あらすじ
本作品は、著者が航空機墜落事故で急逝した年に刊行された。「一週間に一度は飛行機のお世話になっていながら、まだ気を許してはいない。散らかった部屋や抽斗のなかを片づけてから乗ろうかと思うのだが、いやいやあまり綺麗にすると、万一のことがあったとき、『やっぱりムシが知らせたんだね』などと言われそうで…」飛行機に乗る恐怖を綴った「ヒコーキ」も収録。何気ない日常の一コマを鮮やかに捉えた、向田邦子ならではの名人芸が堪能できる珠玉のエッセイ集。
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Posted by ブクログ
やっぱりムシが知らせたんだねと思ってしまうっていう話。
何となくの読まず嫌いで触れずにきた向田邦子作品だったけど、初めて読んでみて天才だと思った。
他のエッセイはもちろん、エッセイ以外の作品も読みたい。
p. 213このところ出たり入ったりが多く、一週間に一度は飛行機のお世話になっていながら、まだ気を許してはいない。散らかった部屋や抽斗のなかを片づけてから乗ろうかと思うのだが、いやいやあまり綺麗にすると、万一のことがあったとき、「やっぱりムシが知らせたんだね」
などと言われそうで、ここは縁起をかついでそのままにしておこうと、わざと活ないままで旅行に出たりしている。
p. 293あの頃は、先生というのは、本当に偉く見えた。
短気ですぐ手を上げる先生もいたし、えこひいきをする先生もいた。鼻をたらした少し頭の弱い生徒に意地の悪い先生もいた。
だが、私たちは先生を尊敬していた。
先生は何でも知っている人であり、教えてくれる人だったからであろう。
今は、先生よりもっと知っている人がたくさんいる。
昔は塾もなく、家庭教師も、テレビもなかった。親も今ほど物知りでなく、掃除洗濯に追われて不勉強だったから、ひたすら先生を立てていた。すこしぐらい先生が間違えても、文句を言わなかった。
先生を偉いと思い、電話口で被りものを取って正座するのは、私たちの世代でお仕舞いなのであろう。