あらすじ
東大のスキー山岳部に8年在籍し、カラコルムの難峰K7を初登頂に導いた永田東一郎は、登頂を機に登山の世界から離れてしまう。
建築の道に進んだものの、次第に仕事を減らし、不遇のまま46年の生涯を病いに逝ってしまった。
輝いていた1980年代という時代と下町で地元にこだわり続けた永田東一郎。
圧倒的な存在感を放ちながら、破天荒で自由な生き方に、高校の後輩として永田を見てきた作家の藤原章生氏が迫る。
■内容
プロローグ 十二年後に知った死
第一章 十七歳の出会い
濃くなっていく永田東一郎の記憶/「田端の壁」初登攀
第二章 強烈な個性
南硫黄島の 「事件」/「くだらないぞ、そんな生き方」/自由すぎる校風
第三章 下町育ちの“講談師”
母仕込みの一人っ子/酒好きの父親/地元好きの「東京土着民」/情けない自慢好き
第四章 東京大学スキー山岳部
試練の夏合宿/「チュザックではさあ」
第五章 生まれもった文才
読み手意識の表現者/中学時代の虚無/ジャーナリストヘの厳しい書評
第六章 強運のクライマー
「ガーディアン・エンジェル」がついていた/歯がたたなかった「青い岩壁」/滑落五〇〇メートル、奇跡の生還
第七章 K7初登頂
「普通の頂上」だった/真摯で緻密な戦略家/消えた山の情熱
第八章 山からの離脱
四つの仮説/表現の舞台消え
第九章 不得意分野は「恋」
十年の片思い/結婚という名のプロジェクト
第十章 迷走する建築家
下積みに耐えられず/脱構築、ポストモダン/建築も人を殺す
第十一章 酒と借金の晩年
人の金で飲み続け/あっけない死
第十二章 時空間を超えた人
過剰なほどの存在感/一九八〇年代、時代の輝き
エピローグはじまりの山、おわリの山
■著者について
藤原章生(ふじわら・あきお)
1961年、福島県いわき市生まれ、東京育ち。
86年、北海道大工学部卒後、住友金属鉱山に入社。89年、毎日新聞社記者に転じる。
ヨハネスブルグ、メキシコシティ、ローマ、郡山駐在を経て、夕刊特集ワイドに執筆。
05年にアフリカを舞台にした短編集『絵はがきにされた少年』で第3回開高健ノンフィクション賞受賞。
主な著書に、 『ガルシア=マルケスに葬られた女』、 『資本主義の「終わりの始まり」』、 『湯川博士、原爆投下を知っていたのですか』、 『ぶらっとヒマラヤ』など。
23年5月、中央大法学部の講義録『死にかけた人は差別をしなくなる』 (仮題)を出版予定。
感情タグBEST3
Posted by ブクログ
なんだかわからんけど面白かったし、いろいろ考えさせられた。あとがきに、このノンフィクションの主人公の長男長女に著者が、お父さんはそんじょそこらにゃいない、本当に面白い人だったよ。と捧げる言葉があるが、こーいう人がある一定数いる世の中じゃないとつまらないのは確かだ。メルカリで買おうとしたら、全部売れちゃってて仕方なく定価で買ったが、本当にいい本とはこーいう本じゃないのかなとワシは思うわ。
Posted by ブクログ
何故予約までして読みたいと思ったのか、多分登山家だと勘違いしたのだと思うが頭もよく行動力もあり文才もあるのに何故お酒に溺れてしまったのか、なんでもできる人だから人生に幻滅したのか、人は常に目標がないと生きられないのかも知れない。何故生きているのか未だに答えは見つからないが目標がなければ破滅しやすくなることだけは分かった。
著者も言っているが私も辛辣である永田さんの冒険談を読みたかった。
Posted by ブクログ
近年なかなか居ない破滅型エリートの栄光と挫折の話
エリートとなる才能・能力も破滅する度胸もない凡人からみても、一つの映画ような魅力的なストーリー(事実か(笑))で楽しく読めました
