あらすじ
翻訳家の桐子(とうこ)は大工の伊助と深い仲。ただ彼は、生き別れた義妹が一番大事という。ならば私は何だと桐子は憤り、偶然行き着いた卜い家(うらないや)で彼の本心を探る(「時追町の卜い家」)。お宅は平穏ねと羨まれる政子。果たしてそうか、近所の家庭を勝手に格付けし、比べ始める。それが噂になってしまい……(「深山町の双六堂」)。“占い”に照らされた己の可能性を信じ、逞(たくま)しく生きる女性たちを描く短編集。(対談・鏡リュウジ)
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Posted by ブクログ
☆4.5
時追町の卜い家(12月1日)
>>伊助にとっての桐子が桐子にとっての占いだったのだろう。ともすると依存と化す危うい拠り所。
キッパリ終わるでもなくまた繰り返してしまいそうなオチが生々しくて良い。また、占いとは何かの捉え方が私の辿り着いたところととても似ていて共感を覚えた。
山伏村の千里眼(12月2日)
>>占いに携わる者への教訓のような苦い話だった。
嘘をついて適当にあしらった杣子にも、自分の心や杣子の言葉と向き合わず弱い心を庇うのみだった女にも、そして家庭内暴力に走った夫にとっても元々小狡い人格だったのが人間の屑にまで堕ちて、皆に罰が下ったような結末であった。
同じ光景を見たとしても内耳の声をありのまま伝えて千里眼を辞めていれば、杣子の心は違っていただろう。
きっとこの先、特に男との色恋において杣子は一生この女の事を思い返してしまうのだ。
頓田町の聞奇館(12月3日)
>>前2つとは変わって色合いの明るい話。若い女ならではの一目惚れと空想をボロボロに砕きながらも、轍の言葉によって和作と轍それぞれの愛の持ちようが明かされていく様が心地良い。
自分が定まらないのに婚姻を結んでしまった、この言葉は多くの夫婦に刺さる文句なのではないかな。
聞奇の死者の声の聞き方が私にも覚えのあるもので、少々恐怖を覚えるほどに出会うべくして出会った小説だなとつくづく思う。
深山町の双六堂(12月4日)
>>知らぬは亭主ばかりなりの逆バージョン。長い事理解すら出来なかった「他人の家庭事情を把握したがる人間心理」を凪いだ家の綻びにとんと気付かぬ政子の視点からともに切り込んでいく形で知る事ができた。
政子の家庭は互いに興味も執着もないんだなぁと味気なく感じていたが、近所の女達の突撃後から一転して出るわ出るわの毒三昧。そうだ、興味も執着も無いって事は希望も期待もなく、それはつまり互いに諦めているという事なのだ。外の世界にはそれを向けている。平穏である事を盲目的に善と信じたばかりに、晒す事も暴く事も避けてきたが故の形ばかりの家族。適応しようとして壊れつつある子供。
胸糞悪くもあるが、人間の毒も虚しさも醜さも上品な文体で嬲るように描かれていて、ここまででダントツに面白かった。
宵待祠の喰い師(12月5日)
>>また毛色の違う話で胸のすく爽快さと思慮の深さが人間に与える影響の重さや複雑さが滲んでいてとても良い一編だった。
山伏村の千里眼で冒頭から出てきた綾子が主人公。聡明さや優しさ、そして誠実さのある人物だがそれ故に己が大事に思うものを粗雑に踏み荒らされる時、憤懣に振り回されて自分がどうしたいか、どうすべきかを考えることなどが曇ってしまう。
そこで出てくるのが喰い師。これまでの占い師(ではないと喰い師の青年は言っているが)の中でも最も現実離れしていたが、喰い師が齎した効能を経ての綾子の心理的な成長はとてもリアルでこの対比が面白かった。
大正あたりの時代設定、確かに綾子の聡明さや実直さ、有能さは生きにくいだろうと思いながら、綾子というキャラクターに出会えた事はとても喜ばしいことであった。最後のシーンでの安江の言葉は胸に刺さる。とても良い。
鷺行町の朝生屋(12月6日)
>>ほのぼの転生モノかと思ったらホラーだった。真っ当に怖い。
展開自体は意味怖ホラーなどネットに転がる小話をよく読む人ならすぐに予想がつくだろう。が、上品な文体とのどかさの中に唐突にぶっこまれる恐ろしさは新鮮だ。
恵子(綾子の友人で山伏村〜にも出ている)の人柄には好感を持っていたので、恐怖の末に授かった(おそらくは優太の生まれ変わりの)子を自らの意思で愛していくと思いたい。
しかし黒い背広の老人がどんな存在だったかは明かされないので、どちらとも言えないのが歯がゆいところだ。
この曖昧さと解消されない靄が残る後味も真にホラーな短編だったと言えるだろう。
北聖町の読心術(12月7日)
>>無関心な母親による機能不全家族で育ち、卑屈で自己肯定感の育たなかった佐代という女性の話。
