あらすじ
「わからなさ」を抱えて生きる方法を熱論!
情報や刺激の濁流にさらされる加速社会は、即断即決をよしとする世界だ。私たちは物事を性急に理解し、早々に結論を出し、何でも迅速に解決しようとする。しかし、それでいいのだろうか。「ネガティヴ・ケイパビリティ」とは不可解な物事、問題に直面したとき、簡単に解決したり安易に納得したりしない能力のこと。わからなさを受け入れ、揺れながら考え続ける力だ。注目の若手論客3人が対話でネガティヴ・ケイパビリティの魅力と実践可能性に迫る知の饗宴!
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リスクや不確実性に満ちた社会を渡り歩くために、大半の人は余計な時間やコストをかけることを避け、身軽で即断即決のスッキリした生き方、悩みや疑いなどないスピード感ある生き方を追い求めています。そういう流れに抗して、私たちはこの本で「ネガティヴ・ケイパビリティ」の価値を訴えようとしています。本書の試みは、濁流の中に「よどみ」を作るような仕事だと言えるかもしれません。激しすぎる流れの中で、魚やその他の水生生物は暮らしを営むことができません。魚などが暮らしやすい環境には、「よどみ」があります。同じことが、人間の生態系にも言えるはずです。何事も変化し続ける社会において「よどみ」は、時代遅れで、回りくどく、無駄なものに見えますが、そういうものがなければ、私たちは自分の生活を紡ぐことに難しさを感じるものです。逆に言えば、この社会に「よどみ」が増えれば、前よりも少し過ごしやすくなります。(「はじめに」より)
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Posted by ブクログ
3人の哲学者たちが、ネガティブ・ケイパビリティにまつわるテーマについて、熱く対話を重ねる一冊。
「あぁ、対話ってこんな感じで行われるのか~」
話が広がり、深まることが、知的好奇心をくすぐる。
本を読んでいると、自分もこの対話に参加したくなる。
(3人の議論についていける自信はないけど汗)
このような対話の場が現実にも広がると、なんだか日常がスッキリしそうだなと感じた。
知的興奮にあふれる一冊であった。
Posted by ブクログ
短絡的な理解、紋切り型の言葉遣い、敵味方思考、バカと言う優越。
この時代をめぐる悪弊の流れに棹さす試み。
たくさんの抜き書きをしました。
願わくば、ネガティブ・ケイパビリティそのものをもっと掘り下げて欲しかった。
しかし、それは自分に託された部分かも知れない。
対話の面白さと限界も感じた。
<ネガティブ・ケイパビリティについての思索>
*どんどん決めて物事を進めていく。進まないのはつらい。ゴールが見えないのもつらい。そんなとき、強権的なリーダーが欲しいと思うが、現れたら現れたで、「自己」への抑圧は本当に苦しい。
*ポジティブ・ケイパビリティの特質を列挙してみる。
・スピード感
・集約的、階層的な組織構造
・太陽と月で言うと太陽
・能動と受動の役割の明確化
*みなで場を分かち合って、決めがたいものに耐え、よいものを生み出していく努力を共有する。それがネガティブ・ケイパビリティでは。高度な忍耐力、自己抑制力が求められる。本書で触れていた「観察」というのは大事な視点かも知れない。相手をのぞき見るのではなく、触れずして触れさせてもらう。そこには良心が発揮され、「待てよ」という言葉が発せられる土壌がある。
Posted by ブクログ
付箋ぺたぺたして読んで、とっても感化されてしまった本でした……笑
一問一答型への警句があるように、本書を手にとってしっかり読み込んだとしても、
そんなにネガティヴ・ケイパビリティについての安直な回答は一切ないですね。
鼎談テイストの構成が面白くて、
陰謀論からSNS、アテンションエコノミーから倫理、公私とそのあいだの中間集団の意義まで、ほかにも幅広く話されていて、社会に関心がある方にはグイッと掴まれてしまうのではないでしょうか。
面白かったです。
Posted by ブクログ
