あらすじ
春子は偏屈なおでん屋台の店主である。酒はひとり二合まで、銘柄はひとつ。冷ならそのまま、燗なら徳利に入れて温める。おでんのほかは、梅干の入った白飯にごま塩をまぶした握り飯と、甘いいなりずし。そんなただのおでん屋なのに、いつも立ち寄る稲荷に二度柏手を打つと、知らない世界に飛ばされるようになってしまった。だがしかし、春子は何も変わらない。いつでもどこでもおでんを、客に食べさせるだけだ。おでん屋がただただ訪れた客に、あたたかいおでんを食べさせる。ただそれだけで運命が少しだけ変わった、様々な事情を抱える人々が交差して生きる世界の、ぽかぽかおでん群像劇。
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偏屈婆さんのおでんが人々の運命を変える!?
変わり種異世界グルメファンタジー!
昔ながらの屋台のおでん屋である春子婆さんは、ひょんなことから異世界へ転移してしまう。
チートな能力が発現するということもない。
異世界でも春子婆さんのすることは変わらず、訪れたお客へおでんを振る舞うことだけである。
おでん屋なのだから。
本作は1話ごとにお客として登場する人物が異なる短編形式で、そんな異世界の住人達が主役となる群像劇。
ぽかぽかおでんで身も心も温まり、ぶっきらぼうな春子婆さんの言葉をきっかけに、ほんの少し背中を押されるお客達。
それぞれの事情を抱え、別々の道を歩む彼ら。しかしやがてそれらは交差し、物語は圧巻の展開に!
くつくつと煮えるおでん。それを春子婆さんがお客へ提供する様子。はじめて口にするおでんに夢中になるお客の様子。
とにもかくにも、こだわりのおでん描写に食欲が刺激されてたまらない!
感情タグBEST3
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一期一会の異世界転移物語
主人公は流行りのラノベなど読んだことがなさそうな高齢女性、屋台のおでん屋を営む春子さん。突然の異世界転移にも動じず、しっかりおでんを商う肝っ玉がエクセレントです。
毎回同じ世界の違う場所に突然現れ、人生に迷ったり行き詰まったりする異世界の人々におでんを振る舞う春子さん。差し出口を挟まず説教するでもなく、客の会話や独り溢す愚痴を聞き、ただ相槌を打つ無愛想な春子さんの屋台は、いかにも居心地が良さそうです。
時に彼女なりのアドバイスをすることもありますが、辛辣ながら押し付けがましくない春子さんの言葉はストンと腑に落ちることばかり。
そして春子さんと出会った人々が、まるでパズルのように組みあって、春子さんの預かり知らぬところで物語を紡いでいきます。
彼等の物語とは関係無しに、春子さんは今日も丁寧におでんを仕込み、お稲荷さんにがんもどきを供えて柏手を打つのでしょう。
さて、次はどんな出会いがあるでしょうか?
一期一会が楽しみな作品です。