あらすじ
2022年2月24日、ロシアがウクライナに侵攻し、第二次世界大戦以降最大規模の戦争が始まった。国際世論の非難を浴びながらも、かたくなに「特別軍事作戦」を続けるプーチン、国内にとどまりNATO諸国の支援を受けて徹底抗戦を続けるゼレンシキー。そもそもこの戦争はなぜ始まり、戦場では一体何が起きているのか? 数多くのメディアに出演し、抜群の人気と信頼を誇る軍事研究者が、世界を一変させた歴史的事件の全貌を伝える待望の書き下ろし。
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Posted by ブクログ
同じ著者の『現代ロシアの軍事戦略』の続編と言える書籍。開戦前の緊張状態から開戦し、戦線が拡大するまでのロシア・ウクライナ情勢を解説したもの。メディアの報道から新しい戦争であるとの印象を受けるが、戦場では火力が物を言ったり塹壕戦による第一次世界大戦のような光景が繰り広げられたり、不思議な戦争であると感じる。もちろんドローンや携帯式対戦車ミサイル、インターネットを介した情報戦など、新たな要素もあるものの、人間の起こす戦争はそう簡単に形を変える事はないと学んだ。
Posted by ブクログ
ロシアが専門の軍事研究者が、ウクライナ戦争開戦の年(2022年)9月までの情勢について書いた新書です。
国際政治にも軍事にも疎いわたしですが、なんとか読み切ることができました。
ゼレンシキー大統領自身も大統領に就任するまではほとんどウクライナ語が喋れなかった(p.67)というのは初めて知りました。
「ロシア、ウクライナ、ベラルーシが民族的・言語的に多くの共通性を持ち、多くの歴史を共有してきたことは客観的事実として否定はできないだろう。」(同上)
このことは、この戦争の背景、プーチンの思考回路を推測する上で示唆的でした。
ウクライナは無垢でも無謬でもないけれど、今回の戦争はロシアによるウクライナへの侵略戦争であり、ロシアは国際的な規範に違反している。また、ロシア軍の戦争犯罪(虐殺、拷問、性的暴行)は悪である。筆者はこう断じています(p.140)。
(ちなみに、2022年3月7日の東京大学大学院法学政治学研究科・法学部における藤原帰一教授の最終講義をオンラインで伺ったのですが、国際政治がご専門の藤原先生も「これは明確な侵略戦争である」「ロシアの言い分にも耳を傾けるべきだという立場には私は賛成することはできません」と語っておられました。)
冷戦や9.11以降の対テロ戦争を経て、わたしはこの世に絶対的正義や絶対悪はないのではないかと考えるようになっていました。ですが、ウクライナ戦争を機に、確かに悪は存在するし、それに対処しないといけないのだと弁えるようになりました。
日本の行く末を考えるには、「おわりに」がよくまとまっています。
第一に、我が国の抑止力をめぐる議論においては、ウクライナ戦争全体の趨勢により大きな影響を及ぼしたのが、非軍事的闘争手段ではなく、暴力闘争の場であったことを踏まえなくてはなりません。
第二に、核抑止は依然として大国の行動を強く縛っている、ということを今回の戦争は明確に示しました。仮に台湾有事が発生した場合、日本は中国の核恫喝を受けることになっても台湾を軍事援助すべきか、前もって国民的な議論が必要です。
第三に、この戦争の第一義的な責任はロシアにあることを踏まえ、大国の侵略が成功したという事例を残さないように日本としても努力すべきではないか、と筆者は問題提起しています。
もうすぐ8月になりますが、毎年8月になると、戦争を繰り返さないためにと言って戦争の悲惨さを強調するテレビ番組が放映されるなどします。今年は戦後80年目の節目なので、一層増えると予想されます。
ですが、真の平和を希求するなら、戦争の悲惨さを学ぶだけでなく、次の戦争が起こった時に日本がどういう立場を取るべきか、現実的な議論が必要な時代になったのではないでしょうか。
わたしも次は安全保障論の本を読んでみたいです。
Posted by ブクログ
とても読みやすい。専門的な内容のはずなのに、門外漢の自分でもスラスラと読める。筆者の文書力の高さのおかげですね。
