【感想・ネタバレ】掌に眠る舞台のレビュー

あらすじ

「だって人は誰でも、失敗をする生きものですものね。だから役者さんには身代わりが必要なの。私みたいな」

金属加工工場の片隅、工具箱の上でペンチやスパナたちが演じるバレエ「ラ・シルフィード」。
交通事故の保険金で帝国劇場の「レ・ミゼラブル」全公演に通い始めた私が出会った、劇場に暮らす「失敗係」の彼女。
お金持ちの老人が自分のためだけに屋敷の奥に建てた小さな劇場で、装飾用の役者として生活することになった私。

演じること、観ること、観られること。ステージの彼方と此方で生まれる特別な関係性を描き出す、極上の短編集。

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Posted by ブクログ

ネタバレ

帯にある語~異界、奇跡
これって日常用語ではないが、考えて、発語するだけで独特の異空間へ足を踏み入れた気持ちにさせる。
小川洋子全開のワールドに彷徨った

収められている8編、舞台・・ステージに纏わる場面、時間、心象
その脳密度は作品によって微妙に高低あるけれど、読み進むにつれ、或るホラー感覚に襲われて行く様な内容もある

個人的に響き、慄きすら覚えたのは「装飾用の役者」
ラストで【∼どのような要望でも お応えする自信がございます。採用して頂ければ 誠心誠意お勤めさせていただきます】
2000年になって、特に介護という業種が膨らむにつれ 酷く多用されてきた語感∼寒気を覚えました。
彼女という人間、生物の心象がもはやホラーじみていて。。

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2025年11月25日

Posted by ブクログ

ネタバレ

舞台をモチーフとした短編集です。小川洋子さんだなあと思いながらの読書でした。研ぎ澄まされた文章に、不思議な世界が広がっていました。装画はヒグチユウコさん。この雰囲気と色合い、好きな感じです。そして何かが潜んでいるような感じもしました。背表紙もおしゃれです。

以下は、読者の私が気に入った短編の感想です。

【指紋のついた羽】
ひとことで言えば〈無言の世界の美しさ〉。

バレエのラ・シルフィードに魅せられた少女。逆さまに置いた工具箱の上で上演される無言の世界。その世界になぜか美しさを感じ、幼い頃から少女を知っている縫い子さんの優しさが心地よかったです。二つの光と二人の後ろ姿の描写で締めくくった最後の場面が、とても印象的でした。

【ユニコーンを握らせる】
ひとことで言えば〈永遠の時間をかけて待つ楽しみ〉。

伯母さんと過ごした4日間。この後も、もしも続くことになっていたら、どんな日々が待っていたのかが気になるところでした。
伯母さんが演じる予定だった「ガラスの動物園」のローラのセリフが書かれた食器の数々。そしてそのセリフが現れたときに、伯母さんが発する声がまるで聞こえてくるようでした。一目ずつ編まれている手袋の意味がわかったとき、何もない舞台のような家で、伯母さんが待ち続ける日々をいとおしく感じました。

【ダブルフォルトの予言】
ひとことで言えば〈不思議な空間〉。

事故の保険金で舞台の全公演分のチケットを買います。その金額に不思議な縁を感じます。公演に通って知り合った人は、帝国劇場で暮らし、役者の失敗の身代わりだといいます。全公演が終わったあとに気づいたことと、今までが現実だったのかがわからなくなったことに、不思議な感覚を得ました。

【花柄さん】
ひとことで言えば〈安らぎと達成感〉。

花柄さんと呼ばれる女性が、舞台の後にお芝居に出ていた人からサインをもらう喜びを知ります。そのサインが書かれたプログラムを一つ一つ大切にベッドの下にしまいます。
花柄さんの幼い頃の記憶と今の喜びに想いを馳せました。始めの不穏な感じから一転して、花柄さんの満足げな笑顔に安堵しました。

〈目次〉
指紋のついた羽
ユニコーンを握らせる
鍾乳洞の恋
ダブルフォルトの予言
花柄さん
装飾用の役者
いけにえを運ぶ犬
無限ヤモリ

※「鍾乳洞の恋」は幼虫、「無限ヤモリ」はヤモリのリアルな表現があるので苦手な人は要注意です。



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2025年10月28日

Posted by ブクログ

ネタバレ

舞台にまつわる短編集。
とても綺麗でおとぎ話のような表現が多く、素敵な場面が想像しやすかった。
いくつかのお話の感想を以下に。

『指紋のついた羽』
縫い子さんは少女の心がわかっているのか、と思うくらい手紙の返事が適当。
機械油が溜まった道すら綺麗に感じてしまう表現が素敵。
少女の工具箱の上で作り出す舞台を理解できている縫い子さんも、想像力をできる範囲で表現する少女も愛しい。

『ユニコーンを握らせる』
ローラ伯母さん、、かつての恋人(?)をずっと待ち続けているのか…
角が折れた描写は別れてしまったことを指すのか、女優として輝けなかったことを指すのか、はたまたどちらもか…
部屋の空洞がとてもいいステージになっていたり、町の光など景色も照明などのように作用しているようで、素敵な舞台が想像できた。
1人で世界が完結してしまっているが、いつか青年紳士と会えるのか、ただ会えても幸せになれるのか…?と外野からは思ってしまうが、とても健気で形容し難い魅力的な人。

『装飾用の役者』
お金があっても劇団を雇わず、それぞれの持ち場に一人ずつ配置するというこだわり、なんだかわかる気がする。手広く自分だけの所有物を増やしてそれぞれを深く愛でたいのかなと思った。個性的な目の表現にそのような要素を感じた。
それにしても頭がおかしくなってしまいそうな仕事…与えられたものだけで生活するなんて、自分というものがわからなくなりそう。

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2023年12月06日

Posted by ブクログ

ネタバレ

小川洋子さん、博士の愛した数式しか読んだことがなくてそちらはとてもわかりやすいストーリーだったので、この作品はちょっと意外だった。
他の方の感想を見る限り、通常運転なんですね。そのつもりで読んだらもっと楽しめたかも。

舞台にまつわる短編集。同じ「舞台」をテーマに、こんなにも趣向の違うお話が書けるとは…。

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2023年03月05日

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