あらすじ
【第42回 星雲賞受賞作品】米国同時多発テロも、あの大地震も、犠牲者はゼロ!? 2001年9月11日、24世紀から「ガーディアン」と名乗るアンドロイドたちがやってきた。圧倒的な技術力を備えた彼らは、世界中の軍事基地を瞬く間に制圧し、歴史を変えていく。しかし彼らの目的は、人類の征服ではなく、「人を不幸から守ること」だった――。ガーディアンのもたらした情報によって、本来の歴史で起こった自然災害、テロ、戦争、大事故などが防げるようになった一方、未来の自分からのメッセージに翻弄され、人生が大きく変わってしまう人も多くいた……。主人公は、45歳のSF作家。10歳年下の妻と5歳の娘とともに幸せに暮らしていたが、事件翌日、美少女アンドロイド「カイラ211」の訪問を受け、AQ(知り合い)に選ばれたことを知る。未来の自分からのメッセージと作品データを、カイラから受け取る主人公。それは、彼の人生に大きな波紋を起こしていく。衝撃と感動の歴史改変小説。
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Posted by ブクログ
山本さんはSFという仮定の世界設定の中での人の心理や行動を推察するのがすごく上手で、納得させられる。
今回は未来からタイムマシンでアンドロイドがやってきた。
その目的は人を不幸から守ること
さて、人類はどうする?っていうお話し。
人は決して論理や倫理だけの生き物ではない。
意地や信念、楽観や誤解それに過剰な利己心や理由のない悪意などによってどうしようもない間違いをする。
ここら辺はトンデモと戦い続けている山本さんの考察はホントに感嘆の域。
どうしてこんなバカなことをするの?それでもしてしまうのが人間なんだよ的な...
アンドロイド側も強引すぎ
アイの物語でもでてた、「自分がして欲しくないことは隣人にしてはならい。他の全ての法律はこれの注釈である」って言葉が凄くすき。アンドロイドの行動はこれに反しているよね
必要なことは、情報は開示すること。どうするからは自分たちで決めさせること。当事者とは求められて範囲で交流すること。
最終的なアンドロイドの結論もそれだったし、それが一番だよねと改めて実感。
タイムパラドックスについて、何とも言えないなあ
その世界軸にタイムマシンで2度以上戻れるならなんで今まで誰も現れなかったの?ってなる。一度しか戻れないなら納得。
時間軸と空間軸が入れ替わるというのは面白い発想。
最後にロボットが地球を侵略する話について。
生存本能を持つ人工知能が開発されたとして、それはバーチャル空間で活動するんじゃないかということ。ロボットはあくまで人類の道具としての機能に留まるじゃないだろうか。ポスト人類のロボットではなく、電子世界に息づくことになるだろう。
Posted by ブクログ
最初の数ページを読んで、あれっっておもった。
おいおい、これって著者自身がモチーフかよ。ってツッコミを心の中で入れたが、認識が甘かった。主人公が山本弘だと名乗ってしまった。
自分自身が主人公のある意味自伝で、著書の解説書だ。
それほど本を読んでいないため、この手法がどれほど一般的なのかわからないが、びっくりした。自分を自分のままSFの主人公にするなんてね。
ただ、これを読む前に山本弘の作品を概ね読んでおいた方がいい。
読んでいるから感じるのかもしれないが、ネタバレも含まれている。神は沈黙せずなんかは、特に、結構大きなネタバレだとおもう。
Posted by ブクログ
未来から大量のロボットがやってきて、人類を良き方向に導こうとするが、個人や社会に様々な問題も発生するという話。
タイムパラドックスものは思考実験のようなものになりがちだが、この話の個性的なところは、作者が自分に降り掛かったらどうだろうかという思考実験を公開しているところと言えるかもしれない。
未来から数百万のロボットが人類を助けるためにやってきて、人類を良き方向に導いていく。山本さんのところには特に親しくやってきて、未来の自分からのメッセージを置いていく。
しかも、連中は自分のいた時代から1年ごと遡って、10年間滞在するということをもう300年もやっているというのだ。
のだから、山本さんに関わるのももう10回目とかで、どんどん枝分かれする影響時間軸や、どんどん増えていく平行世界の山本さんが、思考実験をどんどん複雑なものにして行って、発散した挙句論理よりも感情の世界に突入してしまう。
思考実験について、
私はSFの醍醐味は付加要素(もしくは欠落要素)が発生したときに人間はどう動くかということだと思ってるのですが、この話だと、自分にこういう事件が降りかかったらどうなるだろう、そしてどう思うだろう、というのを、かなり山本さん視点で書いていて、作者に親しみを感じると共に、自分であればどう感じるだろうということを想起させてくれて面白かったです。
その上で、登場人物に現実の人が大量に出てきて、こんな事まで書いてしまって良いのか?と思ったり、最後にこのメインの山本さんがひどい目にあうくだりでは、これ見てご家族怒らないのかなあ、とか、余計な心配もしてしまいましたよ。
結局、ロボット君たちがやっている人類救済というのが、おせっかいなのですよね。
