あらすじ
物語の舞台はアメリカン・ドリームの都・ラスベガス。友人に裏切られすべてを失ったお気楽中年男・大前剛、キャリアウーマンから娼婦に「転職」した梶野理沙、そしてベトナム戦争の英雄なのに落ちぶれたジョン・キングスレイ。人生くすぶりまくりのそんな三人が一台のスロットマシンで史上最高の大当たり5400万ドルを叩き出した! 笑って泣いて夢を見る、エンタテインメント大傑作。
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Posted by ブクログ
やばいやばいやばい。
引用したい表現が多すぎて付箋貼りながら読んでたら19ヶ所も付いてしまった。それくらい表現が大好き。ああでもいざ引用するとなんかすごく陳腐に見えるのはどうしてなんだ!!こんなに笑えるしうなずけるのに!!!
浅田さんはシリアスから喜劇まで幅があるけれど、同じ喜劇でも「王妃の館」よりもこっちのほうが好きだ。下ネタの方向性が。(王妃の館で脱肛という日本語を学んだ。)
王妃の館以上に、何度も大声出して笑った。
ひとりひとりがしっかり立っている群像劇としても、ドタバタでトンデモな喜劇としても、メタ目線の作者の語りとしても、本当に好きな本だった。読めてよかった!
あと、引用したいところをちまちま打ってて感じたこと。「男は」「女は」「日本人は」、っていう一般化した言い方って好きじゃないと思ってたけど、結局自分の感覚に合ってないから嫌っていたんじゃないかと。いくつもそういうところを引用したくなったというのは、やっぱり私の中にも大きすぎる括りでの印象づけや説明を求める心があるということなのだろう。
とにかく、私が気に入った表現だからここに書いた。それだけだ。
さて、以下、たくさんの潤的大好き表現。
ネタバレは避けたつもり。
この壮大で精密な非生産的還流経済をうまく発展させれば、全人類が一生働かずにすみそうな気がする。(103)
かつてアラビアの砂漠のテントの中で雪降る北国の物語を書き上げたときも、パリのプラザ・アテネで新選組を執筆していたときも、作品の出来映えに憾みこそなかったが、何となく異常な性行為をしているような背徳感に襲われた。(131)
「ドン・ビトー。いや、かわいそうなパパ。僕にできることがあったら言って下さい」
低いしわがれた声で、父は言った。
「ドン・マイケル。いや、かわいそうな息子よ。おまえができることをするのではい。すべておまえがやるのだ」(195)
「...――パパ、寝たフリはやめて」
ガックリと首を落としたまま、父は身じろぎひとつしない。
「死んだフリもやめてください」
しばらく死んでから、父は退屈して首をもたげた。(196)
「...アメリカは私を恐れている。だがそれは、私が石油の支配者だからではない。私がベドウィンの矜りを持っているからですよ」(358)
「おたがい家庭がないっていうのは、こういうときつらいわね。ねぐらに帰る理由がないもの」
「いや、むしろ好都合さ。モーリスだって帰りたくて帰ったわけじゃない。往復するだけ時間の無駄ってもんだ。何事もなかった顔をして家に帰り、女房と子供にキスをして、へたすりゃ庭の芝刈りまでしなきゃならない」(361)
「こうして年老いた夫婦を見ていると、アメリカ人と外国人は一目で見分けがつくんだ。ヨーロッパのゲストは女房が一歩先を歩く。チャイニーズやコリアンは亭主が前さ。日本人は、男と女が別々に歩く。そしてアメリカ人は――」
ピアニストはでっぷりと肥えた夫婦を見送って、おかしそうに笑った。
「手をつなぐ。まるで永遠の恋人同士みたいに。しかも、齢をとればとるほど双児のように似てくる」(368)
「...はっきり言っとくけど、長い人類の歴史であなたたちほど物を考えずに生きてきた人間はいない。横着に生きてきて、それでも何とかなってきた人間はいないの」
「あなたたち、とは?」
メアリーは細長いパイプの先を、大前の額に向けた。
「ジャーパニーズ。マッカーサーのかけた魔法を現実と信じて、イリュージョンの世界で生まれ育ったあなたたち日本人のことよ。しかも、もともと頭は悪くないし、お勉強もするから認識力はあるのに、既成事実をうち破るエネルギーを発揮しようとしない。わかっていても変えようとしないのは横着者。あなたに限らず、日本人はみな同じ」(396)
