あらすじ
三十肩と鬱に悩まされている皮膚科学研究員の山幸彦は、ふたごの鍼灸師のすすめで祖先の地、椿宿に向かう。山幸彦は、そこで屋敷と土地の歴史、自らの名前の由来を知り……。入りくんだ痛みとは何かを問う傑作長編。
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Posted by ブクログ
大事な本になった
定期的な痛みがあって、それがなにから来ているんだろうと考えることもあった。
この奇想天外な成り行きで、鬱もいつの間にか姿を消しました。ただ、快方への兆しの揺り戻しなのか、鈍い痛みが続いております。痛みと言っても、大きな隕石がなくなった跡の、巨大な穴のようなもの、何か非常な体積のものが去った、そのことの痛みが、地面に記憶されるように残っています。この痛みには不思議な愛着を感じ、手放したくないような気がしています。過去の痛みの記憶による痛み―――何とも個人的な、誰にもわかり得ない類の、だからこそこれだけは自分のものであるという、不思議な根っこのようなものを持った気分でいます。
私は長い間、この痛みに苦しめられている間は、自分は何もできない、この痛みが終わった時点で、自分の本当の人生が始まり、有意義なことができるのだと思っていましたが、実は痛みに耐えている、そのときこそが、人生そのものだったのだと、思うようになりました。痛みとは生きる手ごたえそのもの、人生そのものに、向かい合っていたのだと。考えてみれば、これ以上に有意義な 「仕事」があるでしょうか。
それが結局は先祖からもたらされたものであるとすればこれもまた、今までの自分には持ち得なかった、敬虔な心情を引き起こすものであります。
Posted by ブクログ
再読。身体の痛みから自分のルーツへと辿る物語。1冊を通しての時間の流れ方とか、現れる景色とか、梨木さん独特の世界の切り取り方が、読んでいて心地よい。
Posted by ブクログ
親の因果が子に報い。的な。
f植物園の主人公はしょもない人だったけれど、やらかしがひ孫まで響いてるわーな椿宿でした。
ここ十年以上、あちこちで水害が増えているので治水にも思いを馳せたり。
やっぱりどこかいじっちゃいけないところをいじってきているんではないかとか。
それと主人公が祖母の余命を告げられた時に、もっと病院へ行って何かしてあげられるんじゃないかっていう介護士さんとのやりとりに、思うこともあったり。
Posted by ブクログ
おもろいやないか!
この人面白に関しては寒いと思ってたけどおもろいわ
"義理の叔母は多少慎重にはしていたものの、どこかに、大げさに言えば自由を告げられた囚人のような開放感が隠しようもなく滲んでいた。ちょっとした言葉のはしばしや、立ち上がるときの動作に、それを聞く前とは違う「切れのよさ」のようなものが見えるのだ。"
のところすごい分かる〜〜ってなった
仮縫って言葉が出てきたのが運命的だわ…
山幸彦は口調とか親にも敬語なところとかで真空ジェシカのガクの声で読んでる
思ったけど時折思うこの、「要らぬユーモア」というのは、面白くなかったら邪魔になっちゃうからだなと気づいた
話の筋に関係ないやろが!自我を出すな!みたいなことを思ってしまう
面白ければ「要らないけど遊び心のある人やな」となる
今回はこのユーモアがこの話を仰々しくさせすぎない、どこかコメディっぽさが全体に漂っていい雰囲気になってると思う
調和が取れてる
早の話だけど夏っぽいよねいつも
青々しい清涼感が漂ってる
だれてきた
ラノベっぽい
すみません最終的によく分かりませんでした
Posted by ブクログ
難しいのだが、"f植物園の巣穴"と合わせて読んで、どうにもしっくりこない感触が有る。おそらく、"f植物園"の話が、主人公とその妻、そして会えなかった息子のそれぞれが過去に区切りをつけて進んで行けるような話と読めたので、それをもう一度蒸し返し、不完全な解決であった、とされてしまったのが納得行かないのだろうと思う。
"f植物園"では、家の治水を成すべき、と言われ、自分はいま生きている妻を大事にしたいのだ、という思いから「それは私の任ではない」と答えたはずと思う。過去の事はあっても、いま生きている人を大事にする、という姿勢が共感出来たのだ。それに対し、それが不完全であったから子孫にも身体などの不調が生じた、解決手段は土地と神の祀りを有るべき姿にすることだ、となってしまうのは少々残念に感じてしまう。
Posted by ブクログ
不思議な物語には、引き込まれずにはいられない。
ただ、これは『f植物園の巣穴』を読んでみないとわからないのでは…だから、最後の方は敢えてすっ飛ばして読んでしまった。
それにしても、最後の一文は素晴らしい。
Posted by ブクログ
読みは、椿宿(つばきしゅく)。
「f植物園の巣穴」の続編だと聞いていたから、なんと現代でびっくり。
巻き込まれ体質の語り手による地の文がシリアスでコミカル。あと亀シの口調も面白く、「かぐや姫の物語」の女童で脳内再生。
途中で割り切って、家系図を作った。ガルシア=マルケスっぽい読み方。
親や兄弟って、滞り、絡まり、しがらみ、という面もある。
神話に遡って、その上神話内に新キャラまで出して、随分自由だな>祖父藪彦。
しかし作品内で、登場しない人物(亡き祖父や曾祖父)が影響力を持つことはあっても、存在しなかった存在(道彦)の影響をここまで描くって凄い。
一見いい話に見えるが、ブツ切りの構成も含めて、まだ何か不吉な今後も想像してしまう……暗渠のように。
■冬の雨 009
■従妹・海子、痛みを語る 037
■祖母・早百合の来客 075
■椿宿への道・一 121
■竜宮 141
■竜子の述懐 160
■椿宿への道・二 165
■宙幸彦の物語 172
■椿宿 194
■潜んでいるもの 210
■先祖の家 230
■画期的な偉業 250
■兄たちと弟たち 269
■塞がれた川 301
■宙幸彦の手紙 321
■宙幸彦への手紙 352
◇巻末エッセイ 傳田光洋