作家青山千鶴子の豪放磊落さが前半は少し鼻につくが通訳王千鶴との交流から、その当時の日本人と台湾人の考え方が想像できる。友情には至らないけれどお互いの立場を理解して、心の交流を持った二人は友情を超えた絆を一生持ち続けることとなる。
 台湾の歴史をいろいろ考えさせられる本。また、台湾に行って食を楽しみたくなる本。
この作家の新作を読みたくなった。

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2025年10月04日

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昭和12年、作家の千鶴子は赴いた台湾で通訳の千鶴に出会う。千鶴から教わる知らなかった台湾、知らなかった食、そして知らなかった自分の本当の姿。
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台湾を舞台にした百合小説、という触れ込みだったので気軽に読んだのですが、これがなかなかの噛みごたえでした。
以前台湾を旅行する際に、いまだに統治時代の日式建築がたくさん残っていること、その下に埋もれたもの、を意識して街を歩きたいと思っていました。しかし実際に行ってしまうと旅行に浮かれてあまりそうした重い側面について考えられなかったのです。この本ではそうした側面をしっかりと刻みつける意図が感じられて、単なるお気楽百合ものとは一線を画す重量感を感じさせてくれました。
一方で二人の関係にどきどきしながら読んでは最後に大変に胸の痛い思いをさせられるので、歴史の重さと娯楽としての人間の描写というものを深く描きつつ、高いバランスでまとめあげていて、本当によくできた小説だな、と思いました。大変に良い読書体験でした。
わりと読みやすいし、結局百合なので話としては多くの人が楽しめる本だと思います。ひとつ台湾に旅行に行く人は必ず事前に読むようにすると、ただの親日のおいしいものがある台湾という国のイメージや風景が少しは違って見えるのではないでしょうか。日本人の旅行者には少なからずこうした視点は必須だと思います。

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2025年10月03日

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昭和初期の台湾を舞台にしており、その当時の台湾の生活や社会風俗を知ることができて、時代小説としても学びが多い作品だった。日本が統治している時代で、征服者と非征服者の関係や、非征服者が潜在的に押し付けられていると感じる劣等感や文化を押し付けられている感覚がジワジワと感じ取れる文章だった。私は沖縄が故郷だが、歴史的に征服された経緯があるので沖縄の人が内地の人に抱く感情にも似ている部分があると感じた。

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2025年10月01日

Posted by ブクログ

初めての台湾文学
面白かった。
今年のマイベスト10に入りそう。

「この世界で、独りよがりな善意ほど、はた迷惑なものはございません」
統治する側、される側には、どうしても乗り越えられない壁がある。

作品は日本人作家側から書かれ、
くだけた表現もあり読みやすかった。
日本料理、台湾料理、当時の暮らしも盛り込まれ、ここも魅力的でした。

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2025年09月04日

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ネタバレ

いろんな仕掛けがある本だった。
特に女性同士であることによる現代人からの感情移入のしやすさと権力関係の見えなさ。

もしこれが日本人男性が現地の女性に翻訳兼料理人をさせている話だとすれば、読者すぐにその権力関係に気づいただろう。

あと最後に主人公が被害者ポジションを取らずにしっかりと謝ったところが良かった。

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2025年08月28日

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ネタバレ

青山千鶴子という作家、聞いたことないなと思って読んで、あとがきで全部フィクションだったと知った。面白かったから問題ないけど、こんな手法あるんだ〜とびっくりした。
支配者と被支配者の間には友情が成立しない。でも人として気にかけることはできる。「私だけのために料理をしてくれた初めての人です」という言葉が好きだなあ。

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2025年08月17日

Posted by ブクログ

美食グルメ本かと思いきや、ちゃんと当時の歴史の裏がある作品でした。読みてない日本人だからこそ、物語の中の登場人物の異変にラストまで気付かなかったのかなと胸が締め付けられました。
それでも少しでも2人の間に芽生えた関係があったこと、フィクションなのに願ってしまいました。

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2025年08月12日

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とにかく読んでみることをお勧めしたい本

日本と台湾 千鶴子と千鶴
似ている様で似ていない
近い様で別の国
二つの国の歴史と2人の歴史

凄く読みやすいのに
ラストの重厚感は圧巻

清朝や台湾
台湾グルメに興味がある方は特に
そうでない方にもぜひ
一度手に取って貰いたい名作

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2025年08月12日

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本書には、ギミックがあり、それを知らなければ面白く読める。もちろんギミックが面白いと感じればであるが。そして、もちろんギミックを知っていても十分に面白いので安心して読んでほしい。