Posted by ブクログ
まるで映画のストーリーのよう。
こんな人生を送った人が実際にいるんだ。
主人公の永田東一郎は、一浪して東大に入りスキー山岳部に所属、1984年25歳にしてカラコルム山脈の難峰K7遠征隊の隊長を務め、初登頂を成し遂げた人物だ。
東京生まれて、高校2年の時に大酒飲みの父親(56)を亡くした。生活費が父親の酒代で費やされ質素な生活をしていたようだが、かなりしっかりした母親に育てられたようで、本に親しみ東大進学を考える。
そんな彼が、山登りに興味を示すきっかけになったのは、小4の1学期の時に、恐らく父親から少しでも離そうと自然が豊富な千葉の施設に、預けられたことがきっかけだったのかもしれない。そして山登りの記録が残るのは、13歳の時からだ。
東大に入学してすぐにスキー山岳部に入り、いくつもの死と隣り合わせの登山・岩登りの経験をしながらも(この紹介も凄く、まるで特撮を入れたスリリングな映画のようだ)、K7の登頂計画を綿密に行い遂に成功するもその後燃え尽き症候群のごとく、山から離れてしまう。登頂のトップではなかったことや、登頂後のマスコミの取り上げ方に不満があったことなどが考えられるが、事実は不明だ。
卒業後は建築家として歩みを始める。また暫くして結婚し子どもにも恵まれるが、自分が建築したデザインに対し絶対的な自信があったのか、所属する設計時事務所やクライアントと反りが合わず、好きなアルコールに溺れるようになる。家庭を顧みず借金をしてまでアルコールに浸り体を壊し、離婚、そして2005年に46歳で世を去ることになるが、まるで父親の後を追うような後半の人生だった。
彼はかなり個性的だったようだ。彼を知る人はそんな彼に惹かれていることが分かる。筆者も高校時代の後輩にあたり、彼の人柄に惹かれた人の一人でもあるせいか、永田の短い人生の生き様を描いた内容に自分も強烈に惹かれた。
彼と自分とは僅か2ヶ月しか生まれが違わないことから、育った場所が違えど世相や日本のおかれた環境には共通した景色が広がる。そんな変わり者だったら、学内でも有名で、もしかしたら友人の誰かは実際に面識があったかもしれない。。
彼が通った都立上野高校はかなり自由な校風で、彼の人格形成に大きな影響を及ぼしていたようだが、あまりおしゃれには頓着しないこと、女性には縁がなく不器用だったこと、そして何より山がすきだったことなど、破天荒で自由な生き方をした永田には共感するところが多かった。
あとがきも最後の段で、長女が幼いころの(優しい)父親の思い出しかないということ、そして著者がそんじょそこらの人ではないと表現し、その長女に捧げると述べているところは、心に響いた。
著者のこんな言葉もなるほどと感じた。
映画監督と建築家は将来の動向をよく見ていて、話も面白い。作家や詩人、哲学者、社会学者らよりも慧眼がある。
いずれも自分の作品が構想から形になるまで数年、あるいは十年もかかる。このため、ある程度は近未来を見通していなくてはならない。そして、作品づくりのため、実に多くの人員を動かさなければならない。三つ目は、完成までにかなりの得ち時間があり、その間に文学や美術、音楽など世の中の作品を広く勉強できる。このへんが作家らとは違う。
Posted by ブクログ
文章が上手で分かりやすく、あっという間に読み終わる。あとがきにあるとおり谷根千本郷の群像劇として読んだ。知っているところばかりで感情移入しまくった。
Posted by ブクログ
東大の登山家の方の生涯を友人が書いた物。山に一度魅入られた人々は〝山好き〟と言う言葉では足らなさすぎる何かを背負って生きてしまうのだろうかと、業のような物を感じた。