あらすじ
※この商品はタブレットなど大きいディスプレイを備えた端末で読むことに適しています。また、文字だけを拡大することや、文字列のハイライト、検索、辞書の参照、引用などの機能が使用できません。
今こそ戦争を考える。
太平洋戦争に従軍した漫画家・水木しげるが
実体験を元に描いた未来へ残すべき傑作戦記漫画
大ボリューム20ページ
歴史的発見『総員玉砕せよ!』構想ノートを巻末特別収録
太平洋戦争末期の南方戦線ニューブリテン島バイエン。
米軍の猛攻で圧倒的劣勢の中、日本軍将校は玉砕を決断する。兵士500人の運命は?
著者自らの実体験を元に戦争の恐ろしさ、無意味さ、悲惨さを描いた傑作戦記漫画。
没後に発見された構想ノートを特別収録。
作品に込められた魂の決意が心に響く新装完全版!
感情タグBEST3
このページにはネタバレを含むレビューが表示されています
Posted by ブクログ
冒頭から終わりまで繰り返し流れる女郎の歌。「私はなんでこのようなつらいつとめをせにゃならぬ。これもぜひない親のため」「国のため」。戦死者を"尊い"犠牲になったと言う人もいるけど、尊いのは失われた命であって、人の死を、命を犠牲にしたことを美化してはいけない。
舞台は昭和18年末のニューブリテン島。著者自身がモデルであろう、丸山の所属する支隊はココボからバイエンに上陸する。支隊のうち第二小隊は各分隊ごと雨の中で陣地構築をはじめるが、椰子の木を運んでいた小川がデング熱で死ぬ、正月用のブタを取りに行くため船に乗った境田がワニに喰われて死ぬ、魚取りで口に咥えた魚を喉に詰まらせて中山が死ぬ。死、死、死。あっさりと人が死んでいく。そして事あるごとに上官は「ビビビビビン」と兵にビンタをくらわせる。「初年兵とたたみはたたけばたたくほどよくなる」と。
……おかしみのある場面を差し込みながら"そこにいる"一兵士の目線での戦地での暮らしが描かれるが、命の軽さに呆然とする。あとがきに「軍隊で兵隊と靴下は消耗品」「将校、下士官、馬、兵隊といわれる順位の軍隊で兵隊というのは"人間"ではなく馬以下の生物と思われていた」とある通りである。
年が明け、敵が上陸しワランゴエ河口を占領。これに対し支隊長(田所少佐)は戦車への肉攻、橋頭堡へ斬込隊での夜襲を命令する。丸山も斬込隊を命じられるが水を汲みに行く間に自身の属する第一分隊が全滅。第三分隊に合流するが、敵に包囲された彼らは玉砕を命じられる。酒が配られ、兵士たちは女郎の歌を歌い、踊る。「親のため」「国のため」。誰が喜んで死ねるだろうか、そう自分に言い聞かせるしかない。
バイエン支隊の玉砕の報告を受けた後方の司令部は大本営及び方面軍へ発表する。発表の後に生き残りの存在が発覚するが、それは許されないことだった。
ニューブリテン島の自然を背景に載せられた『美しき天然』の一節。「生きとしいけるものが嬉々として生きるのは神の意志だろう」「しかしここに生きてはならぬ人間がいた」。ここで軍医は「虫けらでもなんでも生きとし生けるものが生きるのは宇宙の意志です」「人為的にそれをさえぎるのは悪です」「軍隊というものがそもそも人類にとって最も病的な存在なのです」と言い、司令部に命乞いをするが聞き入れてもらえず自決する。…この軍医の言葉やその前の支隊長に玉砕を命じられた時の中隊長の言葉には、戦争を経験した著者の怒りが滲んでいる。
生き残りは再度突撃を命じられ聖ジョージ岬で"玉砕"する。聖ジョージはキリスト教の聖人の名前だが、最後の見出しは「みなごろしの岬」。兵を殺したのは敵(連合国軍)だがその状況に追い込んだのは司令部である、日本である。
NHKアーカイブスにあった「生き延びてはならなかった最前線部隊 ~ニューブリテン島 ズンゲン支隊~」を見たが、南方では蛆がわきやすく死体があっという間に白骨化するという。最後のページに描かれた死体、そして白骨。史実で生き残りは玉砕の前に終戦を迎えているが、それで戦争の悲惨さが薄まるわけでは、決してない。