あらすじ
魂は身体の細部にこそ宿る
隠された美を掬い取り、やわらかに照らし出す。極上の随筆16篇。
イチローの肩、羽生善治の震える中指、ゴリラの背中、高橋大輔の魅惑的な首、ハダカデバネズミのたっぷりとした皮膚のたるみ、貴ノ花のふくらはぎ、赤ん坊の握りこぶし――身体は秘密に満ちている。
「文藝春秋」大好評連載を書籍化。
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Posted by ブクログ
スポーツ選手、将棋の棋士、俳優、文楽の人形遣い、赤ちゃんなどの体の一部に焦点を当てたエッセイ。他にもレース編みをする人の指先、とか、動物の体に着目したものも。「ハダカデバネズミの皮膚」っていうのが面白かった。それぞれ写真が添えてあり、「外野手の肩」のエッセイではイチロー選手が遠投しているときの写真が載っている。本当に、美しい。「力士のふくらはぎ」では、もうほぼ、後ろに倒されているのに、それでも相手より持ちこたえようと、ひざから下の力だけで自分の全身を支えているありえない写真が。
「その時」体の一部がどうなっているのか、なぜこんなにも美しいのかと、小川洋子さんにしか綴れない言葉で綴っている。本当に、小川洋子さんの表現は素敵です。
ハダカデバネズミはその名の通り、裸で(毛が無い)、歯が出っ張っている。何とも言えない外見なのだが、それを「美しいと表現しても何の不都合もない」と小川洋子さんは言う。
鍛え抜かれたスポーツ選手や芸術家、その道を究めた人たちの身体の細部の美しさや、進化を究めた動物たちの身体のつくりがなぜ美しいのか独特の言葉で、ユーモアもたっぷりに書かれていてとても面白かったです。
Posted by ブクログ
6ページの文章と1枚の写真から成る16編のエッセイで、それぞれが完全に独立しているので好きな所から読める。
文章は短いけれど視点が鋭くて無駄がなく、エッセンスがギューッと濃縮された感じだ。
最初は「外野手の肩」…外野手とはイチローのこと。
外野からホームベースへの返球を見て、これだけの表現ができるのかと驚いてしまう。
2番目に読んだのが、最後の「赤ん坊の握りこぶし」。
ネタバレになるが、一部分を少し要約して紹介する。
生後二、三カ月の赤ん坊が、片手を上げ、自分の握りこぶしを真剣に見つめている。
(どうやら、この赤ん坊は小川洋子さんご本人のようだ。ここから話が始まる。)
赤ん坊は生まれた時、自分の身体について何も知らない。
ある日、枝分かれした棒状の五本が、折れ曲がりながらいろいろな形を生み出している、手、というものの存在に気づく。
それが自在に動き、姿を変える過程と、自らの意志との間にどうもつながりがあるようだと感じるのも、不思議な体験に違いない。
こんな感じで、全16編で「何と、そこを見ているのか!」という新鮮な発見に巡り合える。
同じものを見ていても物理的な形や姿だけでなく、小川洋子さんにはその内面にある本質まで見えていることが伝わってくる。
小川洋子さん、情報の input 能力も凄いが、それを既知の知識と融合し、的確に分析し伝える output 能力にも長けている。
有名なアスリートや芸術家を取り上げたものが多いのだが、一般人の営みを題材にした「レース編みをする人の指先」も良かった。