ジョン・キーツの「ネガティブ・ケイパビリティ」を書名に冠している通り、安易に結論を出さずに、様々なテーマの多面性に光を当てながら三人の哲学者の鼎談が進んでいく。ポラリゼーションや単純化・効率化の加速に違和感を感じていたためか、とても多くの含蓄や示唆を得られた。
・ファクトフルであることを手放しに称揚する危うさ
個人的には、ファクトや真実への立脚や反証可能性を主張するカール・ポパーやハンナ・アーレントの論につい賛同してしまうが、そうではないものを切り捨てることは「愚かさの批判」であるという著者の警鐘は肝に銘じたい。これは、本書中でも引かれている『社会はなぜ左と右にわかれるのか』を読んだ時にも感じたことだった。議論の妥当性を論理で考えるだけでは見落としているものがある。誰もが弁証法的な西洋的価値観であるわけでもない。当事者の事情や渇望に焦点を当てることが重要だ。そして、誰もが包摂される感覚や言葉が必要となる。熊谷晋一郎が主張する言語の「ユニバーサル化」も大切な論点だ。
・アテンションエコノミーからのデタッチメント
情報量の増大と能力主義の加速はアテンションの必要性をもたらす。インターネット空間、特に SNS では多様性・複雑性やコンテキストが低下するために、これに拍車をかける。本書内では触れられていないが、グローバル化もこの要因の一つなのだろうと外資系企業で働いてきて肌で感じるところだ。
注目を集めなければ大きなうねりや成果は生み出しにくいが、単純化によって複雑性は失われてしまう。
・観察と自己相対化によるナラティブからの解放
「自分のナラティブに振り回されるのではなく、自分のものにした方が良い。」という言葉が最も印象に残った。私たちは原体験や問題意識が言語化されたナラティブには安易に飛びつきがちだ。そしてそれを「正しい」ものだとして信じてしまう。エビデンスや社会倫理など、「正しい」とされている側のナラティブであれば尚更であり、リベラルこそその危うさを孕んでいるとも言えるだろう。安易にこれに飛びつくのではなく、身の回りをこの目で観察して世界の解像度を上げること、そして対話を通じて互いのズレを認識し、どちらかの極へと偏るのではなくバランスをとることが重要だ。(ジョン・ロールズの「正義」の考え方に常に意識的でありたい。)
・何でも自分ごと化しなくていい
既存のナラティブに安易に絡め取られないようにするためには、パブリックとプライベートの間のコミュニティが重要となる。物事を安易に自分に接続せずに、問題を問題としてクールに扱うことも大切だ。SNS やブログサービスが提供する「お題」に過度にフレーミングされないようにしたい。「イベント」ではなく「エピソード」を大切にしながら生活していきたいと思った。
Posted by ブクログ
実験的日常の共有、互いに失敗を恐れないような場を持つこと、素敵だなと思いつつどうすればそれが可能なのかはまだあまりピンときてないので、これからも模索していきたい
Posted by ブクログ
「共感と距離感の練習/小沼理」で出てきた書籍から興味を持って読んでみた
思っていたよりも専門用語やカタカナが多く読むのに時間がかかってしまったけど、ふむふむと思うことが随所に散りばめられてた、まとめきれない
イベントよりエピソード、その人とだけわかり合える言葉のやりとりができる関係性を大切に、ってのが印象に残った
Posted by ブクログ
毎日高速で大して考えることもなく、判断、処理している自分に気付かされました。それが美徳のように生きてきたように思います。ちょっと立ち止まって考えてみる。こんな時代だからこそ大切なように思います。
その人(達)だからこそ紡ぎ出せる“ことば”を大切にしようと思いました。
Posted by ブクログ
ネガティブケイパビリティ
本書によると、物事を宙づりししたまま抱えておく力と定義されています。早期解決が重要視さる現代とは真反対の考え方です。人からの紹介で読んでみたのですが、自分がとても苦手なことが良くわかりました。
言い換えると「待つ力」とも捉えることができます。他人に対してビジョンを指し示すのではなく、自分自身で描いてもらう、あるいは考え続けてもらうということだと考えております。
ある意味では他社に対して「問い続けること」に近いのかもしれません。互いにわからない答えを探すために問いを続けることで少しずつ課題や不安がクリアになっていく