さて本作は、日本統治下の台湾を舞台に、作家の青山千鶴子と通訳の王 千鶴が美食を求めて鉄道旅をするという話である。随所に食の話がちりばめられており、食べたくなることこの上なしである。

この2人、とにかく大食漢であり腹の中に妖怪を住ませている。ページをめくるたびに出てくる食、食、食のオンパレードが楽しい。

また歴史という面でみると、日本統治下という状況を扱った仕事である。統治された側の視点が入っているのは、非常に興味深い。

何も考えずに読めば最初から日本語で書かれた本だと思うのではないか、というほど翻訳が素晴らしい。とても楽しい読書であった。

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2025年06月21日

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昭和13年、台湾へ講演旅行にやってきた小説家・千鶴子と、現地通訳・千鶴。帯文の「台湾グルメ✕百合✕鉄道旅」に偽りがなかった。
言葉が通じても、美しい景色を共にしても、おいしいものを共に食べても、分かり合えるとは限らない。
と、切なくなったところからの最後のすくい上げがとても素敵で本当に良かった。

訳者による原書の構成や当初の出版経緯についての話もおもしろかった。挑戦的な作品。

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2025年06月16日

購入済み

鉄道旅行、美食、百合をキーワードにした少女たちの物語。
日本の植民地化にある台湾を舞台に、日本人の女流作家千鶴子と台湾人の千鶴が関係を深めていきます。
台湾の美食、美しい景観はもちろんですが、二人の関係が最も美しいです。支配者、被支配者の関係であるのにもかかわらず、対等だと無神経な発言を繰り返す千鶴子と、柔らかな笑顔の下に頑固で冷ややかな心を隠す千鶴の対照が面白かったです。友達以上の関係性が特別で切なく思いました。
小説内小説では日本も台湾も変わらず封建的な社会で女性の権利が抑圧されていますが、小説内後書き(後世)では女性の社会進出が進んでいることが表現されていて印象的でした。

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2023年05月24日

Posted by ブクログ

 前半部分は少しでも土地勘や台湾料理の知識があった方が読みやすく面白いと思う。
 食べ物も美味しそうだし、暮らすように旅するのはやはりいいなとお気楽気分でいたら後半はまるでイヤミスのよう。そんな結末がとても好き。自戒を込めて。
後半からとても良かったので★1つ増えた。

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2025年11月24日

Posted by ブクログ

うーんとてもよかった。
食べ物がモチーフになる小説はいくつかあるけれど、その全てが未知の料理であるのに、全て魅力的に写った。
登場人物のやり取りには可愛らしいものもあり、所々で気になるところがあり、それが最後に明らかとなった時には、歴史や文化について考えさせられることになった。
あとがきを読んでわかる、この本に込められたコンセプトも、今の立場からすると面白い。
もう一度読みたい、台湾行きたい、となった。

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2025年11月13日

Posted by ブクログ

日本人の作家と、台湾人の通訳が出会って
仕事を通して仲良くなっていく話。
戦前の話で国単位で言えば
支配する側、される側という微妙な関係。

2024年翻訳大賞受賞。
池澤春菜さんおすすめのこの本。
ここ数年は、日本を取り巻く外交環境が慌ただしい動きをしていることもあり、
日本人としての価値観をアップデートしたいなと思って手に取りました。

主人公の2人に、どんな人生が待っていたのか、
想像を巡らすような仕掛けもあり、
好きな読後感でした。

たくさんの料理が出てきますが、
知識が無さ過ぎて具体的に想像できなかった私が残念でした。

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2025年11月07日

Posted by ブクログ

日本が台湾を統治していた頃の話。
日本人作家と台湾人通訳との交流と台湾の食文化。
楽しく食事をしながら、台湾文化に触れ、差別に怒り、学ぶ。
軽妙な文章に楽しく引き込まれる。
台湾の料理やお菓子など食べ、いろいろな場所に行きたくなった。

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2025年10月24日

Posted by ブクログ

異国情緒ある表紙絵がステキです。

1939年台湾にて、作家青山千鶴子と通訳の王千鶴は出会います。2人とも鉄道での講演旅行で、食べるわ食べるわ。台湾グルメ満載!肩のこらない親しみやすい文章で、セリフが多くどんどん読めてしまいます。ここが作家さんの狙いなんだろうなあ。