テレビ番組などではあまり報道されてないことにも触れられているなど詳細に書かれている一方で、内容が時系列に整理されていて分かりやすい。また、第5章「この戦争をどう理解するか」は軍事理論の話ですが、平易に書かれていて読みやすい。
第二次ウクライナ戦争はまだ続いてますが、戦争終了後にまた執筆されるのであれば、是非またその本も読んでみたい。そう感じるぐらい、とても読みやすかった。
Posted by ブクログ
HIMARSの果たした戦術的役割については知らなかった。この本が書き上がった当時はまだワグネルの代表が謀殺されていなかったことを思い返し、時の流れの速さを感じる。著者が繰り返し「この戦争の第一義的責任はまずロシアにある」と、ロシアウクライナどっちもどっち論の欺瞞を繰り返し払い除けてくれているのも好印象であった。軍事理論面では、アンドレイ・ココーシン『軍事戦略の政治・社会学』(2005)における「全体戦争」の条件定義を紹介した上で、今回の第二次ロシアウクライナ戦争は「限定全体戦争」と呼びうる、という紹介があり興味深い。(小泉2022: 215-216)
Posted by ブクログ
1年前、米大統領の「露が軍事侵攻を計画中」との公表に驚きましたが、実は確たる兆候があり「にしてもまさか…」と、著者が逡巡する様が描かれています。
専門家が同時代の歴史を切り取った、貴重な記録。
あとがきが泣かせます。
Posted by ブクログ
2021年初頭から、開戦半年ほどの2022年9月頃までの、戦争に至る過程と開戦後の経過、各戦線における戦果の意味が取り上げられている。
現在も経過が目まぐるしく動き続けているために最新の情報との開きはあるものの、ロシアがどのように準備をして開戦に至ったのか、なぜウクライナがここまで持ちこたえられているのかが非常にわかりやすく解説されていた。
情報メディアを活用した現代的な戦争形態や、核の抑止力による東西の躊躇など、ワードとしては知っているものの、具体的に何が起こっているのかよくわかっていなかった部分が語られていて、満足度が高い。
著者の言うようにプーチンの民族主義的野望が戦争を惹き起している場合、今次戦争の落とし所というのは存在するのだろうかという悲観的感想を持ってしまった。
Posted by ブクログ
ウクライナ戦争の概略と理由が知りたくて評価の高いこの本を選びましたが、固有名詞等が特段の説明なく頻出するため、初学者にはかなり難易度が高かったです。
専門的に学んでいる学生さんなどにはお勧めです。
もう少し入門的な本で学び直してから、再読したいです。
Posted by ブクログ
ウクライナ侵攻について、なぜこんなに長期化しているのか?よくわからない。
トランプは、「自分が大統領なら、戦争を24時間で終わらせることができる」と大ボラをふいた。そして、「俺はプーチンと友達なんや」と言って、プーチンに迎合した解決方法を提案した。そのことで、一度はゼレンスキーとケンカ別れをした。ローマ教皇が死ぬことで、バチカンでやっと膝を突き合わせてゼレンスキーと膝を突き合わせて協議した。「30日間の無条件の停戦」をゼレンスキーが受け入れたが、プーチンは権限を持たない部下を送って、知らぬ顔。やっと、トランプも、なんかがおかしいと思っているようだ。2時間ほどプーチンと電話した。さて、どうなるのか。まぁ。トランプは見込み違いで、見当違いな関税政策を乱発して、朝三暮四のトランプ。それでも、ウクライナにおいて「もう血を流すのはやめよう」と言っているのは評価したい。
著者は、ロシアの研究者で、「戦争は、無くなる。国家とテロ組織の非対称戦争であり、総力戦はもう起こらないと考えた。巨大な軍隊同士が激しい会戦を行ったり、国民を総動員するような大戦争は歴史の教科書の中だけの出来事になる」と思っていたが、プーチンはウクライナに戦争を仕掛けた。
それで、ウクライナ侵攻し続けるプーチンの頭の中がどうなっているのかを知りたかった。
この本で、一番の収穫は、プーチンの「ロシア人とウクライナ人の歴史的一体性について」2021年7月12日のプーチンの論文が、プーチンの思想があらわだった。大統領がこんなことを平気で言うとは。民族の概念がやはり自分勝手である。
