【感想・ネタバレ】奇跡の社会科学 現代の問題を解決しうる名著の知恵のレビュー

あらすじ

社会科学とは社会について研究する学問であり、政治学、経済学、社会学、人類学、国際関係論などが含まれる。その古典を読み返したところで、当時とは時代が違うのだから役に立つことはないと思われるかもしれない。ところが驚くべきことに、現代を理解するためにはこれらの古典の知見について知る必要があり、さらに言えば現代で起こる様々な失敗は、古典の知恵を知らないために起こったものが多い。組織が官僚化することによる停滞、「抜本的な改革」に潜む罠、株式市場を活性化させることの危険性……。「教養にして実用」である社会科学の知見を明快に解説。 【本書で取り上げる社会科学の古典】●マックス・ウェーバー「官僚制的支配の本質、諸前提および展開」 ●エドマンド・バーク『フランス革命の省察』 ●アレクシス・ド・トクヴィル『アメリカの民主政治』 ●カール・ポランニー『大転換』 ●エミール・デュルケーム『自殺論』 ●E・H・カー『危機の二十年』 ●ニコロ・マキアヴェッリ『ディスコルシ』 ●J・M・ケインズ『雇用・利子および貨幣の一般理論』

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Posted by ブクログ

著者は、1990年頃、19歳のときにデュルケームの「自殺論」を読んだと言っていた。
偶然だがそのころ高校生だったおれも、地元の本屋で見つけて読んでいた。
そしてその後、郵政民営化とか構造改革はやばいって思ってたけど、そう感じていただけでうまく言葉にはできなかった。
なるほどなあ・・・やっぱ直感は正しかったなと思った。

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2025年04月13日

Posted by ブクログ

現代のイシューと社会科学をつなげて理解するための視座が得られる。原点そのものに触れる前に一読して損はないだろう。

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2024年08月01日

Posted by ブクログ

1990年代初頭の日本のバブル崩壊に始まる失われた30年。第二次安倍政権が声高く叫んだデフレ脱却のための3本の矢も、蓋を開ければ異次元の金融緩和による、金余りから端を発する株価上昇と輸出企業の円安メリット享受くらいだろうか。
冴えない日本経済と言う印象を持つなか、何気に取った本書は、眼から鱗が落ちるものだった。

馴染みのない社会科学と言う標題だが、副題の「組織改革の失敗」「自殺」「戦争」は、どれも現在世界や日本における問題であり、興味のあるテーマ。
中身は、古典比較的最近の経済学者の主張を、現代の問題点と結びつけて解説してくれている。

マックス・ウェーバー
なぜ組織改革は失敗するのか
効率性の追及が非効率を生む
数値だけで測定できない価値

エドマンド・バーク
急がば回れ
漸変主義こそ、実は近道

アクレシス・ド・トクヴィル
民主主義の怖さ
平等が進むほど全体主義化する
人々の絆が社会を豊かにする

カール・ポランニー
新しい資本主義
新自由主義と「社会防衛の原理」

エミール・デュルケーム
自殺はどうすれば防げるのか
突然の社会変化が自殺を減らす

E・H・カー
どうして戦争は起こるのか
ロシアがウクライナを侵攻したわけ
「軍事力」「経済力」「意見を支配する力」

ニコロ・マキアヴェッリ
どうして臨機応変に行動できないのか
人はどのようにして必然的に破滅するのか

ジョン・メイナード・ケインズ
世の中、何が起きるか分からないから
いったい経済学はどうなってしまったのか?

社会古典は活きている

特に現在当然のように言われている新自由主義経済の弊害は、納得がいく説明だった。
古典経済学者の先見性に驚いてしまう。

1980年代以降、アメリカ、イギリスそして日本は、自由市場に任せれば豊かになるという信念の下、規制緩和、自由化、民営化、「小さな政府」への行政改革、さらにはグローバリゼーションを進めてきた。このような信念が「新自由主義」と呼ばれる。
新自由主義がはらむ最大の問題は、全体主義を呼び込んでしまうという点にある。
新自由主義を信じる日本の改革論者は、労働組合や農業協同組合といった団体組織を「既得権益」「抵抗勢力」呼ばわりして排除し、政府の市場に対する規制を有害無益だと主張してきた。組合組織や政府による規制は、まさに市場が人間や自然を「商品」化するのを防ぐ「社会防衛」のため、市場原理を理想とする新自由主義者にとっては、それが邪魔で仕方がないのだ。
新自由主義が支配的な経済思想となったのは、冷戦が終結し、社会主義の敗北が決定的になった1990年代頃から。マスメディアでは「小さな政府」「規制緩和」「自由化」
「グローバル化」の大合唱だった。
この1990年代に、20歳から30歳であった若者たちは、時代の空気を吸って成長し、新自由主義という思想に染まっていく。
そして、「新自由主義が教えるような理想的な世の中へと日本を変えたい」などという志を抱き、政治家や官僚あるいは経済学者への道を歩んでいく。
世界は20年前とは大きく異なり、すでに金融市場の不安定化や格差の拡大といった新自由主義の弊害が顕著に現れている。それにもかかわらず、その現実が見えずに、新自由主義という20年前の古い思想を今さら持ち出してしまったのだ。
だからケインズは「危険なものは、既得権益ではなくて思想である」と言った。