現実のおせっかいというのも、良かれと思って手を出して、あんまり良い結果にならないことがままある。余計な手出しをして、かえって悪い結果になることもあるのであれば、本人に任せたほうが良いだろう、となってしまうのに、
ロボットの最大の快楽は人助けで、悪いこともあることはわかっていても、やめられないという展開には、じゃあしょうがない、となってしまいました。
このあたり、人間だとどうしても「お前たちのためにやってやっているんだ」から逃げ切れないところ、ロボットの本能に根ざした行為にすることで、それまで人間と似せても異なる存在であることを示していたこともあり、欲望からは逃げられないという点で、別の視点の「人間味」を感じさせられました。
人間同士でも私が感じる「話せば分かる」は、理解を深める事で同じでないことを認識する、ことを示してくれたような。
それでやはり山本さんの作品世界は好きだと思うのだけど、それだけにメインの山本さんの不幸が残念でした。
別の時代の山本さんが救われてても、やはり残念で、私の中で星をひとつ落とした感じです。
教訓:自分を見つめることをためらっているとろくなことにならない。
Posted by ブクログ
作者自らが「私小説SF」という本作。
普段通りの小説家としての日常を送る作者の世界がある日を境に一変する。突如やってきた、9.11テロを未然に防いだ、という未来からのアンドロイド。
彼らは「歴史上起こった災害や事故」を未然に回避させるためにやってきたのだという。
そして作家山本弘は美少女アンドロイドの訪問を受け、未来の自分からのメッセージとこれから書くであろう作品を受け取る。
実名とかもバンバン登場する一風変わったつくりの小説。なるほど。私小説SFか。
SFというと結構ややこしい理論だとか複雑な設定を読み込むまでにちょっと骨みたいな印象が強くてあんまり手を出さずにいたところが大きいんですが、こういう感じだと自分のような人間にも読みやすくていいです。非常に間口が広いというか。
それでいて内容もなかなかに面白いし。後半の暗い展開はそれまでが(それなりに)ほのぼのとした日常めいていたせいか幾分鬱になりましたが・・・
Posted by ブクログ
アンドロイドが改編した時点でパラレルワールドになるとしても、過去の人類の生活を改善しようとタイムトラベルしに来るというお話。うーん、そういう思考をするようになるかな。。
AIの思考は、人類と接触するのであれば、チューリングマシーン的にある程度相互理解が可能なやり取りを出来るようでなければならないとは思うのだけど。どうもその思考にリアリティを感じない。
超越者が神様にしろ、宇宙人にしろ、未来人にしろ、アンドロイドにしろ、物語にするために、顕現させるとこういう発想になりました、ということかな。
2300年で概ね人類の幸せのためにやれる事はやり尽くして、後は過去を改編して幸せに感じる人間の総量を増やす。そう、多分、SFを読むときに先鋭や未来を見たいのだけれど、2300年の先は特にありませんと言われるように感じるんだよね。アンドロイド目線では先が過去なんだろうけど。やっぱり違和感あるな。
Posted by ブクログ
読ませることは、読ませる作品。
ブログやホームページなどの文章に近い、
ネット的な文章。
いかに読ませるか、に主眼が置かれている
(作者自身も、作中で、そんなようなことを
書いている)。
普通、小説は電子版になると一気に読みにくくなるが
(青空文庫でもわかるように)、
この小説は、電子版になってもわりと普通に「読ませる」
のではないかと思う。
出だし100ページくらいは、
主人公(作者の山本)が未来から来たアンドロイドと
延々と話をしているだけで、何の展開もないが
(ウルトラセブンの例えが出てくる)
それでも読ませるし、引き込まれる。
設定もしっかりしていて、ワープやタイムトラベルは、
人間では不可能だが、ロボットだったら可能、とか
こういう話の場合、ロボは数体しか来ないが、
500万体も来て、事態の収拾にあたったり
(そのくらい来ないと、無理でしょう)
ターミネーター型の歴史改編でなく、パラレル分岐型なので、
タイムパラドックスを発生しないとか
宝くじや競馬の結果は当てられないとか
(ただし、カオス理論の前提として、天気の予測もできないので、
天気や、地震が予定通りに起こるのは、たぶん間違い。
人間や動物が息を吸ったり吐いたりしているだけで、
天気なんて、予定とは変わってくるはず)
宝くじの予測はできないが、
普遍的なものとして、科学技術は有効なので、
それにより、金儲けをしたり、などなど
(未来から金を持ってくると、同一ナンバーで、偽札の疑いを
かけられるとか、芸が細かい)
ただ、欠点として、コンセプトに一貫性がない。
作者のHPをみると、あらかじめ言い訳めいたことが書いてあるが
・微妙な読後感になることを覚悟してほしいこと
・アンドロイドが理想的な人格であるという結論は、
すでに前作で出たので、今回はそれをさらに進めて、
そこに疑問符をつけるということ
の、2点がかかれている。
そして、「善意からの行動が本当に人のためになるか」
ということを、テーマにあげている。
しかし、そもそも、このテーマの上げ方自体がおかしくて、
「善意」が人のためにならないなら、一体、なにが
人のためになるのか?
