あらすじ
リルケ、ヘミングウェイ、オーウェル……触媒都市・パリに魅せられ、パリを愛した20世紀の異邦人たち。膨大な資料をひき、作品にあらわれた「パリ」を紹介しながら、彼らの人となりを浮き彫りにする。文庫化に際し、ルソー、アンデルセン、レーニン、ケルアックなど9名のポルトレ(肖像)を新たに収載。
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Posted by ブクログ
2008年刊の単行本でとりあげられたパリの異邦人は8人。2011年刊の文庫では、オマケのようにさらに8人が追加されているが、最初の8人とはページ数も力の入れようも違っている。
単行本の8人のうち、ヨーゼフ・ロートとリルケは亡命者にとってのパリ。明るくはない。鹿島は「陰パリ」と呼ぶ。ジョージ・オーウェルは、貧民街のルポの形で『パリ・ロンドン放浪記』を書いた。これも陰パリ。
読ませるのは、ヘンリー・ミラー、アナイス・ニン、ガートルード・スタイン、アーネスト・ヘミングウェイの章。こちらは陽パリ。ミラーの性遍歴が詳しい。アメリカと違って、パリでは水を得た魚のようだった。そして彼とアナイスをめぐる三角関係や四角関係。ここは鹿島茂の筆がのっている(のりすぎている)。スタインは、リュクサンブール公園近くに居を構え、新進気鋭の作家や画家の交流の場を提供した。彼女から作品について助言を受けていたひとりがヘミングウェイ。彼はカフェで作品を書くのに熱中していた。モンパルナス界隈には、アメリカ人たちが利用するカフェがいくつもあり、パリのなかの「アメリカ租界」の様相を呈していた。この4人のパリは、2つの大戦の間、経済的に富裕なアメリカ人たちが自由を謳歌した時代のそれ。ウッディ・アレンの映画『ミッドナイト・イン・パリ』のパリでもある。あの映画には、ヘミングウェイもスタインもフィッツジェラルド夫妻も登場した。フィッツジェラルドが本書に出てこないのは、彼らの滞在が短期だったからか。
残る1人、エリザベス・ボウエンはミスキャストと思う。パリを舞台にした作品を書いているが、パリにいたことはない。同じアイルランド出身で、パリにいたジェイムズ・ジョイスのほうが適格だったのでは。