「ロシア人とウクライナ人の歴史的一体性について」2021年7月12日の論文は 「ロシア、ウクライナ、ベラルーシが民族的・言語的に多くの共通性を持ち、多くの歴史を共有してきたことは客観的事実として否定はできないだろう」と言う。ウクライナやベラルーシ の少なからぬ人々はロシア語を母語とし、ウクライナ語やベラルーシ語はまるでわからないというケースさえめずらしくない。ゼレンシキー大統領自身も その一人であり、大統領に就任するまではほとんどウクライナ語が喋れなかったほどだ。 ということは、彼はウクライナ語が喋れなくてもウクライナでコメディアン・ドラマ俳優 として成功できたのであり、この一事のみをとっても、ロシアとウクライナを全く別のものとして扱うのが難しい。
いわく、「ウクライナ」という言葉は12世紀にルーシの「辺境」を指して使われるよう になったものであり、「ウクライナ人」とは「その辺境を守る防人」を意味する言葉である。結局、プーチンの頭は、ウクライナはロシアのものなのだ。
だから、NATOに入ることは許されないし、ウクライナがロシアを攻撃することさえも許されないと思っている。
本来、ウクライナ侵攻作戦において、数日でキーウを占領し、傀儡政権を打ち立てるか、ゼレンスキーが国外に逃亡するというシナリオがあったにも関わらず、ゼレンスキーはキーウに居残り、戦いを続けたことがプーチンの誤算だった。ゼレンスキーをコメディアンということであなどり、油断したことが、戦争の長期化となった。
プーチンによれば、ウクライナには外国の軍事顧問団が派遣され、事実上、NA TOの前哨拠点となっている。そして、ロシアはこうした状況(プーチンは「兄弟殺し」と呼 ぶ)を解決すべく、ウクライナに第二次ミンスク合意を履行させ、親露派武装勢力との合意によって平和と領土の統一を回復するチャンスを与えようとしたが、ウクライナと西側はその全てを裏切った。ゼレンスキーもまた、平和を約束して大統領に就任したが、全ては嘘だった。ウクライナをロシアと対立させ続けることが西側の基本路線なのであって、 政権が変わったとしてもウクライナが西側の影響下にある限りはそれだけは変わらないのだという。
西側とウクライナを激しく非難した上でのプーチンの結論は、「ウクライナの真の主権は、ロシアとのパートナーシップによってのみ可能となる」というものだった。すなわち、「我々の精神的、人間的、文明的繋がりは何世紀にもわたって形成され、 共通の源に遡り、体験、成果、勝利を分かち合ってきた」のであって、「つまるところ 我々は一つの民族なのだ」とプーチンは言う。
プーチン「ロシアが反ウクライナであったことは一度もないし、これからもそうならない。ウクライナがどうするかは、その国民が決めるべきことだ」と言っている。
プーチンの世界観は「背後で操るものがいなければ、大衆は立ち上がらない。大衆は国家の道具や手段であり、物を動かすテコである」大衆が自分の考えで政治意見を持ったり、ましてや街頭での抗議運動にくり出してくることなどあり得ず。そのような事態が起きた時には必ず首謀者と金で動く組織が背後に存在する。それが、NATO、西側だと思っている。
ウクライナ侵攻によって、ウクライナ兵の死者は43000人(2024年12月段階)、ロシア兵の死者は19万8000人と言われている。戦争とは、生命の破壊行為に他ならない。
1985年 レーガン=ゴルバチョフによる共同声明「核戦争には、勝者はなく、戦われてはならない」という精神を生かしつつ、早急に戦争終結を願いたい。これ以上の流血と死はいらない。
Posted by ブクログ
2022年2月24日、ロシアによるウクライナ侵攻が起きた。ロシア側は特別軍事作戦と称し、ウクライナの非軍事化、非ナチ化、ロシア系住民の虐殺の阻止という名目で、侵攻を仕掛けた。依然としても終戦の見通しがつかないが、本書はそんなウクライナ戦争を著者の分析によって今後の展開を予測する。
本書で何度か言及されるが、2022年以前からロシアのウクライナに対する動向は怪しかった。2014年クリミア半島の併合の時点で、ある意味戦争が始まっていたと著者は指摘する。(そのため本書では今回のウクライナ戦争を第2次ロシア・ウクライナ戦争と呼んでいる)2021年、著者は衛星画像から戦争準備を進めていることが明らかであったという。駐屯地に大量のテントが用意されていること、また兵舎に収まらないほどの兵士が集結していること、予備の飛行場に戦闘機や戦闘爆撃機を展開しているなど、既に戦争の予兆がみられた。そのほかにも、ウクライナ国境付近の住民がTikTokに投稿した映像が情報源となった。
