あらすじ
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戦争を生き抜いた著者がつづる生と死の物語
戦記ドキュメンタリー完全復刻!
昭和19年、南太平洋ニューブリテン島中部、部隊は壊滅的打撃を受けたものの、ひとり生き延び、仲間の鈴木と合流することに成功する。そして断崖を通り抜け道なき道を進み、敗走を続けた。敵に追われ、飢えや渇き、暑さに苦しみながらも九死に一生を得た著者が綴る、生と死の物語。戦記漫画の傑作を6編収録。
感情タグBEST3
Posted by ブクログ
NHK朝の連続ドラマ『ゲゲゲの女房』も先週の100回を超えるあたりから、やっと何十枚も溜っていた質札を元に戻せるくらい収入が安定し、ようやく水木家にも貧乏神が去っていく兆しがみえてきたようです。
つまり、すたれていく貸本屋マンガから時代は週刊マンガ誌へと移行、一部のマニアの間でしか読まれていなかった俗悪な貸本マンガ家の水木しげるも、何十万部という雑誌に掲載されるやいなや一気に読者層の拡大を得て人気沸騰、例のあのサンデーVSマガジンの火花を散らす闘いの鍵みたいな存在と目されていたようですが、でも、その狭間に「少年ブック」や「漫画王」や「少年」や「ぼくら」や「少年画報」や「少年クラブ」という月間マンガ誌の時代があって、マンガもさることながら付録についてくる忍者の極意を書いた巻物やなんかも楽しみのひとつだったと私の父などは言いますが、調べてみると、この月間というスタイルが時代のニーズに合わなくなって60年代後半にほとんど休刊や週刊誌との合併に追い込まれています。
ただ、わずか10年前後しかない月刊誌の時期だったとしても、どうして水木しげるの活躍できる余地がなかったのか不思議です。
それにしても、あの伝説の青林堂によるマンガ誌「ガロ」の長井勝一をモデルにした嵐星社発行のマンガ誌「ゼタ」の深沢洋一(演じるはわが村上弘明!)や、東考社による貸本マンガからインディーズ出版を極貧のなかで貫徹した桜井昌一をモデルとする北西社の戌井慎二(俳優は梶原善)、このふたりのような地位や名声や富を求めないマンガへの無上の愛と、マンガをみる確かな目がなければ今のこのマンガの隆盛も広汎な才能の開花もなかったような気がします。
ところで、『ゲゲゲの鬼太郎』や『悪魔くん』だけが水木しげるではないと知っていても、なかなかその他のハードなものに手が伸びないのが水木ファンではない普通のマンガ愛好家というものでしょうが、それは絶対に惜しいと断言できます。
というのは、彼の戦記物は同種の娯楽的に書かれたものと比べても告発的な体験者によるものと並べても、まったく異質な肉体的な水木しげるという個別な人間的なものにあふれたもので、それは、何も戦争の無意味さを訴えたり、もちろん格好よさを吹聴したりするわけではなく、ただあるがままに自ら経験した惨めさ汚さ空腹さ痛さ苦しさを書き表し、勝ち戦も負け戦もないただ死へと向かうだけの行進でしかなく、その残酷な現実と向かい合うためには天皇陛下万歳とかお母さんとか言ってはいられず、幾分は半狂乱気味にでもなって、森の精霊や石と遊んだり純朴な現地の人と交流したりしなきゃやってらんないとばかりに、戦争の真っ只中にありながら戦争そっちのけで、せっかく戦争で南島に行ったのだからと、ちゃっかり生来の妖怪趣味を活かしてちゃんと南洋編を編纂してくるあたりやはり水木しげるという人はとことん只者ではありません。
願わくば、水木しげるの戦記マンガを読んで、一人でも多くの方が戦争を生理的に嫌悪する感性と肉体を持たれんことを!