その役割として「思考の共犯者」がとても大切な存在です。
これから自分が担うべきものは一般的なリーダーではなく、中核を成す主体的なフォロワーであり続けることです。
なんとも難しい課題ですが、取り組むと決めた以上、逃げずに取り組んでみたいと思います。
Posted by ブクログ
哲学、公共政策等を専門にする若手3人がネガティブケイパビリティをテーマに語る対談本。概念自体の解説、深掘りよりもこの能力が必要とされる現代社会の課題的状況や背景についてが中心なのでネガティブケイパビリティ自体を知りたい人は箒木さんか枝廣さんの本を先に読んだ方が良い。陰謀論とナラティブ、アテンションとインテンション、SNSなど話題となっていることや話されている内容は個人的には非常に興味深かった。特にワークショップやファシリテーションが広まることで整った場でしか対話できなくなるという話はもう少し掘り下げて考えたい。
Posted by ブクログ
ネガティヴ・ケイパビリティの魅力と実践可能性についての対談(3人だから鼎談?)を書き起こした本。
正直、このレベルの会話ができることが尊敬。文字で追っていてもかみ合っているのか何なのか、分からないところもあったり。
ネガティヴ・ケイパビリティを扱うだけあって、これだ、という結論はなく語りは続く、という終わり方だった。
以下メモ
・ナラティブの危険性
「物語的誤謬」何かもっともらしい物語に落とし込むことで、過去にあったはずの多様な出来事、ありえたはずの無数の姿を見落とし忘れてしまう。
・陰謀論が力を持つ背景
世界を少しでも良くしたい
わからないことを知りたい
・コミュニケーションのモードが社会の秩序性(意味内容の秩序だったやり取り)から、つながりの社会性(場の空気を維持しつつ、つながりあうこと自体を目的とするもの)に変化している。
・マスターアーギュメント
これだけで何でも説明できます、とうたう理論や基準のこと。
・ネガティブ・ケイパビリティは、事実や理由に拙速に手を伸ばさず不果実さ、謎、疑いの中にいることができる力。
・若者のキャラ化 自分をデフォルメする
表情や声色、目線などの情報が見えずらいインターネットを介したコミュニケーションが支配的になった結果、予測可能なキャラに落とし込むようになった。
・「従順さのどこがいけないのか」という本を読み、従順ではいけないと思う。それは、この作者に自分が従順になっている?自立を促すメッセージの持つ矛盾。
・SNSで何かをカミングアウトすることはその弱さに寄り添うではなく、アテンションを集め瞬く間に周囲を敵と味方に分断する機能を持ってしまっている。
・個人の自己決定が大事とされる一方で、どんな帰結も各人の自業自得になる。今はどんな選択にも究極的に保障してくれるものがない。根拠が不安で多様な権威に確認を取り続ける。
Posted by ブクログ
ひろゆきさん、DAIGOさんは複雑な問題ではなく一つの質問に対する回答とのこと。
複雑なものを紐解くのも大事。切り取るのは良くないので全体を見るのも大事。
Posted by ブクログ
面白かった。対談している3人が楽しそうだから、読んでいて楽しく面白いのも当然。言語に乗っ取られている、という表現があり、納得する。例えば医療者同士の会話の時、関係者以外が聞いたらギョッとするようなこと。それに気がつかないと、元吉野家の専務のような発言を講演でしてしまう。内輪ウケ、みたいな話かなぁと思う。
3人の会話は時に、私にとってものすごく簡単なことをめちゃくちゃ迂回して辿り着いたりしている。いかに、自分が直感的に物事を見ているかと気づく。
ネガティヴ・ケイパビリティ。何度読んでも素敵な概念だ。そして、とても難しい。宙ぶらりんで耐える。それは言うほど簡単ではない。ポジティブ・ケイパビリティの中で生きているから、つい白か黒か、YESかNOか。そんな単純な答え、簡単な答えで満足してしまう。でも、世の中は、世界はそんな単純明快ではない。答えを出さない、という答えがある。
自分の人生に対しても、焦らず、慌てずに、よく観察して、ゆっくり答えを見つける。そして、その過程を楽しめる友人がいること、その友人と言葉で共有できること、意見が言えること。簡単な答えに飛びつかない。
良い本だった。