はっきり言って、問うまでもない、バカげた質問だと思う
(ちゃんとした善意なら、人のためになるに決まっています。
作者だって、安田均に金を借りに行って、あっさり貸してくれたことに
感謝しているではないか)
そして、実際は、これは「問われる」訳ではなく、
作者が「答えありき」で進めている。
すなわち、この作品のテーマとしては、
必ずしも、善意が、いい結果を生むとは限らない、という
「答えありき」で進めているので、なんだか不自然なことになっている。
たとえば、未来が改変されたことにより、フィギュアスケートの
選手になれなかったとか、より不幸になった人たちが出てくる。
作者自身も、妻と娘を失う。しかし、これはアンフェアであろう。
なぜなら、911テロで犠牲になるはずだったが、命をすくわれた人とか
虐殺から救われた人、拷問から救われた人などが、
(つまりそちら側の視点が)まったく出てこないのだ。
だから、アンドロイドが「悪いことだけ」をしているように見えるが、
実際は感謝している人だってたくさんいるはずである。
作者の最後に言う、外国で人が何人死のうが、
家族が無事ならそれでいい
(ハリウッド映画などで、さんざん繰り返される、エゴイスティックな
視点だが。赤の他人がどれだけ死のうが、主人公の家族さえ助かれば、
ハッピーエンドで、ちゃんちゃん式の)
とにかく、その主張にしても、仮に作者の家族が911テロにより
死んでおり、アンドロイドの改変により助けられたとすれば、
まったく逆になり、赤の他人はどれだけ死んでもいいから、
家族を助けてくれて、ありがとう、ということになる。
つまり、立場次第で、どちらにでもなる、なんの正統性もない
主張である。
ここら辺に、最初から、テーマの結論ありきで進めている
作者の「作為」が透け見えるので、いかがなもんかと思う
(改変=悪、という、一種、保守的な)。
あと、作中で、「確かにすばらしい文章だが」とかいって、
自分の文章を褒めさせるのも、やめた方がいい。さぶいので。
あと、現実がSFになったので、SF小説が売れなくなるとか(なぜ?
SFなんて、だれも「本当のこと」だと思って、読んではいないが?)
未来の作品を使うのにやたら抵抗を持っている姿勢もよく分からない
(潔癖な僕、を演出したいみたいで気持ち悪い)。
パラレル構想が広がりすぎて、収拾がつかなくなるラストも、
「やりがち」なのだが、結論がないなら、書かなければいいのに、
とも思う。
コンセプトの一貫性の無さとしては、やはりタイトルで
「去年はいい年になるだろう」というのは、ブラッドベリばりの
抒情的ないいタイトルで、ラストは、たとえば
「幸せな未来」を予感させつつ、宇宙船が飛んでいって、終わり、という
いかにも「去年はいい年になるだろう!」という
山本視点で一貫させるべきだと思うのだが、
全然、そういう結論にならない(し、視点もおかしい)。
作者自身が、作中でも言っているが、なにか絶望的な終わり方になっている。
ほとんど「奇妙な味」みたいな、ホラーに近い終わり方である。
書いているうちに、初期コンセプトとずれていったのかもしれないが、
だったら、タイトルの方を変えるべきだったと思う。
視点については、「去年は~」というタイトルは、
タイムトラベルをしない、山本の視点のはずなのだが、
話のメイン・視点は、どう考えても未来人の方であり、
内容も、どちらかと言うと
「2001年分岐における未来人たちの失敗例~次はうまくやります~」
という感じだと思う(つまり、視点が逆である。主人公、
フェイドアウトするし。だれが「去年は~」って言ってんだ?)。
なぜこういうことになったのかについて、作者はHPで、
大局を動かすような大物でなく、小市民の視点から、
書きたかった、といっているが、
これが裏目に出ていて、主人公が、全然主人公っぽくない。
作中で、作者は、リセットをかけているのは未来人の方で、
我々は、1度きりの人生を、うんぬんかんぬん、といっているのだが、
これをTRPGやゲームでたとえるなら、実は未来人(ロボットだが)が
プレイヤーであり、
作者を含めた現地の人々は、その他のNPCと言っているようなもんである
(話に全然、関わらない訳である)。