Posted by ブクログ
第二次世界大戦にまつわる短編集。
さすが、水木作品のクオリティの高さ。
戦争体験しているからこその実際の戦場の厳しさと、水木センセイのユーモア漂う軽やかさが絶妙にブレンドされている。
「敗走記」
奇跡の生き延びた兵士に下される日本軍の軍隊としての不条理
「ダンピール海峡」
日本国旗を守りきることを使命とされた兵隊の悲劇
水木さんのあとがき
「南方の入道雲をみると、いつも「これが最後…」と何回も思ったことがある。このダンピール海峡を渡った兵隊の気持ちを(なんともいえない気持ち)「ダンピール海峡」という作品にした」
「レーモン河畔」
戦場の美女が無事に救われる
水木さんのあとがき
「明日死ぬかも知れぬ戦場に現れた美女が、なんと、無事に後方まで下がり、今日まで生きのびるという、めずらしい話だ。そして二人のうち一人は、現在、東京にいる」
「KANDERE」
南国の原住民との交流から数奇な奇蹟が起こる。
「ごきぶり」
戦争に翻弄され、戦後も先犯として巣鴨で処刑された名もない一人の男の人生
「幽霊艦長」
自ら犠牲となって敵の前に散ることで味方を救った宮本艦長。
「昨夜の激戦のあった海面はうそのように静まりかえっていた・・・」という場面が印象深い
Posted by ブクログ
ゲゲゲの女房視聴後、興味を持ち購入。戦争短編数編が収録されているが、そのどれもに共通して感じたのは物語の悲しさと美しさである。戦争モノは戦争の悲劇性ばかりを捉える作品が多い印象を抱いていたが、水木しげるの戦記物は、死のもつ悲しさだけでなく、美しさも描いている。さらに当時の日本軍の描写に関しては、彼らの精神性や価値観に対して、嘲笑するのではなく美しいものは美しいのだ、と誠実さを感じる。「生」の醜さ、素晴らしさ、「死」の悲しさ、美しさ、戦地で実際に戦ったからこそ描けた作品。
Posted by ブクログ
自身の体験だけでなく取材した話を元にした短編集。「総員玉砕せよ!」での非合理さは影を潜めるので、単にストーリーとして面白いと思えた。こういうところにも水木しげるの漫画家の才能の高さが伺える。
Posted by ブクログ
水木しげるは鬼太郎などのような妖怪物語作家としても有名だが、戦争経験者としても同じくらいの有名だ。戦争経験者の中でも、水木しげるは漫画家という表現者として語る手段をもっていたのは重要だ。そして、後の世代のために語らなければならない、時には語らされる戦争経験者の中で、水木しげるは作家としての創作意欲からか、積極的に戦争を題材に取り入れていた。そしてその巧みな表現力は多面的な戦争を描いていたと思う。また読み返したくなるときがくるだろう。
Posted by ブクログ
「戦争は人間を悪魔にする 戦争をこの地上からなくさないかぎり地上は天国になりえない」…前線に送られる。否応なく戦う。現地の人が暮らす生活圏を戦場にする。彼らも巻き込む。敵に通じるスパイか。時に命を奪う。劣勢になる。補給がままらない。食料が不足する。敵が迫る。部隊は崩壊し、命からがら抜け出す。生き残れるのは万分の一の偶然の重なり。逃げ帰っても迎えは冷たい。敗戦後は裁判にかけられる。犯罪者として追われる。囚われて執行される。…敗走。身を持って体験された方の言葉は重い。戦後80年。忘れ去られることのなきように。
Posted by ブクログ
水木しげる先生の短編集。
最近、こういうマンガ読んでなかったから、面白かった。生々しい。そして、考えさせられる。
マンガなのに読むのに時間がかかるけど、ぜひ一読をお勧めする。
Posted by ブクログ
NHK「ゲゲゲの女房」を見ている最中に購入。
戦記文学にはあまり興味がなかったが、いやはやこの本はすごい。戦争の悲惨さを、漫画でリアルに描写。戦争はちっともかっこよくないことを知らしめる。
Posted by ブクログ
