【感想・ネタバレ】競争と公平感 市場経済の本当のメリットのレビュー

あらすじ

「なぜ日本人は競争が嫌いなのか?」「競争のメリットとは何だろうか?」「格差の感じ方が人によって違うのはなぜか?」「私たちが公平だと感じるのはどんな時か?」日本は資本主義の国々のなかで、なぜか例外的に市場競争に対する拒否反応が強い。私たちは市場競争のメリットをはたして十分に理解しているのだろうか。男女の格差、不況、貧困、高齢化、派遣社員の待遇など身近な事例から、市場経済の本質を捉え、より豊かで公平な社会をつくるヒントをさぐる。

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Posted by ブクログ

日本人がなぜ資本主義なのに市場競争に拒否反応が強いのか。
たしかに市場経済の授業ってまともに受けたことなかったなあと。
慣れのない中で「負ける苦痛」もそうですが「勝ち続ける苦痛」も耐え続けるのがしんどいんやろなあと思います。

本書を読むと「生産性の低い人」は辛いことになるんやろなあと思います。
えば残業規制が緩かった時は長時間労働で帳尻合わせてたのが時間内で結果を出さざるを得ないようになると仕事が追いつかなくなるんですよね。
仕事の持ち帰り規制があって長時間労働規制があって有給取得義務化につながるとますます「生産性」が仕事できる人になれるか否かに直結するようになるんやろなあと思います。
大竹先生の本もかなり読み進めることができました。

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2020年05月07日

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 日本人はなぜ競争が嫌いなのかを経済学的観点から説明しています。身近な話題を取り上げて解説してくれるので読みやすいです。

 雇用問題で非正規社員が増加し、その結果、富裕層と貧困層の格差が大きくなったと言われています。世論では、格差が大きくなるのはよろしくない、格差を是正しろと声高々に論じられています。一方、経済学の視点から考えると、一番の目的は、市場で効率良く成果を上げて利益を最大化することです。

 経済学の視点から言えば、格差が生まれるのは至極当然のことであり、格差を問題と考えること自体おかしいとの考えです。本書では、経済学の観点で、日本中に蔓延している全員平等で公平の考えに一石を投じています。

 世の中は経済で成り立っています。一方で、経済学はお金儲けの手段だというネガティブな考えもどこかに潜んでいます。本書で指摘しているように、経済学は何もお金のことだけを考える学問ではありません。お金を通して、世の中が豊かになるのが最終目的です。世の中が豊かになるという目的は全員が共通認識のはずです。お金という側面を考えているかどうかの違いだけだと思います。

 世の中が豊かになり、自分が幸せになるためには、お金を味方に付けておくのは絶対条件です。そのためには、経済学をもっと勉強する必要があります。経済や金融の知識は誰もが持っておく必要があります。お金を人生の目的でなく手段のひとつであると捉えて、お金についてもっと勉強することで、世の中の流れが分かるはずです。

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2012年10月10日

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日本で市場経済が不人気な理由を行動経済学の視点で分析していて興味深いです。行動経済学が好きな人には超お勧めです。


【以下、興味深かった記述を抜粋】※「?付きの文章」は自分の感想

・【定年層の育った社会環境】好況→失業率の低下(努力すれば職に就ける)→勤勉である事が重要→(市場)競争に積極的。
【若年層の育った社会環境】不況→失業率の上昇(努力しても職に就けない)→運やコネが重要→(市場)競争に消極的→規制強化に賛成。
   →好況だと市場競争に賛成な人が増え、不況だと市場競争に反対(規制強化に賛成)な人が増える。最近の草食系ブームの原因は景気なのか?

