あらすじ
土が文明の寿命を決定する!
文明が衰退する原因は気候変動か、戦争か、疫病か?
古代文明から20世紀のアメリカまで、土から歴史を見ることで社会に大変動を引き起こす土と人類の関係を解き明かす。
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Posted by ブクログ
土壌肥沃度を改めて考えさせられた。
作物はどこに植えても育つわけではない。肥沃度が高いから育つのだ。土壌から養分を得て作物が育ち、その作物を我々動物が食し糞尿としてまた養分を土壌に還す。これが本来のサイクルなわけで、それが破綻した文明が崩壊していくのだ。
鋤などの土壌を耕す行為ですら肥沃度を低下させるのは意外だった。確かに空気を含み表面積が増える事で雨風に晒されやすくなる。その結果土壌が失われていき、作物が育たなくなる。不耕起栽培というのが土壌の事を考えたら最良の栽培方法なのだろう。学びのある本だった。
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肥沃な土壌は有限な資源であり、人類の持続可能性のためには土壌を意識する必要があるというのが本書の趣旨。
持続可能性の概念が広まった現代においては、「それぐらい知ってるよ」と感じる人が多いかもしれないが、さて、どれぐらい知っているのだろうか?
本書を読んでいて第一に驚いたのは、「土壌とはこれほど失われやすいものなのか」ということだ。農地を耕すことは良いことだと想像していたが、耕すことが土壌の侵食を数十倍に早め、農地の寿命を短くすることがあるということも、都会暮らしの私には知らないことだった。
本書では取り上げられていないが、以前、オーストラリアに行った際にアボリジニは6万年にわたり、持続的な土地利用をしてきたという話を聞いた。当時はその凄さがあまり理解できなかったが、本書を読んでその圧倒的な実績がやっと実感された。
第二に驚いた点としては、食料需給の問題について。
化学肥料無しで現代の食料需要を賄うことは不可能だと思い込んで生きてきたが、有機農法は必ずしも収量を減らすわけではなく、むしろ長期的には経済性も含めて慣行農業より優れた結果を出しうるという指摘。私の今の思い込みがなぜ形成されたかが察せられるようなアメリカにおける政治的な知識形成についての記述も興味深かった。
最後に、本書を読むと景観を見る目が変わるなと。
地形の凹凸を見るにしても、雨の日の川の濁り具合を見るにしても、地面に生えるクローバーをみるのも、土壌に関わる示唆が得られるようになり、散歩がさらに楽しくなる
著者の新作が本屋に並んでいたのでそちらも読んでみたいと思う
Posted by ブクログ
原題は「Dirt:The Erosion of civilization」=「泥:文明の浸食」。その名の通り、文明がいかに表土を侵食し、貴重な資源を食いつぶしてきたかという歴史である。人類が農耕を始め、鋤を使って土を耕起するようになってから表土の流出が始まった。それは、ローマ帝国やマヤ文明を滅ぼし、今もアフリカの飢餓を招き、アメリカや中国を衰退させようとしている。それに拍車をかけたのが、石油から生み出した肥料を土に施して収量を増やす「緑の革命」だった。しかし、遺伝子操作と農業化学による収穫増は、もはや限界に来ている。有限の資源である土を、いかに保全し持続させてゆくか。そこに人類の未来がかかっている。
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著者のモンゴメリー氏は地形学の専門家だが、人類学や社会学等幅広い視点から、土壌の大切さを訴えている。300ページを超える大著だが、著者の主張を一言で伝えると「土壌は有限の資源であり、消失速度が生成速度を上回れば、いずれ土壌は枯渇し、その文明は消え去る運命になる。」
農業というと他の産業よりも環境に優しいイメージがあったが、実は有史以来自然を最も破壊した産業はこの農業だった。機械や薬剤に頼った現代の農業だけでなく、天然素材だけで行われた古代の農業も含め、土壌に対する配慮を忘れ土壌を消耗すれば後に残るのは不毛の大地だけ。メソポタミア、エジプト、ギリシャ、ローマ…古代の文明が栄えたこれらのエリアが現在、一面の砂漠や荒涼とした大地になっているのは、無秩序な農業のせいだった。古代文明は土壌の消失により衰退したが、近代の欧州では失われた土壌を補うために植民地支配へとつながった。そして、現代は経済性を重視し、機械と薬剤で土壌の消失を加速させている。土壌はただの土でなく、再生困難な希少資源であり、食糧生産や人口を通じて、経済や社会に如何に大きな影響を与えている現実を直視しなけれなならない。