しかしその一方で、予想外の事態もいくつか見られた。ゼレンスキーの指導力はもちろんのことだが、今回の戦争が短期決戦には至らず、ウクライナ側が思った以上に持ちこたえていることである。意外にもウクライナは旧ソ連諸国で2番目に軍事力を持っている。
Posted by ブクログ
ずっと読みたかった本。現在進行形で起こっている惨劇であり、今更ってことなんかなく、むしろそういう気持ちへの自戒の念も込めて。さすが第一人者の手になる書で、戦争に至る背景から、予想される展開に至るまで、十分な裏付けをもって語られる。ロシアが事ここに至った原因が、いまひとつ明白でないというのも、出口が見出しにくい大きな原因。戦争反対。
Posted by ブクログ
本当ところはプーチンの頭の中にしかないのだろうけれども、ウクライナ戦争を軍事と政治の様々な状況証拠から読み解いていく。
現在はさらにイスラエルとパレスチナの紛争が起きたり、周辺環境も大きく変動しており、執筆当時よりウクライナの置かれている状況も苦しくなっており、混迷の度合いはさらに深くなっている。
Posted by ブクログ
刊行のタイミングから、全容が分かる!というわけにはいかないが、軍事的な目線が特徴的であり、この戦争のきっかけ、意味するものの一端を感じられる。
Posted by ブクログ
いきなり戦争が始まった印象を持ってましたが、その一年頃前から蠢いていたんですね。2.24まで気が付かなかった無知を恥ずかしく思いました。きっとそれなりの報道があったはずなのに!あった? ロシアがウクライナ国内に協力者を作ってたって事も、なるほど。だから、あの作戦だったんですね。でも、確かにこの時代にかつてと変わらぬ塹壕戦の印象ありますし。核兵器の存在がどっちつかずの状態を作り、戦争が長引きかねないおそれ。戦争にもいろんな理論があるんですね。興味深い。また、今日の戦況でも解説が読みたいです。
Posted by ブクログ
東大先端研専任講師にして、軍事オタクでもある小泉悠による新書。最近新書大賞にノミネートされており、またプーチンのアメリカメディア露出が気になり読んだ。2日ほどで読めた。
1章から4章にかけて、開戦前の2021年から執筆時の2022年9月に至る時系列を辿りつつロシア・ウクライナ戦争の政治的原因・推移を考察し、第5章ではそれを踏まえた本戦争の特徴を述べている。
2021年の春からロシアは演習と称してウクライナ国境に軍を大規模展開しており、その時点で軍事的緊張が高まっていた。これにはロシア寄り(というより自国主義のため他国への介入を好まない)のトランプからバイデンへ政権が移ったことが要因として挙げられている。ウクライナのゼレンシキー(これはウクライナ語表記)も、第二次ミンスク合意の批准やNATO加盟をめぐりアメリカとの外交政策を続けていたが、はかばかしい進捗は得られなかった。
2021年9月には春の軍隊が撤退しておらず、それどころか増えていることが発覚。ここでプーチンは「ロシア人とウクライナ人の歴史的一体性について」という論文を公式発表。ウクライナとロシアの一体性を強調する右翼民族主義的な見解を大統領個人のものとして明確に示した。プーチンの動向は一時平和共存路線をとるかに逸れるものの、2022年明けには開戦は確実に。
当初のロシア側の目的は短期決戦だったらしい。首都キーウに近い北部のアントノウ空港への奇襲からも明らかなように、ゼレンシキーを退陣させ、混乱したウクライナに傀儡政権を樹立することが眼目だった。しかし、ゼレンシキーはロシアの予想を裏切り理想的な動きを見せる。アメリカをはじめとした西側からの武器供与(特にジャヴェリンはウクライナ抵抗のシンボルとなった)も手伝い、ハルキウを守り抜き北部の戦線は膠着、ロシア軍は撤退を強いられる。停戦交渉はウクライナへの歩み寄りを見せる(ただし、ブチャでの虐殺発覚により交渉は決裂)しかし、ロシアはここで東部のドンバス地方へと方針を転換。マリウポリが陥落し、ドネツィク、ルハンシクはロシアの手に落ちる。