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2023年09月06日

Posted by ブクログ

「読み終わった。。。よし、読み直そう。」

現在の社会でみられる課題がどのように発生し、維持され続けているのかを、個別事例ではなく、社会構造として理解する知識を授けてくれる書籍。

耳聞こえが良い言葉(思想)が今の不幸をまねている可能性があると分かり、ぞっとした。「ホラー」である。笑えない。
ある思想に沿った行動が、どのような結果を生みやすいのかは、この社会で生きていく上で、ベースとなる知識である、と感じた。「サバイバルとしての社会科学」、「教養としての社会科学」と言い換えてもいいかもしれない。みんなが知っておいて損はない、はず。

1回読んだだけでは、知識が目に入っただけ。再読することで、内容をかみ砕き、飲み込み、吸収して、血肉として、自然とそれらの知識が浮かび上がるようになりたい。
巨人の肩の上に乗れたなら、そこで満足せず、落ちないよう努力し、そこから見渡せた景色を社会に活かしたい。

よし、読み直そう。

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2022年09月29日

Posted by ブクログ

 本書を読めば近年の日本凋落の原因が単なる「不勉強」にあることが分かって愕然とする。
 解説されている古典のうち「君主論」と「フランス革命の省察」は読んだことがあったが、本物の研究者にエッセンスをまとめてもらい、理解度が全く変わったように思う。
 あとがきにあるとおり「(中野氏の)考え方やものの見方の種明かし」であり、中野氏の論評に共感する方は是非読むべきである。

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2022年09月06日

Posted by ブクログ

表紙に書いてある「教養にして実用」。まさにその言葉通り、古典がいかに現代社会にも通用するかが分かりやすくかつ詳しく書かれている。
過去の偉大な巨人たちの凄さもさることながら、その巨人たちの著書の要点を、私のような教養のない人間にも分かりやすく解説してくださる中野先生の凄さにも感服した。

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2022年08月21日

Posted by ブクログ

わかりやすく、洞察に富んだ書だった。
備忘メモ↓
・自由主義や個人主義が社会を破壊すると、全体主義が生まれる。平等が進むほど全体主義化する。
・健全な民主主義及び自殺者減のために中間的な団体は重要。
・効率を極めた官僚組織は、非効率に陥る
・国際政治は理想主義と現実主義の両面で考えるべき
・資本主義を動かすのは、人々の思い込み
・社会は複雑。漸変主義こそ実は近道。
・少数派を排除する民主政治の怖さ。多数派がつくる世論の怖さ。

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2025年07月14日

Posted by ブクログ

現代は分断と閉塞の時代だ。経済は成長せず社会は疲弊する。古典的名著に希望をみいだすことができる。ケインズ、ポランニー、シュンペーター――彼らの知が今の混迷を解くヒントになるという。社会は単なる合理性では動かない。人間の感情、文化、制度の厚みによって支えられているのだ。過去の知が未来を照らす。その言葉に耳を傾ければ私たちの歩むべき道もまた見えてくる。

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2025年07月07日

Posted by ブクログ

名前はなんとなく知っていても、実際に原書を読んだことはない(ハードルが高い)ような社会学の古典を、わかりやすく解説してくれる。述べられている通り、長く読み継がれる古典には深い洞察があり、現代に当てはめても十分納得できる内容であることが理解できた。内容の大枠が掴めたことで、逆に興味が増し、原書にもトライしてみたい気持ちになった。

ただ一点、最後の堺屋太一批判が少々引っかかった。視点が逆だの、まるっきりわかっていないだの、個人的に恨みであるのかと。笑
自分の主張の正しさの論拠の一つとして述べているが、結果論として後からアレコレ言うのは簡単で、この部分はなくてもよかった気がする。

著者は非常に優秀な方であり、他の著作も読んでいて内容も素晴らしいが、「周りがみんな間違っていることを自分だけは知っていた」という主張が一部に見られ、この点はちょっと危険。自分の考えに自信を持つことは大事だが、未来のことはだれもわからないからこそ、わからないなりに思考するのが人間。
古典の考え方を理解・尊重しつつも、今を生きる自分たちで判断していくことが大切だと感じた。

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2024年04月29日

Posted by ブクログ

著者はウェーバーやトクヴィルなどの社会科学の古典に書かれた内容が、現代の社会問題にも通用する鋭い分析でありながら、あまり顧みられていない現状を憂いています。新自由主義、グローバリズム、構造改革、ウクライナ戦争などなど、現代の諸問題に対する答えがすでに社会科学の古典の中にあるというのは、面白いと思うと同時に、なぜそれが顧みられないのかすごく不思議になります。