本書を通じて、著者は土壌枯渇の危険性に強い警鐘を鳴らす一方で、リスク回避のための処方箋も提案している。それは古くて新しい農法、有機農業である。有機農業では土壌を生物学、生態学的にとらえ、土壌の生産性を維持しながら作物を収穫する。正しく実践すれば、その生産性は現代の慣行農法を上回るポテンシャルがあるという。薬剤に頼らずに厩肥や被服植物を活用する有機農法は農家にとって負荷がかかるが、経済重視の米国でも有機農法が広がりつつあるという事実は、本書で述べられた数少ない安心材料である。
著者は時間、空間的に幅広い調査を行っているが、いずれも畑作の事例が中心で、アジアで盛んな米作に関する記述はない。日本で古来から続けられている米作は地形や気象の条件等の制約はあるが、持続的な食料生産に対する別解なのかもしれない。この点については著者の今後の調査活動に期待したい。
日本は地理的に高い土壌回復力に恵まれ、米作の文化が持続的な食糧生産を支えてきた。しかし、その恵まれた環境こそが、土壌資源が恒久であるかのような錯覚をもたらしているかもしれない。自分がそうであったように。足元の問題を再認識するためにも、是非、本書をお勧めする。
Posted by ブクログ
地質学者が論じる土壌開拓、農業の歴史を記述した本。土壌は有限の資源であり、文明の存続可否は土壌を再生可能な状態で維持できるか否かにかかっているという。思えばアルキメデスの示した四元素のひとつでもあり、先人は遥か昔からそのことに気づいていたのではないだろうか?にもかかわらず、人口は爆発的に増加の一途を辿り、土壌の汚染、崩壊は止まるどころか加速しているようにも見受けられる。人間視点ではなく地球視点、宇宙視点で農業のあり方、人類のあり方を見つめなおさなければならないように思う。
Posted by ブクログ
おもしろい!
歴史を土壌の変化からひも解く本ははじめて。
これを多くの人に読んで欲しい。
いかに現代に生きる私たちの生き方が間違っているか、と考えさせられる本。
自然から離れ、緑を減らし、どこかで集中的に農作物を大量生産させることがいかに人類を破滅に導くことなのか、よくわかる。
Posted by ブクログ
要約:土壌は食料生産の根幹であり、人類生存に欠かせないものだ。人口増加に伴い過度の耕作をし、土壌が流出・枯渇したために人口を支えられなくなり衰退した文明は枚挙にいとまがない。現代文明も同じ轍を踏みつつある。
メモ:
アダムとイブのアダム←adamaヘブライ語の土・大地
ホモサピエンスのホモ←homusラテン語生きた土壌
人口増・狩猟対象動物の現象を受けて農業を始めざるを得ずに人口増につながった、という説
氾濫原の生産力を人口が凌駕し→斜面耕作→土壌流出→生産量減少→文明崩壊、というパターン
大航海時代の背景には人口増があったというが、それと同時に欧州の土壌流出も激しかった
中国には40世代以上に渡り安定して収量を確保できている地域がある。そこでは豊作の時も作物を外部に売らず、自分たちで食べて糞尿を堆肥にしている。地域循環が実現されている。
グアノ、ナウル、ハーバー・ボッシュ法、BASFという懐かしい名前もちらほら。つながってくるなぁ。
飢餓の解決は生産量を増やすことではもたらされない
都市農業でカロリーベースで自給率どこまで上がるものなのだろうか
Posted by ブクログ
きわめて地味な存在ながら、まさに陸上生命の基盤である土が、歴史を通していかに収奪されてきたかが繰り返し説明されている。
人口も土の肥沃度とともに周期的に増減を繰り返してきた。初期のヨーロッパの集落では、人口が増加して土地の利用が拡大した後、土壌浸食によって人口が減少するパターンが青銅器文化が出現するまで続いた。農耕の開始時期や古代文明の繁栄の時期に土壌の喪失がピークを迎えると、その後人口は低迷。中世にはまた人口が増加して、現在は第3のサイクルにある。
ヨーロッパでは時代を追うごとに、中世の三圃式農業、根粒菌が共生するアルファルファとクローバの導入、17世紀初頭の穀草式農法によって収穫を高めてきた。土壌の肥沃度を維持、回復させるための試行錯誤がうかがえる。
今日の人類の繁栄を支えている工業的農業についても、その歴史を説明し、限界を論じている。1843年、イギリスで窒素とカリウムを添加した過リン酸肥料を製造が開始された。1913年には、ハーバーボッシュ法による工業用アンモニアの生産を開始。1929年には、天然ガスによるアンモニア生産が始まった。アメリカでは、1960年代末には農業機械と農薬を用いる企業経営の工場式農場が支配しはじめた。緑の革命により、1950年から1970年代前半の間に全世界の穀物生産量は2倍近くになった。しかし、人口が並行して増えたため、緑の革命が届かなかった中国を除けば、1970年から1990年にかけての飢餓人口は10%以上増えている。