当初の作戦に際し、プーチンと軍や情報部との亀裂が明らかに。奇妙なのは、ロシアが戦時体制に入らず動員が限られること。著者はこれを、国民への平穏な生活の保障に原因があると見ている。核兵器の使用も、前著『現代ロシアの軍事戦略』であったように、西側からの介入を牽制する材料としての威嚇にとどまった。
総じて今次の戦争は、いわゆる「ハイブリッド戦争」(戦場外部のファクターが重要な要素となる)のような新しい戦争とは程遠く、むしろ大量動員や兵器の物量によって村落を取り合う古典的な戦争であった。
さすがに現在日本でロシア知識人を代表するような存在なだけあって巧みな論理展開である。現在進行形の現象である今次の戦争が簡潔にまとめられており非常に勉強になった。今後も小泉氏の著書は必読となるであろう。
Posted by ブクログ
著者は2014年のロシアによるクリミア半島強制併合とドンバス地方への侵攻を第1次ウクライナ戦争、2021年2月のロシアによるキーウ襲撃や東部ウクライナ侵攻を第2次ウクライナ戦争と呼ぶ。本書は第2次ウクライナ戦争を、民間利用可能な衛星写真を含め、出典を明記した膨大な資料(特にロシア軍の発表や学術研究)から解釈する内容となっている。ただし、もちろん、戦争は継続中であり、その内容は2022年9月末ごろまでに明らかになった情報に基づくという限界がある。
また、著者の専門分野は軍事戦略(特に直接的兵器による暴力に加えて、情報戦・サイバー攻撃を含める「ハイブリッド戦争」など)の研究がメインであり、「歴史的側面については、先行研究に譲るほかないと判断」したとのこと。さらに、第1次ウクライナ戦争については、同じ著者の「前著『現代ロシアの軍事戦略』やその他の優れた解説」について触れているので、本書では扱われない。
そうはいっても、第1次ウクライナ戦争以後、第2次ウクライナ戦争に至るまでの、ロシアとウクライナ間にはいろいろなやり取りがあったことをかなり詳細に知ることができる。第2次戦開戦の半年ほど前から、軍事演習の名の下で異常に大量のロシア軍が、ベラルーシを含むウクライナ周辺に集結し、演習の終了後も撤退すると発表しながら、撤退しなかったことなどが、衛星画像などで知られており、欧米やウクライナも戦争勃発を予想しえていたことがわかる。そしてバイデン大統領はロシアの侵攻が2022年2月16日とまで具体的に予測していた(実際には2月24日に戦闘が始まる)ことにも驚いた。
特にニュースでは(たぶん)あまり取り上げられないような、ウクライナのネガティブな面、第2次前のゼレンスキー政権が当初はかなりプーチン政権に温和な交渉を試みて失敗していたことや、政敵に当たるプーチンと親しい親ロシアのメドヴェーチェクの所有する親露派テレビ局3局の閉鎖、メドヴェーチェクの資産凍結、さらに起訴などをかなり強硬に弾圧したこと、第1次戦争後にロシア語を公用語から外してウクライナ国内のみならず欧州議会からも非難が出たことを知った。
第2章のプーチン論文「ロシア人とウクライナ人の歴史的一体性について」(2011年7月)の解説は最初の大きなハイライト。一見穏やかな「デタント路線」にも取れるように書かれているため、著者はどうとらえるべきか、悩んだという。また、ウクライナとロシアとの第4回停戦交渉で、ウクライナからかなり現実的な停戦条件を含む提案がなされ、ロシアが一概には否定しなかったことも興味深い。この後ウクライナの村ブチャでのロシア軍による虐殺が暴露されて、ウクライナは態度を一気に硬化させる。
ロシアの核の脅しについては、最初に一度使用したら、ウクライナやその支援国に与える影響は通常兵器に比べて桁違いに大きく、その後の展開がまったく予想できず、著者も(本書執筆段階では)ロシアとしても欧米と同様、結局、使用には踏み切れないだろうと考えているようである。
最後の第5章中の「プーチンの主張を検証する」は最後のクライマックスで、プーチンの主張の欺瞞性が次々に検証されていく。プーチンは、同一民族とかネオナチとかNATO拡大を口にしながらも、それらには矛盾があり戦争開始の根拠として成立せず、間接的に色々と動機がありそうだが、結局は「民族的野望」としてウクライナを支配することが目的だろうということになる。
終わりに、日本としても、特に「台湾有事」を想定した国内の「有事」に対する議論が不十分なことを憂えており、ウクライナ戦争を自分事として教訓として学ぶこをが重要と主張している。