短編6編がまとめられた本書はどのストーリーも力強く、戦争の悲惨さ、むなしさを心に訴えかけてきた。 特に「敗走記」の命からがらの逃げ具合は、息をのむ。 よくこれで本当に生きて帰れたね!! 絶対、奇跡!!と驚いたし、「レーモン河畔」と言う本当にあった美談は、読んでいて心から嬉しくなった。 戦争と言う精神的に普通ではいられない環境と境遇の中でも、意外とこんな理性が働く時もあったのだ。。と深く心に残る作品だった。 水木先生の目的は正しく自分の見てきた戦争を語る事だったのだと思っている。 それによって私の感じた感想は、「やはり、戦争は間違えている」。 きっとこれでいいのだ。 この本の存在はそう言う事なのだ。水木先生、ありがとう。
Posted by ブクログ
水木さんの描く戦争モノを読んでみたくなって。最前線の南洋諸島にて過酷な状況に追い込まれていく人々を巡る物語たち。ユーモアを交えつつも、実話に基づいていると思うと、やりきれない気持ちで読んだ。実際に戦地をその足で踏み、その目で見てきた著者にしか描けない説得力を感じた。
Posted by ブクログ
「戦争と日本」で一度読んだ「敗走記」。
一兵士が経験した戦争の記憶。政治家や軍部のオエライサンたちが経験することのない、現実が描かれている。
戦争という極限の中の美談である『レーモン河畔』。
たまたま偶然が重なっての美談であるということは、理解しておきたい。美談にならなかった事ばかりであるだろうと思うし、だからこそレアケースとして記録したのだろうと思うから。
Posted by ブクログ
■敗走記
原住民に付け狙われながら、ひたすらひたすら岸壁やジャングルや海を逃げる逃げる逃げる。
雄大な自然背景がすごい。
■ダンピール海峡
血のしみ込んだ軍旗を守り抜くという使命。
しみ込んだ血から過去の戦士を幻視する。
果ては幽鬼のような見た目になろうとも。
■レーモン河畔
ホセの娘ふたりを、さてどうするべきかと男ちが右往左往。
結局は逃がしてやるということになる。
■KANDERE
原住民の娘とねんごろになったおかげで、原住民から食料を得る。
酋長はしかしスパイを働こうとしているので、思い切って結婚してカンデレ(同族)となる。
戦局は進んで……。
■ごきぶり
逃亡兵士が捕まって死刑。ごきぶりのように逃げ回った人生だと感慨。
■幽霊艦長
夫婦で連合艦隊の模型づくりを趣味にしていたと自伝にあるが、それも仕事に活用。
Posted by ブクログ
(01)
標題の短編のほか5編が収録されている.いずれも太平洋戦争の南方戦線が舞台となっている.
おそらく著者本人が描いたであろう背景の細密が印象的で,南や黒を感じるタッチであり,テーマ(*02)にも即している.その背景に比べると人物や表情は戯画化されシンプルであるが,飄々さ,戦場をさまよう亡霊といった感じがよく出ているように思う.
擬音表現も興味深い.それは背景でもなく人物でもない,セリフでもないし,説明の地の文でもない,その擬音たちが細密な背景にうまくデザインされて配置され,漫画を芸術として昇華させている.
(02)
無論,反戦の立場から戦争の悲惨さを描いた作品として読んでよいと思うが,戦争礼賛まではいかないものの戦場の美談といったテーマも扱っているところに著者の冷静が表現されているように思う.また,戦場となった南方の現地人,風土風物への言及にも著者ならではの視線を感じる.
Posted by ブクログ
あとがきから察するに、ほぼ実話、少しフィクション、のようです。
ほんとうはきっと耳を覆いたくなるようなひどい話、つらい話をいっぱい見聞きされてこられたのでしょうが、その中からこれらの話を選んで漫画にしてきた水木さんの思いのようなものを考えてしまいます。
悲しい物語もどこかこっけいな描写があって、読むのがそんなに辛くなく、過酷な状況で忘れられがちな「人の誠実さ」「友情」「家族愛」が、決していつも損なわれてばかりではなかったことなどを教えてくれます。
前にも思いましたが、漫画というメディアは、かつて日本が我を失い袋小路に迷い込んでしまった戦争の体験を伝えるのに非常に向いていると思います。
特に水木さんの漫画は、少しトボけたような明るい雰囲気があって、「戦争のことを知ろう!」なんて気負うこともなく、読むことができます。それでいて戦争の本質みたいなものはしっかりと伝わってきて、心の奥に残ります。