農業は石油消費の30%を占めている。第二次世界大戦前、穀物を輸入しているのは西ヨーロッパだけだったが、現在は北米、オーストラリア、ニュージーランドといった一握りの国だけが大規模な穀物輸出国である。タバコは代表的な食用作物の10倍以上の窒素と30倍以上のリンを土壌から奪うとか、綿花は天然の草地よりも1万倍速く浸食するといった記述も胸が痛い。
全世界で1ヘクタールあたり年間平均10〜100トンが浸食されており、土壌生成速度の10〜100倍速い(ページによっていろいろな数字が記載されている)。アメリカでは、独立から2世紀の間に表土の3分の1が浸食された。土壌浸食と土地の劣化により、世界の利用可能な土地面積の1%にあたる毎年1200万ヘクタールの耕地が消えている。過去50年間に放棄された農地の面積は、現在の耕地面積に等しい。1980年代には、耕作地の総面積が歴史を通して初めて減少に転じた。
文明が存続する長さは800〜2000年(30〜70世代)で、30cm〜1mの土壌が完全に侵食されるのにかかる年数と一致する。文明盛衰の原因は気候変動ではなく、土壌であるとの主張は説得力がある。著者は、化学肥料に依存した農業から、土壌を地域に適応した生物システムとして扱う農業への転換が必要だと主張する。そして、政府の補助金や税制上の優遇措置によって、短期間しか農業で収益を得られない土地での伐採や耕作を批判している。国際社会による経済封鎖によって、やむを得ずながら生物学的な施肥と害虫駆除の手法を導入したキューバの例が興味深い。
内容は非常に満足だが、訳が読みにくいのが残念。何度読んでもさっぱりわからない箇所も何か所かあった。
Posted by ブクログ
耕作が引き起こす土壌侵食が、いかに文明を滅ぼしてきたのか。そして今の地球に、増え続ける人類を支える土壌があとどれ程あるのか。土壌は戦略資源であり、人口を支える基礎である。この視点は持ってなかった。間違いなく良本!
Posted by ブクログ
面白かったけど、後半に向かうにつれてちょっとタレた。先に『文明崩壊』を読んでいて、巻末の参考文献リストから飛んできて手に取った本でしたが、この本における主要なエッセンスはがっつり『文明崩壊』の方で要約されてしまっていたということが読み進めるごとに明らかに。
つまるところ、程度の差こそあれ、過去に崩壊した様々な文明や、現在進行形で消滅の危機にある地域の疲弊の原因は良質な土壌の流出によるものなんですよ、ということを一冊を費やして何度も何度も繰り返し論じている、というのがこの本の軸です。中盤あたりでそれが読み取れてしまうので、あとは章ごとに新たに出てくる各地の事例を各論として読むだけ、となってしまいます。
土のことだけ抜き出して詳しく知りたい、という方にとっては良質な参考書となるでしょう。土以外の要素も含めて文明の疲弊や崩壊について知りたいのなら、包括論になっている『文明崩壊』を読んだほうが参考になります。
Posted by ブクログ
これからの農業は不耕起農法によって土壌の肥沃度を回復するとともに地球温暖化の抑止にもつながっていく方向に進むべきであると主張している。『究極の田んぼ』の著者も自ら不耕起農法と冬には田んぼに水を張ってみみずの糞を肥料として米を作るようです。考え方は同じなんだ!
Posted by ブクログ
非常に面白いテーマだが、古代帝国から近代国家まで、土壌の侵食が進んだ経緯や斜面耕作地や限界地まで切り詰めて行った流れが繰り返し同じであり、読み物として退屈させる内容だった。
シュメールやローマ、帝国時代の欧米など、根本を辿れば侵食で土壌喪失したことが文明崩壊や人口破綻の原因となった印象を受ける。
共通して言えるのは侵食の進行はある程度時間を伴うため、どの社会も目先の利益を優先させてしまう点。 これからの人口を養うための取り組みとして、小規模で有機・不耕作のシステムを提唱している
Posted by ブクログ
『銃・病原菌・鉄』を補完するという評もあったので読んでみた。さすがに、ずーーーーーーーーと土の話で、まいった。途中からはとばし読み。もっと土が好きになったら読み返す。
Posted by ブクログ
銃、病原菌、鉄、さらに土。「文明崩壊」にも記述される、土壌劣化による文明崩壊の例示が、古代ギリシャ、ローマから現代アメリカ、ハイチまでこれでもかとばかりに示される。見落としがち、というか、逆に誰でも思いつくがゆえに深く考えてこなかった当たり前の要素。インテリの思想がここに至った時に、計画生産という結論に飛びつきたくなるのもわかる。しかし、解法はおそらく、個々の人々の知性に委ねられるのだろう。間に合うかどうかは別として。