千鶴子さん、千鶴さんと仕事の関係性を超えて本当のお友達になりたいがために、グイグイ質問攻め。さらりとかわす千鶴さん。おもしろい。

食べるときもグイグイいくし、質問もグイグイの千鶴子さん。だから、読者の私も千鶴さんの境遇、当時の台湾の様子が分かるのですが。

中盤ぐらいから、このままいってこの2人、大丈夫?と思ってしまいました。グイグイ系質問攻めの圧迫感と、溢れるばかりの食べ物に、“ちょっと勘弁してください”という気持ちになってしまいました。

日本統治下の台湾です。支配する側とされる側、この隔たり。最後の結末で考えさせられます。

2025年10月3日(金)の朝日新聞に、楊双子さんの記事がありました。彼女の日本への興味の始まりは、日本漫画と歴史教育だそうです。1984年生まれの楊さんは、学校で「日本は敵である」との考えを植えつけられてきたとのこと。以下、新聞記事より

「でも漫画で読む日本の日常は親しみやすく、日本は敵という概念と相いれなかった。心の中の複雑で納得できない感情を分析したいと思い、大学時代に日本語を勉強し始めたのです」

このような作家さんがいてくださること、日本人のひとりとして、とても有り難く、嬉しく思います。

台湾料理、知りたいと思いました。この本を読んで良かったです。

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2025年10月05日

Posted by ブクログ

無邪気に台湾を旅する千鶴子に、先日、台湾旅行を気軽に楽しんだ自分が重なって、いたたまれない気持ちになった。

なんとなく日本では、台湾とえいば「親日」というイメージが共有されているけど、統治下にある当時〜現代に至るまで、決して単純なものではなくて、複雑な日本への想い、故郷への想い、を持ち続けていることに気づかされた。
「好き」であると語るなら、上辺だけでなくちゃんとその土地の歴史を学ばないとなと痛感した次第。

千鶴は教養もあり語学も堪能で、ちゃんと自分で自分を守れる人。それにも関わらず、無意識に庇護の対象として扱う千鶴子。これこそが一見して分かりづらいけど、差別のひとつの形なんだろうな。
建前上対等である立場の人から、頼んでもいないのに自分を庇護の対象だったり可愛がられたりするのって、確かに不愉快だよね。。対等な人間関係とは?と考えさせられた。

千鶴がここまで強くなくて、千鶴子が押し切ってたら、2人はどんな未来を歩んでしまってたんだろう。お互いのためにはなってない。
ちゃんと自分の心を守るのって大事。

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2025年09月22日

Posted by ブクログ

物語の舞台は1938〜39年にかけての台湾

日本人作家・青山千鶴子と台湾人通訳・王千鶴の
二人が、台湾中を鉄道で巡り、美食を堪能する。

この二人、特に青山は〝大食いの妖怪〟
と表現されているだけあって、まぁよく食べること!
日本人向けに味付けされたものには興味がなく、あくまでも現地、本島人が食べているものと同じ食事を好む。
行く先々で登場する魅力的な食べ物たち!
時には通訳の千鶴が調理する場面もある。

本当にどれも美味しそうで、食いしん坊の私は序盤こそ画像検索をし、いつか食べたいとメモをとっていた。
が、あまりにも多すぎてすぐに諦めた(;^ω^)


私は食にはもちろん興味があるけど、この本を読みたいと思ったのは、日本統治時代の台湾をもっと知りたかったから。
日本人作家を主人公にした作品を、台湾人の作家がどんなふうに描くのかな、と。


青山千鶴子は、通訳だけにとどまらず旅のコーディネートまで完璧にこなす千鶴を大好きになり、「私たち友達になりましょう」と、はしゃいでいる。

「私たち、親友よね?」と、事あるごとに口にする青山だが、千鶴はどういうわけか常に〝仮面〟を被っているようだ。

──なぜ?

青山にはどうしても分からない。

更に千鶴は「青山さんが態度を変えなければ通訳を辞めなければならない」と言い出す。

この物語はずっと青山の「なぜ?」が根底にあると思う。

内地人の青山千鶴子
本島人の王千鶴
どうしたって、ふたりの関係は植民者と非植民者なのだ。

それを表す文章に
──内地人と本島人の間に、平等な友情は成立しないのです
──この世界で、独りよがりな善意ほど、はた迷惑なものはございません

とある。


旅や食を満喫しながら時代背景を知ることができ、充実した読書時間だった。

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2025年07月21日

Posted by ブクログ

1938年の台湾は日本の植民地だった。
少壮の女性作家、青山千鶴子は講演会旅行を引き受ける代わりに、1年間の在台「台湾漫遊録」を書く計画する。通訳兼秘書として、王千鶴という二十歳にも満たない優秀な少女も就いた。作者命名「百合小説」が、開幕する。