・規制により、規制の枠内での格差は縮小するが、枠内と枠外の格差は拡大する。例)最低賃金の引き上げは、既に職に就けた人達の格差は縮小するが、職に就けた人と就けなかった人の格差は拡大する。
・最低賃金引き上げは貧困問題として政治的にアピールし易い。しかし、その結果
  ?最も貧しい勤労者は職を失い、新規学卒者、子育てを終えた既婚女性、低学歴層の人達は就業機会を失う。
  ?既存の雇用者同士の賃金格差は縮小する

・真の貧困救済策はどうあるべきか?
  ?教育訓練の充実(子供の頃からの教育も重要)。質の高い労働者には、企業は高い賃金を喜んで支払うだろう。
  ?負の所得税(給付付き税額控除や、勤労所得税額控除など)。
  ※賃金規制という強硬手段で失業という歪みをもたらすのではなく、税と社会保障を用いた所得再分配で貧困問題に対応するのが筋。

・非正規雇用を雇用の調整弁と位置づけ、その増加をデフレ化の労務費削減ツールとすることで、正社員の解雇規制と賃金を守るという戦略に経団連と(労組)連合の利害が一致した
  →少数の正社員の過重労働と多数の非正規社員の不安定化という二極化
・非正規切りの問題点
  →不況期の新卒世代で非正規社員が増加 →次の不況で、雇用の調整調整を受け失業。貧困は子供の世代にも波及(貧困層の固定化) →将来多大な社会的コストの支払いが発生
  →企業も景気の波に比例した正社員のいびつな年齢構成 →技能継承がスムーズになされず、長期的な競争力を失っていく

・平日労働時間の増加
  週当たりの労働時間は変化していないが、週休二日制が普及した為、平日の労働時間が長くなった(平日10時間以上働く労働者の比率は1976年には17%だったのに、2006年には42.6%にまで上昇)
  →平日の労働時間の長時間化は、睡眠時間の短縮によってもたらされた。睡眠時間という健康投資を削って働いている事は、健康にマイナスの影響?
・日本で、有給休暇の取得率が低いのは何故か?
  (ヨーロッパ)
    労働者に有給休暇のタイミングを決める権利が無い。会社が日程を決め、強制的に休ませる。だから、消化率は100%に近くなる。
    病欠は有給とは別に取れる
  (日本)
    労働者に有給休暇のタイミングを決める権利がある。病気など不測の事態の為に、年休を残す傾向がある
    ヨーロッパの有給に当たるのは、日本の場合は国民の祝日。国が祝日の日程を決め(年々増加)、国民を休ませる。

・社会保険料の上昇(=事業主負担の上昇)
  事業主は、賞与を中心とする賃金の低下と非正規労働者への代替によって対応する

・スポーツと同じで、1人勝ちが発生してしまうと市場メカニズムはうまく機能しない。大事な事は、競争を否定するようなルールを作ることではなく、市場競争がうまく機能するようなルールを作ること。

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2013年11月24日

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ネタバレ

競争と公平感
―市場経済の本当のメリット

帯に「週間ダイヤモンド」2010年のベスト経済書とあったので、思わず購入。本の山に眠っていた物を発掘しました。貧困問題、非正社員問題、外国人労働者問題など数々の問題を取り上げながら、全体として日本人と競争に関して論説しています。
日本人は先進国の中でも飛び抜けて競争が嫌い。ふむふむ。それは教育から来ている。なるほど。現在の日本の教育では金融リテラシーは教えられていない。ほー。
著者は公平さを保つ介入を政府が行いながらの競争市場が健全で効率的な経済成長を促すことを盛んに論じています。でも、そうなっていない。そこには、為政者たちが既得権を死守するように誘導している日本社会がひしひしと感じられるようになる良書だと思います。
一般庶民は金融リテラシーなど持たない方が商売人にとっては都合が良い(多くのサラ金が金融リテラシーの低さによって商売していた)。競争市場をつくったら、既存の大企業はたちまち勢いのある企業に淘汰されてしまう(ホリエモンに対しての驚くほど重い実刑判決)。
そういったもろもろの世の中の流れを理解する上で、役に立つヒントがいろいろと入っています。
逆に、竹蔵が経済学の言外を感じたのは、モデル構築によるシミュレーションの結果というのは、モデルの精度次第で大きく結果が異なってしまうということ。経済活動という極めて複雑で人の感情によって大きく左右される活動をモデル化することがそもそも難しいということ。逆を返せば、モデルの構築時の恣意性が簡単に都合の良い結論を導けてしまうことを改めて認識させてくれました。
いずれにしても、いろいろとショッキングな結果(経済学部卒の人の20%が複利計算ができない?)も満載で、そういったところも楽しむことができます。
コストパフォーマンスが異常に高い本で、この本であれば、公平な競争市場でも生き残れると思います。はい。