総じて多くの情報をうまくまとめ、俯瞰した解説は分りやすく解説されていると思う。巻頭付近にある略語表も役に立った。
Posted by ブクログ
情勢が不安だったので、きちんと知った方がいいと思い、足掛かりとして読みました。
専門用語は登場しますが、語り口が親しみやすい感じ、一種インターネットっぽい?オタクっぽい?リズムや言い回しが柔らかい感じを出してくれて読みやすかったです。
日本について、議論が必要というのは本当にそうだとハッとしました。
Posted by ブクログ
プーチンがウクライナへ侵攻し世の中を驚かせたのは2022年2月のことであった。当初長い戦車車列で首都キーウ(当時は未だロシアの読みのキエフと呼んでいたが)へ向かう進軍、ミサイルが次々と都市の背の高いビルを破壊していく様、ロシア軍のヘリが撃墜される映像などは大きな衝撃だった。どこぞやの経済的に未発達な国の内戦ならまだしも、落ちぶれたとは言え大国であるロシアが、自国の軍隊を侵略のために国境を越えさせる。果たしてこのようなことが現代社会にあること自体に驚いたし、一体ウクライナがその後どうなってしまうのかとニュース映像やネットの動画に釘付けになった。その当時からよくテレビで見かけるようになったのが筆者の小泉悠氏である。表情を変えず淡々と喋る姿が印象に残っていた。たくさんのコメンテーターが、我が物顔で持論を得意げに話している横で、感情の起伏もなく只々淡々と話す姿だっただけに余計に印象に残ったのかもしれない。新型コロナの報道に何度も現れて我が物顔で喋っていた女性が散々叩かれたのを見ていたから、生真面目すぎるロボットのよう抑揚なく落ち着いたテンポで話す(好感を持って言ってる)。
そのうち書籍でも出たら読みたいと思っていたところ、開戦(プーチンは特別軍事作戦であり、戦争では無いと言うが)から半年ほどで何とも読み応えある内容で本を出してきた。元々現代ロシアの戦略に関する書籍を直近出していたこともあり、そこからの引用含め、侵攻に至った経緯やロシアとウクライナ双方の政治情勢など細かな分析がされていて面白い。
ニュースだけを見ていると、単純に2014年のクリミア進行の続きでロシア側からの戦略的な補給路の確保であったり、NATO西側への対抗としか伝わってこないが、プーチンは元KGBということもあり、ウクライナ内部へのスパイの配置や、ベラルーシなど同盟国への働きかけ、そして国民に対する理解の醸成など何年も何年も長い時間をかけて準備を進めてきたことがわかる。
ウクライナ内部でもゼレンスキーは親ロシア派のメドヴェチュークに野党第一党を奪われ、内部からプーチンと交渉されるなど押される状況でもあり、何とかただのコメディアン大統領から国を引っ張る強いリーダーになる道を模索していた。それ自体もそうした状況を敢えて作り出し、いつでも挑発に乗る状況をロシア側が仕組んできた可能性もある。ベラルーシのルカシェンコもそうだ。国民の支持率を失うよう民意をコントロールし、あたかもロシア側が政権を救ったようにみせかける。ロシアの前線基地になるまいと散々拒んだが、結局はロシア軍駐留を許してしまう。最早ルカシェンコの生殺与奪の権はプーチンにガッチリ握られている。
その後の戦況はニュースで我々もよく知るところであり、本書出版以降もそれ程大きくは変わらなかった。プーチンの方はNATOに対抗できないので核を脅しに使い始めており、いよいよ広島長崎以来、人類史に残るような悲惨な状況が必ずしも訪れないとは限らない状況になっている。筆者はそれについても幾つかのパターンを示し、其々の選択に対する西側の対応方法について分析している。配偶者がロシア人の奥様ということもあり、島国日本人には判らない大陸独特の感覚にも触れる機会も多かろう。極めて冷静に膨大な情報の中から分析を重ねられているようであり、読み応えがある。
現状は西側からの大量の武器供与を受けたウクライナが一大反転攻勢の真っ只中にある(2023年8月時点)。予想よりも反撃の進行速度はゆっくりではあるが、最近ではあまり時間を取らなくなってしまったニュースからでも、ゼレンスキー大統領の健在ぶりは見えてくる。そのうちF16やグリペンを駆使して、制空権を取りに行くウクライナ兵士の姿も見える筈だ。