私には、友情以上恋愛未満の「相棒小説」に思えたが、そこは深掘りしない。主には、私が過去2回台湾周遊旅をした時のことを思い出し、新たな旅のヒントをたくさん貰ったことのアレコレを書きたいと思う。

千鶴子の住み家は、台中の川端町ということになっている。駅から西へ、現在土産物屋で有名な宮原眼科を少し歩いた辺りのようだ。此処を拠点にして、台湾から甲子園出場を果たした嘉義高校で有名な嘉義、映画ロケ地で有名な彰化、台南、高雄、台北、基隆、淡水線終点の温泉地新北投駅、新竹と講演会旅行をしている。その度に、地方名産の台湾美食を、青山千鶴子は妖怪のように堪能したのである。

私の回った所が5つもあった。作者は後書で当時の面影は現在ではない、とは言っているけれども、旅行者の視点に立てば、10年前の旅の色々を思い出すのに充分であった。彰化の抗日戦の舞台になった城跡。全ての町の中心に媽祖廟がある事、北投駅前の如何にも鄙びた温泉、懐かしいような商店街、等々。

作者はしかし、食べ物は現在でもほぼ総て存在しているという。度々登場する駅弁は、台湾食文化の真髄だと私は思う。炒米粉(ビーフン炒め)とかが出ていたが、私は台中途中で食べた素食弁当(お揚げ煮つけを飯に載せたもの)が、今まで食べた総ての弁当で最高の味だった。彰化の小西街で求めた団子スープのボリュームと繊細な味、商店街で求めた食べきれない向日葵の種、千鶴が作ってくれた麺線、湯冬紛、煮大麺は屋台の至る所にある。台湾の咖哩3種類(鶏、蝦、魚)は賞味したいし、川端町から王千鶴の家の途中の大正橋(現在の民権緑橋)で、2人で食した氷蜜豆は、是非歩いて食してみたい。昔は大正橋の内側が街中だった事を知った。

今回、地図アプリで現在の場所の特定を苦労しながら探した。まだまだ、歩き回れていない地域は幾つもあった。本小説の最後に、青山千鶴子は王千鶴の「能面」の秘密を見事を解いて見せる。それこそが、台湾が50年間日本の植民地だった事の証であり、しかもそれが、現代の若い書き手である楊双子氏の手によって書かれていることに、私はとっても興味深いものを感じたのである。

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2025年07月16日

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ネタバレ

前半は台湾料理ばかりであまり進まなかった。

植民地にする側とされる側、千鶴子にはそんな認識なかったのかもしれないけど、それでも底の底の根っこにはそんな意識があって、知らず知らずのうちに平等であるべき立場に上下ができてしまっていたんだな。
この時代は現在とは違うけれど、それでも千鶴子のような言動は私自身無意識のうちに取ってしまっていることがあるかもしれない。傲慢だ。

恥ずかしながら台湾が日本の植民地だった時代の出来事や詳細は知らなかったけれど、植民地にされた土地は、その土地の伝統ある文化や遺物や考えが淘汰される、それが支配されることなんだなと考えた。

最後の構成が素敵だった。まるで青山千鶴子と千鶴が本当に実在していたような。フィクションだけど全てがフィクションではない、きっとこの物語のような出来事はどこかで起きていたんだと思ってしまう。

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2025年06月23日

Posted by ブクログ

ネタバレ

食通なので読んでいてすごく楽しいが、主人公はまさに食いしん坊万歳の世界で様々な料理が巧みな描写で見事に平らげるさまが描かれる。日本統治時代も晩年の昭和13年頃の文筆家(林芙美子がモデルらしい)と現地の通訳女史が講演会ついでに台湾全土を食で行脚するなかで、2人の会話と培われる友情、そして百合感情の物語。小説は軽い入れ子構造で、二人の関係は統治国(内地)と本島の真の関係も彫り込まれている。特に大きな事件もなく淡々と進むけど穏やかな気持ちになれる良品。翻訳大賞は当然と思った。

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2025年05月21日

Posted by ブクログ

ネタバレ

友好の印象が強い台湾。震災のときの多額の寄付・救護支援、ただただ甘受するだけになっていたかもしれません。前半にでてきた千鶴子と千鶴が役割交代して日本巡り旅行記第2弾は、「いいじゃん、楽しそう」って普通に思ってしまいました。相手が望んでいるものと合致してこその御返しですものね。