竹蔵

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2025年05月12日

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人間とは合理的な意識を持つことがいかに難しいかがよくわかる本である。
本書は言う。「日本は市場経済への期待も国の役割への期待も最低というとても変わった国である」。とても驚いた。目から鱗である。
経済学者は普遍的な定理を主張するのものと思っていたが、本書では国民文化の違いから考察が始まる。なるほどこれが「応用経済学」と言うものか。
本書を読むと、縦割りの狭い領域を超える知見こそが新たな発見をもたらしてくれることを感じさせてくれる。まさに知性には限界が無いと思えた。

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2019年06月05日

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経済学者による市場経済と平等について書かれたもの。直接、本論について書かれている箇所は少なく、日本人、男女、教育、身体機能等、さまざまなことをトピック的にあるいはコラムとして記載し、素人でもわかりやすく、興味深く読めた。印象的な箇所を記す。
「市場競争の格差対策には2つある。第一は、政府による社会保障を通じた再配分政策によって格差を解消することであり、第二は、低所得の人たちに技能を身につけさせる教育・訓練を充実することである」
「若年層ほど、勤勉よりも運やコネが人生の成功で重要だと答える割合が高い」
「(薬指が長い人は能力が高いことについて)十両や前頭下位で引退した力士よりも、横綱や大関といった上位に昇進した力士の方が、薬指が人差し指より相対的に長いことがわかった。瞬間的な判断力を必要とする職種では、テストステロンの量が重要な資質として機能するようだ。(シカゴ大学、ケンブリッジ大学の研究結果も同じ。薬指の長さは、テストステロンの量と相関があることが知られている)」
「(市場競争のメリット)市場経済に任せると、最も効率的にさまざまな商品やサービスが人々の間に分配される。つまり、売れ残りや品不足が発生しないという意味で、無駄がなくなるということだ。無駄がなくなるということは、同じだけの資源をもっている場合に、私たちの生活は最も豊かになるということである」
「簡単にいえば、市場経済のメリットとは「市場で厳しく競争して、国全体が豊かになって、その豊かさを再分配政策で全員に分け与えることができる」ということだ」
「教科書は、「競争環境をうまく設定すれば、市場競争によって私たちは豊かになれる」という一番大事なメッセージを伝えることに成功していない。それは、市場の失敗と独占の弊害ばかりを強調しているためである」
「(出産時の低体重児は、健康障害及び教育水準低下と関連性があるとの研究について)栄養状態の悪い妊婦から低体重児が生まれ、その子どもが育っても健康状態が悪く、所得が低くなって、子どもを生むと低体重の子どもが生まれる」
「中学生の時に、夏休みの宿題を夏休みの最後の方にやった人は、たばこを吸いやすく、ギャンブルをしていることが多く、借金を背負う確率も高い」
「非正規労働者が、労働者への配分が減ったものの多くを負担している。このことは正社員の雇用を守り、企業の労務コストを削減するという意味で、正社員と企業経営者にとって短期的には合理的である」
「(競争否定論者に対して)オリンピックから競争がなくなって、金メダルが廃止され、単に参加賞しか出なくなったとすれば、オリンピックを楽しむ人は激減するだろう」

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2018年11月14日

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データから見る日本と社会と市場と経済。市場経済の話を軸に、関連する四方山話を取り揃えた一冊。祝日が増えると経済はどうなる?ワーカホリックの存在は経済にどう影響を与える?最低賃金引き上げの効果は?移民は?などなど。直近役に立つわけではないが、政治経済に関わる一般社会人としては抑えておきたい。

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2018年10月20日

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オイコノミアを見て大竹先生に興味を持ち読んでみた。同番組で取り上げていたトピックと被るテーマが多く、理解しやすかった。
経済学者らしく競争に肯定的な態度だが、日本では敗者復活の道が限られている以上、全面的に競争社会を肯定する気にならない。ムダの排除が経済学の目的らしいが、経済効率と国民の幸福は相関しない、と思う。