しかもNPC(市井の人)の視点で一貫されているかと言うとそうでもなく、作者の好みとして、SF設定の根幹部分を書きたい、という姿勢があるために
より、「メインから外されている」感、「関わっていない」感がある。
で、結局、タイトルだのなんだのは、置いておいても、
グループSNEで、未来から来たトラベラーを見守るくだりまでは
おもしろかったので、あの攻防まででいいので、
そのあとの、とってつけたような悲劇的な展開とか、
カオス的説明とか、
25歳くらいの山本のエピローグとかは、
いらなかったのではないかな、と思う。
そして、とにかく原理主義だの陰謀論だのを信じるバカが、
平和を無茶苦茶にして、「人類は永遠にバカ」という絶望的な
テーマが見え隠れするのだが
(未来からやってくるやつらも、バカ。ただし、作者自身まで
発病してしまっている、くだりは面白かったが)
作者の絶望的な世界観を、娯楽が読みたい「読者」に向けて、
強要する姿勢も、いかがなものかと思う。
作者に言わせれば「世界ってそういうもんだ」ということなのだろうが、
「世界がそうだからといって、フィクションの世界まで、
そう書かねばいけないという、法は無い」と、
誰かが言っていた気がする(吉村夜か?)
読者を気持ちよくさせる為だけに、妄想・ハーレム・ラブコメを書けとは
言わないが、せめてもうちょっと「明るさ」とか「勧善懲悪」とか、
あってもいいだろう、とは思う。
結局この話は、人類の革新などは(冨野が好きなテーマだが)存在しないし、
現状維持以外の解決策もなし、という、
ぐるっと回ってスタート地点に戻るだけの、なんのこっちゃ、な
話のなので(あえていえば、「今の現実が一番いい」という
現状肯定妄想?)
読んだ人も、なんだかなあ、と思うのではないだろうか。
せめてコンセプトが一貫して、きれいに落ちていれば、
話として楽しめたから、それでオッケー、となっていたのだが。
Posted by ブクログ
著者のアイの物語はだいぶ昔に読んだ。SNEあたりのことも、と学会あたりのことも、昨今の出版事情も、SFまわりのことも深くは知らないが、ぼんやりとは分かる。なので、今ある時間軸と、この物語の中で語られる時間軸の内容の差異やあるいは同じ部分とか、そういう叙述部分の仕掛けは楽しめた。詳しい方は、出てくる登場人物や作品名に「あー、あれ」のような、共感というか、共犯めいた感情を抱くことができると思う。
読み始めた当初、幼年期の終わりみたいな設定だな、と思った。と同時に、いい終わり方はしないだろうな、とも。
物語のすすみが、日記を小説に起こしている、という設定のためか、非常に淡々としたもので、起伏に乏しい。実在の人物と同じ姓名であるため、主人公への感情移入もしづらいものがある。そのため、私には少し読みづらいタイプの小説だった。
星雲賞受賞作と聞いて手にとってみたのだが、読んだ後、星雲賞受賞と聞くと、読者側の毒みたいなものを感じてしまうのは……うがちすぎなのかもしれない。
Posted by ブクログ
未来からアンドロイドが人間を救うためにやってきて現在に介入する。
というSF読みにはおなじみの設定だが、身内ネタ・事件ネタ・トンデモネタ・
SFネタを薄くとりこみ、最後までは一応飽きずに読めた。
*******以下本当にネタバレ***********************************
タイムトラベル物だと、未来を知ってどのように行動するか。
ということが主体に書かれることが多いが、本作品でも未来の自分に
託された、既に書かれた本のデータをアンドロイドから渡されるが、今の
自分が書いた作品ではないので、それをそのまま使うことに違和感・
ためらい・後悔を覚えるシーンが何度も出てくる。
唐沢俊一も出てくるので、このような形式をとって、他人の作品を
自分のものととして発表することについての突っ込んだ話になるのかと
一瞬思った。
SF作家が書いた私小説と理解すればすんなり受け入れられるし、
飽きずに最後まで一気に読めたが、主人公が最後にアンドロイドに
「なぜ黙っていた!」と詰め寄る件については、なんでそこ?最初から
わかるだろ普通、と正直脱力した。
エピローグで明かされる嫁が「オレ女」設定だったことが、本作品で
一番びっくりしたところ。