あらすじ
歴史の謎を追うジャーナリストである著者は官修『日清戦史』の草稿を読み解き、不都合な事実を隠蔽、改竄して陸軍が戦史を編纂していたことを見つけ出した。隠蔽は戦争の根幹部分に及び、編纂方針はその後の戦史でも踏襲され、戦争の実態は国民の目から遠ざけられた。『坂の上の雲』が描いた日露戦争の姿に多くの日本人が驚いたのもそのためであった。隠された事実とは何だったのか。埋もれていた歴史を掘り起こし一二〇余年の歳月を超え日清戦争の実像に迫り、日本人の歴史観のあり方を問いなおす。
...続きを読む感情タグBEST3
Posted by ブクログ
日本が本格的な戦争として関与したの日清戦争が最初であり、その「正史」の内容を精査し数多くの問題点を洗い出した著作だが、公文書に対する感覚が以前から変わっていないことに驚いた.東条英機の父、英教が執筆した「決定草案」は多くの部分が改竄され「公刊戦史」の形で公開されている.その過程で大島健一なる人物が登場するが長州閥の圧力で、重要事項が削除されていた.著者の訴えたいことがp227に凝縮されている.'' 戦争の事実を歴史として後世にどう伝えるかという問題をめぐる大きな路線の対立が明治の半ばに陸軍内であったことも浮かんできた.その結果、戦争を歴史として正確に後世に伝えるという考えは退けられ、政府や軍にとって都合のいいように戦史が編纂され正史とされてきたのだ.公文書の管理がないがしろにされる、あるいは改竄されるといった事態が近年も日本では相次いで社会問題となっている.「忖度」という言葉はすっかり市民権を得た.為政者や政府にとって不都合な事実を隠蔽するために公文書に手を加えるという作業は日本の役人の世界でおそらく延々と繰り返されてきたことなのだろう.そうした公文書改竄の中でも、『日清戦史』の編纂は、その後に及ぼした影響を考えると、おそらくは近代日本において空前絶後のものであったと考えて支障はないであろう.''