あらすじ
高校生の木島道歩は、尿路結石で入院していた病院で16歳の誕生日を迎えた。またみんなに馬鹿にされる……。そんな木島に「ねえ、君にお願いがあるんだ」と声をかけてきたのは、不治の病とたたかう綿野という少女だった。「この世界の、薄汚い、不幸せなことを私に教えてくれないか。もっと、もっと、もっと」――。二人は「生きる証」を打ち立てようと、嘲笑と裏切りを突き抜けて進んでいく。第11回ポプラ社小説新人賞受賞作。
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Posted by ブクログ
最初の数ページで「忍耐のない読書が楽しめる」という確信に至る軽妙なリズムと文字触り。
なんと、デビュー作!
ありがたい装備済み納品だが、完全に包んじゃっててカバー外したとこが読めない…慎重に切り裂いて読める形で再装備予定。
尿路結石で高校デビューに失敗した道歩と、余命わずかな綿野。
そして道歩の愉怪な同級生たちによる「生きる」ことの意味を問いかける自省促進小説。
テーマとしては激重なんですが、ツッコんでいいのか悩む塩梅のボケと自虐。
そして主人公であるにも関わらず、やたら冷たい扱いを受ける道歩とそんな自分を俯瞰で語る不思議な笑い。不思議と深刻さとか切実な悲哀みたいな空気は薄くて。
でも人間、己の精神と現状の切り離しには限界があるもので……本来ならとっくに限界を超えていた道歩も、綿野の要求によって立っていることができていたんでしょうね。
夜のトイレのくだりなんか、終わりの見えない地獄を生きることの苦しみはどっしりとした質量をもっていて……「余命宣告」が片側に載った天秤をしっかり揺らしていたように思います。
生きたいのに死ぬひと。
生きることに耐えられず死を選ぶひと。
道歩がその道を選択肢として用意しなかった以上、この物語の芯はそこの比較ではなくて、あくまで2人の関係性を辿るもの。
とわかりつつも、綿野と道歩の境遇を並べるとどうしても考えてしまいます。
リアルでいじめを苦に命を断つひと。
そのニュースを見て「生きたくても生きられない人がいるのに」というひと。
「生きること」の意味なんて人によって違うし、境遇や状況によって「いのち」の主観的な重さと「死」の位置付けはいくらだって変わる。
生きたいのに生きられないから、生きる価値を掻き消して欲しいとねだった綿野。
「生きること」の意味を希薄にしたいんだという言葉を信じて自分の不幸を差し出す道歩。
俯瞰で見ると、そんな彼の存在は綿野にとってこの世への最大の未練になってしまったように見える。
でも、さらに遠くから眺めてみると、道歩が極楽鳥花の彼だと知っていた綿野は、すでに中2のあのときから「生きること」の中に自分だけの光を見出していて、生への渇望は芽生えてしまっていたんでしょうね。
すごく歪な関係だし、完全に理解することなんて不可能な世界だけど、なんか「明日もとりあえず頑張るか」って思う読後感でした。
ポップを花火バックの黒傘下の2人にするか、ひまわり畑の綿野にするか悩むなー。