あらすじ
新宿署に異動直後、上司となる桃井と鮫島との出会い。飛び降り自殺を図ろうとした少年と関わる晶。鮫島の宿敵・仙田、鑑識官の藪……。シリーズに登場する個性的な人物たちの意外なエピソードから、人気コミックの主人公である両津勘吉や冴羽との共演まで。孤高の刑事・鮫島の知られざる一面が垣間見える短編が勢揃い。「新宿鮫」にしかない魅力が凝縮された全10作品。
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Posted by ブクログ
『新宿鮫』を読んだ事がない人間でも、存分に楽しめる短編集だった。
以前、感想を書いた『小説 こちら葛飾区亀有公園前派出所』に収録されている、両津勘吉とほんの少しだけ関わり合いを持つ話や、両津勘吉に劣らぬ人気を博し、同時に、彼に負けないくらいの正義と信念、悪に対する怒りを持つイケメン・冴羽リョウ(ケモノ編に尞)と知り合いである、そんな突飛ではあるが、違和感を覚えさせない短編などに、実に心が奮えた。
刑事とは斯くあるべき、と決めつけてしまうのは実に危険だとは思うにしろ、鮫島のように、自分の命を、一線を越えた犯罪者を捕えるために懸ける、その覚悟が出来ているのなら、意外に、そういう刑事は死なないのかも知れないな、そう感じた、しみじみと。
この台詞を引用に選んだのは、『新宿鮫』と鮫島について、何も知らぬ私ですら、カッコイイ、と胸が熱くなったので。
自分が「正しい」と信じる仕事と、そのやり方を全うするって、こういう事なんでしょうね、きっと。
「私が今の場所にいて、全力で仕事をすることが、彼らへの、何よりの復讐です」(by鮫島)
Posted by ブクログ
区立花園公園
桃井が死んだ日の夜に桃井と鮫島の始まりの話を読んだ。つくづく生きていてほしかった。「マンジュウ」になっていなかったら、警察官の誇りを失ってしまっていたら。生きていたかもしれない。でもそうなれば10巻で築きあげてきた鮫島との関係はないものになってしまう。受け入れなければいけない。どうか、安らかに。
夜風
鮫島の日常って感じの短編。短くても鮫島の生き方がよくわかる話。
似た者どうし
炎蛹あたりの話なのだろうか。晶も鮫島も幸せそうだ。別れてしまったのが悲しい。僕はシティハンターはよく知らないが似たような生き方の人なのだろう。独特なクロスオーバー作品って良いよね。
亡霊
今までにないタイプの暴力団親族の話。基本的に色恋沙汰が多かったカタギとヤクザの関係。今回は家族の話。道を踏み外した弟をそれでも見捨てきれない兄。現実でもこういう葛藤があるのだろうか。
雷鳴
ややミステリじみた話。バーテンダーの違和感などが良い塩梅でちりばめられているのが良い。
幼な馴染み
あの両さんが登場する贅沢な話。コメディとハードボイルド。結び付きそうもない2つがこんなに自然に繋がっているのが楽しい。コナンとルパン三世が繋がり、ルパン三世とCAT'S EYEが繋がり、CAT'S EYEとシティハンター、シティハンターとエンジェル・ハートが繋がり、エンジェル・ハートと新宿鮫が繋がり、新宿鮫とこち亀が繋がる。従ってコナンとこち亀は繋がっている。とんでもない話だ。
再会
鮫島の優しさがかいまみえる話。僕もいつかこんなことをするのだろうか。
水仙
切ない。中国人を悪く思いたくない。良い人もいる。そう言った安は中国国家のスパイだった。悪い人だった。でも、良い人だと思えてしまう。それは僕が甘いからだろうか。
霊園の男
最後を飾るに相応しい話。あの仙田こと間野の墓の前で間野の最後の謎が明かされる。この世には2つの美しさがある。謎の美しさと真実の美しさ。狼花は最後に「あ」の意味が明かされなかったことが美しい。余韻を残したまま話が終わる。一方この話では謎のままに終わった「あ」の謎が明かされる。これはこれで美しい。鮫島や読者にとっての救いとなるような明かされ方。いつか矢吹も出てきてほしい。オブリガート。
Posted by ブクログ
目次より
・区立花園公園
・夜風
・似た者どうし
・亡霊
・雷鳴
・幼な馴染み
・再会
・水仙
・五十階で待つ
・霊園の男
長編と違って短編は、切り取られた一場面から浮かび上がってくる素材勝負のところがある。
詳細な描写や分析に費やす言葉に限りがあるから。
そしてこの短編集で際立っていたのが、鮫島の優しさだった。
長編で暴力団や外国人犯罪者グループと対峙する鮫島は、下っ端の犯罪者ならばビビってしまうくらいの厳しさを常に見せている。
そして、足下をすくわれないためにも、自分に一番厳しく清廉であることを律している。
しかしこの作品集で鮫島は、組に見捨てられた組員、犯罪者予備軍の少年、犯罪を犯してしまったのではないかと怯える少年などを救う。
そのまなざしはあくまでも優しい。
解説の北上次郎は、シリーズのとっかかりとしてこの短編集を読むのもよいと言っているが、私はやはり最初から読むのがいいと思う。
でないと「霊園の男」の余韻が味わえない。
彼が最期に口にした言葉「あ」
シリーズを通して描かれた二人の交流を、絆を読まないでこの「あ」に含まれた深い思いは伝わらない。
そして解説を読めば、シリーズはこの先も続いて行きそうな気がしてくる。
はっきりとは書いていないが、大切な人を二人失ってしまった後の鮫島の姿が、この先見られそうだ。
楽しみなような、寂しいような…。