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2018年08月23日

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市場経済と格差についての考察。

まず、日本人が世界各国から見ていかに自由主義や市場経済、格差についての意識が特殊かというのがデータとともに論じられている。

単純に市場経済と言っても最低賃金や働き方、移民問題など、今の政党の政策等に照らして考えても、面白い。幅広く経済学的な問題を取り上げているので、知識のベースアップにはちょうど良い本と思う。著者の言うとおり日本人の金融リテラシーは低いと思われるが、それに加えて客観的なデータを基に考える、生活行動様式を選択できるようになるのが良い。

また、行動経済学の考え方は今や広く知れ渡ってきているが、これが4年程前の文章ということを考えると、興味深い。

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2015年10月20日

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著者曰く、「市場競争も政府も嫌いな日本人に向けて書きました」とのこと。全編通して、市場競争のメリットが展開されていく経済エッセイです。

「アメリカで大企業主義と市場主義が峻別された理由」「不況が人々の価値観にもたらす影響」「ウィキを使って社会問題を解決する方法」などなど、興味深いテーマが多々取り上げられていました。

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2021年09月25日

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前半はニューロエコノミクスや行動経済学など、古典的な経済学の仮定した経済人の概念を変更する新しい経済学が中心で余り面白くなかったが、後半は市場競争や伝統的な経済学の理論が現実世界の諸問題に応用できる可能性を描いている。

端的に言って「公平感」というタイトルから期待した内容は少なかったが、経済学が何の役に立つのか、現実世界の問題にどのような視点を提供するのか、どんな物差しを得ることができるのか、などが丁寧に描かれている。
個人的には後半の労働市場の話と後書きが非常に興味深かった。

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2013年06月12日

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身近でわかりやすい具体例をあげ、市場原理や経済について解説してくれる著書。経済についてネガティブなイメージもあったが、この本を読んで改めて勉強し直そうと思った。

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2012年12月18日

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行動経済学であったり日本における貧困と教育の相関であったり、今までこの授業関連で読んだいろいろな本とリンクする話が多く、読み進めやすかった。様々なデータをその実験とともに自説の強化に援用しており、興味深い。ただ雇用形態のパラダイムシフトは少しユートピアかもしれないと思った。

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2012年11月24日

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本書は、日本人の資本主義及び競争と格差に対する感じ方の特徴に始まり、雇用、格差、貧困といった社会問題について、経済学的見地から分析し、問題の本質を明らかにしようとしている。こうした社会問題は、個別事例を強調した報道により、情緒的、感情的な議論が蔓延し、政治家も問題の本質に取り組まず、大衆迎合的かつ近視眼的な対応で世論の支持を集めようとしてきた。しかし、例えば雇用問題のように、規制強化による雇用保障や最低賃金の引き上げが、かえって雇用の選別を強め、二極化を助長することになり、政策目標と逆の効果を招いてしまうということが、経済学的には明らかであるにもかかわらず、政策レベルではこうした誤ったことが実行されている。本書を読んでいくと、社会的問題を分析し、解決策を模索していく上で、経済学がいかに有効であるかを改めて認識させられた。

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2012年09月29日

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これは面白かった!
印象に残ったのは、ワーカホリックの人が同僚のうちは周りにとってとても重宝する存在となるが、こういう人が管理職になった際にはそうとも限らないという点。
盲点を突かれた感じでした。

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2016年08月04日

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最近話題となっている社会テーマをわかりやすく経済学の視点から解説した本。
お固い2トップである中公新書にしてはとっつきやすいです。(もうひとつは岩波新書)

競争嫌いの日本人
夏休みの宿題をいつすませたかとその人の将来所得の相関性
最低賃金の上昇は本当に所得格差を縮小させるのか
外国人移民の受け入れによる日本国内の労働環境の変化

など政治色を出す番組ではおなじみのテーマがめじろおし。

テレビでよくわからんことをいう"評論家"、"政治家"の話を聞くよりもこういった本を1冊読む方がはるかに理解を深めることができるなと思います。

労働に関するテーマに関連して、今年の4月に働き始めた新卒就職者数は卒業者数の6割、さらに就職者の4割は海外で働きたくないという実態は、日本の将来を考えると不安に思ってしまいます。