筆者は今回の戦争自体を、過去の様々な戦争と比較し、果たして「新しいタイプの」戦争に該当するかにも分析を加えている。確かに過去には見てこなかったドローンによる攻撃(アメリカがイラクで使用したUAVよりも小型で民製品が主体)、民間の衛星を活用した索敵、初期にはロシア将官が使うスマホの電波を追うなどサイバー空間での戦い、それらに加えてジャベリンやハイマース、戦車にはチャレンジャーやレオパルドなど技術的には最新のものを駆使して戦っている。クラウゼヴィッツの言う三位一体の戦争においても、国民からの大きな支持と兵力提供にも支えられている。それら事実から小泉氏が導き出した、本戦争の姿は是非読んで頂きたい。
Posted by ブクログ
本書が発売されてから一年近くが経とうとしているが、残念ながら戦争は終わりそうもない。
最近日本では、ウクライナ戦争に関する報道も減りつつあるような気がする。
本書は戦争が始まる少し前からの両国の動きと、開戦後昨年の秋に至るまでの経過や、両国と関係諸国の動きを端的に分かりやすくまとめ分析している。なかなかの良書だと思う。
分析にあたり、事実を重視して可能な限り公平であろうとする努力には共感を覚える。終わりに、今後の日本で早急に考えておかねばならぬ事が端的に纏められている。このウクライナ戦争は、日本の国民の一人一人がこの東アジア地区での日本役割をしっかり考えるいい契機になると思うし、そうしなければいけないだろう。
その為にもこのウクライナ戦争にどう自分自身が関わっていくかを、しっかり考えねばならなだろう。
Posted by ブクログ
気鋭のロシア軍事研究者である著者が、2022年2月24日に始まったロシアによるウクライナ侵略(第2次ロシア・ウクライナ戦争)について、なぜこのような戦争が起きてしまったのか、それは本質的にどのような戦争であるのか、戦場では何が起きており、日本を含めた今後の世界にどのような影響を及ぼすのか、書き下ろしで解説。
2023年7月時点でも現在進行形の世界的な危機である第2次ロシア・ウクライナ戦争について、その背景や2022年秋時点までの状況、戦争の特色がよく整理されていて、参考になった。
今回の戦争はやはりプーチンの個人的要素(原因としての民族主義的野望や、マイクロ・マネージメントによる失敗など)が強そうという印象を持った。専門家の著者でさえ、リアルタイムでは読みを外すことが度々あったことが率直に吐露されていて、今回の戦争の複雑怪奇さを物語っている。
「おわりに」で総括と今後の展望として述べられている、①この戦争は極めて古典的な様相を呈する「古い戦争」であるという点、②核抑止は依然として大国の行動を強く縛っているという点、③この戦争が「どっちもどっち」と片づけられるものではなく(当然ロシアに強い責任がある)、主体的な議論が必要であるという点は、我が国の安全保障にとっても大きな教訓となる重要な指摘と感じた。
Posted by ブクログ
戦争開始前から開始後の経過がまとまって描かれておりわかりやすかった。ことはみんなの予想通り進まないですね。プーチンもゼレンスキーも予測してなかった展開になってそうだな。最後はどうなるのか、、
Posted by ブクログ
・ベラルーシはロシアの軍事作戦に使われることを拒否してきてはいたがルカシェンコの再選が難しくなったタイミングでプーチンの介入により再選した経緯から、憲法の文言が外されるなどして軍事作戦に使われてしまうようになった背景
・ウクライナの国境付近に配備された軍がロシアの東の地域からも派遣されてきていたり、準備された武器の種類の多さであったり、野外病院が多く設置されていること等からロシアによる進行は政権陥落まで狙ったものになるというアメリカの事前の見立てはかなり正確であった
・ウクライナでゼレンスキーのライバルだった親ロシア派政治家に対しゼレンスキーからの制裁?締め付けが厳しくなったタイミング、妙にロシアに甘いトランプ→比較的厳しい(だが強行派というほどでもないが)バイデン政権に変わったタイミングが重なっていた
・そもそもプーチンの論文等を読むとウクライナは本来ロシアの一部であり人工的に切り取られた結果ウクライナ化が進んでしまった、と言う考え方
・ゼレンスキーはヒーローではないしバイデンもやれること全て尽くした訳ではないが圧倒的に悪いのは戦いを始めたロシア