大勢の人間が集まってるくる「社会」はあまりに複雑で、自然科学のようにある程度正確に現象を計測したり、一般的なモデルを構築するのが難しいからでしょうか。複雑すぎる故に、社会について語る人の立場によっていろんなもっともらしい論を展開できてしまう。それが古典の上に新しい理論を積み上げていくような自然科学の手法が機能しないのかもしれません。だから古典がいつまでも価値を持つのでは。

社会科学の中でも、特に数学的に厳密そうに見える経済学も、その大前提にしている市場原理があまりに現実を単純化しているためにやはり同じような問題を孕んでいるといのが面白いです。

個人的に面白かったのが保守主義の話です。複雑な社会はモデル化、予測が難しいのだから、ドラスティックな構造改革をしてはいけないというのは良い教訓です。社会全体に広げなくても、たとえば企業ひとつとっても、中では人やシステムの複雑な相互作用があるのであり、簡単に改革なんて考えてはいけないということですね。

さらにケインズの章で出てくる「危険なのは既得権益よりも思想」というのが目から鱗でした。自分の損得を考えて既得権益を守ろうとするようなわかりやすい悪ではなく、実際は新自由主義などの特定の「思想」を信じることの方が社会に害があるという視点で見れば、ニュースなどの見え方も変わってきます。

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2023年06月17日

Posted by ブクログ

ここで紹介されている社会科学の巨人たちの原書を読むのはなかなか難しいけど、易しく解説してくれてるのがありがたい。チクリと自民党政治の失われた30年を刺しつつも。
優秀な国民が愚鈍な代表者を選ぶわけがない、はずだから、判断できる力を養いたいところ。
多くの人に読んでもらいたい1冊。

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2023年02月23日

Posted by ブクログ

自分としても合理主義を徹底していくことに少し違和感があったためフィットする内容が多かった。
合理主義とは反対にある「合理主義を突き詰めると非合理になる」、「全体主義化しないために共同体への帰属」などは、行きすぎた現在の潮流へ一石を投じる内容に思う。

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2023年02月02日

Posted by ブクログ

本書は、新自由主義に対して警鐘を鳴らす。
日本における'失われた三十年'を、社会科学の視点から解きほぐし本質的要因に迫りあぶり出す。
新自由主義の基本原理'市場原理により需給はバランスする'という経済思想は、不確実性を軽視し楽観的な思い込みにより誘導される。古典的な社会科学には、現代の混迷を紐解く数々のヒントがあり、それを紹介しながら、行き詰まった現況への指針を示している。組織改革が思うように進まない理由、効率性がかえって非効率化を生み出すというジレンマ、ドラスティックな改革や民主主義は多数者の専制を生み、全体主義に陥るリスクがあることを歴史から明らかにする。不確実な未来は予測できない、ことを受け入れながら進める、無矛盾性の排除が重要であるということだろう。

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2022年11月14日

Posted by ブクログ

ネタバレ

マックスウェーバーによる官僚制の分析
没主観性=形式的な公平性、計算可能性、
官僚制の逆機能=効率性と合理性を追求する官僚制が非効率性と非合理性を招く。縦割り行政もそのひとつ。
数値化、マニュアル化は官僚制の特徴。コンサルタントの手法。=『マクドナルド化する社会』『官僚の反逆』
数値化は、本来の業務でないことに多大な労力をかけることになる。
イノベーションと数値による評価、成果主義は矛盾するもの。
大学改革も数値化の弊害が現れている。『オックスフォードからの警鐘ーグローバル化時代の大学論』
論文数による測定。誰も読まない論文が山のようにできる。インパクトファクターでは、引用し合うという現象がおきた。『測りすぎーなぜパフォーマンス評価は失敗するのか』

保守とは
エドマンドバークは抜本的な改革には反対した。理性は不完全だから。フランス革命、ロシア革命、文化大革命など失敗した。日本の構造改革も同じ。人間は複雑で、新体制が正しいというのは幻想。
社会の複雑さ、人間の微妙さに耐えられない人たちが抜本的改革をしたくなる。
前例踏襲は無気力な態度ではない。前例のないことを試すのは気楽。改革は少しずつ改善を積み重ねること。大いなる知恵が必要。『フランス革命の省察』
『想定外ーなぜ物事は思わぬところでうまくいくのか』アメリカの公園の山火事のコントロールについて=直接的なアプローチではなく、回り道のアプローチ。少しずつ学ぶ。計画された都市ブラジリアやキャンベラとパリの無計画さゆえに面白い都市、との違い。
インクリメンタリズム=少しずつ変化させる、ほうが早い。

民主政治の怖さ
『アメリカの民主政治』多数派が形成する世論の危険性=多数者の専制。政治は数だが、自由には反する。炎上も多数者の専制。アメリカ社会では同調圧力は高い。民主政治である証拠。日本も同調圧力の高まりはその証拠。そのたびに自由が損なわれる。
p81

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2022年11月01日

Posted by ブクログ

中野氏の本は好きで読んでいる。本著は社会科学について分かりやすく解説した本。現代の日本政治においてどのように社会科学を活かせばいいのか?また組織形成においても参考になる本だった。
ただ、深く理解するには再読の必要があるかも。

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2023年01月31日

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