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2019年01月16日

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参考文献は非常に多く、時間をかけて研究されたのだろう。データも多く使われ、説得力はある内容。
だが、思い切った自論を展開するのではなく、今後の改善案的なものは平凡な気がした。
団塊の世代のボリュームが選挙結果にも影響しているとのことだが、たしかに多数決の論理ではそうだろう。
日本人には自分のことだけでなく、日本全体の今後のことを考えている人が多いことを願いたい。

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2019年11月14日

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競争の大事さわ経済的に語る本
日本人に競争嫌いが多い理由を説明
いろんなことに触れてはいるが、なんか散発的な印象を受ける

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2019年08月15日

Posted by ブクログ

近頃似たような本を多数読んでいるので、読後感が希釈されてしまって、残らない。
割と雑然とした経済学のコラム集
記憶に残った項目
男のほうが競争が好きなのが男のほうが出世するという結果につながっているかもしれない
小さく生んで大きく育てるは間違い、体内で栄養状態が悪いと、飽食生活に耐えられないで肥満になる傾向が高い
最低賃金引き上げは、貧困層に大きな損害を与える
夏休みの宿題を最後までのコスタイプの人は、多重債務に陥りやすい。それは、主観的割引率が高いため

2014年 前に読んだこと完全に忘れて再読。この記事書くまで、前に読んだことがあることを思い出せなかった。orz

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2019年05月21日

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最近のアンチ市場経済論に対して経済学的な見地をとく入門書。

自由市場での競争で効率を上げて、生じた格差は再分配で調整するというのは正論。しかし著者が指摘するように日本では、競争にしても公による再分配にしても人気がない。身内での調和を重視する風土と、ある意味、整合的な態度ではあるのだが。そこに小泉改革のように市場経済カラーだけを強めるとバランスが崩れるということか。

双曲割引の話や、社会保険料が会社負担も従業員負担も関係ないという議論は勉強になった。小野不況論とケインズ政策の違いはようわからんだ。

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2018年11月05日

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私たちは本当に「市場競争」について理解できているだろうか、というのが本書のテーマ。

統計データを使いながら、日本人が感じる「公平感」や競争に対する感覚の特殊性を指摘していく。
その背景には、「市場経済」__つまり競争を前提とした社会がもたらすメリットが正しく理解されていない状況があるのではないか、と著者は指摘する。

「ブラックスワン」のタレブは市場は失敗することを前提にしているが、だからといって市場そのものがまったく無意味というわけではない、ということだろう。

「競争」というものがあることによって、私たちはいろいろなメリットを得ている。ただし、それが当たり前の世界で生活しているので、そのメリットが見えて来にくい、というわけだ。

第二節では、「公平」や「貧困」の問題を取り上げている。日本における貧困の多くは「相対的貧困」であろう。それは、その人が「そう感じる」という部分が実際の所多い。
そして、人の感じ方というのは相対的である。

また、人間はマキシマイザーではない。

そういうのを前提として、制度設計が必要ではないか、という提言もある。本書内では「後悔するような人間」をモデルにする必要があるのではないか、と書かれている。
このあたりは、リチャード・セイラーの「実践・行動経済学」あたりが関連してくるだろう。

第三節では「働きやすさを考える」と題して、非正規雇用の問題から、社会全体における労働の在り方が模索されている。

市場経済、あるいは競争主義というのは、「自由に好き勝手やってください」というのとイコールではない。そこには、一定のルールがある。
そして、そのルールが時々の情勢に合わせて変更される。

その変更のされ方に、「不公平感」を感じることは避けられない。バランスを調整するために行われるわけだから、主体的な視点で見る「私たち」の誰かは、必ず「不公平」を感じることになる。