・このタイミングでプーチンが戦いを始めた理由はよくわからないが結論。何かが差し迫っていたタイミングでもない。NATO拡大を阻止という大義名分はあるがそれなら北欧がNATOに加入した時の反応の薄さが矛盾。プーチンにとってウクライナは本来ロシアの一部であり自分が生きてるうちに民族を統一したいといった考えがあった可能性
・ロシアだけを責めるのかという意見もある、ウクライナのネオナチ化や暴力的支配等ロシア側の言い分は全てロシア側にも言えることであり程度で言えばロシアの方が圧倒的に上回る。客観的証拠が出せていない主張も多い。最終的にロシア側から侵略戦争を仕掛けていることからも厳しい目を向けなければならない。侵略戦争はいつ自分の身に降りかかるかわからない
・核の抑止力は強い。アメリカ等の対抗措置が縛られているのは結局第三次世界大戦、そしてロシアの核を恐れているから。ロシアにとっても同じだが。
わかりやすくよかった。軍事的な話はあまり頭に入ってこなかったが国と国の関係や動きはよく理解できた。
核の抑止力がこれだけ効いている今の世界の中で、唯一の被爆国である日本ができることは間違いなくあると思う。核兵器なんて使われるわけない、被爆国なんて過去のこと、なんて思わず真摯に受け止めたい。
Posted by ブクログ
Twitter芸人のわりによく書けていると思う。
新聞より詳しく、Twitterより全体感と前後関係がわかりやすい。単行本より手軽にわかった気になれる。
開戦前も含め、プーチンを始め主要人物の発言と見に見える事実から、背景となる思想や各時点の考え・判断を推測していくところがしっかり書かれていて面白い。
どこがターニングポイントだったか、なぜそうなったのかというのも、振り返ってみるとわかることがある。
細かいところでは「ハイブリッド戦争」「新型戦争」「新世代戦争」の違いの説明がわかりやすくて興味を惹かれた。
兵器に関するところはくわしく、とくに筆が走っていると感じた。兵器の特徴、使い道、それによる直接の影響と波及効果が秩序立てて説明されている。さすがは専門家。
Posted by ブクログ
開戦は2022年4月。
開戦前の2021年から2022年9月までの両国、欧州、米国の動きを政治、軍事の各方面から伝える。分かりやすい記述が素人には助かる。
ただ、2025年の5月現在も停戦の望みは薄く、さらに言えば結局「力」がモノをいう結果になりそうなのが怖い。
毛沢東でもない限り「核」には世界がビビるってことだな。
Posted by ブクログ
丸善で平積みされてたの発見し、読んでみた。
2022年9月までの状況を、そこに至るまでの状況も含めて整理されており、自分自身の本件に対する理解を深めることができた。 プーチンの発表した論文などワールドニュースで聞いていたことも、実際どんな話か知ることができたし、主張や行動に関する考察もタメになった。
あとがきで、日本が同様の状況になったときにどうするか議論必要という話も入り、個人的にロシアが全面的に悪くなって言っている方々の考えを聞いてみたいなと感じた。
Posted by ブクログ
侵略開始1年位前からのロシア、ウクライナの関係、其々の国内事情、それに米欧は衛星画像その他情報から侵略の意図、時期もかなり正確に把握していた事等、細かく解説され分かり易かった。
歴史や戦争論も交え、軍事的戦術、兵器まで細かく解説される一冊だが、そもそもの「なぜ今こんな戦争が起こったのか、これからどうなりそうか」については憶測の域を出ない。
これについては何年後か、或いは意外に早く(昨日あたりからワグネルがモスクワに向かったとか引き返したとかのニュースもあり)でも、何らかの決着を見た後の分析を待つしか無いのだろう。
兵器や兵員数など軍事力比較分析、プーチンの思惑や当初想定したであろう侵略プランと修正案、各国の事情踏まえた駆け引きといった細かい分析等々を読み進めながら通底していた思い「国のトップや上層部の愚かで冷酷な判断のせいで、辛く悲しい生活を強いられる事になるのは一般国民、生活者である事の視点の欠落」は、筆者も同じだった様で、その辺について「あとがき」で触れられていたのを読み、ある意味救われた思いと筆者への共感度、信頼感が増した。