『私は思わず立ち上がり、大声で宣言した。「いっしょに台湾を食べ尽くしましょう!」千鶴は驚いた顔をしたが、すぐににっこり笑ってうなずいた。』
どこから2人がすれ違っちゃったのかなって読み返すけど、もうそれぞれの立場含めて最初からなのかもしれない。でもこの2人じゃないと見れない景色も、食べられない美味しいものも、あったんだよ!!出会いには礼節を持って、感謝です( ;∀;)

先月読み終わったのに、思うように感想が書けなかった1冊。時々、この2人のこと思い出していろいろ猛省したい。

2024.11

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2025年12月06日

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第二次世界大戦前の台湾を舞台に、執筆・講演活動中の女性と通訳の現地女性とのやりとり。支配する者とされる者の大きな壁、今まで考えたことがなかった台湾の状況になるほどなーと思った。主人公の女性が大食いで食事の描写も楽しい。

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2025年11月24日

Posted by ブクログ

台湾各地で食べるローカルフードはどれも美味しそうで食欲をそそります。
小説のモデルになった「愉快なる地図」もおすすめです。

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2025年10月17日

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今までありそうでなかった、そんな日本・台湾横断型旅小説。

実際の明治期〜昭和期にはこの手の植民地見聞録、弥次喜多道中的ジャンルはよくあったわけで。
敗戦と共にぶっちり途絶えたジャンルの一つと言える。

この小説のすごいところは何より、台湾人作者が描いていると言うこと。
食べ物漫遊録というキャッチーさを兼ね備えつつ、植民地における支配者と被支配者の機微を下手にデフォルメせずに丹念に描いている。でも本来の漫遊録もののエンタメ性も損なっていない。
詰まるところ、漫遊録ものの脱構築をかなり巧みにやっている。
2人の女性の造形がまた上手い。千鶴子のお嬢様知識人設定もよく生きている。
彼女の終盤での悟りは、台湾留学中の植民地史の授業で台湾人教師が「日本んは台湾を近代化させた功績があるというが、詰まるところそれは内地人のための近代化であって台湾人のためのものではなかった。」
という講義に衝撃を受けた自分そのものだった。
そして美島というキャラクターが意外にも効いてくる。いわゆる湾生の彼がこういう一筋縄では行かないけど、現地人的側面もある人間として台湾人作者に描かれたことは意義深い。

こうした機微は台湾人作家が描いてこそ意味を持つというところは確実にあると思う。日本語作家からも呼応する動きが欲しい。
ぜひ映画化されてほしい。

食べ物という時代を超えて人に訴える要素と、両者の心情の展開のリンクが素晴らしい。
そもそも「台湾料理」はそれ自体があらゆる時代の流れが織りなす定義の複雑なもので、でもそれは裏を返せば台湾の多様性や歴史性の強かさの象徴でもある。

千鶴子のモデルが、林芙美子や西川満(植民者の身勝手)であったのは興味深い。
千鶴が1945年以降にアメリカに渡っていたというのも一つの台湾史のリアル。日本に行かなかったのも千鶴らしい。
2人の子孫によるやり取りは特に、研究者である作者の白眉。

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2025年07月16日

Posted by ブクログ

昭和13年の台湾食文化✕台湾鉄道✕台湾友達をテーマにしている

日本人小説家千鶴子(ちづこ)と台湾人通訳千鶴(ちづる)の話

台湾料理のバラエティが富すぎて何も頭に入ってこないし、鉄道も地図で見てないからぼんやりとしかイメージできず。
千鶴子と千鶴の交流に焦点を当てて読み進めると、何とか読めた。

分かりやすくいうと
千鶴子は無神経(本人に悪気がないので気づかず 無邪気)
「千鶴ちゃんの人生がかわいそうでしょうがない」
「本島の大家族、千鶴ちゃんの身の上の物語、異国情緒たっぷりのドラマよね。」

ひとの人生をかわいそうと言っちゃう
苦労もあったであろうその身の上を異国情緒たっぷりと例えてしまう

「簡単に言うと、貧しい人の食べものということね?」

それを食べて育っている千鶴に言ってしまう

楽しい食の話に紛れて根底に流れるうっすら不穏な空気…

千鶴と友達になりたい千鶴子、でもなんだか下に見てる感じよね?気づかなきゃ友達にはなれないでしょうに

千鶴のことが好きな千鶴子は彼女を保護したい
でも千鶴は保護されたくない、対等でありたい
千鶴も千鶴子に好意を持ってるんだけど
千鶴子の言動に自尊心を踏みにじられたように感じてる

はてどうなるのか…?という話

台湾料理に精通している人には楽しいかも 沢山の料理の描写がでてくるので。
終盤 美島さんが説明してくれるのでそれでなるほどと思わせてくれる。

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2025年05月30日

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