結局の所、その不公平を受け入れることで、一体何がバランスされるのか、ということを考える必要があるのだろう。

不公平が嫌だからと言って、競争そのものを完全にゼロにしてしまったら、思いもよらなかった結果が待っているかもしれない。

なにせ、私たちは「後悔するような人間」なのだから。

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2018年10月09日

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「オイコノミア」の「大竹先生」の本で、2010年刊行の本。
労働や雇用の問題の専門家だったようだけれど、テレビで活躍する人だけあって、いろいろな学者の論文を引きつつ、すっきり、手際よく議論が進んでいく。
経済状況が人の価値観形成上に影響し、その逆もある―こう書くと当たり前のようだが、これが経済学的にも証明されてきたことなのだとか。
出生時の体重が成長後の健康状態、ひいては経済状態にも関わっているという話には驚いた。
各章で、男女の昇進格差、グローバル化の中の所得格差など、様々な格差問題を分析し、最後に処方箋を示していく。
国が再分配をうまくしていけるのなら、むしろ競争や格差はある程度はあったほうがよい、ということのようだ。
…それがあまりうまくいっていないから、困っているんだけどねえ。

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2016年02月23日

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市場競争は豊かさを生むが、「競争」であるが故に各人の間に格差を生じさせる。
また、政府による徴税や公的扶助など、社会的システムにより再配分が行われる。

このような基本的働きの中、例えば、「公平」に重きを置けば、「競争」自体を制限することにもなりうる。日本人の競争嫌い、グレーなままに安心してしまう文化に問題提起をしている。
本書では、格差と再配分について、適切なバランスをとるよう議論を深め、社会全体としては豊かさの創出を続けていくことを唱えている。

このような資本主義のあり様は、至極当たり前のことではあるが、本書では、非正規雇用、長時間労働、夏休みの宿題への取組み方などなど、色々な側面から具体的事例を紹介しながら説明されている。

事例の紹介は多いものの、それぞれを深く掘り下げるような内容が薄く、もう一つ気持ちが乗っていかない感じであった。
私としては、「住民が公平感を感じる」=「政府への理解、納得性が向上する」という視点で知識を深めたかったので、少し残念。

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2013年12月10日

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行動経済学や文化経済学などの最新の研究の知見をふんだんに盛り込みながら、格差問題などを検討している。いろんなトピックを取り上げているので、全体としてはやや散漫な印象。
政策効果検証のための政府保有情報のオープンソース化や長時間労働問題の分析など政策立案のヒントとなるような内容も多い。

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2013年11月23日

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競争嫌いの男女差、人の決断の時間非整合性、最低賃金引き上げの被害者など、社会と経済の問題を具体例を交えつつ説明。

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2013年11月04日

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競争は必ず勝者と敗者を生むし、努力をしたからといって勝者になれるとは限らない。市場経済のメカニズムが人々の努力を促し、失敗して敗者になっても政府のセーフティネットがしっかりと再チャレンジを可能にしてくれる。そうしたら日本の国際競争力も上がるのじゃないかと思いました。

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2013年02月16日

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競争・格差・公平感にまつわる統計データや考察が豊富に載っている。全体として統一されたストーリーがないためかあまり刺激的なものではないものの、充分に示唆を得られる。

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2013年01月04日

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行動心理学的なのも結構乗っていて面白可笑しく読めた。市場・競争・金融の意味や価値をもっと学んでも良いのかもしれない。特に学校において競争は毛嫌いされてる感あるしな。確かに学校の中で能力や成果を図る定規が偏差値しかない中で競争させるのは割を食う子が出る。そのことを問題視するのはわかるが,競争自体を否定するのはやりすぎだわね。一人一人が活躍できるような工夫をする方が建設的だろうな

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2012年07月23日

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年功序列から実力主義の社会になった。常に競争を強いられる辛さは大きくなったが、それだけに市場競争のメリットがそれ以上にあることを努力して認識しなければいけないと筆者は説く。そのメリットをもっと論じて欲しい部分はあった。市場競争のメリットを理解するのは難しいので、格差を必要以上に問題視する風潮になると思われる。日本人の、人生の成功において勤勉よりも運やコネが大事と考える比率が、他国と比べて高く、またその比率も上昇していることは、この先の国際競争力を考えても心配。アメリカではアカデミー賞受賞者は、候補に上がったけど受賞しなかった人より4年寿命が長いなどの、紹介されているエピソードも面白いものが多い。

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2020年10月25日

Posted by ブクログ

現在の経済学と、それをベースに構成されている社会、制度と、生物としての人間の本性、文化、慣習などの関係を、いろいろなトピックの説明を通じてなぞっていく。

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2018年10月14日

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