あらすじ
「彼の一生は失敗の一生也。彼の歴史は蹉跌の歴史也。彼の一代は薄幸の一代也。然れども彼の生涯は男らしき生涯也。」――芥川龍之介
平安末期。十二歳の少年・駒王丸は、信濃国木曽の武士・中原兼遠の養子として、自然の中でのびのびと育つ。兼遠の息子たちとも実の兄弟のように仲良く過ごすが、彼は父と母の名も自分が何者なのかも、いまだ知らずにいた。
ある日、駒王丸はささいなきっかけから、同じく信濃の武士の子・根井六郎と喧嘩になる。だが、同等の家格であるにもかかわらず、六郎と根井家当主が後日謝罪に訪れる。二人は畏れ多そうに深々と頭を下げて言う。
「駒王丸殿はいずれ、信濃を束ねる御大将となられる御方。我ら信濃武士は、ゆくゆくは駒王丸殿の旗の下に集わねばならぬ」
初めて知る実父の存在、自らの壮絶な生い立ち。駒王丸、のちの木曽義仲の波乱の生涯が始まろうとしていた。
類い希なる戦の腕で平家を追い落とし、男女貴賤分け隔てない登用で、頼朝・義経より早く時代を切り拓いた武士。
彼が幕府を開いていれば、殺戮の歴史はなかったかもしれない。
日本史上最も熱き敗者、「朝日将軍」木曽義仲の鮮烈なる三十一年。
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Posted by ブクログ
「俺は、源氏の世など望んではいない。源氏も平氏も、百姓も貴族も無い。すべての者が、人として等しく生きられる。そんな世を、俺は望んでおります」
木曾義仲(源義仲)。私欲や野心もなく、常に"正しい"漢。
人としてはいいのだけれど、天下を取るような武将としてはだめなのだろう。天下人は毒を持ち周囲を欺く位聡い漢でないと。
もう少し要領良く立ち回ることができたなら…けれどこの要領の悪さが義仲の人としての良さなのだろう。だから配下の者たちにこんなにも愛されていたのだろう。
大河ドラマ『鎌倉殿の13人』で巴御前のことが気になっていたので、巴御前がたくさん出てきてとても嬉しかった。特に『鎌倉殿』以前のことが知りたかったので、今作で巴御前の生い立ちや人となりも分かって良かった。思った通りかなり波乱万丈な生涯。
葵御前の存在にも驚いた。しかも実在の人物だったなんて。この時代に複数の女性を戦に登用する義仲の手腕にはとても驚いた。
適材適所に配下の者たちを配置する。それぞれの性格を見抜き、得意分野等をよく理解しているから出来ること。義仲の組織のリーダーとしての素質は申し分ない。
まさに理想的なトップ。
それなのに、一体どこで間違えてしまったのか。
平家や源頼朝、朝廷の間でもっと巧く駆け引きできていれば。けれどこの真っ直ぐさがあったからこそ、最期までよき仲間に愛されたのもまた事実。
あれから何百年経とうと、人の心を今尚揺さぶる漢。戦の上では敗者であったけれど、歴史上の漢としては勝者であったと思う。
かなりの頁数だったけれど、読みやすくて夢中になった。他の作品もまた読んでみたい。