【感想・ネタバレ】空也上人がいたのレビュー

あらすじ

山田太一の19年ぶりの書き下ろし力作小説。特養ホームで老婆を死なせてしまった27歳のヘルパー草介は、女性ケアマネの重光さんの紹介で、81歳の老人の在宅介護を引き受ける。介護する側の疲労、介護される側のいたわり。ヘルパーと老人とケアマネの風変わりな恋がはじまる。彼らはどこまで歩いていくのか。そして、心の痛みを抱える人々と一緒に歩いてくれる空也上人とは?重くて爽やかな衝撃作。

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Posted by ブクログ

ネタバレ

中津草介27才。
重松雅美46才。
吉崎征次郎81才。
三毛猫、年齢性別不詳 。
空也上人。

それだけ・・・



「もう願いごとも
いくらも果たせない齢になり
あと一つだけ
小説を書いておきたかった。」

2011年 山田太一さんの作品。


中津草介27才。
特別養護老人ホーム(特養)で勤務していたが、ある事件がきっかけで退職。現在は吉崎征次郎の介護中。

重松雅美46才。
ケア・マネージャー。独身。

吉崎征次郎81才。
独り住まいだが、ある程度の生活力はあるが今は草介に介護をしてもらっている。

三毛猫、年齢性別不詳 。
ところどころで出没。

......................................................

この青年、女性、老人。
これまでの生き方、価値観
3人とも異なっている。
3人とも秘密がある。
3人とも心に傷をもつ。

それでも
この3人は日々真剣に生きてきた。
そして生きている。
それぞれを思いやりながら。


例えば青年(草介)・・・
特養でヘルパーをしていた時に
認知症の女性を乗せた
車椅子から
老女を転げ出してしまう。

“はずみ”で。

誰も責める人はいなかった。
「よくあることだから」と。

しかし
草介は特養を退職し
ケアマネの重光さんの紹介で
現在の吉崎さんの介護につく。

ある日吉崎さんから
京都に行くよう依頼を受け
六道の辻を通り
西光寺(六波羅密寺)で
木造の空也上人と出逢った。

空也上人――――――――――――
死屍累々の鳥辺山を
歩き続けた。

善人悪人なく
誰もが持つ生きている悲しさ
死んでしまう事の平等さを
汚れた草履で
疲れても
小さな声でも
少し顎をあげながら
それでも
歩き続けた。――――――――――――

楽しみや悲しみや悔しさを
お互いに共有しながら
生きていく。

約2ヶ月
3人での時間が終わる時
空也上人と出逢う意味を知った。

吉崎さんの持ち続けた自責の念
重光さんの虚勢の強さ
草介の自分との葛藤

そんな3人であっても
ともに歩いてくれるのが
空也上人。

......................................................

さすが山田太一さん。

私のような普通な人間でも
「よくあること」でも
人によって
それぞれ
どうしようもない
大きな悲しみや傷
弱さや欲を抱えている。

それでも
誰にでも
空也上人と出逢う事が出来るんだ!

生きる希望と勇気を与えてくれる。

この本も大切にしよう。

あと
三毛猫は六道の辻かしら…

0
2016年05月01日

Posted by ブクログ

ネタバレ

一気に読んでしまった~私は27歳の介護士で特養で老婆を車椅子から放り出してしまい,それっきりで辞めてしまったが,ケアマネージャーの46歳の重光さんは一人暮らしの81歳の吉崎さんの在宅介護を紹介してくれる。車椅子だが病気も呆けもなく,月25万だが,それ以上に出てくるご馳走に驚かされる。病院の付き添いの帰りにはデパートで自分の体型に合った有名ブランドの服まで買ってくれ,京都への使いを言いつかる。東山の松原通りの六原の辻に行けと携帯で指示され,六波羅蜜寺の宝物殿で空也上人の像を下から覗くと,空也上人の眼が光り,どうしようもなく動揺し,特養の入所者を死なせてしまっても仏教に帰依すれば大丈夫だと言われているようで,雇い主の吉崎さんの押しつけが不快で,辞めることを重光に告げると,雇い主は素直に詫び,重光と私が結婚したら財産を相続させようと新たな申し出がなされる。吉崎さんが重光さんを気に入っているのは解るが,ちょっと気になる相手であることは年齢の差が障害であることは確かだ。結婚はありえないと答えると,新しい提案は,目の前でセックスすることだと呆れたことを言う。六波羅蜜寺に行かせた理由を吉崎さんは話し出し,証券会社のお得意さんに儲けさせて褒美を貰って帰る道で,2・3歩道を踏み出し,偶々通りかかった自動車が急ハンドルを切って死亡した事件で取り返しの付かない事をしでかした自分に,空也上人が寄り添ってくれる感覚を得たからだった。一切の申し出はなかったことにされ,たまには実家に顔を出すように言われて5万円のボーナスまで渡されて,豊橋へ出掛けた夜,警察に呼び出された重光さんから吉崎さんが死んで,書き置きが遺されたことが告げられた。睡眠薬を飲んでの入浴。通夜の夜,吉崎さんが熱望し,二人が密かに夢想した関係となる。呼びかけても返事が返ってこない妻の車椅子を押して,新宿の町を歩く~山田太一って,もしかしたら初めて読んだかも。夜10時過ぎから2時間で読んでしまった。81歳の男性って山田さんの数年後の姿だろうか。二人が年取った最後の場面は,やっぱり必要なんだろう。ドラマになるとしたら,シナリオライターは最後の部分をカットするかも知れない。一晩限りか,一生を共にするか,という含みを持たせるためにね。木下恵介のシナリオライターとしての拘りが見える気がする。いずれにしても2時間ドラマ