違った形ではあるが、自分への無価値感、他人にとって取るに足らない存在で当然という想いは痛いほど心に刺さった。
タイトルが表す占い師の都も本物ではあったが、結果的に佐代の目を覚まさせたのが『山伏村の千里眼』の主人公・杣子である締めくくりも非常に良い。苦い終わりを迎えたその先で杣子は自分なりの正解を模索し続けているのだろう、あんな事の後でも、カフェで目にした佐代に『真実を伝える事』を選んだ事実が非常に喜ばしく清々しかった。
余談だが、交際相手の気持ちも考えずに『触れられたくないから』を突き通して碌な説明もしない武史郎にもそれなりに問題はあると思う。佐代の母親が彼を気持ち悪いと称したが、佐代に対して無関心=佐代の知人友人にも無関心であるが故に冷静に人となりを見て取れたのではなかろうか。
自分の愛し方や求め方だけを要求して佐代の痛みに耳を傾けない武史郎は、私の目にも酷く歪んだ男に映った。もちろん佐代の被害妄想の膨らみようが二人の最適解を逃した大きな一因ではあるが、武史郎にも大いに非はあった。
佐代とのことで武史郎にも学びがあると良いのだが。
どの話の主人公も、お話の先でまた苦難に遭い、惑い悩んでいくであろうことが、逆に読者側を勇気づけるように思う。
その傍らに、支えたり影響し合ったり出来る人達の中に、小さく占いというものが佇んでいる。そのようにあってほしいと私は思った。
全編通して見てもやはり出会うべくして出会った小説であった。
Posted by ブクログ
占いをテーマに大正時代を舞台にした女性特有の悩みや苦しみ、欲求を描いた7編。
女性心理の描写がうますぎて読みながら色んな感情が巡りました。たまにそれぞれのお話が繋がったりもしていてとても面白い。どのお話も重暗すぎる悩みのお話では無いところが個人的には良かったです。
・時追町のトい家
自立した女性が恋に悩み占いにハマる話。
占いにハマっていくさまがリアル。占ってもらった結果をまとめて統計しようとしてるところが桐子さんの人柄が出てて面白い。ただ、そんな男早く切ってしまえばいいのにと何度も思ってしまうくらい、桐子さんが惹かれて、縁を切れなくなった男性に一切魅力を感じなかった…
・山伏村の千里眼
ひょんなことから占いをする側になった女性の話。
杣子さんの心の声が冷静で共感できた。
欲しい言葉はこれだろうなと分かってしまう事は、女性同士の恋の悩み話なんかでは誰しも思った事があるのでは無いだろうか。
ただ、最後まで自分の想いにしがみつき、頑なだった相談者のその後の姿は少し後味悪かったな…
・頓田町の聞奇館
もう亡くなってる人の写真に一目惚れした女性が、本気になりすぎて口寄せしてもらう話。
死人の声が聞こえる聞奇さんのキャラも良かったが、知枝さんが可愛いらしい。アイドルなんかでもそうだが、理想としていた人が思ってたのと違ってたなんて事は良くある。個人的には轍さんがすごく素敵な女性で好きだった。桐子さんが大好きなお婆ちゃんだったと言っていたのも頷ける。
・深山町の双六堂
平凡な生活に不安を感じ、自分の家庭と他者の家庭を比べ、甲乙つける家庭番付表を作ってしまった女性。それがバレて同じ悩みの女性達が集うようになった話。他人と比べるのは誰でもよくある話だが、ここまで他者と比べてどうこう言い合い考えてる人達を、はたからみるとだいぶ悪趣味で嫌悪感がわくく。こうはなりたく無い…。
・宵待祠の喰い師
仕事に邁進する女性が部下の事で悩み、喰い師に愚痴聞き(単なる愚痴聞きとは違うが)してもらう話。
1番好きなお話。まず綾子さんに好感がもてた。
他者との関係での悩みは、他者に原因があるのではなく自分の内で培っているこだわりや観念によって生じている。の言葉、私も大事にしていきたいと思った。
・鷺行町の朝生屋
ある画家が遺影を描くと死人の魂を宿す。長らく子供が出来なかった女性が、朝生屋の遺影によって蘇った子供の魂に執着してしまう話。他人の子に執着を見せる恵子さんを怖く感じた。亡くなった子の家庭事情も悲しく、母一人子一人の暮らしで身売りのような事までして子を育てていただけに、子供の居場所が作ってあげられず、あげく事故で子を亡くして、死後は我が子に他の人の家に産まれたら良かったと思われていると言う何ともやるせない気持ちになるものだった。恵子さんは何がしたかったのだろう。
・北聖町の読心術
自分の容姿に自信が無いため、初めて付き合った彼の事も信じられずに読心術にのめり込む女性の話。
占いする時こう言う心境の人って多いんじゃないんだろうか。都さんの気持ちも分かる部分がある。
あなたの不安はあなたが作り出したもの。不幸上手にならないように。恋の悩み以外でも言える事がある話だが、悩んでる時は忘れがち…気をつけたいと思った。