「...いい、ミスター・オーマイ。ギャンブルは人生よ。人間は誰でも、5・26パーセントぐらいのハンディキャップは背負わされている。流れに身を委ねていたならば、確実に負ける。それを実力ではね返して生きるのが人生。それ以上にはじき返して生きれば成功者」(410)
コノヤロー、とリサは心の中で呟いた。これくらい自己欺瞞とリップ・サービスとが、ハイレベルで調和する男は世界中探したって二人といやしないだろう。
しかし女というのはふしぎな生き物で、コノヤローと思ったって嬉しいのである。こうした生理により、女性はバカと聡明とにかかわらず、しばしば知れ切った毒を呑んで往生する。(422)
――再び自問する。われわれにとって幸福とは何であるのか。また、人間としての快楽を追求することが、はたして罪であるのか。
すべてとは言わぬまでも多くの日本人は、この問題をなおざりにして一度きりしかない人生を棒に振る。
受験勉強で得た知識を人間的教養と錯誤して成長した青年たちは、大学を卒業して就職したとたんに、見果てぬ幸福の虹を追って歩き始める。おしきせの学問と同様に、おしきせの仕事に身を摧くことが、いずれ自分の幸福を保障するのだと信じる。こうした労働に対する意識は、受験勉強のサバイバル・システムと実はどこもちがわない。ちがうところと言えば、会社には受験の合格発表のような截然たる結果が見出だせないという点であろう。すなわち幸福は見果てぬ虹である。(441)
女は考え深い。男の思索は状況が強要するが、女は自らすすんで考える。星も読まず、風も識らず、光すら届かぬ闇にぽつねんと座して、女は考え続ける。
だからこそ、亭主の浮気はバレやすく、女房の浮気はバレにくい。(446)
狭苦しい日本では、人はほとんどすれちがいざまに恋をする。(459)
「戦え、ミスター・オーマイ。幸運は天から降ってくるものじゃない。自ら手を伸ばして、掴み取るものよ」(464)
怒るよりも、大前は悲しくなった。人生の大切な時期を、こんな下らない奴らのために空費したのだと思った。(485)
494ページのすべて。なにもかもが全く説明になっていない。
「誰も血のつながりはねえんだぞ、モーリス。あのくそったれの女房も、おめえが目に入れても痛くねえほど可愛いがっている倅も、無論人殺しのこの俺も、おめえとはアカの他人だろうが」
「でも、愛している。僕は、みんなを愛している」(501)
文化が人類の幸福に寄与するものであるという強固な意志のある限り、ラスベガスはアメリカ人の魂、すなわち矜り高きチンポなのだ。(523)
邪悪なるものと戦い、勝利するかあるいはそれ以外の結果を見るかはわからないが、チャレンジすることこそが正しい人生の選択だと大前は思ったのだった。最高の人生――それはいまわのきわに「ジス・イズ・グッド・ジョブ」と自分自身に向かって言える人生のことだ。(535)
Posted by ブクログ
浅田作品デビュー作。
本の厚さに最初躊躇したが、
読み始めたら、その不安はなくなった。
結局3日くらいで読んだ。
老マフィアがとても好きだ。
空港からラスベガスまでの距離がわからないので、
歩く事の辛さがわからなかったのが残念。
Posted by ブクログ
浅田次郎のラスベガスのカジノを舞台にした小説。コミカルです。
諸君、悩むな。ラスベガスがあるじゃないか。
くすぶり人生に一発逆転、史上最高額のジャックポットを叩き出せ! ワケありの三人が一台のスロットマシンの前で巡り会って、さあ大変。笑いと涙の傑作エンタテインメント。
やっぱりギャンブル好きの浅田次郎らしさが随所に出ています。分厚いけれど、面白く一気に読めます。
Posted by ブクログ
読んでいるときは、作者らしき語り部が登場するスモーキングシートについて、ストーリーのリズムを乱しているように感じた。ラスベガスの歴史やアメリカ文化を説明することで、物語を厚くしてるんだろうけど、本文に入れれば良かったんじゃない?と思ったのだけど、読後の今はそれは違う!と思いはじめた。
読み終わって全体をみると、スモーキングシートは、フィクションをよりフィクションだと強調することで、このバカバカしいストーリー(面白いという意味です)を読者に受け入れやすくしているんじゃないかと思った。というのも、ここがなかったら、ゴッドファーザー好きの私にはあのビトーとマイケルは許せなかった気がする。
やっぱり浅田先生はうまいですね〜。