0
2011年06月29日

Posted by ブクログ

ネタバレ

久々に山田太一を読んだ。
やっぱり、映像が浮かんでくるその構成力と、淡々とした冷めた語り口が、独特の世界感を生み出している。
いつのまにか山田太一の指揮で踊っているような。

空也像は好きで六波羅蜜寺まで見に行ったけど、下からは見たことがない。
でもその眼力はすごかった。さすが運慶の4男康勝作。鎌倉中期作のこの像は、慶派に代表される、くりぬいた部分に水晶を嵌め込む「玉眼」という手法が使われている。どこまでも見通す目は確かに平伏してしまうような凄みがある。空也の修行でやせ細った身体、少し乱れた法衣、その口から魂の叫ぶのように出てくる六仏。
恐らく山田太一はこの像を見てこれだけの話のプロットがまざまざと浮かんだのではなかろうか。それだけの像なのである。

ラストは「目の前のセックス」がそうきたか、という感じはあった。まるでダンスのような、儀式のような。敢えてそのものの描写は避けて。
正直すごく意外ではなくて、山田太一ならこうくるだろう、と想像は出来る。その辺は、「飛ぶ夢をしばらく見ない」などの小説より弱い気がする。

しかしやはりその流れる音楽のような進行と余韻を感じさせる文体は好きだ。
一貫して見えるのは、枯れた色。
吉崎老人だけではない。若い草介も、ケアマネの女性も。
いや、むしろ吉崎老人のほうが色をもっているのかもしれない。

以前ラジオドラマで大滝秀治さんが吉崎老人役をやったそうだ。
見かけではもっと俗物的な老人がいいような気がする。

0
2012年11月03日

Posted by ブクログ

ネタバレ

山田太一の描く大人の御伽話。誰もが心に持つ「抜けずにいる小さな針先」のような罪と赦し、高齢化社会における尊厳死のあり方、介護の現場の厳しさ、40半ばの女性と20代の若者との恋愛。こんな都合のいい筋書きは現実にはないだろうと思いつつ、最後に救いのある話だった。

人は幾つになっても恋をするし、恋をするとその人の幸せを願うものなんだな。
「サバサバしていて色っぽいのはせいぜい十代の終わりくらいまでで、四十代のサバサバは、ただしらじらとしているだけと思うけど、八十代から見ると、自分の齢の半分くらいなのだから随分若く感じるのかもしれなかった。」イタい言葉だ。
来年は、京都に行ったら、六波羅蜜寺の空也上人の光る眼を見たい。

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2011年05月23日

Posted by ブクログ

ネタバレ

空也上人がいた

老人介護を仕事としている若者と何かと彼の世話をやく中年のケアマネージャ、そして風変わりなケアーされる老人。その三人の関係性の中で、老い、恋、死が語られます。
空也上人は、無常な世の中を生きていく上での救いのイメージとして描かれています。
介護人をすぐ首にしてしまいながらも、何故を全く話さない老人。そんな老人のケアーを特殊老人ホームの仕事に切れてやめてしまった青年が担当することになります。次々に繰り出される老人の奇妙な頼みに当惑し、怒りつつもケアマネージャの助言によってなんとかケアーを続けるのですが、その三人の関係性が年の離れた恋に起因していることがだんだん明らかになっていきます。うすうす感じていた気持ちに気づかされていく二人とそれを楽しみながら導く老人。そして、老人のあっけない死。
この小説はある意味山田氏の遺書なのかもしれないなあなどと感じながら、人とはなんとやっかいなものだろうと思いつつ、まあ、それが人だろうなんて生意気なことを思ったりもした竹蔵でした。
ちょっとしんどくて辛気くさい物語ではありますが、そろそろとすり足で近づいてくる老いを考えさせられる本でもありました。

竹蔵

0
2025年07月21日

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