感情タグBEST3
このページにはネタバレを含むレビューが表示されています
Posted by ブクログ
長崎の油商・大浦屋の女あるじのお希以(けい)は女だてらに海外との交易をしたいと願う女商人。
時代は浦賀に黒船がたどり着いた時期、彼女はこれを機会と思い、通詞(通訳)の品川という武士を通じて、テキストルという青年と交易をおこなうことになる。
油を売るはずの油商が油ではないものを売る、ということで周囲の反対や反発を受けながら、お希以は自分の求める自由交易へと突き進んでいく。
長崎女性三女傑(という方がいるのですね、知らなかった)の一人である大浦慶人生を描いた一代記です。
まず、思ったのがとんでもない女性があの幕末の混乱期にいたものだということでした。
そして、何よりも彼女の周囲にものすごい人がいすぎてΣ(゚Д゚;≡;゚д゚)
それは一旦、置きまして、仕事に対して自分だったらどれぐらいの情熱を傾けることが出来るだろうかと読みながら思っていました。
おそらく、彼女は交易という仕事に誇りを持ち、自分の作りあげた茶葉を自信を持って海外へ売ったのだと思います。
それは誰にでもできることではなかったはず。
時代は尊王攘夷で混乱。海外との取引をしている店には天誅を下すというビラがまかれているような状態。そして、交易がうまくいっていることやお希以が女性であることから、同じ商人仲間からは誹謗中傷を受ける。
決して楽なことではなかったはず、でも、それを超えて自分の見た夢を現実にしていく彼女の姿はものすっごくかっこいい!
読みながら、なんでこんな凄い人を知らなかったんだろうと思うことしばしば。
そんなお希以は慶応になった時に名前を慶とあらためることに。
時代は西洋に追いつけ追い越せとなりますが、ここでお慶は大きな落とし穴に落ちることに……。
詐欺にあってしまうのですよ(;^_^A そして抱えた借金も莫大な金額になりますが、彼女は自ら荷車に茶箱を載せて、店に運び、女衆と一緒に暑い中で竈で茶を炒ると主人であればしないこともすることに。
そして、借財は全額返金! 強い女性ですね。
現在も日本の女性の地位は低いです。ですが、同じように女性の地位が低い時にこれだけのことをしてのけた人物がいると思うと読み終わった時に胸がすくような気持になりました。
勿論、彼女だったからできたのかもしれませんが、でも、どんな女性でも同じ可能性を秘めているのではないかと思うとなんだか口元がにやにやしてしまう私でした。
今年の文庫は朝井まかてさんに作品ばかりに嵌っているような、『落花狼藉』も素晴らしい作品でしたし、この『グットバイ』も心に残る素敵な作品でした。
次はどんな作品を読ませてくれるのかと思うととても楽しみです!
*長崎三女傑:シーボルトの娘・楠本イネ 女商人・大浦慶 ホテル業でロシア海軍兵に慕われた・道永栄
因みに私が知っていたのはおイネさんだけでした。今も道永栄さんのことはわかりません(;^_^A
Posted by ブクログ
幕末の動乱が目の前で起きている感じ、ただし、通信手段が今のようでないなかでの時代の変化、すごい時を過ごした気分になった。
ビジネスのために、勘を磨くこと、信を得ること、心に刻まれた。
そして、この時代なのに女ではなく、大浦慶として生きていることがすごいと感じた。
Posted by ブクログ
本作は、長崎の三女傑の一人、茶葉商人の大浦慶を描いた歴史小説です(ちなみに残りの二人はシーボルトの娘で医師の楠本イネ、ロシア語を極めロシア人専用ホテルなどで繁盛した道永栄)。
・・・
で、やはり人物がダントツに面白い。
幕末に商家の一人娘として生まれたものの、祖父が跡継ぎたる父を見限り、孫の慶へ英才教育を施すという背景もあります。この慶が、落ち目の家業である油商ではなく、当時藩の直轄だったオランダとの交易にどうにかして食い込もうと奮闘します。
ちなみに、お慶さん、驚きのどストレート発言が信条。
せっかく婿をとったのに、数日で離縁したいと周囲に漏らす。それも、「これはダメな男」だとの勘。というのも、火事の際に娘(慶)を置いて逃げ出した父と同じ匂いがするとのこと。されたほうはたまったものでもないが、周囲も離縁を認めてしまうのは、おそらく信用されている証拠。破天荒というより直情径行、雰囲気を読まないところが豪快で逆に胸をすく人物です。
。。。
個人的に最も印象的だったのは、慶にとって外国人との初取引となる、ヲルトと茶葉販売の納品のシーン。
やっては見たのの、とにかく品物が揃わない。前銀を貰った手前、「やっぱりできませんでした」は期日に言えない(船がカラで帰るだけ燃料代が無駄になるし)。そもそも自由に外国人と取引していいと言われていないグレーな時に、大っぴらに助けも求められない(ってか罰せられるよ)。何とか言い草をつけて知り合いの茶葉商人から相当量をおろしてもらったり。その顔をつぶさないように、他の茶葉商人には話さず、直接嬉野の農家へ赴き商品確保に成功したり。それでもまだ足りずその農家の家庭用の粗茶(枝と葉とないまぜになったもの)をバルクで買い上げ、自前で茶葉だけにふるい分けしたり。期日までに所定の納品量の9割程度まで集め、若干足りないものの何とか納品が終わりディールが完了したところは圧巻。
私もかつて証券マンで営業しましたが、ノルマが期日ギリギリのところで(大抵最終日に残業しながら)各自電話やPCにかじりつきながら、ホワイトボードでノルマ残が少しづつ減り、すんでのところで全部売り切る、そういう感覚を思い出しました。
ちなみにこの後、慶の茶葉交易は爆発的に拡大し、商いは年々うまくいきますが、好事魔多し、大切な部下に死なれたり、騙されたり、一本調子ではありません。でもだからこそ、もう一発ツイストが来ます。ここもビジネスパースン感涙の「やっぱりコツコツ頑張るのが大事だ」って場面になります。ぜひご堪能を。
・・・
あと、歴史人物が相当数交錯します。
幕末を駆け抜けた武器商人のグラバーや、茶葉商人オルト。どちらの邸宅も現在のグラバー園に移設されていますね。また大浦屋の二階でたむろすることを許すことでいつの間にか支援する形になった、大隈重信や亀山社中の面々(坂本龍馬も)が登場。私はこの本で、なぜ土佐藩脱藩兵士が日本の転換期に関わったのかをやっと理解しました。
それ以外にも慶の脇を固める頑固頭の番頭の弥右衛門、弥右衛門なき大浦屋を支えた元気キャラの友助、夫を7人持った月花楼の女将のお政など、物語を彩ります。
・・・
ということで、長崎の歴史ものでした。
著者の朝井まかてさんの作品は初でしたが、ちょっと風景描写が多い気がしました。「これっていわゆる心情を表す風景描写か」って国語の受験テクを思い出しました。
なお斎藤美奈子さんの解説は簡便にして的を射ており、読んだ瞬間感想を書く気が失せました。書いているけど。
歴史好き、長崎好き、幕末好き、女性のトップランナー系の話が好きな方、お勧めです。